第十八話 四者四様
前回のあらすじ
【西の荒れ地/ダンジョン】の奥でオークに囲まれたプレイヤー二人を見つけた社と梢。
アカシア、キリツと名乗るプレイヤーを救出した二人は、パーティーを組むことを提案されパーティーを組むことになった。
「さて、取り敢えずお互いのプレースタイルでも確認しときましょうか」
パーティーを組んでから約一週間後の土曜日、俺たち四人が合流してすぐにアカシアさんが切り出した。
「それならば、私から見てもらおうかな」
それを引き継ぐようにキリツさんが名乗りをあげる。
どうも、立案はアカシアさん、実際に行動するのはキリツさんという役割分担があるようだ。
「次にオークの四人組に出会ったときは、手を出さないでくれよ?」
「えぇ、分かりました。梢もいいよな?」
「はい! でも、キリツさんの武器って遠距離攻撃用ですよね? 基本的にオークは近接戦闘がメインですけど、大丈夫なんですか?」
「いい質問だ、梢君。確かに私の武器では君たちみたいに近距離でオークを殴ることはできない。……でもね、それはそれでやり方ってものがあるんだよ」
Encounter!
タイミングよく前方から四人組のオークが走ってきた。
四体とも片手剣を所持する【オークソルジャー】だ。
「まぁ、見ててくれたまえ」
キリツさんは俺たちに背を向けて立っている。
ちらりと見えた横顔は、獲物を前にした猛禽類のような雰囲気を感じさせるものだった、
「サンダーショット!」
オークに向けられたクロスボウから、強く青白い光を放つ矢が飛び出す。
少ししてから着弾。
被弾したオークは「ブギャ」という声あげながら痙攣し倒れた。
それを見た残りのオークが怯んだように足を止める。
「【サンダーショット】は、その名前から想像できるように、相手の体に電気を撃ち込む技だ。私の扱うクロスボウにはこのように【○○ショット】という名称のスキルが複数あり、相手との相性を見ながら使う技を変えていくのが主な戦闘方法となる。ちなみに魔法攻撃扱いだな」
キリツさんはそう言いながら、氷でできた矢や炎の矢をオークに撃ち込んでいく。
それらの的となったオークたちは、氷柱の中に閉じ込められたり、全身を火炎に包まれたりしていた。
先の攻撃で痙攣を続けるオークを見ても、とうやらクロスボウでの攻撃は状態異常を付与する効果があるようだ。
「さて、最後は大技で決めてやろう。くらえ、グレネードショット!」
最後に放たれたのは手榴弾のようなものが取り付けられた矢だった。確かに手榴弾などをクロスボウで敵陣に放り込むという戦法もあったらしいが、いくらなんでもオーバーじゃないか……?
その矢は最後に残ったオークに着弾すると閃光と轟音を響かせながら爆発を起こした。
爆発の影響はその一体だけに留まるわけもなく、近くで痙攣しながら倒れているオークや氷漬けになったオーク、丸焼きになっているオークにも及んだ。
後ろで見ている俺たちにも、ダメージこそ無いものの思わず身を屈めるほどの風圧が押し寄せてきた。
Enemy Clear!
「ちょっとキリツちゃん! やりすぎよ!」
「む、そうか?」
「そうよ! 見なさいよ、社ちゃんと梢ちゃんがビックリしてるじゃない!」
「そ、そうか……それはすまなかった。大丈夫か?」
「い、いえ私は大丈夫です」
「俺も」
「なら良かった。次はちゃんと一言言うようにするよ」
Encounter!
「……さて、次はアタシね」
さっきの爆発音につられたのか、オークの四人組が寄ってきた。
今度はすべて素手のままの【ノーマルオーク】のようだな。
「私の武器《楽器》は“場”を自分たちに有利な状況にするスキルが多いのよ。たとえば、こんな風に」
アカシアさんがアコーディオンの鍵盤を撫でるように触ると、オークの周囲を取り囲むように色とりどりの音符が現れた。
「これは【序曲:マインノーツ】というスキル。『マイン』は『私のもの』ではなく『機雷』。つまり、触れたら爆発する音符を相手の周りに設置するスキルね。ちなみに味方が触れた場合はHPが回復できるわ」
空中に浮かぶ音符がふよふよと一体のオークに近づき、触れた瞬間、鍵盤楽器のような音を出しながら爆発する。
一つ目の爆発でよろけたオークに次の音符がぶつかり追加でダメージを与える。これが三つ四つと続き、じわじわと、しかし確実にオークのHPを削り、しまいにはオークを霧散させた。
仲間を倒されたオークがアカシアさんに向かって突進を仕掛ける。キリツさんの攻撃でオークが怯んだのは、電撃に本能的な恐怖を感じたからなのだろう。
「無粋なオークさんにはこの曲かしらね」
アカシアさんが三拍子の曲を奏でながら、軽やかなステップとともにオークたちの間をすり抜けていく。
「【円舞曲:ジェントルブリーズ】。そよ風という意味を持つこのスキルは複数の敵の間をすり抜けるように移動するという技よ。まぁ、攻撃力は皆無なわけだけど……」
攻撃をかわされたオークは怒りに満ちた顔でアカシアさんの方に向き直る。つまり、俺たちに背を向けた状態であり、普通の戦闘ならちょうど俺たちが攻撃してるところだな。
「ねえ、みんな。アタシに力を貸してくれないかしら? キリツちゃんは分かってるわよね」
「あぁ、アレやるんだな」
「えーと、俺は構いませんけど」
「私も力を貸すのはいいですけど。……ど、どうすれば?」
「あなたたちは何も考えなくていいのよ。ただ、ちょっと力を抜いていてくれれば……」
アカシアさんがアコーディオンを構える。
「それじゃ、みんな……お願いね。【総奏:マリオネット】」
ベースとメロディーを同時に奏でるアコーディオンの特徴をはっきりと感じさせるような音楽が聞こえてくる。
「……え?」
その瞬間、俺の体が勝手に動き、目の前のオークの首を握り潰していた。
横を見ると、キリツさんと梢も一体ずつオークを倒したようだ。
Enemy Clear!
「このスキルは同じパーティーに属するプレイヤー全員で同時攻撃をするスキルなの。全自動で最大威力がでるスキルを強制的に使わせ、さらに威力も上昇する特別なスキルね」
「な、なるほど……」
「他にもいくつか味方プレイヤーの能力を底上げするスキルがあったりするんだけど、それはまた後で試させてもらうわね」
「わかりました」
武器《楽器》を扱うプレイヤーは、楽器の演奏者というよりはむしろ他のプレイヤーを有利に動かす指揮者の立場にあるのか。
さっきの技はちょっと気分が悪かったけど……。
Encounter!
「えーと、次は私ですかね」
「あぁ、頑張ってこいよ」
「もちろんです!」
現れたオークは四体とも【オークボクサー】。
揃ってシャドーボクシングのような動きをするのはちょっと滑稽。
「さてさて……【筋力増強】【走力強化】【破砕強化】【軌道拡張】。あとは……【獣化】」
梢が全身に色とりどりの光を纏い、【獣化】を発動した瞬間それらが黒色に変化する。
犬耳が前を向き、尻尾の毛が逆立ち、それ自体もピンと立つ。
「ねえ、社ちゃん。あそこにいるのは梢ちゃんよね?」
「えぇ、そうです」
「さっきとは随分様子が違うみたいだけど……」
「あれは梢のスキルで【獣化】というやつです。防御系のステータスをゼロにする代わりに、攻撃力をこれでもかと上げる。暴走状態みたいなものです」
「ふむ、てっきり梢君は社君の後ろに隠れてばかりのオドオドした子だと思ってたんだが。これはこれは……」
キリツさんからはそう見えていたのか。
そりゃ今の姿を見たらビックリするよな。
「グルルルゥゥゥ……」
「ブモ?」
「グルラッ!」
「ブグギャッ……」
動物同士のやり取りようだ。
梢が振るった斧の軌道は大振りで、知性のあるオークには簡単に避けられている。
しかし、梢のスキルのおかげか、斧に触れていないはずのオークの胴体が真っ二つに裂け、その後ろの壁面にも斬りつけたような跡がつく。
そのまま続けて一体を撫で斬り、残りの二体の間に跳躍したかと思うと、独楽のように回転しながらその二体を一気に薙いだ。
Enemy Clear!
……「頑張ってこい」とは言ったが頑張りすぎだ。
壁にデカイ傷までつけるなんてな。
普通のゲームじゃ壁とかは破壊不可能なものになってる事が多いのだが、このゲームじゃその気になれば壊せそうだ。覚えておこう。
「梢ちゃんすごいじゃない!」
「ああ、すごいな梢君!」
「わふっ!……あ、ありがとうございます」
梢がアカシアさんとキリツさんに囲まれていた。
二人と出会ってからは俺の後ろに隠れぎみだったり、少し距離をとっていたので、これをきっかけに仲良くなってくれればいいなと思う。
Encounter!
「最後は俺ですね」
「社君は武器を持っていないようだけど大丈夫なのか?」
「えぇ、素手が俺の武器ですから」
ちょっと格好つけすぎ?
まぁ、後輩含めパーティーメンバーにはいいとこみせたいじゃないですか。
迫り来るは【ノーマルオーク】が四体。
パパッと終わらせましょう。
「【クラッシュ】【クラッシュ】【クラッシュ】【ストライク】」
Enemy Clear!
飾り気のない攻撃だが、なかなかスマートな戦闘だったのではないだろうか。
狙った部位で言うと、首、首、首、頭ですね。
最後の一撃で返り血を目一杯浴びたが、自動洗浄機能のおかげでなんともない。
どうだ! 見事だろ!
「……」
「……」
「……」
後ろを向くと三人から目をそらされた。
「……えーと」
「あはは……」
「か、格好良かったですよ!」
思いっきり引かれていた。
攻撃の派手さは梢に劣るが、その分妙なリアルさがあったのだろうか。
かろうじて梢からフォローをいただけたものの、なんて虚しい勝利だろう。
「……アカシアさん、今後の友好の証として握手でもします?」
「えっと……遠慮しとくわ」
「キリツさん」
「わ、私も遠慮していいか……」
「……」
「や、社さん! 私と握手しましょ!」
「……うん、ありがとう」
心のなかで号泣しながら梢と握手。
あとの二人はそんな梢を讃えるように拍手をしていた。
……梢と仲良くなってさえくれれば、俺はそれでいいんです。
「泣きそう……」