表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/69

歌いっぱなしの石板です。

第21話です。

「♪聖なる光ー 世に満ちてー ♪われらが糧を~ オーオー 産み出さん~」


 声量豊かなテノールで歌われる聖歌は、おれが背負った頭陀袋の中から聞こえてくるのだった。


「師匠、うるさいですよ!」

 ずいぶん先を歩いているエラが振り返って怒鳴った。


「おまえが持って行こうって言ったんじゃないか」

「だってー」


 オーガの宝物がどれも子どもだましみたいな物だったので――とりわけ「大玉ルビーのネックレス」に期待していたエラは、せめて金目の物をと、唯一売れそうな「歌う石板」を持って行くことに決めたのだった。


 決めるのは勝手だが、それなら運ぶのも自分でやれ、である。

 重いー、ムリー、と彼女は言って、運搬はおれがやることになった。おれにしてみれば重さはまるで気にならない。

 ただ――


「♪聖女アニタの~ 告げられしー ♪約束の土地~ とこしえの~ あああ~」


 宝箱から出してからずっと、間断なく歌いっぱなしである。しかも、つまらない聖歌ばかり。

 まったくうんざりだ。


「それ、止められないんですかねえ?」


 石板にスイッチのような物はない。

 止めるとしたら、おそらく呪文を使うのだろうと思って、かけられている魔法を解析してみたが、それらしいパスワードはなかった。

 使われている魔法はとにかく複雑で、完全な解析となると、おれの管理人能力では不可能だった。

 ただ、どうやらそばに人間がいると歌う仕様らしく、黙らせるには誰もいないところへ放置しておくしかないようだった。


「♪討てよ 悪魔~ ♪癒せ 病みし者たち~ ♪主の御手にー 無窮の愛が― 宿る~」


「これじゃあ宿屋に泊めてもらえませんよお」

「森で時間を食いすぎたからな、どのみち今夜は野宿だよ」


「え、野外プレイ?」

「プレイがよけいだ。旅をしていればこの先、野宿なんていくらでもすることになるさ。それより、今日は夕食の心配をすべきだな。また道端のキノコを食って痛い目に遭うのはイヤだろう?」


「その辺にウサギとかいませんかねえ?」

「ウサギを狩ったら、おまえさばけるのか?」


「できませんよ。師匠ができるんじゃないんですか?」

「たしか――」


 おれはウサギをさばくスキルがインストールされているか確認してみた。たいがいの動物は解体処理できるようだ。

 グリフォンのさばき方まで入っていたが、たしかこの世界にグリフォンはいなかったはず。この手の知識は何でもかんでもひとまとめにインストールしているから、実際ムダなものの結構ある。

 かといって、いらないからと削除すると、次の派遣先にはグリフォンだらけだったりするのだ。


「じゃあ、暗くなる前に何か捕まえるとしようか」


 と言ってはみたものの、すでにおれたちは街道に戻っており、そこら辺をノンキに歩いている小動物などいなかった。

 あっという間に日は傾いて、空は赤く染まった。

 このままでは空腹を抱えて眠るしかなさそうだった。


「♪たとえ~ われらの前に~ 道なくとも~ ♪たとえ~ 苦難の果てに~ 光なくとも~」


「こんなことなら、アギーレさんたちと一緒に昨夜の宿屋まで戻ればよかったんですよ」


 アギーレたちは魔物退治を領主へ報告するため、おれたちが逃げ出してきた町へ向かった。今夜はノイヴィートの宿屋へ一泊すると言っていた。

 おれは森を出たところで彼らとは別れた。「八月軒」の追手がどこまで来ているかわからない以上、後戻りという選択肢はなかった。

 エラは自分が追いかけられているということを、また忘れているのだった。


「あのジイさんたちと一緒に行ったところで、こんなにうるさくっちゃ、あそこの女将は泊めてくれないよ」


「まいりましたね」

「ああ」


 おれは頭の中に周辺の地図を開いた。近くに農家でもあれば泊めてもらうつもりだった。いくら警戒心の強い農民でも、目の前に金貨の一枚も放り出せば一晩くらいは泊めてくれる。


 しかし、近くに農家はなかった。そのかわり、少し離れたところに「キャンペ女子修道院」があった。

 修道院なら一泊くらいさせてくれるのではないか。男のおれだけではダメかもしれないが、ハーフエルフの娘が一緒なら許してくれそうだ。

 それに、こちらには聖歌を歌いっ放しの石板がある。

 聖遺物だと言って押し付けてしまうのがいいかもしれない。


「♪ラララー 神なき夜の~ 終わりを告げる~ ♪ラララー 教えの家の~ きざはしに立ち~」


「そういえば、あっちの方に修道院があったな」

 おれは道からはずれた方向を指差した。


「今思い出したんですか?」

「うん」


「思い出すのが遅すぎません? ま、それはいいですけど、修道院てアレですよね、エロに飢えた男たちの巣ですよね? そんなところにこんなにかわいいあたしを連れて行っちゃっていいんですか?」

「大丈夫。女子修道院だから」


「ということは、エロに飢えた女たちの巣ということですね? ははーん、そういう狙いですか? エロに飢えた者同士組んずほぐれつしようってんですね? 最初から言うと、あたしに反対されるから、今頃思い出したふりをしているんですね?」


「違う。誰がエロに飢えた者だ? まず、おまえの修道院に対する認識が誤っているから――。そういうことを向こうに着いたら絶対に口にするんじゃないよ。せめて晩飯くらいは食わせてもらいたいからな」


「そりゃあね、ゴハンのためなら黙ってますよ。師匠のことも人畜無害の人だって言ってあげます。襲ったりしないから心配しないでいいって。あたしも一緒にいてお風呂を覗かれただけだって。それ以上のことはしないから大丈夫って」


 それだけ言えば十分アウトだよ。


――ちょっとお、聞こえる?

 管制(コントロール)だ。


「ああ」

 おれは小声で返事をした。先を歩いているエラには聞こえないだろう。


――あんたが調べろって言った「歌う石板」だけど。

「ああ、歌いっ放しの石板な。どう、わかったかい?」


――オーナー様の発注品リストにはなかったわね。つまり、聖遺物じゃないってこと。そっちの誰かが魔法で作った物のようね。

「それはおかしい。おれには解析しきれない部分がある。こっちの現地住人がかけた魔法なら、管理人のおれに解析できないなんてことがあるはずないだろう」


――管理人の能力を超えてしまう魔法が、偶然に発生する可能性もないわけじゃないのよ。

「そんなの奇跡に近い確率だろ?」


――でも、実際にあることだもの。それこそ正真正銘のオーパーツね。

「オーパーツなのか? じゃ、どうする? そっちに送ろうか?」


――いらないわよ。単に珍しいってだけでしょ? 本社はそんな物に興味はないわ。

「偶然以外の可能性はないのか?」


「♪喜びの歌を歌え! ♪神をほめたたえよ! ♪聖者の道に影はなし~」


――うるさいわね、それ。絶対に送って来ないでよ。

よろしければブックマークしていただくとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ