第三話 レッツキャラメイク① 武器の話
前回のあらすじ
主人公杞杏社は後輩水杓梢からゲームをもらい、一緒にプレイすることになり、梢の家の地下ににあるゲームスペースに並べられたベッドの上で、二人仲良くゲームの世界へ旅立ったのだった。
目を開けると、そこはなにもない真っ白な空間だった。こうも四方八方真っ白では足場があるのかすら怪しいな。
一応その場で体を動かして見ることにする。こういう時に便利なのがラジオ体操だ。はやる気持ちを深呼吸で抑えた後に全身の稼働箇所をくまなくチェックすることができる。なんて素晴らしい体操なのだろう。陸上競技も水泳もありとあらゆる競技の準備運動がこれ一つで終わらせてしまえるという便利さには感動する。
「あ、あの……。そこのプレイヤーさん! 準備体操はそのくらいにして、キャラメイクしませんか……?」
「ちょっと待ってくれ、まだラジオ体操第二が終わっていない」
「は、はい……」
いつの間にか目の前にゲームのナビゲーションキャラであろうキャラクターが出てきている。
想像上の天使が身にまとっているような白い衣装、長い金髪を一本の三つ編みにしている。昔ながらの丸眼鏡をかけている辺り、デザインコンセプトとしては「学級委員長」といった感じだろうか。オドオドしてる態度からもキャラデザイナーの好みがよく分かる。
いやしかし、ラジオ体操第二はラジオ体操第一に比べて運動量が多いから、これから冒険を始めようとする俺にはピッタリだな。職場向けに作られてるだけあって子どもなんかには少ししんどいだろうが、中学二年の夏にこのラジオ体操第二に出会ってからは俺はもうこのくらいの運動強度がなければ運動出来ない体になってしまったな。
「よし、終わり。で、なんだ?」
「なんだって……ですから、キャラメイクですよ。キャラメイク! 今の貴方は現実での体とほぼ同じ状態ですが、このキャラメイクでは身長などの体格や髪の長さ、色、その他全身のあらゆるパーツをいじることが 「このままでいや」 ……え? 」
「だから、このままでいいって」
「え、ですが折角のゲームのですよ? キャラメイクの多様さもこのゲームの売りなんですけど」
「だからこのままでいいってば。ほれ、眼鏡だって俺がいつも使ってるデザインだし文句ないよ」
いつの間にかそばに現れていた大きな鏡で自分の体を確認する。うむ、俺だ。まごうことなく、俺だ。
「で、ですが……」
「いや、眼鏡しかり全身のパーツしかり、ここまで忠実に表現できてるって十分すごいことだよ? 俺、毎回キャラメイクで自分と似たキャラ作ってたけど、ここまで似てるのは初めてだもん」
「ほ、本当ですか……? 」
「あぁ、本当だとも。ゲームを開始してからまだそんなに経ってないけど、ラジオ体操で確認した体の可動域も、現実世界の俺の再現度も一級品だってことは分かったさ。いいゲームだな」
「うぅ……ありがどうございばず……た、ただのラジオ体操ナルシストバカかと思ったら、いい人だったんですね」
誉めたら嬉し泣きされた。
それと同時にとんでもない毒を吐かれたけど。なんだよ「ラジオ体操ナルシストバカ」って、今まで一回くらいしか言われたことないぞ、その貶し方(一回目はラジオ体操第二に目覚めた中二の夏だった。そのときも学級委員長に言われたっけな)。
「あ、あのさ。キャラメイクの後はなんかないの?」
「ずび……あ、はいはい。このあとは適合武器の選別に入ります。本ゲームでは多種多様な武器を扱えることをコンセプトとしていますが、プレイヤーの皆様にはゲームを開始した時点でランダムに『適合武器ポイント』というものが付与されます。簡単に言うと、ゲームを開始した時点で自動的に『得意な武器』が設定されるわけです」
「ふむ、なるほど。大方『得意な武器』に当たる武器は扱い易かったり能力値が上がりやすくなってるってことか」
「理解が早くて助かります。武器の種類は、片手剣、双剣、大剣、槍、斧、メイス、ハンマー、鎌、鞭、弓、クロスボウ、拳銃、狙撃銃、大砲、投擲、盾、杖、魔導書、ナックル、楽器、の計20種類で、『適合武器ポイント』はこのうち上位五つに付与されます。最も得意な武器に『+50』、次が『+40』、以下『+30』『+20』『+10』となり、その他の武器はいわゆる『普通』ですね」
「ほぉ、多いな……さすがだ。で、その+50とかってのはなんだ?」
「お褒めいただき恐縮です。えっとですね、例えばボーナスポイントが付かない『普通』の武器を使用した時に得られる経験値を100だとすると、『+50』の武器では150となります。これが反映されるのは武器自体の熟練度を示す『武器レベル』だけなのですが、この『適合武器ポイント』の有無は後々の強さに大きく関わってくると思ってください」
「ふむ、なるほど。ありがとう」
「では、適合武器の選別を行います。目の前のパネルに手のひらを乗せてください」
音もなく目の前に半透明のパネルが現れる。
これに手を置いたら俺の適合武器が決まるのか。デカイ武器をブン回すのも、遠くから敵を狙うのも、魔法的な攻撃も、楽器なんて変わり種もどれも楽しみだ。
「よし、いくぞ!」
「……適合武器照合中……でました。適合武器を表示します」
《適合武器》
なし
「ん? 『なし』……?」
「えーと、あれ? おかしいな、表示がバグってるんですかね……。もう一度やってみましょうか」
「好事魔多し」、上手くいきそうなことにはだいたい邪魔があるもんだ。冒険の前に少し足踏みをすることだってよくあることさ。
さて、次こそは来いよ、俺の適合武器!
「……照合中照合中……。でます!」
《適合武器》
なし
「……」
「…………」
「えーと……」
「すみません! GMに問い合わせしてみます! 少々お待ちを!」
金髪三つ編み学級委員長が俺に背を向けて、耳に手を当てながらなにやら必死に話しかけている。
うーむ、「適合武器なし」ってのは少しグサッとくるな。お前には何も向いているものなんかないんだよ、とでも言われてる気になる。
「えっ、そんな処置でいいんですか?! 大丈夫ですか? 本当に? やっちゃいますよ? いいんですよね? 私知りませんからね!?」
あ、なんか話がまとまりつつあるっぽい。運営側がざっくりとした決断をしたようだ。
学級委員長が振り返る。苦虫を噛み潰しているんじゃないかというような表情だ。
「えっと、ですね? 一応貴方への処置が決定しました……」
「ほう、どんな処置かな? 」
「現状、貴方には適合武器がありません。それどころか、こちらの調査によると何の因果かはたまたバグか、貴方は武器という武器を装備することができない状態のようです」
……は? 武器が装備できない?
多種多様な武器を扱えることを売りにしたゲームで武器が使えないだと?
「あ、あの。お怒りの事とは思いますがそんなに私を睨まないでください……」
おっと、つい目に力が入ってしまったようだ。
深呼吸、深呼吸。
腕を前から上にあげて背伸びの運動!
「で、それに対しての処置があるんだよな?」
「は、はい。貴方には現在2つの選択肢があります」
「2つか」
「1つはゲームを本社に郵送して、代替品の到着を待ってから再度ログインする」
「あ、それは却下。今回は連れがいるんだ。できれば今回のうちにプレイを始めたい」
「……ですか。では選択肢その2。今から、本社のエンジニアをフルで導入して『素手』というカテゴリーのスキルを制作します。武器を使わない代わりに素手による攻撃を主としたスキル群で、単調な攻撃になる代わりに各種数値を他のスキルより強化する予定です。また『適合武器ポイント』を『素手』に『+150』します」
「おぉ……それって結構壊れ性能じゃないか? 」
「はい、正直に言って数値だけなら他のどの武器よりも強力です。しかし、他のプレイヤーが武器固有のスキルや武器による能力上昇の恩恵受け取れる代わりに、『素手』ではそれが得られません。貴方は自己強化系のスキルと攻撃用スキル、それから貴方自身のプレイヤースキルで戦ってもらいます」
「……」
「あ、やっぱりこんなバカみたいな処置はダメですよね! ? 私もう一回GMに問い合わせしてみます! 」
「……いよ」
「え? 」
「……それでいいよ。むしろそれがいい! 壊れ性能? どんと来いだよ! ゲーマー魂が疼くってもんじゃないか。乗ったぜその処置!! 」
「い、いいんですか?」
「おうとも!」
なんかVRゲームものラノベの主人公っぽいし、迷わず承諾してしまったな。
まぁ、なんとかなるだろう!
次回、キャラメイク②
初期能力値と初期装備のお話。
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