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時間は一瞬だ。

転生してから20年。それは本当に一瞬で、地獄のような苦しみもあったし、甘く優しい幸福もあった。

でも、まだ俺は不幸だった。


「………」


「なにやってんのよマキマキ」


「サクラを見てました」


「へぇー、マキマキにも感傷に浸るような心があったんだね」


「ところで胡桃、最近作った魔薬ががあるですが飲んでみてください」


「こ、怖い!マキマキ怖いよ!」


囀家胡桃(さえずかくるみ)は顔を青くして逃げていく。


「はぁ、まったく…。

さぁ馬鹿どもー早く校長室に向かいますよ」


「Hey!マキマキ!

俺逃げていいか!!面倒だ!」


「構いませんよ。実験体になりたければどうぞお願いします」


「……」


「馬鹿ね、運慶。許可なんか求めるからそうなるのよ。ここは黙って逃げるパターンだわ」


「お、実験体が一人増えましまね」


「くっ!相変わらずの地獄耳なのだわ!」


頭にバンダナを巻いた寺島運慶(てらしまうんけい)と上品なドレスを着た令嬢、東海道影梅雨(とうかいどうかげつゆ)は苦々しい顔をしながら、クラウチングスタートを決めている。


「おぉ!早っ!

ドレスであのスピード出すなんて本気だなぁ」


それを眺めて笑っているのはタキシード姿の心里剣(こころさとつるぎ)だ。走り去っていこうとする二人の足元に液体が投げかけられ、二人は滑って転ばされる。


「はい、二人揃って実験体よろしく!」


「「いやーー!!!しーにーたーくーなーい!!!」」


「ハハハ、あまり厳しくしてはダメですよ」


「ん、剣もこの馬鹿二人の味方ですか…」


「流石は、我らが剣なのだわ!」


「あぁ!お願いだ剣!助けてくれ!」


「いまから校長との謁見があるのでしょう。こんな校門前で時間を潰していては遅れますよ」


「んー、まぁそうですね。実験はまた今度で」


こんな馬鹿共に付き合っている方が時間の無駄だ。

俺は二人を放り投げて周りを見る。


「あれ?他の奴らはどうしたんですか?」


「逃げましたね。どうやら運慶と影梅雨さんを囮にしたようです」


「こういう時だけ無駄に頭の回る奴らですからね。剣、校長との謁見に行きますよ」


「はい」


俺は白衣を翻して桜の並木道を歩く。


ここは魔術学園、魔力を宿した者達が集められる学園。この学園を卒業したものは将来魔術騎士団に所属できることが約束される。

力や知恵、未来や名誉など様々なものが1度に手に入る場所だ。


そして、管理者によって送られてきた異世界人が集まる場所でもある。つまり、ここは俺以外のサポーターの一人が作り上げた学園だ。

学園長の名前は佐江沼霧子(さえぬまきりこ)

今年で二十五歳になるという話だから、俺より五年早くこの世界に転生されている事になる。

性格は真面目の一言で、長い髪を後ろで纏めて、眼鏡をかけている。教室に一人はいる委員長タイプの人間だが、実力は化け物じみている。それは二十五歳という若さで世界に認められる学園を作った事からもわかる。


俺を除いたサポーターの四人はそれぞれこの世界で活躍している。因みに俺もサポーターとして受け皿のようなものを作ろうとしたが、佐江沼霧子が十歳の時に学園を作り上げたことから早々に諦めて身を隠してきた。


「まぁ何はともあれ、只者じゃあないでしょうねー」


俺は怠そうな声を発しながら校舎の中へと入る。学園長室は一階の一番奥の部屋だ。そこだけ明らかに他の扉と違い、木製で重厚な存在感を発していた。


ノックすると、返事がきたので中に入ると、そこは左右を本棚で埋めつくし、目の前は全身ガラス張りとなって光がさしていた。


「ふむ、君が、アルスト学園からやってきた生徒だね?知っているとは思うが私は佐江沼霧子、よろしく頼むよ」


椅子から立ち上がる姿も、コチラに歩いてくる姿も、手を差し出す姿も、全てが洗練されており、凛とした雰囲気醸し出している。

彼女こそ、魔王を倒すため、そして魔王を倒すためにやってくる異世界人のサポートをするために呼ばれた存在。


俺は差し出された手を握る。


「学園長佐江沼霧子さん。私たちアルスト学園一年E組をお招きいただいて、ありがとうございます」


俺は手を握ったままニッコリと微笑む。

この二十年で嘘笑いも得意になったものだ。

俺は内心帰りたいと叫びながら佐江沼さんと話を進めていく。




▼▼▼


本当に失礼な事なのだが、意外だった。

アルスト学園一年E組、魔力を持っているのに魔法をまったく扱えない落ちこぼれ集団にして、一癖二癖もある奇人変人の問題児集団。アルスト学園の教室一つ吹き飛ばしたことはもはや伝説となっている。


そんな問題児クラスを纏めあげる男と聞いてかなり身構えたが、接してみた感じ普通の男だ。何故白衣を着ているのかはしらないが、変と思うのはそれくらいだろう。あとは多少胡散臭い雰囲気を持っているくらいだろうか。ただそれは第一印象であるため、忘れることにする。

まぁ、彼らも人の子だ。普段のテンション隠しているのかもしれない。緊張くらいするのだろう。


佐江沼霧子はそう結論づけるが、一切油断をすることなく、接していく。


「あらかじめ聞いていたとは思うが、今日の入学式はこんな感じの予定だ。質問はあるかな?」


「いえ、特に問題はありません。

それにしても、異世界人ですか…」


彼は入学式のプログラムが書かれた紙の『異世界人の入学』と書かれた項目見ながら呟く。


「信じられないか?」


「そうですね。俺にとってはあまりにも突拍子もない話で、実感が湧きませんね」


「そうだろうな。だが、彼等の能力を見れば、すぐに理解できるはずだ」


「そうですか」


彼はまだ納得の言っていないような顔で笑う。

当たり前だろう。突然異世界人が来ましたと言われて、信じるのは難しいだろう。疑いを持って当然だ。


「まぁ、そこらへんは少しづつ慣れていってくれ。

さて、そろそろ入学式が始まる。私もそちらに出なければいけない。君達は出番まで校内を見て回ってもらっても構わない」


私は立ち上がって扉の前まで歩く。


「それじゃあ改めて、ようこそ、我が魔術学園へ。歓迎するよ。焔木巻葉(ほむらぎまきば)くん」


私はそう言って入学式が行われる第一体育館に急ぐ。


魔術学園


佐江沼霧子が十歳の時に設立した学園。僅か十歳にして魔道を極めた存在として注目され、彼女にはナステリカ王国でさえも目をつけている。

そんな彼女が作った学園は壮絶な訓練と実力で登ってきた強者だけを教員として雇い入れる。


しかし、生徒達の入学試験のハードルは低く、ある程度勉強していれば簡単に入ることが可能だが、漠然とした将来への安泰を求めて来ているのならば面接で簡単に落とされる。

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