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秘書課のあの子の大好きなお兄ちゃんはあの人でした。

第66話です。

 上空へ射出した弾丸を一斉に消去。

 そのままにしておいたら、流れ弾で負傷者続出なんてことになってしまう。


 さて、ここからどうケリをつければいいのか?

 本物の領主はどこだ?

 日の出にさかのぼって領主の位置を検索した。

 そのとき領主は軍勢の後部にあった。

 そこから早送りで位置をトレースしていくと、今は――


 まあ、確かに安全といえば安全かもしれないけど……。

 頭の中に展開した地図上、領主を示す光点は戦車の上にピタリと重なった。


――ちょっと、あんた。


 管制(コントロール)が長屋のおかみさんみたいにおれを呼んだ。

 さては、緊急支援効果一番の認可がおりたか、と思ったが、そういうことではないらしい。


――あんた、大変だよ。今日は朝から緊急役員会議になっちゃったんだから。それで、たった今終わったところ。

「役員会議? おれのせいで?」


――それもあるけど、キッカケはポーちゃん。

「秘書課のポーリーヌちゃん、おれのヨメ?」

「は? 師匠、何言ってんですか? そのポーリーヌって女は誰? ヨメって何ですか? あたしのことはアソビだったんですか?」


――うーん、そのヨメちゃんなんだけどね、捕まったよ。背任罪で。

「背任罪? どういうことだ?」

「ちょ、ちょっと、師匠、変ですよ。誰としゃべってんですか?」


――ポーリーヌとね、技術部のオペレーターが共犯で逮捕された。オペレーターの方は彼女にそそのかされて手伝っただけらしいんだけど。ウチのシステムにハッキングしてって言えばわかるわよね?

「えっ? わからない。つまり、そのオペレーターはポーちゃんといいことできたってこと? 何だよ、そいつ。ぶっ殺してやる」

「師匠、変です。何言ってんですか? しっかりしてください」


――バカ、そんなことどうでもいいじゃない。ハッキングって言えば、あんたんとこの世界に決まってんでしょ。ノッポの薬屋のこと、忘れたの?

「忘れるわけないだろ。忘れるどころか、つい今まで殺されそうになっていたんだから。でも、何で薬屋と秘書課のポーちゃんがつながるんだよ?」

「いや、まだ周りは全部敵ですから。まだ殺されそうなんですけど。しっかりしてください、師匠」


――ポーちゃんはね、大好きなお兄ちゃんの復讐を助けたかったんだってさ。

「大好きなお兄ちゃん?」

「師匠、お兄ちゃんが好きだったんですか? でも、お兄ちゃんはここにはいないから。ここにいるのは、ヨーゼフ、あなたとあたしエラだけですから。はい、しっかりしましょうねえ。こっち見てください。どこ見てんですか? ほら、そんなとこ誰もいないから!」


――ポーちゃんのお兄ちゃんはとある世界で管理人をしていたんだけど、会社の不手際の責任を全部押し付けられて不当に解雇されたんだってさ。だから、会社に恨みを持っていて復讐しようとしているらしいわ。

「そりゃ不当にクビになったんなら恨みもするよなあ」

「師匠は個人事業主ですからクビにはなりません。安心してくださーい。ダイジョーブですよー」


――ホント、鈍いわね。不当に解雇っていったらキンメリヤ大陸沈没の責任を取らされた、あんたのとこの初代管理人に決まってるでしょ。

「へー、ポーちゃんはおれの先輩の妹だったのか。先に言ってくれれば、技術部のやつなんかに変なことさせなくても……」

「うわあ、どんどん人が増えてますよ。そんな人たちここにはいませんから。ここには師匠とあたしとその他大勢の敵兵だけですから!」


――バカ! アホー! まだわかんないの? ノッポの薬屋がポーちゃんの大好きなお兄ちゃんなのよ!

「ええー、あのノッポの薬屋がお兄ちゃん!」

「違いますよ、師匠。あんなおジイさんがお兄さんのはずがないでしょ。百歩譲ってお父さんってことはあるかもしれませんけど、お兄さんはありえません。しっかりしてください。正気に戻ってくださいよぅ」


――まあ、動機がはっきりしたんで、オーナー様の詐欺じゃないかって疑いは晴れたわ。こっちじゃ、先走って変なことしなくてよかったって胸を撫で下ろしているところ。そうなっていたら、名誉棄損で訴えられて莫大な賠償金を払わされていたでしょうからね。今回のハッキングの件でも、オーナー様には謝りに行かなきゃいけないようだけど、名誉棄損で訴えられることに比べたら、どうってことない話だもの。

「どうってことあるよ。これでもう、おれとポーちゃんの結婚はありえないわけじゃん。悲しいなあ。おれにはもう受付のマインちゃんしかいない」

「はあ、ポーちゃんは師匠のヨメじゃなかったんですか? それは安心しました。でも、そのマインちゃんてのは誰? また一人知らない人が増えてるんですけど。誰と話してるんですよ?」


――あ、そうか。知らないか。ごめんね、教えるの忘れてたわ。マインちゃんなんだけどさ。副社長と婚約を発表されまして、先日めでたく退社なさいました。今度会うときは副社長夫人なんだから、気安く声かけちゃダメよー。

「もうヤダ、死にたい」

「ふぇ~、何言ってんですよ、師匠」

「すっかりヤル気なくした」

「えー、五千の敵のど真ん中でヤル気なくしちゃダメですよ。カンベンしてくださいよ」


――そう、そう、それであんた今、そこで現地の王様と戦争をやらかしてんじゃない。それも問題になってさ。でも、まあ、オーナー様は面白がっているみたいだし、悪いのは最初の管理人ということでね、お咎めなしだから。良かったね。それに、あんたが発注したんじゃない物の費用は会社が持つことになったから。

「じゃあ、この新しい基体(ボディ)も」


――それはダメよ。あんたが自分で毒キノコ食べたせいじゃない。

「毒キノコとわかって食ったわけじゃないんだぜ」

「え、あのときの毒がまた回ってきたんですか? どういう身体してるんです?」


――一応、上からの指示を伝えておくわね。そこの問題をとっとと片付けて、ダーケンのオーパーツを聖遺物の認定を受ける前に回収、もしくは破壊しろって。それから、ノッポの薬屋も捕まえろってさ。こっちにある本体は警察が押さえたんだけど、意識の方はそっちに逃げちゃったままだから。生死の別は問わないって。

「簡単に言ってくれるなあ。追加支援効果の方はどうなった?」


――いろいろあったから、それは後回しになってんの。

「おい、急いでくれよ。こっちは真っ最中なんだからさ。今だって五千からの兵隊に取り囲まれてるんだ」


――わかってるわよ。さっきからあんたのハーフエルフが大騒ぎしてるもの。じゃあね。


 管制(コントロール)との通信が終わった。


 右側から激しい衝撃を受けた。

 兵士たちが吹き飛んでいた。

 戦車の砲口から硝煙が風にたなびいていた。

 戦いはまだ終わっていないのだ。

 おれは慌てて馬の腹を蹴った。

管理人 VS 領主軍 PART5 ですが、えへへ、作者はまとめにかかってますよ。

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