第十四話 西の荒野でオークを討つ③
前回のあらすじ
武器を使用するオークとの戦いを乗り越えた社。
しかし、気を抜く間もなく、遠方からの射撃という新たなタイプの敵から攻撃を受けるのだった。
さあ、後輩の仇討ちだ。
狙撃地点であろう大岩まではおよそ300m。途中左右左と交互に3つ岩があって、いかにも「ここからオークが出てきますよ」と示しているようだ。
「On your marks、Set……」
クラウチングスタートの体勢をとる。
陸上部でもなんでもないんだけど、体育の授業でこれを執拗に使わせようとするあたり、この体勢で走る方が早いんだろ?
さぁ、オークアーチャー(仮称)よ! スタートピストルは任せるぜ。
止まったままの姿勢でいると、矢が飛んでくる気配がした。
「Go!」
地面を蹴り、顔を上げず、姿勢を低くしたまま走る。
頭頂の髪の毛の先端に何かが掠めた感覚がする。顔を上げてたらどうなってたか。「スタート直後に顔を上げるな」と散々指導してくださった先生には感謝だな。
「さて、1つ目」
Encounter!
頭の中にアナウンスが鳴ると同時に、左手側の岩から片手剣を持った【オークソルジャー】が出てきた。
無視。
俺はそのまま直進する。
「2つ目!」
Encounter!
次は右手側の岩から何も持っていない【ノーマルオーク】が現れた。
「腕力強化! リフト&キャリー!」
自己強化系のスキルを二重にかけながら、【ノーマルオーク】に向かう。
ちらっと後ろを見ると【オークソルジャー】がドスドスと俺を追いかけている。
しめしめ。
俺は右手で【ノーマルオーク】の喉元を掴み、そのまま左足を軸にして回れ右。【ノーマルオーク】を追いかけてくる【オークソルジャー】に投げつける。
そのまま前を向き、突撃を続行。後ろでドゴッという鈍い音が聴こえたので作戦は成功したっぽい。
「3つ目!」
Encounter!
次に飛び出してきたのは【オークボクサー】。
「お前とはさっき戦ったから手の内は分かってるんだよ! インファイト!」
ファイティングポーズをとられる前に相手の懐に潜り込む。
目の前に太い首が見えたので、両手を伸ばして、掴む。
「クラッシュ!」
ゴキュという音と共にオークの首が後ろに曲がる。
なんだっけ、こんな感じに首をあり得ないくらいに曲げるカットで有名なアニメ制作会社があった気がする。
Enemy Clear!
レベル上昇のアナウンスが後に続いたが、今のうちは無視する。
ここで止まると射抜かれかねん。
顔を上げると、高さ3メートル強ほどの岩の上から、弓でこちらを狙ってるオークが見えた。
他のオークより少し痩せているようで、「あんた最近太ってきたんじゃないの?」と奥さんから言われ始めたくらいの中年といった感じだろうか。
「うーむ、どうしたものか」
岩の下に来たのはいいものの、3メートルほどの高さを登る術がない。
スキル【インファイト】で跳べるのは精々1~2メートルが限界だし……。
まぁ、そうでなかったらゲームにおける遠距離武器の利点がなくなるわけなので、バランス的には申し分ないんだけど。
とりあえず【オークボクサー】が出てきた岩の陰に隠れて打開策を考えよう。
その間にレベルアップの精算も済ましちゃいますか。
えーと、プレイヤーレベルと武器レベル、あと【腕力強化Ⅰ】と【クラッシュ】のスキルレベルがそれぞれ1ずつ上昇してますね。
前回レベルアップが無かった分経験値が貯まってたんだろう。
と、そこまで処理を済ませた所で、オーク二匹がこちらに走ってくるのが見えた。
【オークソルジャー】と【ノーマルオーク】だ。
さっき無視したやつと投げ飛ばしたやつだな。
……。
これは使えるかも知れんぞ?
「おぉ、君たち。いいところに来たな」
「ブモ?」
オークたちは、岩陰に潜む俺のもとまで来てくれた。
さて、ちょっと手伝ってもらいましょう。
「さあ、危ないものは捨てましょうね」
【オークソルジャー】の手首を叩いて武器を落とさせる。
「腕力強化。あと、リフト&キャリー」
自己強化スキルを二重がけ。
そして、両手に一体ずつオークの腕を掴む。そして、俺は岩陰から飛び出した。
岩陰にいると相手の姿が見えないので、出た瞬間にやられないか少し不安だ。なるほど、オークたちはこんな気分で飛び出してきてたのか。【オークボクサー】には悪いことをしてしまったなぁ。
見上げるとオークアーチャー(この名前であってた)が、改めて俺に向かって弓矢を構えているところだった。
これならば動き続けている限りは当たるまい。
「さぁ! オークども、付き合ってもらうぞ!」
俺は両手にオークを持ちながら、【オークアーチャー】がいる岩のすぐ真下まで移動した。
「そーい!」
そして左手に持つオークを垂直に投げる。
「インファイト」
空中のオークの目の前に移動。
「さらに、そーい!」
右手の元【オークソルジャー】を同じように投げる。
「インファイト!」
同様に元【オークソルジャー】目掛けて転移。
「もういっちょ!インファイト!」
二回の【インファイト】により、【オークアーチャー】までの距離は1メートルもないくらいにまで縮まった。
つまり、これで直接【インファイト】が使えるわけだ。
「ブギ!?」
「よお」
【オークアーチャー】は目の前に現れた俺を見て驚いているようだ。心なしか腰が引けているようにも見える。
そりゃ怖いよなぁ。仲間二人をモノのように扱って自分の所に現れたわけで、オークから見りゃ俺の方がよっぽど化け物だもんな。
「さて、まぁ、俺の後輩を傷付けたバツだ。しっかり倒されてくれや」
射てないオークはただのオークだ。
俺は【オークアーチャー】の目の前でゆっくりと手を後ろに引く。
「……ストライク」
たどり着くのが大変だった分、あっけない終わりだった。
Enemy Clear!
「スキルレベル上昇【ストライク】8→9 ダメージ上昇:Str値の240%」
よし、【ストライク】も無事にレベルアップしましたね。
「……降りますか」
岩の上から下を見下ろす。
岩の下にはオークが二体、重なりあうようにして倒れている。
よし、あれをクッションにしよう。
「ジャーンプ!」
「ブグッ……」
足元から鈍いうめき声が聴こえたが、それもすぐに消えた。
Enemy Clear!
「レベル上昇 7→8 、SP+3、 ステータス上昇各+5 ボーナスポイント+3」
うん、二体まとめて霧散していきました。
こいつらにはお世話になったなぁ。
「おや、これはなんだ?」
霧散したオークに手を合わせていると、先ほどまで俺が乗っていた岩に洞窟のような穴が空いているのが見えた。
さっきの【オークアーチャー】はこの穴の奥にあるであろうスペースから出てきたのかな。
……これは覗いてみないわけにはいけませんな。
一応【東奥の暗黒林】の前例があるので、【西奥の~】みたいな名前だったらやめとこう。
今はとりあえず1歩入ってみるだけね?
【西の荒れ地/ダンジョン】
……どうやら【西の荒れ地】フィールドの続きみたいですね。
ダンジョンか。ボスとかいたら楽しそうだ。
「梢に連絡をとりたいな……あ、あった。パーティーチャット」
視界の端にあるメニューからそれっぽいのを呼び出す。
「おーい、梢。聞こえるか?」
「ムシャムシャ……は、はい? 社さんですか?」
「おう、そうだ。社さんだ」
「えーと、なんでしょう?」
「弓を射ってくるやつは倒したから、こっちこいよ。なんか続きのフィールドがあった」
「はーい! 行かせていただきます!」
がっつり薬草を食べてる最中でしてたね。
食事中に連絡するなんて申し訳ないことをしてしまったなぁ。
少しして、梢が合流。俺たちは次のフィールドに足を踏み入れるのだった。
社レベル8
装備
装備(頭部):深緑の眼鏡
Def+1
装備(胴):カッターシャツ(白)
Res+1
装備(上):スーツ/ジャケット(黒)
Def+1
装備(装飾):ネクタイ(紺)
Res+1
装備(装飾):錨マークのタイピン(金/紺)
Spe+1
装備(手):指貫グローブ(黒)
Str+1 Kep+1
装備(装飾): アルトラのブレスレット
ナビゲーションキャラクター アルトラと話せる。
装備(下):スーツ/スラックス(黒)
Def+1
装備(靴):革靴(黒)
Spe+2
ステータス()内は装備による加算。
Str:99(+1)
Kep:65 (+1)
Def:45(+3)
Mag:35
Res:45 (+2)
Spe:72(+3)
武器:素手 レベル15 Str/Kep +42
スキル:
【WA:ストライク】レベル9
武器《素手》の専用スキル。拳に力を込めて相手を撃ち抜け!
Str値の240%のダメージを与える。
【WA:クラッシュ】レベル9
武器《素手》の専用スキル。貴様の手で砕けぬものはない!
Str+Kep値の190%のダメージを、手で掴んでいるものに与える。
【WA:インファイト】
武器《素手》の専用スキル。防御?そんなものは棄てて相手の懐に潜り込め!
相手との距離を0にする。
【AS:腕力強化】レベル5
Str/Kep上昇+30%
【AS:リフト&キャリー】
自身の限界まで力を使いきったからこそ得られた技術。
人や物、モンスターなどを持ち上げ、運ぶ際に必要となるStr/Kep値を半分にできる。
【PS:不屈】
行動阻害系のスキル無効。Res上昇+5%
SP:48