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廻転の連鎖  作者: rai
3/7

第参話

 



 



「はぁ、はぁ……!」


 走る。息が苦しくて(つまず)きそうになっても出口を求めて走り続けた。


 ーーまっ……

 ーーおいて……か…………


「はぁ、はぁ。……っぐ」


 走って、走って走って。鏡にぶつかりながらも迫り来る「ナニカ」から逃げるように走った。

 込み上げてくる気持ちの悪さに足を止め、嘔吐(えず)いて呼吸をするのさえ苦しくて嫌になってきていた。喉がヒリヒリ焼けるように痛いのも空っぽの胃から吐き出される胃酸のせいだ。


「……っ」


 囲まれた鏡が映し出す物を乱反射して道を見失ってしまった。足が重い。まるで重りのついた枷を嵌められたように、疲労した体は動きが鈍っていく。

 でもこのまま足を止めているわけにはいかない、と足を踏み出した圭子の視界に黒い影が映り込む。


 ーーみぃつけたぁ


 幼い子供の笑い声がハッキリ聞こえた瞬間、圭子の意識はプツリと途絶えた。




 + + +




「へぇ。結局朔先輩もついて来たんすね」

「別に私がいようがいまいが貴方には関係ないでしょ? 圭子の弟?」

「……嫌みたらしいっすよ。センパイ」


 出会い頭から何故か突っかかる弟が朔にやり込められている。仲が良いと思っていたのは圭子だけで、二人とも笑顔なのに睨み合っているという不可解な現象に、犬猿の仲という言葉がしっくりくるほど悪いようだと認識を改めた。


「あらぁ、そうかしら? ねぇ、圭子」

「ま、まぁまぁ。二人とも仲良くやろうよ。ね?」

「もうっ。圭子、先に行くんじゃないわよ」

「姉ちゃん!」


 こちらに矛先が向く前に、さっさと離れて夜道を歩き始める。圭子は朔と弟の学を連れて裏ドリへと向かう途中だった。

 誰にも言わず一人で行くはずだったのだが放課後になった途端に朔に捕まり、家を出る時には弟に捕まった。一緒に行くと言って聞かない二人の説得で結局三人で行く事になったのだ。


「こんなに近かった?」

「子供の足じゃもっと遠くに感じていてもおかしくないわよ」

「姉ちゃん歩くの遅かったからなー。親父に肩車してもらってたの覚えてる?」


 向かう所が幼い頃の思い出が詰まった場所だからか、会話は必然的に幼少期の話になった。知らなかった朔の幼少期の話で盛り上がり、そうして歩みを進めて行けばあっという間に裏ドリに着いた。


 時刻は午後十時を回った所だ。

 辺りは住宅もない為に薄暗く、月明かりが無ければ真っ暗で何も見えなかっただろう。ざわざわ木の騒ぐ音とホーホーと鳴く鳥の声が聞こえてくるぐらいは静かだった。


「暗い、ね」

「何当たり前な事言ってんのよ」

「前に来た時とは変わらないな」

「学は何処から中に入ったの?」

「……こっち」


 弟は手招きしてやっと人が一人通れそうなほどの穴が開いたフェンスを潜って行く。それに続いて朔、圭子の順に潜った。


 一歩、裏ドリの中へ踏み込んでから視線を感じてゾクリと背筋に悪寒が走る。首を上へ動かせばマスコットキャラクターであるウサギが出迎えるように圭子達を見下ろしていた。裏ドリがまだ開園していた頃はこのウサギのずんぐりむっくりしている見た目とは裏腹に、軽快なダンスショーで子供達を喜ばせていた事を覚えている。


 昼間であればピンク色のウサギだと分かるそれも、月明かりの中では色を失っていて、何も映さない無機質な瞳に囚われそうだ、と圭子は身震いした。

 おどろおどろしい雰囲気の中、どうして此処へ来ようと思ったのかと早くも後悔し始めていた。



 キョロキョロと辺りを見回していると、メリーゴーランドが目に入る。人が乗る馬や馬車の入り口は塗装が剥げ落ち、物によっては欠けていたりもした。

 パパッと色とりどりの明かりが灯り軽快な音楽と一緒に景色がゆっくりと回る様や、馬や馬車が上下に動くのが楽しくて、親にねだっては何度も乗っていた場面が脳裏を駆け巡る。


 ーー……け……て……


「え?」

「圭子?」

「んーん。何でもない。ミラーハウスはあっちかな?」

「……そっちは反対側だよ。姉ちゃん場所忘れた?」

「あれ、そうだった? しっかり覚えてると思ってたけど案外忘れてるものだね。学、ありがとう」


 弟の誘導で歩きながら今度は観覧車の横を過ぎた。

 ふと観覧車を見上げ、初めて乗った時はお姉さんの陽気な「いってらっしゃい」の声にワクワクしていたけれど、段々高く上がって地上が小さくなっていく光景は恐ろしい思いしかなかった。父親にへばり付き、外を見ようとしない圭子に母親も弟さえも笑っていた。


 ーーだ……て……


「っ?」

「圭子? さっきからどうしたの?」

「……気のせいみたい」

「まぁ、こんな暗がりじゃ分からないでもないけどね」


 行こうと朔に先を促されて、(くだん)のミラーハウスへと向かった。





 




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