表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/69

傭兵団を撃退します。

第34話です。

 西の空がだんだんに赤から紫、紫から青へと変わっていく。

 薄暮が世界を包んだ。

 舞台は整った。

 あとはきっかけを待つだけ。


 おれは管制(コントロール)を呼び出した。


――いよいよね?

「ああ、用意してくれ」


 今日という日の光が、最後の光芒を放って山の向こうへ完全に姿を消した。

 残照が西の空の群青をにじませていた。


 馬がいなないた。

 傭兵団長が前へ出て剣を抜き放った。


管制(コントロール)!」

 おれは思わず叫んでいた。


 雷鳴が三度とどろき、暗い空から群青に染まった地上へ三本の稲妻が疾った。


 そのまぶしさに一瞬何も見えなくなったが、視力を取り戻したおれは(いかづち)の落ちた跡に、元の形のまま立っている炭化した傭兵団長とその馬を見つけた。


 おれの位置からは直接見えないがあと二ヶ所で、傭兵団の幹部クラスが黒焦げになっているはずだ。


 おれの横で修道院長は茫然としていた。

 おれは彼女の腕をつついた。


「何か言ってください」


 我に返った院長は鐘楼の縁に進み出て叫んだ。

「見よ! これぞ神の奇跡なり!」


 その声をきっかけに、今まで凍りついたようになっていた傭兵たちがいっせいに逃げ出した。


 人イヌの先祖は群れで生きる動物だったから、リーダーを失うとたちまちパニックに襲われるのだ。

 ジャガイモ畑の中に修道院から伸びる一本道を、人イヌたちが武器を放り出し、イヌの本性まる出しで四本足に戻って駆けていくのが見えた。


「神は偉大でございますねえ」


 院長が黒焦げの傭兵団長を見ながら嘆息した。


 おれは少し調子に乗っていた。

 この世界で管理人に逆らうなどありえない。

 身の程知らずの人イヌどもめ、思い知ったか!

 わはははは――


「きゃあああ!」


 ――と、おれの高揚感に水を差すように、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。

 おれと院長は顔を見交わし、先を争うように階段を駆け下りた。


 エラは修道女たちと礼拝堂にいるはずだった。

 おれが礼拝堂に飛び込んだとき、部屋の隅にはそこにしか空気がないかのように、修道女たちが固まっていた。

 その前でハーフエルフの娘は尻餅をついていた。

 エラの顔は驚愕と恐怖でひきつっていた。

 その原因は――


 どうしてここに人イヌがいるんだ?


 その傭兵は半月刀を振り上げてエラに迫っていた。

 鼻が焼け爛れている。

 おれがジャガイモ畑で鼻先を燃やしたやつだった。

 イヌにとっては命に等しい鼻を焼かれ、群れのリーダーもなくして、自暴自棄になったらしい。

 生かして連れ帰らなければ何の意味もない〈生ける調味料リヴィングシーズニング〉娘に斬りかかろうとしているのだった。


 おれはとっさに手近にあった物を投げつけた。

 そいつはクルクルと回転しつつ、まっすぐな軌跡を描いて飛んで行った――大音声で聖歌を歌いながら。


 グワシャ!


 石板は見事、人イヌの頭にヒットした。

 人イヌは衝撃で壁まで吹っ飛び、そのままそこに崩れて動かなくなった。

 石板もバラバラに砕け散っていた。

 うるさい聖歌はもう聞こえなかった。


 エラが祭壇のところにいるおれに気づいて、倒れている人イヌを指差した。


「見ましたか、師匠? 石板が飛んで来てこいつの頭にブチ当たったんですよ!」


 見たも何も、おれが投げたんだけど。


「これって奇跡ってやつじゃないですか? いや、絶対そうですよ!」

「どこが?」


「だって、か弱い乙女の危機を、石板が自ら飛んで救ったんですよ!」

「自ら飛んだ?」


「そうですよ! 師匠、見てなかったんですか!」


 見てなかったのはテメエだろう!


「そうですわ、エラちゃん! これこそ神の奇跡、歌う石板の奇跡ですわ!」


 修道女マルゲリータが横から、わがバカ弟子の援軍として登場。


「歌う石板に栄光あれ! 私もこの目でしかと見ました、石板が台の上から浮かび上がり、汚らわしい傭兵に向かって炎の尾をひいて飛んで行くのを!」


 修道女ヘルガはそう叫ぶと、ひざまずき神に感謝の祈りを捧げ始めた。


 炎の尾をひいて、だと!

 バカも休み休み言えってんだ。


「私も見ました!」

「私も!」

「私も!」


 修道女たちは競い合うように目撃証言をわめきあい、いつの間にか、石板は聖歌を七曲くらい歌った後、礼拝堂の中を三周し、炎の尾をひいて、雷鳴とともに人イヌの首を刎ねたことになっていた。


 おいおい、それは盛り過ぎだって。

 現に傭兵の死体を見れば首と胴がつながっているのは一目瞭然じゃん。


 呆れはてて、おれは振り返った。

 院長と目が合った。

 この人は一部始終を見ていた。暴走している修道女たちを諌めてくれるに違いない。


 院長はニコッと笑った。

 おれの傍らを通り過ぎると、修道女たちの前へ行き、黙って割れた石板の破片を拾い集めた。

 彼女は両手で破片を抱えて祭壇の前へ戻ってくると、石板が置かれていた元の台の上へそれを並べた。

 そして、燧石を打って口火を作ると、祭壇のロウソクを灯していった。

 蝋燭の炎に照らし出された彼女の顔には、慈愛に満ちた笑みが浮かんでいた。


 院長は説教台に登って、修道女たちを振り返った。


「皆さん。キャンペ修道院の神宝『歌う石板』は割れてしまいました。これが歌うことはもう二度とないでしょう。しかし、わたしたちが悲しむ必要はありません。なぜなら、石板はその最後にまた一つ新しい奇跡を遺していったからです。わたしたちは神の栄光を讃えて、この奇跡を伝え続けなければなりません。よって、今日このときより、当修道院は『聖石板女子修道院』と名を改めます。グローリアス! 聖石板修道院!」


 修道女たちが唱和する。


「グローリアス、聖石板修道院!」

「グローリアス!」

「グローリアス!」


 はあ?

 こいつらグルだ。

 ヒワイな石板とオサラバできたうえに、何かとんでもない伝説まで手に入れやがった。

 きっと百年もしたら『聖石板女子修道院縁起』とかパンフレットを刷って、観光客に売りつけるつもりなんだ。

次回は師匠がまた変態にされます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ