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第一体育館は普通の体育館とは比べ物にならないくらい広い。

だいたいコンサートホールくらいの広さであり、その中に在校生達、そして異世界人の入学式に集められた国王や貴族、騎士団が座っている。


『素晴らしい日ですね。

魔王を討伐するために異界から召喚された英雄達、もう我々人類が魔王に敗北することなど無いでしょう。

神は我々の味方なのです』


その言葉に召喚された異世界人達は満更でもない笑顔で焔木を見る。


『あぁ、ですから、残念なのです。

ここで、一人の貴族の化けの皮が剥がれるのですから』


最後はマイクに乗っても小さく聞こえなかった者もいるだろう。誰もが言葉の意図が分からず首を傾げた瞬間、どこからともなく魔法の矢が雨のように異世界人達へと襲いかかる。


『マハト、(むらさき)エーリカ』


焔木は淡々とした口調で名前を呼び、それに対して三人は瞬時に気持ちを切り替えて舞台に飛び出し、矢の雨の中へと身を投じる。


紫は軽業師のような身軽さで矢の雨を避けながら、手裏剣を使って器用に魔法の矢にあてて相殺し、マハトは拳と蹴りだけで全ての矢を弾き飛ばす。


その姿に驚いたのは騎士団、教員だった。手裏剣で相殺したり、矢を弾き落としたりする曲芸技にも驚くが、あの奇怪な男に名を呼ばれて飛び出てくる瞬間的な切り替えの速さに驚きと関心をしていた。

よく訓練されている。


だが、もし彼らにその事を伝えたとしても微妙な顔をして「あの声に従わなかったら実験されるから」というだろう。

よく調教されている。


魔法の矢が止んだあと、呆然していた生徒達が途端に騒ぎ出す。無理もないだろう。今の魔法の矢がもしかしたら自分に当たっていたのかもしれないのだから。

彼らは二人に守られた事を忘れて騒ぎを拡大させていく。


「静まりなさいッッ!!」


そして、教員酒巻紅葉の一喝がホールに響く。

そのよく通る声は生徒全員の頭を揺さぶって冷静さを取り戻させる。いや、よく見ると彼らの視線は紅葉ではなく、紅葉の持っている釘バットに向いている。

コチラもよく調教されている。


『ありがとうございます。酒巻先生』


焔木が笑って見ると紅葉は何かを言い掛けるがそれを飲み込んで教員の顔つきへと戻す。


「巻葉くん、貴方の迅速な判断には賞賛と感謝を。そして貴方達二人にもお礼を言わせてください」


「うむ、拙者は当然の事をしたまでだ。

むむ!貴殿なかな…、え?ちょー可愛くない?やべぇ!」


「ホントだ!!スゲェ美人だ!!」


キャンキャンと発情する馬鹿二人に巻葉は氷のような冷たい笑顔を向ける。


((あ、これ俺達死ぬな))


何が焔木の逆鱗に触れたのかはしらないが、二人は自らの生存を祈るばかりだ。


「油断してはなりませんよ。

まだ襲撃犯が捕まったわけではありません」


紅葉はそう言って警戒心を持つように促すが、三人はまったく気にした様子がなく、その態度に紅葉が訝しむと同時に彼らの前に一人の男が投げ込まれる。


「ナイス、エーリカ」


「さすがに全員は無理だったが一人は捕まえられたぜー」


鋭い犬歯と狼のような耳を持つ女性、エーリカはニヤリと口角を吊り上げて笑う。


「な、この男が襲撃犯ッ!」


「まぁ待て、酒巻教員」


紅葉が襲撃犯を捕らえようと近づいた瞬間、言葉の重圧によってホール全体の空気が重くなる。


「その者は既に縄で拘束されているだろう。抜け出したとしてもこの中では教員や騎士の目を欺き人質を取ることもできない。

それよりだ。焔木巻葉、だったかな。

貴様はさっきこう言った。

『ここで、一人の貴族の化けの皮が剥がれるのですから』とな」


会場の空気が更に重くなる。まるで今回の襲撃が貴族の仕業であるかのような言い方だ。


「貴様ァ!!神聖教徒である我ら貴族を侮辱したにもかかわらず、我らを犯人呼ばわりとはいい度胸ではないか!!ええい騎士共!何をしておるか!不敬罪でひっとらえよ!!」


そう叫ぶのは唐沢家当主、唐沢陣内(からさわじんない)だ。

彼の言葉に騎士団が慌てて捉えようとするが、それを国王自らが手で制す。


「まぁ、待て。聞くだけ聞こうではないか」


「し、しかし陛下!」


「陣内、お前には闇などなく、我が国を導く神聖教徒であろう?」


「は、はい!」


「ならば何も問題などない」


そう言って国王は鋭い視線で焔木を見る。

その目を見て、焔木は必死に笑いをこらえる。


さぁ、ここから物語は始まる。

魔王を倒す、人々を救う、そしてなにより巻葉の復讐を果たすための物語が。

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