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美少女のオツムは低スペックらしいです。

第5話になります。

 おれは目の前にいるハーフエルフの娘をまじまじと見た。


 エルフの血は彼女に尖った耳を与え、人間の血は彼女の髪を闇夜のように黒く染めていた。

 目を見張るほどの、ということはないが、美少女には違いない。

 ただ――

 美少女には違いないが……ホコリっぽい。


 汚れているとか、きたないとかいうんじゃない。

 ずっと物置にしまっておいた道具のような、そんなホコリっぽさ。


 風呂に入れればキレイになるんだろうが、どうしてそんなにホコリっぽいのだろう?

 まあ、いい。おれには関係のないことだ。


 おれは一口も食わないまま空になってしまった皿とジョッキを眺めた。

 それから娘を見ると、娘はニコッと笑った。

 わからない。

 どういう意味の笑いなのか、おれにはわからない。


 おれはもう五ギル払って、新しい塩漬け肉とパンとエールを頼んだ。

 注文を聞いていた店主は、おれとハーフエルフの娘を交互に見てニヤニヤしていた。

 何を想像しているのか、口元のゆるみ具合で何となく察しがついた。


「あたしはもう食べられませんよ」

 ハーフエルフの娘は何か大事なことのように小声で言った。


「どうして自分の分だと思うんだ?」

「違うんですか?」


「質問に質問で返すなよ」

「だって……」


「だって何だ?」

「だって、師匠はやさしいじゃないですか」


 やさしい?

 勝手に人の注文した物を喰っておいて、「やさしいから」と言えば許されると?

 こいつはそう考えているのか?

 どういう育ちをしたんだ?

 少なくとも、おれが赴任してから三百年、この地でそういう文化が形成されたという話は聞いたことがない。


「たしかにおれはおまえを助けたよ。でも、それはたまたまおれの虫の居所が悪かったからだ。他のときだったら助けなかったかもしれない。いや、きっと助けなかったな」


「はあ、あたしがスゴくかわいかったので助けた、と」


「ん? もう一回言うから、よく聞いてね。おれはおまえを助けたけど、それは偶然、おれがオークという種族にちょっと腹を立てていたからなんだ。まあ、オークに対しておれが怒ってもしかたがないようなことがあったと思えよ。な、だから、そういうときだから、おまえを襲おうとしていたオークをブン殴ったんで、べつにおまえを助けてやろうと思ったわけじゃない。いいか?」


 娘は小首をかしげて聞いていたが、おれが話し終わると目をキラキラ輝かせて、テーブルの上へ身を乗り出した。


「ひとことで言うと、かわいいあたしのために――的な?」

「ちがーう!」


「そりゃーね、ちょっとした見解の相違みたいなものはあるかもしれませんよ。でも、大筋じゃ同じことですよね? だって、あたしは助かったんだから。ね?」

「いや、違うって」

「もー、師匠ったら完璧主義者なんだからー」


「師匠って呼ぶな」

「じゃあ、先生?」

「いや、そういうことじゃない。おまえ、おれの弟子になること前提で話しているだろ?」

「はい」娘は大きくうなずいた。「だって、犯すんでしょ?」


 おれは辺りを見回した。誰かに聞かれていたら、町の警護兵に通報されかねない。


「犯さないよ。そんなことするわけがないだろう」

「でも、さっきは路地ではっきり言いましたよ。犯すぞって」

「いいか、あれは言葉の綾ってもんでな。本気で言ったわけじゃないんだ」

「はあ、なるほど」


 娘は眉間にしわを寄せて考え込んだ。

 おい、どうした? おれは何か難しいことを言ったか?

 どうやらこいつのオツムの方には、エルフの理知的な血は一滴も回らなかったらしい。


「犯すというのはホントのことじゃないと?」

「そう」

「では、あたしは犯されなくても弟子になれるわけですか?」

「いや、それは違うから」

「はあ、やはり『弟子になるの』と『犯されるの』はバーターで――」


「どうしてそうなる? 犯すとか犯さないとかとは別に、おれはおまえを弟子にはしないって言ってんだ」

「えー、弟子にしてもしなくても犯すってことですか!」


 おれは頭を抱えた。

 こんなことなら助けるんじゃなかった。


 いつまでも同じ地点にとどまっているおれに、そろそろ管制(コントロール)が怒り始める頃合いだ。

 早いとこ、こいつを振り切って、オーパーツ確認の任務に赴かねばならない。さもないとブチ切れられる。


「整理するぞ。おれはおまえを何があろうと絶対に犯さない。そして、同様におまえを何があろうと絶対に弟子にしない」


「そこを何とかしましょうよ、師匠。第一もったいないですよ。あたしを弟子にすれば、毎晩犯し放題なんですよ、グフフ」


「おまえ、弟子になりたいのか、犯されたいのか、どっちなんだよ?」

「弟子になりたいに決まってんじゃないですか。だれが好きでもない男とあんなことや、こんなこと――うううっ、この変態!」


 パコーン!

 娘の投げつけた空のジョッキがおれの頭を直撃した。

 娘は顔を真っ赤にして、おれを睨みつけていた。

 いったいどんな妄想がその低スペックのオツムの中では展開されていたものやら、おれは想像してみる気さえ起きなかった。

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