オーパーツはスマホだそうです。
3話目投稿しました。
後ろを振り返らずに数ブロックを全速力で走った。
肺が口から出そうになるくらい――まあ、肺なんかないんだけどさ――の走りっぷり。
塩漬けの腿肉が天井から何本もぶら下がっている店に飛び込んで、揺れている腿肉の間から通りをうかがった。
どうやらハーフエルフの娘からは逃げられたようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、おれは店の奥のテーブルに腰を下ろした。
店主が近づいてきたので、何か頼まなきゃいけないな、と思ったが、意外と腹の減っていることに気づいた。
「厚切りの塩漬け肉とパン。辛子はたっぷりつけてくれ」
「飲み物はどうする?」
「おたくの店、エールはどこから買ってる?」
「フッサールのとこだよ」
「じゃあ、ジョッキでもらおう」
「うちは先払いだからね。五ギルになるよ」
店主はおれの風体を見て言った。
上半身はハダカ。ズボンは濡れている。手に持っているシャツはボロ雑巾のよう。
食い逃げしそうに見えても不思議はない。
おれはポケットに手を突っ込んだ。
指の間に五ギル貨幣を出現させる。
それをテーブルに、パチリ、と音を立てて置いた。
店主は貨幣をつまみ上げて店の奥へ行った。
シャツに袖を通すと、ぺたりと冷たく肌に張りついた。
気持ちわるっ。
おれは濡れた服を乾かすことにした。
今度はさっきのようなへまはしない。
適当な文句を呪文のようにゴニョゴニョ唱えてから、上から下まで新品の状態に戻した。
「おや、あんた、魔法使いには見えなかったな」
店主が愛想よく笑った。金さえ払えば大事なお客ってことだ。
店主が運んできた塩漬け肉は美味そうな桜色をしていた。
おれは、そいつに辛子をべったり塗って、パンに挟んだ。
一口齧りつく前から口いっぱいによだれがあふれる。
大口を開けてかぶりつく寸前だった。
そこへ通信――。
――どこにいるのよ?
毎度おなじみの管制だ。
頭の中に、ギンギン響く。
どうしていつもいつも、都合の悪いときにかぎって話しかけてきやがるんだろう?
「わかってんだろ」
――もちろん、わかってるわよ。でも、あんたはどうなの? それをあんたに確認してんじゃない。
「わかってるにきまってんだろ」
――じゃあ、わかっていて、七五八秒も水の中にいたということなのね?
「当然そういうことですよ」
と口では言いながら内心驚いていた。
七五八秒!
そりゃオークもびっくりだわ。
人魚かダゴンか半魚人でなければ許されないタイムである。
ちなみにこの世界、人魚とダゴンはいるが半魚人はいない。
おれを堀に放り込んだオークのことは、黙っていることにした。
騒ぎになっていたなんてことを話したら、底意地の悪い管制のことだからきっと上に報告するにきまってる。
しかも、ハーフエルフに「世界改変」しているところを見られたなんてことまでしゃべった日にゃ、始末書は絶対に避けられない。
この世界に派遣されてかれこれ三百年になる。
もう少し頑張れば本社に栄転できるってのに、へたを打って任期を延長されたりしたら泣くに泣けない。
――本当かしら? ま、いいわ。そんなくだらないことしゃべってる場合じゃないのよ。
くだらないことを言ってきたのはそっちだろ、と思ったが、ケンカになるので黙っていた。
この際、管制に逆らうなんてまねは死んでもすまい。
「何か問題があるのか?」
――そうなの。
管制の声は心なし不安げだった。楽天家の彼女らしくもない。
「大問題?」
――うーん……まだちがうけどね。もしかしたら、あんたもわたしもクビがとぶくらいの大ごとに発展するかも。
クビ? やめて。やめて。どうしてそんな怖いこと言うの?
おれはぞっとした。服がまた一気に濡れたような気がした。
「説明してくれ。問題ってなんだ?」
――オトランのダーゲンでオーパーツが見つかったのよ。現地の僧侶が「これは聖遺物にまちがいない」って教皇庁に申請してきたわ。
オーパーツ。
この世界に存在してはならないもの――のはずなんだけど、これが結構見つかるんだな。
それは世界創造時のバグだったり、異世界から何かしらの理由で紛れ込んだ物だったり。
いずれにしても、あっちゃいけないモンはあっちゃいけないモンだ。
そんな物が出てきたときには、おれのような管理人の出番ということになる。
とはいえ、オーパーツなんてたいていカン違いだし、本物でもすぐに手を打てばほとんど問題になることはない。
どうして今回、「クビがとぶ」なんて管制は怖いことを言うのかわからない。
「よくある話だろ。おれ、この世界でもう何件も処理したぜ。五〇年に一度は出てくるよな。だいたい、本物なのかよ?」
――教皇庁からは、いつものように審問官が現地に行って現物を見てんだけど、どうやら本当に教祖の聖遺物として認定しそうな気配。だから、あんたの目でそいつを確認してほしいわけ。現地人になんか、本当のことなんてわかるわけないんだからさ。
「本物だったらいつもどおり?」
――もし、本当にオーパーツなら管理マニュアル第三項第七則に従って回収、もしくは破壊してちょうだい。でも、今回はそれで終わりじゃない。
「終わりじゃない?」
――マニュアル第七項補足事項β。事故の原因を究明し、可及的速やかに対処すること。フェイズ4以降の対処方法については実施前に本部判断を仰ぐべし。OK?
「了解だけど……ずいぶんと大げさじゃん。いったい何が見つかったんだよ?」
――聞いて驚くんじゃないわよ。スマートフォン。
「へ?」
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