表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
95/134

フローレスの騎士デビュー

父王レイガルの許可を得たフローレスはご機嫌でナイトの従者の1人となった。

それを快く思わないフロントは不満顔で少し離れた後方をついてくる。

もう1人の従者であるシュウは2人を見てため息を吐く。


「ナイト様、何か問題しか起きないような、予感がするのですが・・・」

「大丈夫だ、フローレスはライアスに任せるから」


ナイトはフローレスとフロントを同じ場所に置かず、引き離すことにした。

引き離すというと、縁起が悪い気もするが、公務では一緒にさせない方がいいと本能的に思ったのだ。

しかし、2人の様子を見ているとプライベートも不安になる。


『まさか、これが切っ掛けで別れたしないだろうな?』


ナイトは内心ビクビクしながら、親衛隊の詰め所に向かう。

これからフローレスを親衛隊に入隊させるのだ。

フローレスにとって最大の試練だ。

すでに、出向中のライアスから親衛隊に話はされているはずだ。

親衛隊がどんな反応をするか、予測はつかない。

フローレスは女王の双子の妹だし、親衛隊に上手く溶け込んでいるライアスがいるのだから、大丈夫なはずだ。

少なくとも、ナイトのように危害を加えられたりしないだろう。

目的地にたどり着くと、親衛隊が整列してナイト達を出迎えた。


「お待ちしておりました、王子、フローレス様」


ライアスが満面の笑みで迎えてくれたが、親衛隊の面々は無表情でこちらを見ている。


『やっぱり、不満そうだな・・・』


ナイトは小さくため息を着くと、親衛隊と向かい合う。


「聞いたと思うが、フローレス王女が騎士になるために、ここ親衛隊に入隊を希望している。引き受けてもらえるか?」


ナイトの問いにしばし、沈黙が流れる。

カインが親衛隊を代表して静かに前に出る。


「親衛隊は女王直属の騎士団です。女王の日々の身辺、周囲の警護はもちろん、有事の際は一人一人先頭に立ち、隊を率い、戦いの臨まなければなりません。更には、王が崩御された際は、この親衛隊の中から王の代行者を輩出する特別な騎士団です」


カインは親衛隊の役目について淡々と説明した。


「女王の妹気味であるフローレス様には王の代行者になる資格はあると思います。そのご身分で隊を率いる際も人が集まるでしょう。さて、その統率と、剣の実力のほうですが・・・」


カインは一度言葉を切って、フローレスに鋭い視線を投げた。


「ナイト王子のお墨付きということですが、どうにも信用できません。我々自身で試させていただきたい。いかがか?」


静まり返った場にカインの声がよく響いた。

願ってもない展開だ。

ナイトはフローレスに目で問いかけた。

準備万端のフローレスは不敵な笑みを浮かべて、前に出た。


「ええ、もちろんよ!試してちょうだい!」


勇ましいフローレスの声が響き渡たり、また場が静まり返る。

親衛隊は凍り付いたように動かない。

誰がフローレスの相手をするか、決めてないようだ。

恐れ多くも女王の妹、しかも双子だ。

忠誠を誓う女王に剣を向けるようなものだ。

そして、背後から睨みを利かせている、通称魔王、フロントの報復を怖がっているようだ。

先日、親衛隊の何人かがこの魔王に闇討ちされていた。

フローレスの腕試しの相手をして、下手にケガでもさせてしまったら、婚約者であるフロントが何もしないわけがない。

代表者として前に出ていたカインは仲間達を見回して、ため息を吐いた。

誰もいなければ彼がフローレスの相手をしなければならなかった。


「待て、カイン!俺がやる!」

「ゼイン・・・」


驚きの声が上がる中、ゼインはカインの横に立った。


「ゼイン、いいのか?」

「ああ、お前ばかりに苦労はさせられんからな。それにフローレス様に俺の顔を覚えてもらえるチャンスだ」

「・・・そうか、なら、頼む」


ゼインが出てくれてきたことで、カインはほっとし顔になった。

ゼインは槍を担いでフローレスの前に立った。


「フローレス様、私はゼインと申します!どうぞお見知りおきを!」

「ええ、ゼインね。覚えたわ!相手になってくれることに感謝するわ!」


フローレスも自前の細身の剣を抜いて対峙した。


「それでは、始め!」


カインが合図をすると、すぐにフローレスが動いた。

その素早さは親衛隊も目を見張っていた。

一番面食らったのはゼインだろう。

彼は大柄で得物は槍だ。

力はありそうだが、身のこなしは重いはず。

素早いフローレスは天敵だ。

目の前に迫った剣先を何とか槍で防いだが、右後方に流れた。

フローレスの見た目に騙され、その腕力を侮ったのだ。

よろけたゼインは槍を構えなおす前に、槍を弾き飛ばされ、尻もちをついた。


「・・・・・フ、フローレス様の勝利!」

「やった!先手必勝ね!」


あっさり勝負がついてしまったことに、カインをはじめ親衛隊は唖然となっていた。

親衛隊だけではなく、フロントとシュウも驚きの表情を隠しきれずにいた。

フローレスの勝利を確信していたのはナイトとライガの2人だけだった。


「ありがとう、ゼイン。大丈夫?」


フローレスは尻もちをついているゼインに手を貸す。

放心状態のゼインだったが、フローレスを見上げて、恥ずかしそうに手を借り、


「完敗です。このゼイン、フローレス様の一番の家来になります!」


フローレスの前に跪いた。


「素晴らしい、フローレス様。王子から聞いていた以上です。合格です!」


ライアスが拍手でそう宣言すると、親衛隊の中からもポツポツと拍手が聞こえてきた。

親衛隊でも上位の実力を誇るゼインをものの見事に倒して見せたのだ。

認めざる得ない。

再びカインが出てくる。


「フローレス様の入隊を認めます。しかし、親衛隊へ入るにあたってはその王女のご身分は捨てていただきます。我ら同様一騎士として、女王に仕えていただくてはいけませんから」

「もちろんそのつもりよ。これからよろしくね!」


フローレスは臆することなく、カインに握手を求めた。

カインは戸惑いながらも、その手を取った。


「こちらこそ・・・しかし、正直、女性が入隊するのは初めてのことですので皆、戸惑っております。ご不便をおかけしたり、至らないことがあるかもしれません」

「そんなの気にしないで。私もみんなと一緒、親衛隊の1人だもの。普通に接してくれていいわ」

「そうはおっしゃっていただきましても・・・」


カインはフローレスの背後を気にしていた。

むろん、カインだけではない。


「大丈夫、フロントは関係ないから。フロントもわかってるわよね?」


フローレスは振り返ってフロントを睨む。


「ええ、わかってます。お好きにどうぞ・・・・」


フロントはぶっきらぼうに答えた。

その言葉を聞いて、親衛隊の表情が少し和らいだように見えた。


「じゃ、早速、親衛隊の仕事を教えてちょうだい。ゼイン、お願いできる」

「もちろんです!ありがたき幸せ!」


教育係としてフローレスは自らゼインを指名した。

一番の家来になると言ったから、適任だろう。


「ライアス、後は頼んだぞ」

「承知しております」

「じゃあな、フローレス、頑張れよ」

「うん、ありがとう。ナイトも頑張って」


フローレスは笑顔で答えて、フロントを見る。


「フロント、ちゃんとナイトの力になるのよ」

「い、言われなくても、ちゃんとナイト様をお支えしてます!ねぇ!?」


向きになってフロントはナイトに問いかえた。


「うん、ちゃんとしてくれてる」

「ほら!」

「はいはい、わかったわ。じゃね!」


フローレスは手を振ってご機嫌でゼインの元へ去っていく。


「お待たせ、ゼイン。行きましょう!」

「はい、喜んで!」


ゼインは鼻息荒く、顔を赤らめながらギコチナイ歩き方でフローレスを連れていく。

予想外の展開にフロントは苦虫を嚙み潰している。


「心配だな・・・」

「ああ、心配だな」


呟いたフロントにライガが賛同する。


「お前がけしかけたんだろう?怪我でもしたらどうするんだ?」


ライガは目を丸くして、フロントの目をまじまじと覗き込む。


「え、そっち?俺が心配せているのは、フローレス様に恋焦がれる男が群がるじゃないかって、方だったけど。お前、そっちは心配してないのか?」


意外な質問にフロントは言葉に詰まった。


「も、もちろんだ。あのガサツなフローレス様がモテるはずがない」

「好みは人それぞれだぞ。顔はネティア様と瓜二つ、スタイル抜群で、ミニスカから除く美脚が男を惑わせるな」


フロントは思い出したようにフローレスを振り返る。

フローレスのスカート丈は太ももを半分隠した程度だ。

秘かにだが、親衛隊はちらりとフローレスを盗み見ていた。

愛する女がほかの男に見られている。

フロントは頭に血が上り、眩暈を起こした。


「と、とにかく、会議に行くぞ!今日はたくさんあるからな!」


ナイトはフロントに肩を貸すと急いで親衛隊の詰め所から離れた。

シュウとライガが呆れたように呟く。


「主に肩を持ってもらう従者など初めて見ました」

「本当、あんなフロント初めて見た。そんなに心配ならフローレス様と一緒にいたって、言えばいいのに」

「あの人は女性の扱い方を知っていると思っていましたが、そうでもないみたいですね」




***




その日一日、フロントは仕事に身が入らず、上の空だった。

その分、シュウが動き、会議を進めてくれた。


「それでは、お暇させていただきます」

「ありがとう、シュウ。今日は助かった」

「いえ、臣下の務めです。それより、あれをびっしと叱ってください」


シュウはまだ上の空のフロントを指さして言った。

ナイトは苦笑いで頷くと、シュウを見送った。


「さてと・・・」


ナイトはボーとしているフロントの肩を叩く。


「兄ちゃん、兄ちゃん、」

「あ、ナイト・・・様・・・あ、資料ですか?」


我に返ったフロントは慌てて資料を探し出した。


「様、はもういいよ、それに仕事終わってるし、シュウも帰ったよ」

「え!?」


フロントは周囲を見回し、窓からのぞく夕日を見て、やっと時間の経過に気付いた。


「ご、ごめん!!」


フロントは頭を深く下げた。


「いいよ、俺もフローレスのこと黙ってたし。まさか、こんなにショック受けるとは思わなかったけど」


ナイトの感想にフロントはゆっくり顔を上げる。


「私がいるのに・・・なぜ・・・」


フロントは震える声で話し出した。

それは怒りではなく、悲しんでいる声だった。


「フローレスが騎士になるのやっぱり反対か?正直、俺は向いてると思うんだよな」


ナイトが聞くと、フロントは小さく頷く。


「才能があるのは認める。でも、フローレス様に剣を握ってほしくないんだ」

「兄ちゃんのためだって言ってたよ。足手纏いにならないように、自分の身ぐらい守れるように・・・・・・・・」


ドン!


フロントはナイトの言葉を遮るように机を叩いた。



「フローレス様は、私の罪を被ろうとしたんだ」







『フロントは悪くない、私を守ってくれたんでしょう?今度は私があなたを守る!』


フローレスは落ちていた剣を握り、すでに息絶えているジェラードの元へ歩いて行った。





「そういって、剣を持ったフローレス様を私はとめられなかった・・・」


その光景を思い出しているのか、フロントは目を強くつぶって、拳を握り締めていた。


「・・・・・・・・・・兄ちゃん・・・」


過去の悪夢と戦っているようだった。

しかし、目を開けると、そそくさと後片付けを始めた。


「フローレス様がそう簡単に騎士と認められるわけがない」


フローレスに対する親衛隊の感触は悪くなかった。

現実を否定するような言葉をフロントは口にする。


「そうだとも。それにフローレス様は飽きっぽいからすぐに根を上げるに決まっている!」


『そうだろうか?』


フロントの決めつけにナイトは心の中で、反論した。

他のことはわからないが、剣術に関しては、我流で腕を磨き続けたとしか言いようがない。


「じゃ、親衛隊が認めたら、兄ちゃんも認めるんだよな?」


ナイトの問いにフロントは一瞬黙ったが、


もちろんだ、と答えた。


「兄ちゃんの気持ちわからなくもないけど、俺はフローレスを応援するから」


ナイトがフローレスの味方をすることを宣言すると、フロントはそうか、と呟いて部屋を出て行った。




***




夕食は寂しいものだった。

フローレスとフロントは来ず、義父母も姿を見せなかった。

それぞれ仕事があって、夕食は家族がまばらなことが多かったが、今日は違うだろう。

ネティアと2人だけで食事を始める。

しかし、会話はほとんどなかった。


「ごちそうさま」


ナイトは食事を終えると早々と立ち去ろうとしたが、


「お待ちください!」


案の定、ネティアに呼び止められた。


「フローレスのことか?」

「はい・・・」

「兄ちゃんから話は聞いた。でも、俺はフローレスを応援する」

「・・・フロントは納得しましたか?」

「いいや、でも、ネティアもわかってるだろう?俺、あいつに頼み事されると断れないんだよ」


ナイトは頭を掻きながら、困った顔をする。

大切な2人だ。

しかし、フロントとフローレスを天秤にかけると、フローレスに傾いてしまう。

前世の義妹フローネのお願い事というか、無理難題をほとんどといっていいほど聞いていた。

それを思い出して、ネティアが笑みを零す。


「そうでしたね・・・では・・・・・あの場所に行かれたんですか?」

「ああ、まだあったんだな。『フローネの墓』・・・」

「ええ・・・」


フローレスの秘密基地にあった小さな祠は前世のナイトとネティアが作ったフローネの墓だった。

その墓の下には彼女の肉体はない。

彼女が彼からもらった『白金の指輪』が埋められていた。

彼が必ず戻ると、と言って残した約束の指輪だ。


「危ない目に合わないように、俺達が近くで見守ればいい」

「そうですね・・・」

「大丈夫だ、今度こそ、あいつら一緒になるさ」


ネティアは涙目で微笑みながら頷いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ