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第一話 ゲームゲット

第一話ではまだゲームを始めません。

主人公とヒロイン(仮)の紹介を兼ねた導入です。

 放課後、生徒のほとんどが部活動へ向かい、教室に残っているのは日直である俺と教室の端でイチャイチャしているカップルだけになった。

 俺が所属する私立火耳(かじ)高校では生徒は原則全員部活動に参加するように言われている。そのため放課後に教室に残る生徒は少なく、ほぼすべての生徒が部室やグランドに直行するのだ。

 かく言う俺も日直の仕事である日誌制作と教室の施錠を終えれば、所属する「ゲーム研究同好会」(3年生の引退により部活から同好会へ降格となった)の同好会室(として使ってる教材倉庫)へ向かうのだが。


「ねぇ、マーくん一緒に帰ろうよー」

「こらこら、部活があるだろ? ……部活終わったら、な」

「えー、サボっちゃえばいいじゃーん」

「そういう訳にはいかないだろ。まったくミーちゃんは甘えん坊さんだな」


 ……カップルがイチャついてるせいで施錠できないんだよなぁ。

 かといって「出ていってくれませんか」なんて下手に出るのも嫌だし。

 と、言うわけで俺は「黙って視線を送りプレッシャーを与える」という作戦をとることにした。

 さぁ、どうだ。ほとんど接点のないやつから無言で眺められる恐怖を思いしるがいい!

 ジー……


「ねぇ、マーくん。あの人ちょっとヤバくない?」

「……逃げるぞ、あいつは視線だけで他校のヤンキーをぶっ倒したって噂があるくらいの奴なんだ。これ以上刺激したらまずい」

「え、そ、そんな人なの?」


 ……無事にカップルは教室を出ていった。

 え、なに? 俺ってそんな噂立ってるの? 確かに「目が怖い」とは言われるけど、それはこの眼鏡のおかげでなんとかなってると思い込んでいたんだが……。

 的確に人の心を傷つけるとは、かくも恐ろしいものか、カップルとやらは。


「あいつらは大切なものを傷つけて行きました、俺の心です。なんてな」

「なんですか、先輩。大泥棒を取り逃した国際警察ごっこですか?」


 教室に一人きりだと油断して放った独り言は、突如現れた少女にしっかりと受け止められた。思ってもないタイミングで言葉のキャッチボールが成立してしまったではないか。さながら大暴投もミットに収める凄腕キャッチャーのようだな。


「よし、お前には『天才キャッチャー』の称号をあげよう」

「え、キャッチャー? ま、まさか先輩! それは私が先輩の女房役に相応しいという暗喩ですか!」

「いや、違う。断じて」

「そんなに強く否定しなくてもいいじゃないですかぁ……」 


 目の前で落ち込んでいるハイテンション曲解少女は水杓梢(みしゃくこずえ)。我がゲーム研究同好会の唯一の一年部員にして、俺杞杏社(ききょうやしろ)の唯一の部活仲間である。

 基本的にやかましいが、その分感情豊かに振る舞うので一緒にいるとなかなか愉快な奴だ。

 親バカならぬ先輩バカの視点から言うと、少し茶色がかったサラサラな髪をショートヘアにした、八重歯がチャームポイントの美少女といった感じだな。

 一方の俺は、同じ短い髪とはいえど彼女とは比べるのもおこがましいような硬めの黒い髪で、気がついたら寝癖のように髪がピョコンと跳ねる始末だ。チャームポイントは周囲から「怖い」と評判の目と、それを和らげるようにと着けている深緑色の眼鏡だろう。これを外すと視力が悪いが故に、目を細めて相手を睨むことになる。


「で、梢後輩は二年の教室まで何しに来たんだ?」

「あ、えっとですね、社先輩を探しに来たのですよ。今日の同好会のことで相談があって」

「相談? どうした。今日は同好会休むのか?」

「いや、そうではなくてですね。できれば今日の同好会は私の家でやれないかなぁと」

「ん、いつもの部屋じゃダメなのか?」

「えっとですね、父がついこの前会社の飲み会のビンゴゲームでゲームを当ててきまして。しかも2つ。私の手にも余るので一つ先輩に差し上げましょうかと思って」

「そりゃくれるならありがたいが、俺でいいのか?」

「ええ、他にあげる人とかいないですし。クラスに友達はいますけどゲームやってる子っていなくて」

「ふむ、それなら遠慮なくいただこう。して、ジャンルは?」

「VRMMOです」

「タイトルは?」

「1ヶ月くらい前に発売されたゲームで、『Various Weapon 』ってやつなんですけど」

「おぉ、『VW』か! 予告動画とか見てて面白そうだと思ってたところなんだよ」

「先輩好きそうですもんね、VRゲーム」

「あぁ、好きだな」


「VRMMO」とは「virtual reality massively multiplayer online」の略称で、「仮想現実世界における多人数同時参加型オンラインゲーム」ってところだ。

 今話題に上がった「Various Weapon」はそのVRMMOの最前線を駆ける企業が手掛けたゲームで、その名前の通り、様々な種類の武器を扱うことができるという点を売りにしたゲームであり、それに伴う豊富なスキルや、戦闘以外での他プレイヤーとの交流や自身のキャラクターを着飾ったりできるという点もあいまって老若男女広くから結構な人気を得ているらしい。

 俺は金銭的な事情により手に入れることができなかったので、今回の話は渡りに船である。


「えっと、どうでしょう? この後時間があれば家でゲームを渡せますけど」

「あぁ、俺は特に用事とかないし、梢後輩がよかったら今から行かせてもらうよ」

「本当ですか! じゃ、じゃあ今から行きましょう! ついでに我が家で晩御飯も食べて行ってくださいよ、先輩一人暮らしでしょ?」

「え、いいのか? ご飯までいただいちゃって」

「いいんです!」


 そうして俺は水杓家にお邪魔することになった。

 彼女の家はなかなか大きく、騒がしいながらも失礼に感じない彼女の品格みたいなものの源流を感じさせるものだった。

 その後、彼女の父親からゲームを受け取り(なぜか「君が社君だね。娘をよろしく頼むよ」という言葉を添えられたが)、彼女の母親の手料理を振る舞われた(なぜか梢後輩が「その味噌汁は私が作ったんですよ!」と念を押してきた)。

 そして、それから水杓家三人衆による謎の質問攻めがあった後、梢後輩から「今夜は泊まっていきますよね?」という言葉をいただいたところで、半ば逃げるような形になりながらも帰路につくことにした。


 ―――

 

 その夜、そろそろ寝ようかというところで梢後輩から電話が来た。


「社先輩、まだ起きてますか?」

「あぁ、起きてるぞ? もうそろそろ寝ようと思ってたところだけど」

「あ、よかった。あのですね、まだゲームってやってませんよね?」

「うん、さすがにもう遅いしね。明日は土曜で学校休みだし、朝からやろうと思ってる」

「そこで先輩に一つ頼みたいことがあるのですが!」

「な、なんだ耳元で大声を出さないでくれよ」

「わわっ、すみません……」

「まぁ、いいけどさ。で、なんだよ頼みたいことって」

「えっと、今日渡したゲームなんですけど、明日もしよかったら私と一緒にやってくれないかなぁ、と思いまして」

「ん? あぁ、いいよ。ゲーム貰った恩もあるし、ソロプレイも寂しいもんな」

「やった! じゃ、じゃあ明日朝8時くらいに家に来てくださいね! あ、VR用のヘッドセットとソフトは持ってきてくださいね。ベッドはこっちで用意してあるので! ではでは、おやすみなさいです! また明日!!」

「あ、ちょっ、待った……」


 一方的に電話を切られてしまった。

 え、「一緒にやる」ってそういうこと?

 てっきり、ゲーム内で合いましょう的な話だと思って返事しちゃったんだけど。まさかゲームをプレイする前から一緒かよ。

 心のなかで予想外の展開にため息をつきながら、その日は眠りに落ちたのだった。

なかなか大胆な子なんですよ、水杓梢ちゃんは。

ただ、杞杏社は「いろいろオーバーな子だな」としか思ってません。

ベタですが鈍感主人公です。


次回ではゲームが始められればいいなぁ。

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