第十二話 西の荒野でオークを討つ①
前回のあらすじ
初めての敗北を経験した社と梢は、【始まりの町】の西にあるフィールドに赴くことを決めた。
初めての敗北を経験した次の日、俺と梢は昨日と同じようにゲームに入っていた。
俺たちが今いるのは【始まりの町】から西へ出た【西の荒れ地】。
【東の草原】とはガラリと雰囲気の変わった荒れ地で、小さな石で埋め尽くされた大地に所々大きな岩が顔を出している。地理の授業で見た“礫砂漠”そのものだ。
砂漠というと鳥取砂丘のような砂ばっかりのものを想像するが、確か砂砂漠は案外少いんだっけか。
「社さん、鳥取砂丘は砂漠じゃないです」
「え、そうなの?」
「はい、鳥取砂丘は“砂丘”、風によって運ばれた砂が堆積したものです。一方で砂漠は水分の蒸発量が降水量を上回った場所のことで、砂漠では植物はあまり生育しませんね。鳥取砂丘では植物生えますし」
「……よく知ってんなぁ」
さすがうちの後輩は博識だ。
この【西の荒れ地】の異様な日照りを考えると、どうやらここはちゃんとした砂漠のようだな。
ワンピース姿の梢は涼しげな顔をしているが、バッチリスーツできめてきた俺にとっては軽く死ねるような暑さだった。
HPバー減ってないよな?
「で、先輩。今日はお互いのプレイスタイルを確認するんですよね?」
「あぁ、ここにどんなモンスターが出るか分からないけどスライムじゃ手応え無さすぎるからな。最初はどんなモンスターが出るのか二人で確認しつつ、倒せそうなら技の確認に移ろう」
「はーい!」
と、その時。
Encounter!
頭の中に警告音が鳴った。
……目の前に梢しかいないはずだよな?
と、いうことは……
「社さん! 後ろ!」
だよなぁ!
どうする……? 一番分かりやすそうなのは振り向いて【ストライク】だけど、1.振り向いて、2.距離をつめて、3.狙いを定めて、4.殴るの四工程をやりきることができるのか?
せめてどこかの工程を減らせれば……あぁ、なんかとりあえず距離をとるようなスキルとか取っておけばよかった!
……? 待てよ、もしかしたらコレいけんじゃね?
「……インファイト?」
上手くいく確証もないまま呟いたスキルは、見事に俺の期待通りの働きをして見せた。
スライム戦でも確認したように、【インファイト】の移動はテレポートのような移動なのだ。
スキル名を口に出した次の瞬間には、俺はモンスターと体が接触するギリギリのところに転移した。ご丁寧にモンスターの方を向きなおって。
振り向く必要も、距離をつめる必要も、狙いを定める必要もない。俺はただ何も考えず、もう一つスキル名を口に出すだけでよかった。
「デリャァ! ストライクッ!」
何も考えなかったせいで変な叫び声が頭に付いたが、背後からプレイヤーを狙う狡猾なモンスターは吹っ飛ばされ、岩に激突して、霧散した。
……いやまぁ、背後からの不意打ちは俺もやってたんだけどね、スライム相手に。
Enemy Clear!
「武器レベル上昇《素手》13→14 Str/Kep+3、SP+2」
「ふぅ……危なかった」
「おぉ、お見事です!」
「ふん、俺にかかればこんなものよ」
梢がパチパチと拍手をしていたので、つられて調子に乗る。褒められて悪い気はしないわな。
先のモンスターは【ノーマルオーク】という名前だった。
わざわざノーマルと付くということは、後々【アブノーマルオーク】でも出てくるのだろうか。あるいは、【ノーマルオーク】が何も武器らしきものを持っていなかったことを考えると、武器を持ったやつでも出てくるのかな。
Encounter!
「お、また来たか」
「こっちにも来ました!」
どうやら、【東の草原】と違ってモンスターの方からプレイヤーを探しにくるようだ。
現れたのは、俺の前に【ノーマルオーク】、梢の前に【オークソルジャー】という名前の片手剣を持ったオークだった。
さっきの不意打ちしてきたオークはよく見えなかったが、今回のオークを見る限り身長は180~190cmくらいだな。ビール大好きな中年おやじみたいなお腹をしてる。顔は豚と人間の中間で、「アハ体験の途中」といえば伝わるだろうか。服装は腰布一枚という姿で、あまり清潔そうにも見えない相手なので、できれば触りたくない。
梢も心なしか嫌そうな顔をしている。
今回は背後からではなく正面の岩陰からだったが、待ち伏せされてる感じがしてイラッとくるな。
「じゃ、そっちは任せた」
「任せられました」
さて、さっきは【インファイト】と【ストライク】で仕留めたので、今度は【クラッシュ】でも使いましょうかね。あとレベル上げのために【腕力強化】も。
技名は叫んだ方がスカッとするけど、こういう強化系のスキルは叫ぶとカッコ悪くなるんだよなぁ。と、いうことで念じるだけで発動。
【腕力強化】発動中は両腕が赤い光をまとうようなエフェクトが出る。
「さて、と。かかってこいやー」
倒し方はもう決まっているので、落ち着いて挑発するように言葉を投げ掛けてみる。
オークは俺の前まで走ってきて、大きく腕を振り上げる。
俺はその隙をつくようにオークの顔に手を伸ばして...
「喰らえ。クラッシュ」
技名と共にオークの顔を掴んだ。
金色に輝く五本の指がオークの顔に食い込み、その顔面をトマトのごとく握りつぶした。
返り血は人間のものよりも黒く濁った赤色。なんかドロドロしてる。
食生活とか悪そうだもんなぁ。
Enemy Clear!
「スキルレベル上昇【クラッシュ】7→8 ダメージ上昇:Str+Kep値の185% 、スキルレベル上昇【腕力強化Ⅰ】3→4、効果上昇:Str/Kep上昇+25%」
戦闘終了のメッセージとともに、俺にかかってた返り血は綺麗さっぱり消えていた。地味だけど非常にありがたいシステムだ。
チラリと梢の方を見る。
さっきまでは武器を持っていたはずのオークが武器をもっていない。と、いうより腕ごと切り落とされてるようだ。
腕を切り落とされたオークが最後の特攻と言わんばかりに梢に体当たりをしようと駆け出した。
しかし、オークの体当たりは梢にひらりと避けられる。
倒れるオーク。
そしてその上に梢が斧を振り下ろす。
オーク霧散。
梢の鮮やかな勝利だった。
よく見ると梢の脚や斧に青や赤の光がまとわりついているので、きっと自分を強化するようなスキルを使ってたんだろう。
「ブラボー」
「いえーい!」
「鮮やかな勝利だったな」
「先輩こそ」
オークの顔を握りつぶしたやつとオークを斧で真っ二つにしたやつの会話である。
おそらくスライムよりは強いのだろうが、俺らにとっては体が大きい分、スライムより攻撃が当てやすい相手なのだ。
つまり、戦い易い相手。
「よーし、この調子で狩るぞー!」
「おー!」
とりあえずデスペナルティで下がったレベルを取り戻すことを目標にしようか。
社レベル6
装備
装備(頭部):深緑の眼鏡
Def+1
装備(胴):カッターシャツ(白)
Res+1
装備(上):スーツ/ジャケット(黒)
Def+1
装備(装飾):ネクタイ(紺)
Res+1
装備(装飾):錨マークのタイピン(金/紺)
Spe+1
装備(手):指貫グローブ(黒)
Str+1 Kep+1
装備(装飾): アルトラのブレスレット
ナビゲーションキャラクター アルトラと話せる。
装備(下):スーツ/スラックス(黒)
Def+1
装備(靴):革靴(黒)
Spe+2
ステータス()内は装備による加算。
Str:90(+1)
Kep:60(+1)
Def:35(+3)
Mag:25
Res:35(+2)
Spe:55(+3)
武器:素手 レベル14 Str/Kep +39
スキル:
【WA:ストライク】レベル8
武器《素手》の専用スキル。拳に力を込めて相手を撃ち抜け!
Str値の235%のダメージを与える。
【WA:クラッシュ】レベル8
武器《素手》の専用スキル。貴様の手で砕けぬものはない!
Str+Kep値の185%のダメージを、手で掴んでいるものに与える。
【WA:インファイト】
武器《素手》の専用スキル。防御?そんなものは棄てて相手の懐に潜り込め!
相手との距離を0にする。
【AS:腕力強化Ⅰ】レベル4
Str/Kep上昇+25%
【PS:不屈】
行動阻害系のスキル無効。Res上昇+5%
【AS:リフト&キャリー】
自身の限界まで力を使いきったからこそ得られた技術。
人や物、モンスターなどを持ち上げ、運ぶ際に必要となるStr/Kep値を半分にできる。
SP:40