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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
99/134

思い出の場所

カップルドリンクの店を出たフロントはナイトの横でため息を吐いて、


「フローレス様、前はカップルドリンク飲みたいって、駄々こねてたのに・・・」


と呟いている。

フローレスが子供のころにせがまれたのだろう。

項垂れるフロントを見ていると、ナイトは焦燥に駆られた。

500万ゴールドが水の泡!


『いや、金じゃないだろう!またあの悲劇を繰り返さないために俺とネティアは2人を見守っているんだ!』


と自分を一喝するも、所持金すべてを持っていかれるのは死活問題だった。

しかし、まだフローレスがプロポーズを断るとは決まっていない。

まだまだ挽回できる。

そのためには、ナイトがフロントをバックアップしなければならない。

フローレスはネティアと一緒に前を歩いていた。

先ほどの店で飲んだカップルドリンクの感想を聞いているのだろう。

年頃の女性らしくキャピキャピ話をしている。


「フローレス、ちょっといいか?」


ナイトが声をかけると、フローレスがやってきた。


「お前も普通に楽しんでいいんだぞ。俺達がプライベートで出かけるなんてめったにできないんだから」

「ちゃんと適度に楽しんでるわよ」

「そうか、フロントが手持無沙汰な気がするが」

「そう?」


フロントはネティアのところに行って、何やら元気づけられていた。


「そういえば、なんか今日はさえない感じがするわね」


いつもと違う様子にやっとフローレスが気付いた。


「護衛も大切だけど、フロントもフローレスと楽しみたいんだろうな」

「それじゃ、護衛じゃなくてただのwデートじゃない」

「wデートでいいじゃないか?護衛は他にちゃんといるし・・・」


縁日の人込みに目を馳せると、射的の出店から歓声が上がっている。

見ると、カインが射的の景品を倒しまくっていた。


「土産に後、16個いただく」


と豪語して、店主を泣かせている。

親衛隊の仲間への土産だろう。

視点を変えると、激辛カレーの早食いの店にはレッドとアインの姿があった。


「やるな」

「カレーは飲み物だ」


赤髪同志、辛いものが好きらしい。


「愛してる~愛してる~貴女だけを~」


カラオケ大会の熱唱が聞こえてきた。

歌い手は、グレーだった。

フロントのプロポーズ作戦を応援しているのだろうか?


大繁盛しているたこ焼き屋にはサクマもいる。

みんな、花火大会をエンジョイしている。


「‥‥‥‥ねぇ、私達ちゃんと護衛されてる?」

「だ、大丈夫さ、ライガ達がちゃんと護衛してくれてるさ!」


ナイトは取り繕ったが、本当は疑念だらけだった。

こいつら本当に仕事しているのか?


「写真、いかがですか?」

「あ、ブルー」

「写真屋です」


正体がばれてもブルーは言い張った。

趣味と実益を兼ねていた。


「それじゃ、それぞれ2人で1枚、4人で1枚、頼むよ」

「OK」


ナイトとネティア、フロントとフローレスで1枚ずつ。

4人全員で1枚撮ってくれた。


「後で、複写してお送りしますね」


ブルーはにこやかに手を振って見送ってくれたが、あのカメラは常にシャッターチャンスを狙ってナイト達をつけ狙い続けることだろう。

これは監視に近いが、護衛されていると言えなくもなかった。


「写真、楽しみね」


フローレスがフロントに話しかけ微笑んでいた。

少しは、羽を伸ばしてくれたようだ。

ちなみに、これは作戦3、恋人同士で写真を撮るは成功した。

フロントは少し自信を取り戻したようだ。

時計を見る。

時刻は夜の8時を10分前を指していた。


「そろそろ花火が上がるな」


花火を見ようと人々が場所を探し始める。

高台や高い建物に上ったり、高い建物を避けて橋の上に陣取ったりしている。


「すぐ近くに特上席より花火がよく見える場所へご案内します」


フロントが得意げに言う。


「そんな場所があるの?」

「行ってみてからのお楽しみですよ」


フロントは自陣満々で人込みに逆らって歩き出した。

ナイト達は半信半疑で後に続いた。




***




シュウは主の身代わりになったライアスを気の毒そうに見つめていた。

特上席は女王夫妻を一目見ようと、民衆の視線が注がれていた。


『あれ、なんか、ナイト様大きくなってない?』

『ナイト様、大きかったわよ。だって、お強いんですもの、近くで見たらきっと筋肉隆々よ』

『そうだったかしら、もっと、シュッとしてたような気がするけど・・・』

『遠目だったからじゃない?』

『そうね、でも、今も遠目のような気がするけど・・・』


花火の発射地点に小さな光が付けられた。


「そろそろ花火が上がりますよ」


シュウが声をかける。

民衆の好奇の視線に長時間さらされたライアスは硬直していた。


始まりの花火が打ち上げられた。


バン!


夜空に大輪の花を咲かせ、数秒で散っていく。

その後、次々に花火が打ち上げられていく。

民衆の視線が特上席から花火の方に移った。

ライアスはガックリと項垂れる。


「大丈夫ですか?」

「ちょっと、疲れました。バレてないでしょうか?」

「‥‥大丈夫でしょう」


シュウは少し間を開けて、にっこりと答えた。


「それは良かった。私はちゃんと王子の身代わりが務まっているんですね」


ライアスはシュウの言葉を真に受けて安堵している。


「少し、席を外されて休まれてははどうですか?別にずっとここにいなくていいんですよ」

「お心遣い感謝します。ですが、主賓が席を外しては、花火師や民衆に失礼ですので、最後まで観賞します」


ライアスの真面目な返答にシュウは思わず吹き出しそうになる。

本当の主賓であるナイト王子とネティア女王はいない。

ライアスとサラはただの身代わりなのだ。

ただ、バレないようにしていれば、姿をくらませてもいいのだ。


「真面目ですね」

「それだけが取り柄ですから。それに、こんな良い席で、美しい女性と花火を悠々と見られる機会など滅多にありませんから、王子に成りすまして、花火を堪能します」

「まあ、ライアス様ったら」

「サラ殿、最後まで花火を一緒に見ていただけますか?」

「もちろんです、お役目ですから」


ライアスのお世辞にサラはまんざらでもなさそうだった。

身代わり夫婦の仲睦まじい様子にシュウは当てられてしまった。


「それでは、私だけ少し休ませてもらいましょうかね」


シュウは裏舞台にひっそりと身を隠した。


『ああ、羨ましい・・・』


ナイト王子とネティア女王、フロントとフローレス姫、そして、ライアスとサラまでもがカップルになりそうだ。

モテない我が身に、シュウは落胆する。

レイス領主となったのだから、それなりの女性と結婚はできると思うが、きっと政略結婚だろう。

恋というものとは無縁だとはわかっているが、憧れる。


「あら、レイスの貧乏領主じゃなくて?」


突然、不躾な呼ばれ方をして、シュウが振り返ると、意外な人物が立っていた。


「・・・・・・・マリア様!?」


シュウは悲鳴のような声を上げた。

ボディガードを引き連れた虹の国一の美貌を持つマリアがいたのだ。


「あら、そんなに驚かなくてもいいんじゃなくて?」

「なぜ、こんなところに?」


社交場の花である彼女は華やかなところにしか現れない。

なのに、こんな薄暗い特上席の裏舞台にいるなど奇想天外だ。

黒いドレスに身を包んで、お忍びようだ。


「そんなの決まっているでしょう。フロント様に会うためよ」

「フロントはいませんが・・・」

「知っているわ。だから、こうして、探しているのよ。あなたは知らなさそうね、失礼!」


マリアは美しいブロンドの髪を靡かせて足早に去っていく。

シュウは大きなため息を吐いた。

フロントとフローレスの恋路には必ず邪魔が入ると思っていたが、案の定だった。

恐らく、フロントがフローレスにプロポーズをするという話がどこからか漏れて、居てもたってもいられなくなったのだろう。


「やれやれ、面白くなってきましたね」




***




フロントが案内したのはツツジが咲き誇る小山で石垣で囲まれた公園だった。

ツツジは斜面に群生していた。

そして、その中央には大きな花時計が。

ツツジが生い茂り、石垣があり、花火を見るには条件が悪い場所だった。

この場所には花火の見物客の姿はない。


「実は、ここ登れるんです」


フロントが説明して、ツツジの花の中に入っていく。

ツツジが生い茂って、小道を隠していた。

フロントにフローレスが続く。


『あれ、この場所って・・・・・・・』



フロントの背中を見て、フローレスの記憶が呼び起こされる。

季節は今と同じ、ツツジが満開だった。

ツツジの中をフローレスはフロントに負ぶわれて登った。

小山を登りきると、小さな展望台になっていた。

正面に海へと続く川が見え、夕日に赤く染まっていた。





「へぇ、ここはいい場所だな。花火がよく見える」


ナイトの歓声でフローレスは我に返った。

後から登ってきたナイトとネティアが寄り添って、花火を見上げていた。

姉夫婦の仲睦まじい姿にフローレスは微笑を零して、ちょうどいい岩の上に腰を下ろした。


「最高のデートスポットね」


案内を終えたフロントがフローレスの横に腰を下ろした。


「・・・この場所を覚えてますか?」


疲れたような声でフロントが聞いてきた。


「今、思い出した。私が夕日を見たいって、頼んだのよね?」


フローレスが答えると、フロントは嬉しそうな顔になった。


「あの時は本当に参りました。暗くなってからあなたを連れて帰ったものだから、ビンセント様に大目玉をいただきました」

「だって、デートの終わりに綺麗な夕日を見たかったんだもの・・・」

「確かに、綺麗でした。怒られた甲斐がありました」


2人で当時を振り返り、微笑みあった。


「もう一度ここに来たいと思ってました・・・」

「私も。夕日じゃないけど、花火も良く見えるわ」


フローレスは座ったまま仰ぐように空を見上げる。

花火が真上で咲いているように見えた。

しばらく花火を観賞する。

一際大きなハート形の花火が上がって、長く空にその余韻を残した。


「ハートの花火!円以外の形もできるんだ。ネティア、知ってた?」

「・・・」


感動を分かち合おうと双子の姉に話しかけるも返事がない。

フローレスが辺りを見回すと、姉夫婦の姿はどこにもなかった。

いるのはフロントだけ。


「ネティア達はどこにいったの!?」


フローレスは驚いてフロントに詰め寄る。


「先に降りられました」

「え、嘘!?あと追わなきゃ」!」


後を追うとするフローレスの手をフロントが掴んだ。


「ここに来る前にナイト様からネティア様と2人きりにないたいと言われてました」

「・・・・そうか、そうよね。せっかくのデートだものね、2人きりになりたいわよね」


フローレスは溜飲を下げて、その場に腰を下ろした。


「護衛はライガ達が陰から見守ってくれるでしょうから、大丈夫ですよ」

「そうね、私たちもデートを楽しみましょう」







「・・・・・・・・・・・・・うまくいったみたいだな・・・・・・・・」


ツツジの茂みに隠れていたいナイトとネティアが残してきた2人の様子を伺っていた。

ナイト達がいないことに気付いたフローレスが一度立ち上がったものの、フロントから事情を聴いて腰を下ろしたのを確認したのだ。

2人は並んで座って花火を見上げている。

ナイトとネティアができるお膳立ては終わった。

後は、フロントの頑張り次第だ。

2人は静かにツツジの公園を抜け出し、人気の少ない道のベンチに腰を下ろした。


「大丈夫でしょうか?」

「あの様子なら、大丈夫だろう。今度こそ・・・」


ナイトとネティアは2人が結ばれることを祈った。


「そうだ、ネティアにプレゼントがある」

「え、プレゼントですか?」


ナイトはポケットからピンクのハートのペンダントを取り出した。


「これは、どうなさったんですか?」

「ガラスのアクセサリーの店があったら、買ってみた。フロントが用意したハートの指輪にちょっと似てたから、俺もネティアに何か贈りたいなって思ってさ」

「ありがとうございます。大事にします」


ナイトはネティアにハートのペンダントをかけた。

ネティアの首元でピンクのハートがキラキラと輝く。


「ネティアはアクセサリーは持ってないんだよな」


出かけたとき、フローレスと色違いのおそろいのワンピースと帽子以外は、ネティアは装飾品を身に着けてなかった。


「はい、儀式用か、王家に代々受け継がれたものくらいですね。わたくしは、ほとんど王宮の外へは出られませんから、プライベートで身に着けるものはありません」

「じゃ、これがプライベート1号だな。俺といる時に身に着けてくれ」

「はい、喜んで」


ネティアは微笑んでペンダントに両の手を押し当てた。

しかし、その微笑みは長くは続かなかった。


「あの、ナイト様、お伝えしておかなければならないことがあります」

「何だ?」

「2回目の結界継承の儀式を近いうちに行うことになりました」


ナイトは驚いて、ネティアの腕を掴んだ。


「大丈夫なのか?」

「前回はご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。今回は大丈夫です。だって、フローレスとフロントが正式に婚約するんですよ。こんな良いことがあった後ですもの。頑張れます」

「・・・・そうか・・・そうだな・・・」


ナイトはネティアの腕を掴んだまま、見つめ合う。

自然と顔が近づく。


「ネティア・・・」

「・・・ナイト様・・・」


ネティアが目を瞑った。

吐息が熱くなり、唇が重なる


シャン!


突然、シンバルの音が鳴り響いたかと思うと、馬車が走ってきた。

御者は、アインとカインだった。


「女王陛下、お迎えに参上しました」

「明日も早うござますので、帰りましょう」


カインとアインはナイトからネティアを引き離すと、馬車に乗せた。


「じゃあな」

「じゃあな、じゃねぇだろう!俺も乗せろよ!」


夫婦なのだから帰る場所は一緒だ。

ナイトが馬車に乗ろうとすると、カインが阻止してきた。


「お前は『見届けるもの』があるだろう」


言われて、ナイトはハッとする。

まだフロントのプロポーズの結果が出ていない。

大金が賭けられた恋の行方。


「変更するなら今だぞ」

「誰が、変更などするものか。勝負は最後までわからんからな」


ナイトが強気で言うと、カインも強気で返してきた。

馬車が走り出す。


「ナイト様、明日教えてくださいね」


ネティアは馬車からナイトに手を振った。




***



最後の花火が消えた。

名残惜しく、フローレスとフロントは花火の幻影を夜空に見ていた。


「終わっちゃったね」

「終わりましたね」

「帰ろうか?」

「もう少しこのままで」


明日も早いから帰ろうというと思っていたフローレスはフロントの言葉に目を見開く。


「何かあるの?」

「あります」

「何?」

「プレゼントです」


そう言ってフロントが付きだしたのはリボンに包まれた小箱だった。


「開けていいの?」

「どうぞ・・・」


フロントの声がちょっと強張っていた。

フローレスはリボンの紐を程いた。

小箱の蓋を開けると、言葉を失った。

全く予期していないことだった。


「・・・・・あの時のおもちゃの指輪に似てませんか?」

「これ、どうしたの?」

「作ってもらいました、本物のダイヤです」


フローレスは再び言葉を失った。

プロポーズだと、ようやく気付いた。

嬉しさよりも驚きが勝っていた。

ずっと、待っていた言葉。

早く大人になりたいと思っていた。

何より、フロントが思い出の場所、玩具の指輪のことまで覚えていてくれたことに胸が熱くなった。

フロントがフローレスの正面に立った。


「私と結婚してください」


目を合わせ、はっきりとプロポーズされた。

フローレスは首を縦に振ろうとして、留まった。

そして、指輪の蓋を閉める。


「ありがとう、フロント。でも、ごめん。私、今はこれ受け取れない・・・・」


驚くフロントにフローレスは今の自分の気持ちを正直に伝えた。



















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