第二話 ゲームスタート
前回のあらすじ
主人公である杞杏社は、後輩である水杓梢から『Various Weapon』というゲームを受け取った。
そしてその晩、社は梢から「明日一緒にゲームをしましょう、朝8時に家に来てくださいね」と伝えられたのであった。
水杓家のお父様からゲームをいただき、一夜明けた今日、朝8時少し前に俺は水杓梢の家の前に来ている。
背中に背負ってるリュックにはVR用のヘッドセットとゲームのパッケージが入っていて、手には菓子折の入った紙袋、服装は下はジーパン、上は白いTシャツの上に黒いジャケットを羽織ってるという感じだ。ラフ過ぎずかつ堅苦しくもない見事に無難なコーディネートだろう。
さて、約束の時間は8時。通常待ち合わせでは5分だか10分前には集合場所に着いておくものだろうが、今回は人の家に直接、しかも朝イチでとなれば少し時間を過ぎてから訪ねるのがよかろう。実際はもう到着してるがドアベルを鳴らすのはもう少し後だな。
さぁて、見てろよ水杓梢。俺が先輩として完璧なお宅訪問の作法を見せてやろう!
「社せんぱーい、玄関前で拳を天に突き上げるのは止めてくださーい! ちょっと、いやかなり不審者っぽいです」
俺が自分の作戦の完璧さに感動しているところは、家の窓から頭を出してる水杓梢に完全に見られてしまっていた。
……おとなしくドアベルを鳴らす。
するとすぐに彼女が降りてきた。
彼女の服装は胸元に大きなハートマークの描かれたTシャツに淡いピンクのパーカー、そしてショートパンツというラフな姿だった。
「はいはい、おはようございます。社先輩」
「あぁ、おはよう。さて、先にご両親に昨日のお礼も合わせて挨拶したいんだけど、ご在宅かな」
「両親ならいませんよ? 今日の朝5時くらいから出てます」
「ほぉ、土曜日だってのに随分と早い出社だね」
「仕事ではないです。ちょっと月曜日まで旅行に行ってもらってまして」
「そうか、ならこれはお前に渡しておこう。菓子折だ」
「わっ、これはこれはご丁寧にどうもどうも。ささ、家のなかにどうぞお入りください」
会話自体はスムーズに進むのだが、この水杓梢女子は親のいない家に男性をさらっと上げようとしているぞ? 勧められた手前、家に上がらないわけにはいかないのだが、危機感が無さすぎるのではないか、と思う。
昨晩の水杓夫妻はおよそ旅行前夜とは思えない落ち着きぶりだったが、まさか昨日の夜から今日の早朝にかけての間で旅行を決めたとは考えにくいし、きっと昨夜の段階で荷造りは終わらせていたんだろう。そうに違いない。
「なぁ、梢後輩よ。なんでわざわざお前の家でゲームを始めるなんてことを言い出したんだ? 別にゲーム内で会うのでもよかったじゃないか」
「えっ、あーと。たまたまですね、VRゲーム用のベッドなるものが懸賞で当たりましてね。しかも二台も。と、いうわけで先輩にも是非そのベッドの効果を味わって頂こうかなーと思った……的な?」
「なんで最後疑問形なんだよ」
「ま、まぁなんだっていいじゃないですか。私の家にはVRゲームをするのに最適なフッカフカのベッドが二台あって、そして私たち二人でゲームをするだけですよ」
「ふむ、まぁそんなに良いベッドなら試してみたくはなるな」
人の気遣いはありがたく受け取っておくものだ。多少違和感を抱くとはいえ、後輩がここまでゲームをする環境を整えようとしてくれてるのだから乗らない手はない。
てか、さっきから歩いてるのにまだつかないのか? 広いなこの家。
「梢後輩、君はいったい何処に向かおうとしてるんだ? さっきからいくつか部屋を通りすぎてると思うんだが」
「あぁ、この家はお婆ちゃんが小さな旅館をやってたのを貰った家なので部屋数はやたらと多いんですよ。目的の部屋は地下にあります。もともとカラオケ設備が置いてある宴会場だったんですけど、その機械が壊れちゃって、今はそこにベッドを入れてVR専用部屋になってます」
「はぁ、旅館ね。通りで民家にしては大きいはずだ」
「はい、ではこの階段を降りてください。足元くらいから気をつけて」
「おぉ、なんか秘密基地みたいでわくわくするな」
地下に降りてみるとそこには広い空間が広がっており、その空間の真ん中にピンクと水色の大きなベッドが2つ横並びで置いてあった。
空調も完備されてるらしく、俺が来る前からエアコンの電源が入れられており、暑くもなく寒くもなくという快適な室温になっている。
奥の方にはもう一つ扉があり、そこはおそらくトイレになっているのだろう。空間内にはウォーターサーバーや電気ケトル、少しだが食器が入った棚もあり、この部屋だけで食事以外なら生活ができそうな設備になっていた。
「おぉ……」
「どうですどうです、すごいでしょ? これが私が普段使っているゲームスペースですよ。なかなかのものでしょう」
「あぁ、ゲーマーとしては羨ましいスペースだよ」
「でしょでしょ! ささ、先輩。早速ゲーム、始めちゃいましょ!」
水杓梢は俺を急かすように言ってから、ピンク色のベッドにダイブした。さながら天下の大泥棒がベッドの上の女性に飛びかかる時のような見事なダイブだ。
俺も彼女の後に続いて水色のベッドに移動する。
おぉ、確かにフッカフカだ。これなら長時間同じ体勢をとるVRゲームでも快適そうだな。
横を見ると水杓梢が横になった体勢のままヘッドセットを手にもって、散歩前の子犬のように「早く早く」とでも言いたげな視線でこっち見ていた。
リュックからヘッドセットと『Various Weapon』のゲームをを取り出し、ゲームができる状態にセットする。
「社先輩。なんだかドキドキしますね」
「あぁ、ワクワクするな梢後輩」
二人で並んでヘッドセットを装着する。
「さて、いくか」
「はい、いきましょう!」
「「ゲームスタート!」」
さて、いよいよ次回はゲームの世界でのお話になります。
次回はキャラメイクのお話になるはず!