第十三話 西の荒野でオークを討つ②
前回のあらすじ
フィールド【西の荒れ地】へ出た社と梢。
スライムとは違い、奇襲的に戦闘を仕掛けてくるオーク相手に余裕の勝利を見せる社だったが、彼はあることを見逃していた……。
オークを「戦い易い相手」と言ったが、あれは嘘だ。
よく考えたら俺って【ノーマルオーク】しか倒してなかったじゃないか。
【西の荒れ地】に出てくるオークの恐ろしい点は「武器をもっている」という点だというのに。
俺の“持病”。「武器に触れたら追加ダメージ」というのが想像以上にやっかいなのだ。
Encounter!
俺の目の前に現れたのは、両手に金属製のボクシンググローブのようなものを付けたオークだった。その名も【オークボクサー】。
メタボリックシンドロームを指摘されて毎朝のランニングを始めたばかりの中年男性というような体格だった。
目の前でシャドーボクシングなんかをしてるが、なかなか素早い動きだった。舐めちゃいかんな。
「ギギッ」
オークが奇妙な声を上げながらこちらに駆け出してくる。
ボクシング基本である拳を前に構えたポーズは、攻防の切り替えを素早く行える姿勢だと聞く。
うーむ、あのグローブに触れずに倒せと?
無理じゃない?
梢も別の相手と交戦中のようで援助は望めそうもないし、一人でやるしかないか。
「ブムモォォォ……!」
「うぉっ!?」
敵ながら見事なワンツーだ。
右ストレートが頬を掠める。
――◼◼◼
HPバーがじわりと削られる。
「っだら!」
【オークボクサー】の右腕が戻る前に身を屈めて、オークの出っ張った腹に拳を打ち込む。ぶよっとした腹部ではダメージが吸収されてるような手応えだ。スライムを彷彿とさせるな。
剣とか斧とかなら手応えとか確認するまでもなく“切れる”のでやり易そうではあるんだが、仕方ない。
「ブッ? ブヒィ?」
「おいおい? そんなもんか?」みたいな鳴き声をだすんじゃねぇ!
顔を上げようとすると上からオークの唸り声が聞こえてくる。
「ブラァ!」
俺の背中に、オークの両手が指を組んだ状態でハンマーのように振り下ろされた。
――◼◼◼◼◼
頭の中をかき混ぜるような爆音が響き、俺は一瞬意識が飛びそうになり、地面に倒れこんでしまう、
ダブルスレッジハンマーはプロレス技じゃないかよというツッコミを入れたところでどうせ応えてはくれまい。
まぁ、自然に倒れられただけで収穫はあるんだがな。
「ハッ! 捕まえたぜ」
「ブモッ!?」
倒れたままの姿勢でオークの足首を掴む。
“掴む”と言ったらあの技だ。
「クラッシュ!」
ゴリッという音を立て、オークの足首が砕ける。
さすがに立っていられないようで、オークは半ば崩れるようにしゃがみこむ。こっちに拳を向ける余裕はないみたいだ。
その隙に俺は立ち上がる。
「さて、これで終わりだな。スートーラーイーク!」
動けず、敵に拳も向けないオークなどただの的に過ぎない。
俺は大きく拳を後ろに引き、思いっきりオークの顔に拳を叩き込んだ。
Enemy Clear!
珍しくレベルアップ系のアナウンスがない。
まぁ、そういう時もあるだろう。
プレイヤーレベルが上がればHPが全回復してたんだが、今回はそれも見込めないな。
先の戦闘でHPが1/4ほどになってしまっていたんだが、仕方ない。草を食うか。
アイテム「薬草」を取り出す。見た目は生のほうれん草。
これを生のまま食えと?
「……ムシャムシャ」
「社さん? 何してるんですか?」
「草食ってる」
「……ですか」
戦闘が終わった梢が合流した。
二人で並んで薬草を食む。
モッシャモッシャ。
食感もほうれん草と似ているが、食べる量に対して回復量が少ないために結構苦労する。
このゲームではレベルアップによる回復がメインなのかな。
Encounter!
む、食事中に仕掛けてくるとは礼儀を知らんやつめ。
まだHP半分も回復してないのによ!
「どこだ! 出てきやがれ!」
辺りを見渡しても敵の姿が見えない。
また岩陰からの奇襲かと用心していると「キャッ!」という声が聞こえる。
横を見ると梢の腕に一本の矢が刺さっていた。
「どっちから来た?」
「あっちです!」
梢が指差した方向をみると、遠くに大きな岩が見えた。
が、遠すぎてモンスターなんか見えないぞ?
目を凝らしていると、二発目の矢が飛んできた。
「くっ……!」
「あ、ありがとうございます」
咄嗟に梢の腕を引き、そのまま倒れこむようにして矢を避ける。
見えない位置からの正確な狙撃。
さっきの【オークボクサー】もそうだったが、ここのモンスターはなかなか武器の扱いに長けている様だ。
「ちょっと行ってくるわ」
「わ、私も!」
「いいから、ここにいて」
ここに梢を置いていくのは、正直にいって足手まといになりかねないからだ。
梢の斧なら飛んでくる矢を弾いたりできるかもしれないが、斧を持った梢が素手の俺より機敏に動けるとは思えないし、そうでなくても後輩を盾に使うなんてのは嫌だからな。
「……じゃあ、頼みました」
「うむ、頼まれた」
俺の考えを察してくれたのかどうから知らないが、梢は俺についていくのを諦めたようだ。
さて、それじゃあ行きますか。