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「あるって、何が?」
―そこで彼女が微笑んで言った言葉に、わたしは目を見開き、言葉を失いました。
「……そう、なの」
「そっ。だからできればほっといて。何かあれば、相談するからさ」
ひょうひょうとする彼女は、確かに『ある』ようでした。
わたしは深く深く息を吐き、頷きます。
「分かったわ。それじゃあコレ、わたしの名刺。何かあったら、いつでも連絡して。夜中でも早朝でも構わないから」
「ありがと。へ~、事務所もあるんだ。遊びに行ってもいい?」
「いいわよ。貴方には教えておきたいこともあるしね」
「さーんきゅ。あっ、姉達のこと、よろしくね」
そこでふと気付いた疑問を、わたしは言ってみました。
「そう言えばお母様やお姉様には何もいないようね」
「ああ…。アレはどうやら人を選ぶみたいだからね」
「選ぶ?」
「そっ。自分を必要とするモノを」
つまり彼女は必要としている、という意味ですか。
「だから姉は平気で墓場に行ける。私はダメね。まあお盆とかお彼岸はしょーがないと思って行っているけど」
そう言って彼女は肩を竦めました。
多分、彼女の中のモノが、激しく反応するのでしょう。
昔の呪術の一つには、人の屍を使ったものがあるようですし。
「お姉様から貴方には先読みの力があると聞いたのだけど…」
「そこまで大したモノじゃない。ただちょっと先が見える時があるだけよ」