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悪魔と久美の契約関係  作者: 七海 夕梨
Aim Route
9/9

契約内容006-3

後半、壮士視点です。内容がえぐい描写がありますので注意。

「やぁ久美、君から僕に会いに来てくれるなんて嬉しいな。しかも何の連絡もなく、突然人の家に押し掛ける所なんか、君らしくて素敵だよ」


 紺の着物に白いフリルのエプロンを纏った壮士そうしが、満面の笑みを浮かべながら話しかける。突然と彼は言うが、無駄に広い純和風の玄関に私専用のスリッパが準備され、お茶と手作りクッキーを盆に載せながら言われても罪悪感を抱くどころか、恐怖しかないのだけど。


「突然来るのはお互い様でしょう?」


 こっちは納戸から不法侵入されたもの。玄関から来る私のほうが、人道的にまともだと思うわ。


「そうだったね──あぁ、父さんと母さんに会っていく?」 

「そういえばずいぶんとお会いしてないけれど、お二人は元気にしてるの?」


 うっかりしてたわ。壮士はご両親と暮らしているんだった。何か手土産ぐらい持ってくるべきだったわね。


「──もちろん。久美に会えたら喜ぶんじゃないかな」

「ご挨拶に伺いたいのだけれど、まずは、貴方の部屋に案内してくれるかしら。お二人の前ではさすがに出来ないから」

「……ふぅ~ん、それっていかがわしい事?」


 壮士が目を細めながら、吐息が顔にかかる距離まで詰めてくる。まったく、お菓子とお茶を乗せた盆を持ちながら器用な事をするわね。


「違うわ。あと、離れて話してくれないかしら」

「確かに。籠の猫が牙をむいているし、これ以上近づくのは危険そうだ」


 やれやれといった顔をしながら前を歩く壮士に続いて、彼の部屋に入ると、そっと内鍵をかけた。これからする事を壮士の両親に見られたら説明が面倒だわ。


「壮士、人道に反さないよう確認はしておくわ。悪魔的なことで私の身体に何かした覚えはあるかしら?」

「なにかかぁ。思い当たることが多すぎてどれかわからないな。それよりも僕の部屋に入って鍵をかけるなんて、犯して欲しいの?」

「相変わらず気持ちが悪いわね」


 しかもこっそり鍵をかけた事までバレている。


「ソウシ、このワタシがいる事を忘れたかっ」


 言い換えす前に、アイムが籠からぴょこんと飛び出し悪魔の姿になった。


「やぁ、()()()、久しぶりだねぇ」

「真名で気安く呼ぶでないわ」

「それを君が言う?……まぁいいけれどね」


 溜息交じりに壮士はクッキーがのった盆を机に置くと、ねっとりとした笑顔をアイムへと向ける。思わずウゲっとなったアイムを見て面白かったのか、笑みを漏らしてはいるものの、壮士の瞳には隙が感じられない。


「気味の悪い顔で見るな。それよりもワタシの契約主に何をした?」

()()()の? 気安く自分の呼ばわりしないでくれるかな。久美は僕のすべてを注いだ集大成なんだよ?」


 ふっと周囲の空気が冷たくなる。言ってる内容もおぞましいからか、背筋がよけいに寒く感じるわ。でもこれですっきりしたわね。罪悪感もなく実行できそうよ。


「集大成だと? 気持ち悪い言い回───ぁぁあああ!?」


 アイムのわめき声と同時にパーンと乾いた音を思いっきり壮士の頬にめがけて鳴らしてやった。横にいるアイムが目を見開いて見ているのに対し、壮士とうじしゃは、驚いた様子など微塵もない。腹が立つことに、あぁやっぱりなっといった顔だ。


「よけなかったって事は、私が怒る事をしたという自覚はあるのね」

「まぁね。でも反省はしないよ」

 

 軽い声で壮士がいう。

 

 どうせそうだろうと思ったわ。あと、叩かれた頬を嬉しそうにおさえながら言うのはやめて。


「なら、私も殴った事は謝らない事にするわ。で、何をしたの?」

「言っていいの? 知ったらきっと食事が喉に通らなくなるレベルの話だよ?」


 試すような目で壮士が私を見下ろしてくる。


「……かまわないわ」


 若干、腰が引くところはあるけれど、これ以上、私の体を弄られるのは御免だわ。


「へぇ、いいんだ。ちょっと怖がる久美の顔も可愛いなぁ。実はね……」


 ゴクリと私とアイムが同時に唾をのむ。


「僕の──やっぱり言うのはや~めた」


 はぁ? とばかりに、パカリと口を開けた私を壮士が、くくくっと笑う。


「ソウシ、ふざけるのも大概にせぬか。久美きさまを悪魔にする気か?」


 壮士の胸ぐらをアイムがつかみながら突っかかるも、壮士は涼しい顔だ。


「ふざけてるのは君では? 人を堕落に導くこそが悪魔だと言ってたじゃないか」

「……」

「まぁいいけれどね。僕としても、久美を悪魔にしたいわけじゃないよ」


 勢いを失くしたアイムの手を振りほどくと、壮士は自ら焼いたクッキーを口へとほおり込んだ。咀嚼音を響かせながら、私にも食べろとばかりに、笑顔で突き出してくる。


「食べないの? 久美。ナッツ入りは好きだよね? 昔は僕の作ったクッキーをよくねだってくれたのに。それともお茶のほうが良かった?」

「今は食べたい気分ではないわ。さっさと質問に答えてちょうだい」


 私の返答に、ふぅんと壮士が目を細める。不味い……この顔は何か気に食わない事を言った時にする顔だわ。

 

「じゃあ、契約なら? 食べてくれたら対価として君の知りたい事を教える気になるかもよ? アイムとばかり契約するなんてずるいからね」


 甘えるような声で壮士が囁く横で、アイムが「契約だと!」と過剰に反応するから煩い。


 さて、どうしようかしら。契約として受け入れたら外野は煩くなるだろうし、拒否をしたら壮士のこと、怒って斜め上な嫌がらせをしてくるでしょうね。しかも対価は教える気に()()()()であり、()()()とは言っていない。


「ならクッキーをいただくわ。契約ではなく、友人のもてなしとして」

「ふぅん……じゃ、教えないよ?」

「友人なのに冷たいのね」

 

 彼の視線を無視して、机に置かれたクッキーを口にしながら答えると、壮士が「ずるいなぁ」と言いながら椅子を引いてくれる。されるがまま椅子に座ったら、あからさまに面白くない顔をするアイムと、いそいそと横に座る壮士が同時に目に入り、どっと疲れが出た。でも、今はひくわけにはいかないわ。


「壮士、いいかげん教え──

「クッキーは美味しかった?」

「え……お、美味しかったわ」

「本当? 頑張って作ったんだ。どこが気に入った?」


 どこがって……やけに踏み込んで聞いてくるわね。

 

「バターなのかしら。とろける感じの柔らかさが……って壮士、何やってるの?」


 壮士が机に突っ伏して、ため息を漏らし始めた。行動意図が理解できないからかしら、背筋がゾワっときたわ。アイムなんか廃棄物でも見るかのような眼でみてるわよ。


「お茶も飲んでよ。一番苦労したんだ、それ。ね? ね?」


 壮士が机にへばりついた姿勢のまま、視線だけ見上げながら聞いてくる。苦労って淹れ方? それとも良い茶葉の入手が大変だったのかしら。気味が悪くて戸惑うけれど、壮士の視線が喉元に集中している。これは飲むふりをしたらご機嫌を損ねてしまいそうね。


「少し苦いけれどクッキーとは合うわね。って本当に何なの?」


 飲んで感想まで行ってあげたのに、机に突っ伏して、あぁ……とか変な声を漏らすのやめてくれないかしら。


「いい……許してあげる。気分がいい間にちょっとした独り言を聞いてくれるかな?」


 壮士が私の耳をつかむと、何やら息を吹きかけてきた──瞬間、「愚か者、悪魔に耳をかすなっ」とアイムが割りこんできた。


「器が小さいなぁ。内緒話程度で激怒しなくても」

「しらばくれるなっ。魔法を使ったであろう」

「あはは……ばれたか。でも本当にただの独り言だよ」


 魔法? 独り言? 確かに壮士は私の耳元で何かを囁いたけれど、全く聞こえなかったわ。


「信じられるものか。ソウシが原因だというから黙ってついて来たがもう我慢ならん。どうせ何をしたか話す気はないのだろう? ならばここにいる意味などない、こんな……吐き気がする場所になど。帰るぞ久美きさまっ」


 アイムが強く私の腕を引っ張るので、仕方なく立ち上がろうとすると、反対側の腕を壮士に引っ張られ体がつんのめった。


「二人で同時につかまれると、動けないのだけれど」


 両者をギロリと睨むも二人とも引く気はないらしい。なんだか子供二人を相手しているみたいで疲れるわね。


「壮士、話す気がないのなら、この手を放してくれないかしら?」


 壮士につかまれた右手を振りほどこうとすると、さらにもう片方の手で強く掴んできた。私の左腕をつかむアイムの手に緊張が走るのが伝わって心がヒヤリと冷える。


「放さないという事は、教えてくれるのね?」

「久美、覚えておいて。君は僕にふさわしい存在となる為に、今だけ、自由を得ている事を。彼はその為の布石にすぎない。まぁ傍に置くのは勝手だけど、その先は……わかるよね?」


 そう言って壮士がすっと手を放したが、視線は私を縛り付けたままだ。

 

「わかりたくもないわ。それに貴方に相応しい存在など、御免よ。私は私。何者にも左右されないわ」

「……あはははっ。いいね。やっぱり久美はそうでなくては」


 全力で拒絶を訴えてやったのに、嬉しそうな反応をする壮士が理解できない。何が目的でこんな事をするのかしら。


「壮士……」

「いやだね。今更契約して教えて? といっても教えてあげない。それとも命令する? アスモデウスの名と共に命じればいい。それだと洗いざらいぜぇ~~んぶ話すしかなくなるなぁ」


 体を刺すような目で壮士が私を見る。


「結構よ! もう頼まないわ」


 怒鳴るように返事をすると、アイムを連れて飛び出すように部屋を出た。その後を壮士がついてくるからか、左手を握るアイムの力が強くなったが、玄関で「それじゃ、またね」以外、壮士は何も言わず笑顔のまま見送ってくるだけで終わった。その事にほっとしたものの、結局真相はわからず仕舞い。わかった事は壮士がやっぱり犯人といったところね。



 玄関を出ると、片道で半日かかる道のりだったからか、外はもう夕方に差し迫っていた。田舎という事もあって、終電は早いはず。突然有給をとってしまったから、明日は絶対に出勤しなくては。確実に田中にぼやかれるわ。そう思うからか、帰途の足取りが自然と早くなっていく。


「ま……まて」


 しばらくしてアイムが息を切らしながら足をもたつかせ始めた。そうだったアイムは……。


「ごめんなさい。猫になる? 籠で私が」

「いらぬ……」

「でも」

「このワタシを誰だと思っておる?」


 むっとした顔で視線は違う所にあるものの、両手で包み込むように手を握ぎられ「わかったわ」という声が上ずってしまった。しかも顔が熱くなってくるし、心臓だって……壮士に握られてもなんともなかっ──。



【それは、ドキドキして顔が熱くなって、えとえと……】


 ガブリエルの言葉が脳裏をよぎる。


 ──まさか。この間は怒りたくても怒れなくってもどかしかったからだと思ったけれど。


 これが??


「アイム、私はどう

「わかった、猫になればよいのだろう? 全く貴様の猫好きときたら。どうしても猫になれなどと」

「違う」


 普段は猫になって欲しいとお願いしても嫌がるくせに。どうしてこういう時だけ聞きわけがよくなるのかしら。


久美くみ? まさかワタシの身体を心配しているのか? 案ずることはない。大公爵たるが故に、この世界で存在が難しくなっているだけだ。死ぬわけでも怪我を負うわけでもない」


 どうして嬉しそうな顔をするの。このままだと、アイムは人の世界にいれなくなるのに。


「だからこそ、貴様には伝えておく」


 うっすら笑顔を浮かべていたアイムが元の真面目な顔に戻る。


「先日蹴った契約を今すぐ結ぶのだ。ワタシが地獄へと戻れば、ソウシから貴様を守ってはやれなくなる。あやつはかなり危険な悪魔だし放ってはおけぬ。それに懸念材料はソウシだけではない。真名を知りえた上で契約した人間は、人や悪魔に必ず利用される。すべてを忘れ悪魔ワタシを手放せ」

「……」


 でもそれだと、私の気持ちは全部なかった事になってしまうわ。


「まって、それならアスモデウスに真名を使ってでも白状させるわ。今から戻って──

「なっ、どうしたというのだ……貴様らしくない」

 


 アイムの眼が寂しげに私を見る。それは私を見ているようで違う誰からを見ているような。前にも同じような眼で見られた事があった。アイムは私に誰かを重ねている。それはきっと、アイムにとってとても大切な誰かだ。その人はきっと心が強かったのね。でも私は違うわ。



「私らしくないですって? 記憶を消されるのに? 私らしさは、私が生きてきた過程で得られたものだもの。それを消すだなんて、私を捨てるに等しいわ」

「愚か者がっ。だからとてソウシに白状させても解決方法がなければどうする? 悪魔になるのだぞ?」

「かまわないわ。貴方が好きという気持ちを捨てるぐらいなら」



 ピシリとアイムの顔が石のように固くなった。口がかつてないほど開かれて私を握っていた手がカタカタと震えている。まって、どうして震えるの? 怖いって事? こっちは勇気を振り絞って言ったのに。


「猫なのか、猫がそこまで」


 アイムが困惑している。どうして率直に伝えてもずれてしまうのかしら。たしかにアイムは私よりも長生きする猫だし、最高の猫だとは思うけれども。


「違うわ。アイムだから好きなのよ」

「好っ……」

「だからこそ貴方の傍にいられるなら手段なんて選んでられないわ。私は貴方の理想とは違う、ただの人間なのよ」

「………」

 

 あぁ、完全に引かれてしまったわね。告白したのに、弱くてずるいところを見せたりして。私は何をしているのかしら。しかもアイムときたら黙ったままだし。明らかになんて返答したらいいか悩んでる顔をされても困るわ。


「すまぬ。ワタシは……」


ほら、断られた。


「貴様にかつての理想を重ねていた。同じ過ちを繰り返すところであったわ」

「過ち?」

「貴様の心根があまりにも心地よい故、昔のソロモンと重ねていた。あいつが狂ってしまったのはワタシが過剰な理想を押し付けていたからやもしれぬ」



 ソロモン?? それって漫画とかに出てくる王様? アイムは王様に仕えていたの?


「よく考えてみれば、それこそ貴様であったわ。悪魔に対して手段など選んだことなどなかったしな」


 う……その事に関してはなにも言い返せないわ。


「だが、ソウシに所に戻る事は許さぬ。あやつは何かを抱えている。思い返すだけで反吐が出る物をな。よく考えればタナカの奴が勘づいて貴様に教えたのであろう? ソウシに会う前にタナカを締め上げて聞いておくべきであったな」

「そうね……」


 それはとても重要な事だと思うわ。私が人のままでいられるかどうかがかかっているのだもの。


「久美? 何をぼ~としておる。行くぞ。時間は限られておる」


 先程まで足をもたつかせていたくせに、妙にやる気になったアイムが今度は私の手を引いて前を歩き出した。元気もでてやる気も出てくれた事は嬉しいんだけど。



 私の告白……完全にスル―してるわ、アイム。それともまだ伝わってないの?







■■■幕外 壮士


 久美達を見送った後、壮士は息を吐いた。


(まずかった……この僕が感情を抑えられないなんて)


 思わず自分の顔を覆いながら高ぶった気持に整理をつける。アイムを今すぐにも殺して久美を自分の物にしてしまいたいという欲望があふれて止まらない。久美が命じるという選択をとれば無意識にでもやってしまっただろう。


(いけないな……アイムは久美に着ける大切な飾りなのに)


 久美はアスモデウスにとって美しい存在だ。その美しさは人間であるからこそ価値がある。愛しくて誰にも渡したくない大事な物。だが他の悪魔からみれば久美はただの人にすぎない。敵対する悪魔に囚われれば久美などたやすく手おられてしまうだろう。部下とて容易に彼女の存在を認めはしない。それに久美の敵はアスモデウスを敵視する悪魔だけではない。愚かにも自分の横に並ぶべき女だと勘違いする悪魔もいる。


 だからこそ人の姿を保ちながらも悪魔の妻として何ら遜色ない存在にしなくてはけない。彼女に多くの悪魔が無条件でひざま付き、心から彼女を思い、そして従う存在に。


(だからってアイムを連れてくるなんて驚いたけれど。ただ、気がかりなのは誰が召喚したかってことだ。邪魔だけはしないでほしいものだね。折角、育ててるのに)


 壮士は久美が食べ残したクッキーを愛しそうに眺めると、口へと運ぶ。


「不味い」


 眉をひそめながらも、クッキーを吐き出すことなく壮士は食べ切った。人間には感じない味と匂いだが、壮士にとっては毒にも等しい。解毒剤が彼の存在そのものを否定してくる。


「それにしても、クッキーの中身をアイムに気が付かれなくてよかった。多分、他の匂いで鼻がマヒしたんだろうな。吐きそうな顔でずっと僕をみてたし。でもアレの存在はバレちゃっただろうな……」


 壮士はクッキーと茶を盆にのせると隣の部屋へと足を向ける。壮士の部屋の隣は彼の両親の部屋だ。子供の頃、その部屋の住人は恐怖でしかなかった。()()にとっては。今でもこの部屋に入ろうとすると、魂の名残なのか腕が少し震えてしまう。


「父さん、母さん、入るよ」


 壮士は笑顔で部屋に入ると、黒い何かがうごめくような声をあげた。


「ソ……ソウシ」

「ソウシくん」


 壮士、壮士とばかり呼ぶ二体の黒い物体が床を爬虫類のように這い、すがるように壮士の足元へと纏わりついてくる。目玉がなく口からはよだれがダラダラと流れているそれは、化け物というに等しい。


「もう、せっつかないでよ。ちゃんと餌を持ってきたけれど、これは久美専用だから薄いかもよ」


 壮士がいっても二体の化け物には聞くための耳が存在しないらしい。奪うようにクッキーがかすめ取られ、茶が床へと零れ落ちた。



「アジがない……アジがない」

「やっぱりだめか……仕方がないなぁ、()()()()()()()()ね。君たちがくれた愛を僕も同じように返してあげなきゃ」


 やれやれとばかりに壮士はナイフを取り出すと右腕を深く切りつけた。ぽたりぽたりと落ちる血に化け物が争うように喰らいつく。

 

「美味しい? 父さん、母さん。久美はね、美味しいっていってくれたんだ。バターのような味がするらしいよ」


 あははと壮士が笑いながら話しかけるも化け物にはその声は届かない。


「あまりにも可愛いから、ちょっとだけ教えてあげたんだ。一つは簡単、もう一つは危険──まぁ、失敗しても大丈夫だよ、サラ」



 壮士は、ふふっと笑うと愛し気に化け物の毛をなでる。


「僕と一緒の化け物になるだけだ」


















 





 
















 

 

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