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「は、は、ハッハハハハ!!!!!
バカバカしい!!私が!この神聖教徒、七聖貴族の私が、あんな薄汚い連中と繋がってるって?!
バカバカしい妄想も大概にしろ!」
俺は視線を揺らすことなく睨みつける。
「十五年前、当時は麻薬の売買が盛んに行われてた。何件もの被害者が生まれ、ボロボロになりかけていたこの国は前国王の勅令によってなんとか持ち直すことができた。
その前国王の勅令を受けたのが、酒巻様だった。
酒巻様は魔術庁と協力し、売人達を一斉検挙した。
その検挙によって多くの売人や暴力団組織は捕まったが一部逃れた組織がいた。
それが暴力団組織、曙だった。
曙はあんたの協力によって魔術庁の捜査から逃れた。しかし、酒巻様が証拠を掴んだと知ったあんたはその日の夜に酒巻家の屋敷に襲撃をした」
「はぁ、勘弁しろ。国賊は貴様の方ではないか」
「そうだ。これ以上我々を貶めるな」
酒巻青葉が口を開いた。
その目は今も昔も揺るぎなく、向けられた目はまったく揺らいではいなかった。
「あぁそうだ!その男を捕まえろ!」
陣内はニヤリと笑みを浮かべる。
酒巻青葉はそういう人間なんだと。彼は貴族の精神を体現する人間だ。その内にどれだけの感情を持っていたとしても。
陣内は青葉が必ずコチラ側につくことは知っていた。
そしてそれは、焔木も知っていることだ。
(あぁ、そうだな。青葉さん。あなたはそういう人だ。
貴族としての誇りを誰よりも持ち、強く厳しく己を律し、民を守る本当の騎士。
そんなあなたに俺は心底惚れ込んだ。俺とはまったく別の強さを持つあんたがかっこよかった。
だから、貴方の誇り高い精神を利用したクズ野郎を許さない)
ガチャガチャと鎧を揺らしながら壇上へと向かってくる騎士達を無視して、俺はポケットから一枚の羊皮紙を取り出して見せる。
「唐沢陣内様、これに見覚えは?」
その羊皮紙は曙と協力する際に書いた契約書だった。
そこには唐沢家の刻印が施されている
「な!何故それがッ!!それは確かに燃やしたはず!!」
「燃やした?おかしいですね。
あなたが燃やしたと思った契約書は今確かにここにありますよ?」
〝ニヤリと笑みがこぼれた〟
この契約書を作るのはかなり大変だった。
事件を一つ作る必要があったからだ。
俺は近づいきた騎士に羊皮紙を渡す。
「それを国王陛下に届けてください。陛下ならばその刻印が偽物が本物か、おわかりになるでしょう」
渡された騎士は戸惑いながらも、羊皮紙を国王のもとまで渡しに行く。国王はそれを受け取って見ると驚愕する。
「た、確かにこれは唐沢家の刻印だ。しかしこれは、異世界人暗殺の契約書か?」
「えぇ、唐沢家には陣内が個人的に組織した騎士団が存在します。陣内は自分の騎士団に魔王を討伐させ、利益を得ようとした。しかし、それを横から異世界人にかすめ取られるのを阻止したかったのでしょう」
「ふむ、確かに暴力団組織、曙の刻印と思われるものもされておる。しかし、それだけで国賊と罵るのはどうかな。
確かに陣内から魔王討伐を任せてくれと言われていたが、それは貴族が討伐することによって威厳を保とうとする彼なりの国を思うが故の行動だろう」
やはり落ちないか。
国王には唐沢陣内との信頼関係がある。あちら側に付くのは予想してい事だ。
それでも俺は内心舌打ちする。
「しかし、暴力団組織と契約を結んだ事は事実だ。
これからは外だけではなく我々中の人間にも目を向けた捜査をおこなうことにしよう」
いい。
今はこれでいい。
俺はチラリと会場の一部に目を向ける。そこにはカメラを構えた何人ものスタッフが立っている。
この入学式を〝テレビで生放送しているのだ〟
これでこの光景を見た人達に疑念を植え付けることができる。そしてその疑念によってクズ野郎に疑いの目を向けさせることになり、クズ野郎は身動きがとれなくなる。
あのクズ野郎が気づいているかどうかはわからないが、疑念の種は国王にも植え付けられた。
クズ野郎は致命的なミスを犯した。
俺は最初、十五年前の話をした。その後に羊皮紙を見せたのだ。
もし陣内が暴力団組織と契約を結んだのが今回だけで過去には何も無かったのだとしたら、あの取り乱し方はおかしい。もしそうであったのだとしたら国王よりも先に事実を話していたはずだ。
この疑念の種は必ず見ている人達に植え付けられた。
「ありがとうございます、陛下」
「うむ、ソナタ達に僅かばりの疑念を抱かせたことを謝ろう。最近は我々と正面切って叫ぶ若者が少なくてな。君のような覇気のある若者はとても頼もしい。
だが、やはりルールは守って今度からは適切な手続きを踏んでから意見を示してくれ」
「はい」
俺は一礼してから舞台袖に戻る。
司会進行を務めていた生徒はポカンとしていたが、すぐに気を取り直して進行は始める。
「みなさん、間抜け顔で何やってんですか?」
E組みも同じように呆けている。
「あ、あ、貴方は!何をやっているのですか!?」
ようやく口を開いたのは白いドレスに身を包んだ令嬢、東堂梓だ。
彼女は数々の高性能な武器を作り、売っている東堂グループの娘である。
「わ、私達がどれだけ心配していたか、おわかりです!?」
「まぁまぁ、気にしないでください」
「どういう事か。説明は貰えますの?」
「そのうち話しますよ」
「マキ、貴様も人だ。隠し事は当然あるだろう。しかし、今回の事については話しておくべきことだったと思うぞ。
特に、貴様と我々の信頼関係に亀裂が走ることなもなりかねん」
ここで、自分達にも被害が及ぶかもしれないからと言わないあたり、柳洞寺らしいな。
「信頼していないわけではありません。ただ、言いたくなかっただけです」
「それにしても貴方が貴族に喧嘩を売るなんて、らしくないですね」
剣が話を変えるように問いかける。
「そうですね。でもこれは別ですから。私が幸せになるために必要なことです。じゃ、帰りますね。もう用事もないですし」
今日は入学式だけで本格的に授業が始まるのは明日からだ。
教員達がバタバタと忙しそうに駆け回る中、俺は逃げるように体育館を出て校門通る。住宅街をしばらく歩き、街並みはだんだんと廃工場が立ち並ぶ倉庫街に変わっていく。
「さて、ここらでいいかな」
俺を囲むように隠れている気配の数は数十人。
唐沢陣内から依頼を受けて殺しに来た暗殺者だろう。
「思う存分八つ当たりさせてもらうぜ。
今日だけで殺したくなるような面を二人同時に見る羽目になった。本当に嫌になる。感情を隠すのは大変なんだ。気づいたのは学園長くらいだろうな」
俺は右腕を上に掲げて魔力を込める。
それと同時に周りにいた気配が一気にこちらへと迫ってくるのを感じる。
「何か勘づいたか?もう遅せぇよ」
暗殺者達は自らの身に何が起きたのか分からなかっただろう。視界を覆い尽くす閃光と耳を劈く爆音によって、何かを思う間もなく絶命していた。
七聖貴族
ジャポン王国、国王に仕える七つの家。
唐沢家、酒巻家、東家、清水家、龍神家、弓枝家、刀坂家。
過去、これら七つの家は小さな島に国を作るため、神から力を宿されたとの伝説がある。
神聖教徒。
ジャポン王国の伝説を信仰する者達の事。