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廻転の連鎖  作者: rai
5/7

第伍話

 



 



 暫くの間道なりに沿って歩いていくが特に何も変わりないようだった。


「あ……道が分かれた」

「どっちかが行き止まりだろうね」


 どうする? と二人から聞かれて弟、朔と圭子で別行動になった。何かあったらすぐに連絡する事、行き止まりの場合は戻って追いかける事といくつかの約束を交わして弟と別れた。


「このまま出口に出ちゃいそうだよね」

「そうだといいけど」

「ちょっと朔、怖い事言うのやめてよ」

「やっぱ怖いよねぇ」


 先に歩く圭子の後ろから朔の声がする。先ほどの弟の前例があるから、転びたくはない圭子は前を見ながら話していた。それに後ろに誰かが居るかと思うと、暗闇の中を進む心強さもあった。


 他愛もない会話を朔と話しながら、ただひたすらに出口を目指した。


「こりゃ、行き止まりは弟の方だったね」

「そうだね。学も追いかけるって言ってたし、そのうち来るでしょう」

「早く出て帰ろ」

「うん」


 暗闇を歩いていると時間の感覚がおかしくなるようで、スマホを覗いても数十分しか経っていなかった。

 朔に渡した懐中電灯は電池切れでその役目を果たし終えた後だった。


「あれ?」

「え、嘘。そっちも?」

「ちょっと、やめて欲しいんですけど!」


 まだ充電は充分あるはずなのに、スマホのライトがチカチカして消えそうになる。急ぎ足で進んできたけれど、まだ出口は見えなかった。


「あっ!」


 大きく点いたり消えたりを繰り返してとうとう消えてしまった。シン、と静寂に包まれる。


「目が慣れるまでじっとしていよ」

「うん。……まさか懐中電灯が電池切れ起こすとは思わなかったな。換えの電池持ってくれば良かった」

「それを言うなら、私が懐中電灯持ってくれば良かったのよ」


 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 圭子と朔は手を繋ぎ合って座り込む。目も暗闇にだいぶ慣れ、薄っすらと辺りが見回せるまでになった。


「朔、慣れてきた?」

「大丈夫。出口まで一気に行こう」


 壁伝いに歩いて先に進む事になった。

 幼い頃は、ただ父の後ろを歩くだけであっという間に出口に辿り着いてしまい物足りないと不満を感じていたが、手探りで出口を目指すのがこんなにも大変だなんて思いもしなかった。こんな事なら前回も来た事のある学と別行動にしないで皆で移動すれば良かったと心の中で愚痴る。


「……」

「……」


 最初はあんなに弾んでいた会話も、話題が尽き始めてだんだん沈黙の方が多くなっていった。それでも出口を目指してただひたすらに歩いた。




 + + +




「……学、遅いね」

「……」


 スマホのライトが切れて目が慣れるまで座っていた時間も含め、行き止まりなら引き返して歩いてくれば、すでに合流していてもおかしくはない時間だった。

 連絡も無ければ懐中電灯の明かりすら見えない。それどころか朔の返事すら無く、ジクリと圭子の中で言いようのない不安が這い上がってくる。


「え、朔?」


 返事がない。


「朔、ちょっと返事してよ。ねぇ朔ってば!!」


 混乱する頭で考えても纏まらず、いくら叫んでも響くのは圭子の声だけだった。手の中でスマホがブルブル震え、着信を知らせた。


『……し、もしもーし!』

「朔?」

『けい……、……にいる……!』

「もしもし!? 聞こえないよっ!」


 スピーカーから聞こえてくる朔の声がブツブツ切れて中々聞き取れない。アンテナはきちんと立っており、電波が弱い訳ではなかったがとても聞き取れる状態ではなかった。


『……して。姉ちゃ……? ……レ、……ど』

「学も一緒なの!? ねぇ、二人ともどこにいるの……!」

『……ら、……まっすぐ……って………………』


 学の声も聞こえて少し落ち着いた圭子であったが、途中で何の音も聞こえなくなった。スマホの画面を確認しても振っても通話中の表示があるだけでうんともすんとも言わない。


「朔、学っ。何も聞こえないよぉ……!」


 真っ暗の闇の中、頼りないスマホの薄明かりと鏡に映る今にも泣き出しそうな自身の顔を見て自分だけがミラーハウスの中へ取り残されたように錯覚しそうになった。

 もう、ここから出られないのだろうかと諦めかけたその時、ノイズが入った。上手くいけばこのまま繋がるかもしれないと圭子は僅かな希望を見出して、縋りつくしかなかった。


『ザ……ザザ…………』

「もしもし、もしもし!?」

『…………て……』

「え? 何?」

『……ら、……だし……』

「朔、聞こえないっ!」


 ノイズで聞き取れない事に焦れた圭子が叫ぶ。




『こ こ か ら だ し て』




「ヒッ……!」


 幼くも地を這うようなゾッとする声に、思わずスマホを放り投げた。バクバク暴れる心臓が煩い。恐ろしい声が耳にこびりついて耳の中でこだましているようだった。


 ーーねぇ……ここから………

 ーーだして……だしてよ……


 ふと、ペタペタと素足で走り回る音が聞こえ、子供の声すら聞こえてくる。とうとう自分の頭がおかしくなったと思った。鏡の破片が散らばるのに素足で走り回るなんて普通では考えられない。


「ヒィッ! に、逃げなきゃ……。どこでもいいから逃げなきゃ!」


 もう圭子の頭の中はミラーハウスから逃れる事だけでいっぱいになった。


 何も考えずにただがむしゃらに走り出す。





 




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