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悪魔と久美の契約関係  作者: 七海 夕梨
Aim Route
2/9

契約内容001

悪魔の設定など、かなりゆるゆるです。

 緊急事態──といったらいいのかしら?


 目の前に(おそらく)血まみれで、死にかけの美男子が倒れている。


 瞳は閉じられたままだが、高い鼻梁や顔の造形からして異国人のようだ。プラチナのような銀髪と細く引き締まった褐色肌の体が、目のやり場に困るほど色気を放っている。しかも手足には大きな宝石のついた装飾品を纏っており、まるでどこぞの王族かと思うほどだ。


 これは優良物件だわ。


 訳あって必死に婚活をしている私には、二度とない縁かもしれない。これだけ顔がいいと既婚者か、彼女持ちかもしれないけれど、その時は恩に着せれば、つてでいい人を紹介してもらえるかもしれないわ。



 さっさと救急車をよんであげなきゃ!



 ───と、思うのだけど。


 

 穏やかな日常を重視する私の【心】が、『119』という、たった3桁の番号を押してくれない。





「だって、血が青いとか……」 



 割れた腹からどくどくと溢れでる血は、どうみても絵具等の作りものには見えない。しかも成人男性が猫耳をつけ、腰布以外はほぼ裸体というファッションセンスは、いかがなものかしら。極めつけは、額に描かれた二つの五芒星……どう考えてもやばいセンスの人よね。


 そもそも、コレは「人」なの? 


 せめて猫耳ではなく猫だったら、青い血だろうと助けるのだけれど。


 私のにゃんこ愛はマリアナ海溝より深いもの。




 というわけで……



 見なかったことにしましょう!



 と、男の横をスタスタと通り過ぎたら


「キシャマ!! ワタシを見捨てるつもりかっ」


 幼子のような拙い声が聞こえ、足に何かがまとわりついた。


 一瞬、男の仕業かと思ったけれど、男は気を失ったまま微動だにしていない。恐る恐る視線を足元へ向けると、小さな蛇が一匹。しかも頭をぶんぶん横にふっている。自己アピールでもしているのかしら。



「オイ! キシャマ! このワタシをムシするな」

「……」


 幻聴ではないわね。なら夢?



「オイ! いいカゲンにしろよ! ニンゲン。このダイコウシャクたるワタシをムシするとか、いいドキョウだな」

「だいこうしゃく? あなたが?」


 蛇の大公爵なんているの? 大根と蒟蒻コンニャクの聞き間違いかしら──まって、しゃべる蛇自体いないわね。


「キシャマ! フベンキョウにもほどがあるぞ! ワタシは26のグンダンをシキするジョレツ23バンメのアクマ、ジゴクのダイコウシャク!! ()()()サマだっ」


 子蛇がムキー! と効果音を添えて怒っている。


「……疲れてるのかしら。今日も婚活失敗したし、耳にダメージがきたんだわ」

「ナニをイっておる! ダイコウシャクたる、このワタシがハナしておるのだぞ!」 


 蛇は私の幻聴説をどうしても否定したいらしい。


「公爵とか、スゴーイ、なら、後は一匹で頑張ってね」


 という事で私は、平穏な日常へと戻るとするわ。


「なっ! そうやってツヨがっていられるのもイマのうちだ。キサマなど、ワタシがチカラをトりモドしたアカツキには、タマシイごとクらっ


 ゲシ!



 気が付いたら蛇を踏んづけていた。あ、今日はヒール──慌てて靴をどけたが一部、潰れている。でもまぁ、悪魔とか魂食らうとか言われたら仕方がないわ。正当防衛よ。人道的には問題ないはず。


「お……の、れ」


 子蛇はよろよろしながら、本体と思われる男性の腹へと這っていく。


 あ、これって漫画とかだと本体に戻ったら攻撃してくるパターンじゃ。


 慌てて蛇をつかもうとするも遅かった。蛇を腹にいれた男は、体を弓上にそらし、うう~と唸りだした。しかも関節があらぬ方向へ、ぐにゃっと曲がり、あれよと言う間に



 ……なんか小さくなったわね。


 美しい顔(だが恰好が残念アレで、おでこにお星さま付)の男はいなくなり、目の前にいるのは、チョコレート色のシャムネコが一匹、気を失ったまま横たわっている。




「ネ……コ……」



 ネコ好きの私は、ありとあらゆる『非現実』を無視し、即座に、にゃんこを家までお持ち帰りした。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「──という感じで、拾って手当てをしてあげたのよ」


 助けてあげ、事の顛末まで説明してあげたのに、目の前のシャムネコはご機嫌ななめだ。猫になったからか、蛇の時のような幼子独特の拙さがなくなり、少年のような声で「人でなし!」と怒っている。


「手当だと? 包帯など、ゆるゆるではないかっ。しかも腹がっ、血がぁぁぁ!! とまってないィィ~~」


 猫が慌てて包帯を巻きなおそうとするも肉球に阻まれて苦戦している。


「だって青い血を出す猫なんて、獣医に診せれないわ」


 苦戦する姿が可愛くてもうちょっと見ていたかったが、かわいそうなので包帯を巻きなおしてやった──が、グルグルに絡まって余計に悪化した気がする。


「じゅ……獣医だと? 貴様っ、このワタシを獣風情と一緒にするとはなんたる屈辱。元に戻ったら犯してやる」

「え~、にゃんこに犯されるとか、夢~」

「コワっ……獣姦してくれとか、様々な人間をたぶらかしてきたが、こんな変態、会ったためしがないぞ」


 シャムネコが肩を震わせて怯え始めた。


 あぁ愛らしいわ。ブルーサファイアの眼がパッチリひらいて驚く姿なんか特に。なんか変な猫をひろっちゃったけど、もういい。悪魔とか非科学的生物なんて、肉球の偉大さの前では、些細な事。


「ところで貴様、このワタシを召喚した男を知らないか? 周囲に誰かいたはずだ」



 周囲? 誰かいたかしら? あそこは夜の公園で、人影などなかったし、私も婚活相手と別れてから自宅に帰るまで『人』とは会っていない。


「誰も見かけなかったけれど?」

「そんなわけがあるかっ。大公爵たるワタシを召喚しておきながら何も要求せず立ち去ったアホだぞ。しかも召喚儀式に必要な生贄がなってないとんでもない奴だ! だいたい生贄が食紅と玩具の人形とかふざけてるとしか思えん。儀式の失敗という事で、魂を取り上げ説教してやろうと思っておったら、召喚直前に横からハウラスの奴が、火炎を投げつけてきたのだ。おかげで死にかけで召喚されるわ、説教は出来ぬわ、貴様には踏みつけられるわで、てんやわんやだったのだ!」


 ながいわね。


「要するに死にかけの状態で召喚されたので、ニャンコになって気を失ったというわけね」

「ワタシの偉大さが微塵も感じられぬ省略はやめろ。あと、貴様に見捨てられた上、踏まれたが抜けておる!」


 何気に根にもっているわね。まぁ一部潰れてたし仕方がないかしら。


「ごめんなさい。その代り怪我が治るまで、面倒みてあげるわ、ね?」


 もちろんその間、なでまくり、肉球を堪能させていただくけれど。ぐふふふ。


「よかろう、ならば貴様、ワタシに何か契約を持ち掛けろ。契約なしの身では、ここでは回復できん。たのむっ、腹なんてぱっくり割れてもう、いつ死んでもおかしくないのだ。あと潰されたところが痛くて痛くて、死ぬ。いいのか! 貴様の可愛いにゃんこが死ぬのだぞ」



 大公爵のプライドなんてかなぐり捨てて、めっちゃ罪悪感を持たせるように言ってきたわね。だけど悪魔の契約って漫画とかだと、結構な対価が必要なはず。


「ええぃ、さっさと返事をせぬか! まさか対価を恐れておるのか? 安心しろ、魂までよこせとは言わぬ。苦しめたり、いたぶることもしないと誓おう。ワタシが対価としてお前に求めるものは快楽だ。偉大で美しいこのワタシの身体で、お前を快楽に溺れさせやる。どうだ? こんな優しい契約をしてやるのは、生まれて初めてだぞ。素直に「はい」と言え」


 愛らしい肉球の手をピッと上げながら、どうだとばかりにシャムネコが言う。やばいわ、キュンとしてしまった。腹から血がでててもかわいい。でも、にゃんこの身体で快楽って……肉球ってこと? 対価なのに、いいのかしら。ぐふふっふっふふふ。


「いいわね、契約するわ」


「軽っ。というかっ貴様、なんだその笑顔は。ワタシより悪魔顔ではないか? もっと恐れて、そんなっ、怖い~ぐらい言えんのか!」

「別に怖くないし、どんとこいよ」

「ど……どんとって。26歳にもなって、男経験皆無の処女が、余裕だなっ」


 うっ、なんでわかったのかしら。悪魔だから?


「……余裕は、ないわね」


 今年中に結婚前提の人を見つけないと、実家に帰って、親の決めた相手と結婚しなければならない。聖人君子な顔をしながら、何でもみすかしてくるアイツと結婚だけは、生理的に嫌。なのに今回も婚活が失敗しちゃったしどうしようかしら。だいたい人に好きな事はなんですかって聞かないでほしいわ。聞かれたから、猫について愛を語ったのに「無理……怖い」と言って、交際を断るとか失礼しちゃうわ。



「そ……そうか余裕はないか」

「でも対価なのに快楽に溺れちゃっていいの? いっぱいやりまくると思うんだけど」

「……貴様っ、余裕がないとか言っておきながら、よくもそんな。まぁワタシは寛大だからな何度でも付き合ってやる……って、なんだ、その期待に満ちた目は。ちょっと背筋がひゅーっと来たかやらやめろ。それよりも! さっさと貴様の要求を言え!」


 シャムネコが怒鳴ると、おなかからピューと血がでた。あぁ、契約を急いであげないと、本当に死んでしまう。


「私の要求……(肉球)」


 すでに、それは叶っている。なのにまだ要求していいなんて。素敵な大公爵様ね。


「あなた、人の姿になれる? できれば猫耳と五芒星のない方向でお願いしたのだけど」

「契約すれば造作もない事だ。って、さり気なくワタシのチャームポイントを小ばかにしてるだろう? 貴様」


 チャームポイントだったの……。


「私、親に無理やり結婚させられそうで……相手が生理的にダメなのよ」


 シャムネコが「ほぉ~」と言い、目を細めて悪い顔をする。あぁ、その顔もなんかそそるわ。


「だから、あなたが私の代わりにその人と結婚し

「待て待て待てーーーー!! そこはワタシに結婚相手になってくれ! と頼むのが筋ではないのか? 第一それでは、この大公爵たるワタシが野郎とやっちゃわないといけなくな……ひぃ~~なんて恐ろしい娘なのだ。悪魔かっ、貴様は悪魔だなっ」



 悪魔に悪魔といわれるなんて。


「だって、私はあなたの身体(主に肉球を)堪能させて貰うのに、これ以上要求するなんて悪いかなと」

「堪……いやまて、どう考えても野郎と結婚しろというほうが悪いだろう」

「まぁまぁ、婚姻届だけ書いて、さっと大地獄に戻ったらいいじゃない。白い結婚だと思って」

「悪魔以上に、悪魔だな。だがその契約は駄目だ。大公爵が結ぶ契約にしては美悪感がたりない。あとなんか怖い」


 折角、楽な要求を持ち掛けてあげたのに、大公爵様のプライド的にそぐわないらしい。


「じゃあ、あなたの言うとおり、偽装結婚……だと悪いから偽装の婚約者ってことで」


 シャムネコはしてやったりとばかりに、ニヤリと笑う。猫も脳が悪魔だと人のように笑えるのね。


「婚約者か……よかろう。その分、存分に楽しませてもらうとするか。フフフフ……」

「うん! 楽しませてね」

「なっ……ホント軽いな、貴様。ならば早速契約しようではないかっ いでよ! 我がしもべ! タナカよ!」



 しーーーん。



 タナカって田中? なのかしら。



「な……なんたることだ。契約用紙を持った最下級悪魔、タナカすら呼べぬとは」

「そのタナカって田中?」

「……貴様、ワタシが失敗したことを笑わなかった事だけは褒めてやるが、言ってる意味がわからんぞ」

「いや、田中召喚を見るのはちょっと……」

「なんだ、タナカ程度で怖いのか? 悪魔以上に破廉恥極まりないことを言い出した上、悪魔的な要求をした貴様のセリフとは思えんな。田中とは100年ほど前に、この偉大なるワタシを呼び出しておきながら、要求が美子ちゃんと両想いになりたいとか言いおったヘタレ野郎……っといかん、個人情報は漏えい禁止だった」


 大地獄でも個人情報は大事なのね。もう、ほぼ漏えいしてるけど。




「怖いんじゃなくて、私の名前、田中久美たなかくみだから。いでよ田中って呼ばれると複雑というか」

「なっ……」


 私の名前を聞いて、シャムネコが目を見開く。前の契約者も田中だったから驚いているのかしら?


「貴様! 本当に貴様というやつは、なんて貴様なんだっ」



 どうしよう、わけのわかんない事言い出したわ。すごく狼狽えているのはわかるけど。でもその姿も可愛いわね。


「よいか? 貴様、契約を持ち掛けた悪魔に、先に真名を知られると一方的に魂を取られるぞ。この大公爵たるワタシとの契約を、そんなアホな事で台無しにしてどうする。もっと緊張感を持ってやれ! 」



 ドビュードビューと腹から血をだしながら、私を指さして大公爵様がお怒りになる。


「ごめんなさい。以後、善処するわ」

「フっ、もう遅いわ。愚か者め。貴様の魂はもう私のものだっ。田中が2体になるのが美的感覚にそぐわないが、よかろう。クククク……ふふふふっふはははははははははっ!! ワタシの真名を知っておれば助かったのにな、愚かな、まことに愚かよ。泣いてもダメだぞ。悪魔との契約を軽くみた貴様が悪いのだ。魂となって反省しろっ」


 シャムネコは大笑いし、なにか黒い煙を体から出し始めた。黒煙からは男や女の怨嗟と悲鳴が聞こえてくる。突如、ふ~と体の中心から何かが抜けていく感覚が襲い──あぁ、これが魂がとられる感覚なのかしら。



「やめなさい。酷い事は……し」


 だめね。声がうまく出せない。


 私から力を吸い取ったからか、シャムネコは美麗な人の姿──いや、悪魔の姿に戻っていた。腹に巻いてやった包帯はすでになく、ブルーサファイヤの瞳が冷たくこちらを見て笑っている。


「やめてだと? このワタシに命令など、どこまでも愚かな娘よ。久美、魂を奪う前に、せめてもの情けだ、純潔を奪ってやろう。快楽を感じながら、ワタシの元で眠るがよい」


 少年だった声は低くなり、鼓膜が犯されたかのように気持ちいい。意識がだんだんと遠くなるにつれ、形よい悪魔の唇が少しずつ近づいてくる。あぁ、なんか処女がどうのといってたのはそういう事だったのね。ちっ、すっかり猫の姿に騙され、いい方向に考えていたわ。肉球を堪能させてくれると思ったのに、なんて嘘つきな悪魔なの。


「アイム……やめ……なさい」

「なっ!!!」



 ポン!!! と煙のような音がしたと思ったら、アイムは猫の姿に戻っていた。急に戻ったためか腹からドビュードビューと血が勢いよく出ている。


「な……ぜ……ワタシの真名を」

「だって子蛇の時に言ってたし」

「しまったぁぁぁ。子蛇になると下級悪魔並に知性が下がってしまうのだ。英知たるワタシがこのような手に引っかかるとは、この悪魔めぇぇぇぇ」



 悪魔にそんな事言われても。


「私に意地悪するからだわ。それより沢山血がでてるわよ、アイム、大丈夫? アイム……ねぇアイム??」

「ひっ、やめろ!!!! 名を連発していうなっ。悪魔の真名はデリケートなんだぞっ」

「じゃあ、アイちゃん、アイたん、愛五郎?」

「やめろぉぉぉぉお。私の品性が、品性がぁぁぁぁ!!!」


 アイムは苦しそうに悶えて転がった。血がドバドバとでている。後で床掃除が大変だ──の前に死んでしまうわね。



「仕方がないわね」


 私は引き出しから、大学ノートを取り出し、1枚ぺリリと切り取った。



 【田中久美とアイムの契約書】


 『アイムは田中久美の婚約者となる代わりに、アイムの肉球に快楽を与える事を約束します。』


 ボールペンでさらっと書き、カッターで指をきると署名し血判を押してみた。悪魔との契約に、シャチハタはさすがにアレだろうから。



「い、いいのか……?」


 ブルーサファイアの瞳をウルウルして、横たわる悪魔に契約書を渡してやる。この反応からして契約書は紙切れでもいいみたいね。


 まぁ、本心は助けてあげたい1%、肉球堪能したいが99%だけど。


「別に構わないわ」


「愚か者め! こちらの世界だと、ワタシの真名を知った貴様に優先権がいくのだぞ。たとえワタシが貴様の真名を知っていようと関係ない。つまり契約などせずともワタシを使役できるのだ。その上、ワタシは弱っている。この大公爵を人間世界に存在できる間に使うだけ使い、その後抹殺できる最大のチャンスでもあったのに」


 大学ノートの紙きれを、後生大事といわんばかりに握りしめながらアイムが言う。


「そんな酷い事はしないわよ」


 私専属の肉球がなくなってしまう。しかも抹殺って私を何だと思ってるのかしら。


「なっ……貴様っ、悪魔だぞ。使役しないのか? 願えば永遠の命や富や権力だって」

「面倒くさいわ」

「め……使役できる身でありながら……かいら、いや、対価まで支払うというのか? さては要求だけして対価を払う前にワタシを排するつもりだな?」


 じぃ~と、アイムが疑いの眼で私を見てくる。私ってそんなに信用ないのかしら。


「しないわ。貴方を死なせないために契約するのよ」


 アイムがあり得ないという顔で私を見る。酷いわね、さっきから失礼にも程があるわ。にゃんこでなかったら拳が飛んでいるところよ。


「契約文字は日本語だけど大丈夫? 海外の悪魔だと、英語のほうがいいかしら?」

「誰に聞いている? 英知の悪魔たる、このワタシが契約書すら読めぬなどないわ。え……と、アイムはたなかくみのこんやくしゃとなるかわりに、アイムのにくたいにかいらくをあたえることをやくそくします……だろ?」



 アイムはどうやら日本語が苦手らしい。


「あの──

「ええい! 煩い。今更、怖気づくなど許さんぞ」


 アイムは待つつもりはないのか、制止も聞かず、刃をだしたままのカッターを私に持たせたまま、指をこすりつけた。


 あ……かわゆい猫指が。腹の血じゃだめなの? と聞いてやればよかった。


 あまりの痛々しさに、涙をだして見ていたら、アイムが悪い顔をしてニヤリと笑う。


「フン、泣くのか? 自分から言ったのであろう?」


 バシと可愛い音を立てて、アイムが青い、猫血判を押す。


「あ……」

「クククっ、これで貴様をワタシが……おい、なにを呆けておる? 優しくしてやるから、その……泣くな」


 もじもじしながらアイムがいう。やばい……にゃんこの、もじもじ姿とか鼻血が、鼻血がっ! ティッシュはどこ?


 そんなこんなで、私とアイムの契約が成立した。



 あとになって『肉()』と『肉()』を読み間違えた事に気が付いたアイムは、泣いちゃったけど、それはまた別のお話。



お読みいただきありがとうございました。

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