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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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説得

夜、レイガルは本を読みながら一人自室で寛いでいた。

そろそろ、寝ようかと持っていると、窓がノックされた。

カーテンを開けると、よく見知った笑顔があった。

窓を開ける。


「まだいたのか」

「なんだ、冷たい言葉だな」

「ビンセントがレイス領に帰ってから2週間は過ぎたぞ。水の国はそんなに暇なのか?」

「暇ではないが、息子達の一大事だぞ」

「相変わらず親ばかだな」


レイガルは微笑を零して、夜に忍んできた友人を部屋の中に入れた。


「フロントがな、とうとうフローレスちゃんにプロポーズをすことにしたんだぞ」

「ほうそれは初耳だな」


友人のためにコーヒーを入れて持ってきた。

ウォーレスはそれを一口のんで、続ける。


「目の上のたんこぶがいなくなったから踏み切れたのかもな」

「ビンセントか・・・あいつも気の毒な奴だ」

「息子にちゃんとした愛情を注がなかったからだ」

「お前は過剰だと思うがな」

「いいだろう、2人ともちゃんと、まともに育った」


ウォーレスは自慢げに腕を組む。


「そうだな・・・」


フロントとナイトの姿を思い浮かべてレイガルは苦笑を漏らした。


「ナイトとネティアちゃんはまだ時間がかかりそうだから、フロントとフローレスちゃんに期待するか」

「何をだ?」

「孫にきまってるだろう」

「ああ、なるほどな・・・」


レイガルはどこか他人事みたいに呟いた。

ウォーレスが怪訝な顔で覗き込んできた。


「お前、嬉しくないのか?」

「嬉しくないことはない。だが、喜んでいいのかはわからない」

「ビンセントに遠慮しているのか?」

「そういうわけではない」

「じゃ、なんだ?」


レイガルはしばらく黙考した後、


「たまに思うことがあるんだ。フロントが無理をしているのではないかと」

「無理?フローレスちゃんと結婚することがか?」


レイガルは静かに頷いたが、ウォーレスに一笑に伏せられた。


「そんなことはない、フロントはフローレスちゃんにゾッコンだ」


レイガルはそうかと呟いて黙った。




***




早朝。

ナイトは眠い目を擦りながら、フローレスの秘密基地から帰ってきた。

部屋のドアを開けると、


「よ、ナイト。朝からどこにってたんだ?」


父ウォーレスがナイトのベッドの上に腰を下ろしていた。


「・・・・・・・・・まだいたのか?」

「その言葉聞くの2回目だな」


ため息をつきながら、ナイトのところまで父はやってきた。


「で、なんの用だよ?」

「それはもう、フロントとフローレスちゃんのことに決まっているだろう?」


嬉しそうに話し出す父にナイトは、ああ・・・、と流すだけにした。


「なんだ、お前、嬉しくないのか?兄ちゃんが結婚を決めたんだぞ?」


ナイトの冷めた反応に父は驚いていた。


「いや、嬉しいさ・・・でも、まだ、早いと思うんだよな・・・」

「何か問題でもあるのか?」

「それがさ、フローレス、騎士になりたいっていってるんだ。だから、こっそり、朝稽古」

「騎士に?」


父は沈思した後、


「フローレスちゃんはレイガルの娘だし、素質は十分あるだろうな、お転婆だし」

「うん、でも、兄ちゃんはフローレスが騎士になるの大反対なんだ」

「・・・そうかもな。フロントは優しい子だから、愛する者に手を汚させたくはないだろう」

「でも、俺、思うんだけど、フローレスにも身を守る術や処世術が必要だと思うんだ。何かと、危ない立場だし・・・」

「まあ、お前が言うこともわからんでもない。お前はフローレスちゃんを騎士にするつもりか?」

「そのつもりだ。兄ちゃんには悪いけど、俺、1人でも多くの味方が必要だからさ。もちろん、フローレスを危険にさらすつもりはさらさらない」

「お前が決めたのなら、フロントもわかってくれるだろう」


父は宙を見つめた後、


「それなら、フローレスちゃんを騎士にすることを公表した方がいいだろう。黙っているとフロントやネティアちゃん達の不興を買うぞ」

「・・・そうするつもりだ。ちょっと、兄ちゃん達の反応が心配だけど・・・」


ナイトが不安を漏らすと、父は豪快に笑った。


「騎士にしてやると、約束したんだろう?なら、叶えてやらないとな。しっかりと、お前が後ろ盾になってフローレスちゃんを守ってやればいい。それだけの力はお前にはある」


父の言葉にナイトは勇気づけられた。


「では、吉報を待っている」

「ああ、ありがとう・・・」


後ろ手に手を振って出ていく父の背を久々に眩しく感じた。




***




「大丈夫かな?」


フローレスは緊張した面持ちでナイトを見上げてきた。

父と話した翌日の朝、ナイトは早速フローレスを騎士見習いするための話をフロントやネティア達にすると、話した。

その話を聞いた時はフローレスは鼻息荒く、喜んでいた。

しかし、実際に話をする段に入ったら、思い悩んでいるようだった。


「大丈夫だって、俺が付いてるんだから」


ナイトはフローレスの肩を叩いて元気づけた。


「騎士になって、俺とネティアの力になってくれるんだろう?」

「も、もちろんよ!そして・・・」


フローレスは少し気後れしたが、当初の目的を思い出して力強く答えた。

しかし、その目的には続きがあったようだ。


「そして?」

「・・・・フロントを見返してやるの!」

「見返す?」


ナイトは目を丸くすると、ライガが上から降りてきた。


「お、フローレス様、気合入ってるっすね!」

「ライガ、お前も来るのか?」

「そうっすよ、フロントが暴れた時のために。俺ぐらいしかフロント止められないっすから」


ライガの物騒な言葉にナイトは心配になる。


「フロント、暴れるのか?」

「フローレス様のことすっからね、ことと場合によっては」

「私の剣の腕、フロントに見せつけてやるんだから!!」


フローレスは腕を巻く仕上がて、この場にいないフロントに宣戦布告している。


「なんか、フロントと戦うつもりみたいだな」

「それは絶対にないっす。フロントが応じないっす。しかし、フローレス様の剣の腕前を披露する必要があるっす」

「ああ、それは考えてある。一石二鳥になるかどうかわからないが・・・まあ、やってみるしかないな」


話していると、ドアをノックする音が聞こえた。


「おはようございます、ナイト様・・・あれ、フローレス様?」


フロントがドアを開けて、目を丸くしている。

朝早くからナイトの部屋にフローレスがいたからだろう。


「こら、俺もいるぞ」


怪訝な顔をするフロントにライガが声を上げる。


「ああ、いたのか?」

「お前がフローレス様に付いていない時は俺が付く決まりだろう」

「そうだったな・・・それで、なぜ、フローレス様をナイト様の部屋にお連れしたんだ?」


フロントがやんわりと疑問を投げてきたが、その目は鋭かった。


「それは、後で話すよ」


ナイトが口を開いたので、フロントはライガへの追及を断念した。


「大事な話だから、みんないるとこで話したいんだ」

「大事な話?」


聞いてないぞ、という顔をフロントに向けられてナイトは苦笑いを返す。

フロントはプロポーズの準備に気を取られていて全く気付いてなかったようだ。


「さあ、早く朝ごはん食べに行こう。話はそのあとで」


お腹の虫が鳴ったフローレスがナイトの手を取り、走り出す。


「え、!?フローレス様!」


フロントが驚きの声を上げると、ライガがすっと、立ちふさがる。


「じゃ、俺達も行くか?」

「その手を引っ込めろ!誰がお前と行くか!」


ライガが伸ばしてきた手を叩き落として、フロントはナイト達の後を追ってくる。

ちょっと、怒っている。


『大丈夫かな・・・』


フローレスにひっぱられながら、ナイトには不安しか浮かばなかった。


「あら、フローレス、今日はナイト様と一緒に来たの?」


食堂に来ると、ネティアが目を丸くしてナイトと手を繋いでいるフローレスをシゲシゲと見つめてくる。

ナイトは気が気ではなかった。

ネティアが勘違いするのではないかと。


「うん、ちょっとね、ナイトにお願いしたことがあったから」


話しているフローレスがナイトの手を強く握り締めてきた。

無意識なのだろうが、強い決意の現れだ。

ネティアはちらりとナイトの方を見てきた。


「ナイト様、お忙しいのにフローレスのお願いを聞いてくださったんですか?」

「ああ、まあ・・・俺のためにもなるからいいかな・・・って」

「そうだったんですか。ありがとうございます」


ネティアは嬉しそうに頭を下げてきた。

ナイトはちょっとがっくりした。

嫉妬のかけらも感じなかった。


「でも、俺の一存じゃ決められないから」

「ネティアと母上にも私のお願い聞いてほしいの」

「どのようなことなの?」

「食事の後で話すよ」


義父母とフロントが食堂に現れたのでナイトは緊張した面持ちで席に着いた。

フローレスも行儀よく席についていた。

朝食のスタートは重苦しかった。

しかし、フローレスとの稽古後でお腹がすいていたナイトはあっという間に食事を平らげてしまった。


「まあ、ナイト様もフローレス様もよっぽどお腹がすいていたんですね」


ネティアが微笑みながら話しかけてきた。

見ると、フローレスも同じタイミングで食事を終えていた。

苦笑いを互いに浮かべて、一足早く2人でコーヒーを飲みながら、ネティアたちの食事が終わるのを待った。


「ナイト、何か話があるようだが?」


レイガル王が話しかけてきた。

ナイトは意を決して立ち上がった。


「実はお願いがありまして・・・」


ナイトはフローレスを一瞥する。

フローレスはゆっくりと頷いた。


「願いとは?」

「フローレスを俺の配下の騎士にしたいと思っています」


沈黙が返ってきた。


「・・・フローレスを騎士にですって?」


今まで聞いたことのない義母の底冷えするような声に、背に冷たい汗が流れた。


「・・・・・ダメでしょうか?」

「フローレスは王女です。守られる立場の人間です。騎士は守る側の人間。守られる側の人間が騎士になったところで、標的になるだけです」

「そうです、危ない目に合うだけです!」


ティティス前女王の意見にフロントはすぐさま追随した。

レイガル王とネティアは困惑して話の行方を見守る。


「その点は考慮しています。だから、俺の護衛として傍に置くつもりです」

「傍において、あなたが守るということですか?それは騎士といえるのですか?」

「義母上、騎士の仕事は剣を持って戦うことだけではありません」


義母の勢いにナイトははじめ気後れしたが、反論を開始した。


「と、う言うと?」


一瞬黙ったティティス前女王が話を促す。


「騎士として剣の技量は必須です。しかし、騎士が剣を抜くことなど、この王宮内ではほとんどない。代わりに必要なのは権力。その権力を持たない者は排除される。だから、俺は、フローレスに権力を与えたいのです」

「フローレスは王女ですよ。権力ならあります」

「本当ですか?王女は地位であって権力ではありません。たとえ、女王でもあっても、権力闘争に負ければ、佞臣に傀儡にされたり、都合により幽閉、最悪、暗殺されたりするんです」

「ナ、ナイト様、ティティス陛下に対して無礼すぎます!」


フロントが青ざめた顔で批判してきたが、ナイトは引かなかった。

王家の歴史を紐解けば出てくる事実だ。


「無礼は承知だ。義母上に問います。今のフローレスに人を動かせるだけの力がありますか?俺にはフローレスが自由を奪われ、孤立しているように見える」


ティティス前女王は何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。

フロントとネティアが心配そうにティティス前女王を見つめている。

レイガル王は目をつぶっていた。

フローレスはナイトの袖を握ってきた。

震えが伝わってくる。

硬直状態に入った。

ナイトの言葉は的を得ていたようだ。

次の一手を打つ。


「ネティアは反対か?」


母と妹の間で揺れているネティアに発言を求める。


「え・・・・・・・」


意表を突かれたネティアは動揺していた。

現女王はネティアだ。

本来、前女王に決定権はない。

ナイトはネティアに決断を委ねたのだ。

ネティアならきっと最愛の妹の味方になってくれると信じて。

ティティス前女王は黙ってネティアの方を見る。

フローレスもすがるような目でネティアを見ている。


「わ、わたくしは・・・・」


ナイトの予想に反してネティアは賛成するのをためらっていた。

ネティアの視線の先にはフロントがいた。

臣下であるフロントにはもちろん発言権はない。

だから、目で必死にネティアに訴えていた。

ネティアにとってフロントも大切な存在なのだ。

ナイトにとってもそれは同じだった。

だが、フローレスを今の状態のまましておくことはできなかった。

たとえ、フロントと対立したとしても。



「やらせてみてもいいんじゃないのか?」



複雑に絡み合う状態を一刀両断したのはレイガル王だった。


「え、いいの!?」


フローレスが歓声を上げた。


「何を言い出すの、あたな!」


ティティス前女王が抗議の声を上げたが、


「フローレスをお前の護衛につかせるとは、具体的にはどういうことだ?」


レイガル王は無視してナイトに訪ねてきた。

現王は義父だ、すっかり忘れていたが。

虹の国では人事は王の権限だ。

次の王になるナイトはレイガル王から権限を与えられていた。

つまり、レイガル王に認めれもらえば、フローレスの願いは叶う。


「はい、具体的には親衛隊の隊長に任命しようと思っています」

「「し、親衛隊に!?」」


反対派のティティス前女王とフロントは驚きの声を上げたが、レイガル王は冷静だった。


「なるほどな・・・親衛隊は女王直属、王宮内で私達の目の届く範囲にいるということだな」

「はい、何もさせずに、どこで何をしているかわからないよりははるかに有意義で安全だと思います」

「しかし、親衛隊はただの騎士団ではありません!」


フロントが食い下がってきた。


「フローレスの実力は俺が保証するし、王女の身分なら親衛隊の隊員も従うはずだ。後は女王が承認するかしないか?」


ナイトは再びネティアに判断を仰いだ。

ネティアはフロントの方を一度見てから、


「わたくしはフローレスが騎士になることを認めます」

「ネティア様・・・!」

「ごめんなさい、フロント。わたくしもフローレスを今のまま1人にしておきたくないの」


ネティアが賛成し、ティティス前女王も仕方ない様子を見せても、フロントはなおも反対を続ける。


「親衛隊は認めたのですか!?」

「それはまだだ・・・」

「親衛隊が認めるはずありません!」

「何でよ!?」


黙っていたフローレスがフロントに食って掛かる。


「親衛隊は男だけの隊ですよ。女性が入隊したことなど一度もありません」

「それが何よ!それだけで認められないの!?」

「女性は男性に比べて非力です。男だけの親衛隊にとっては女性の隊長など認めるはずがありません!」

「認めさてみせるわ!一番強い者が隊長になれるわけじゃなんいんだから!」

「どうやって、認めさせるんですか!?正直言ってフローレス様のお頭はよくないですし、王女としての気品のかけらもないです!」

「な、なんですって!?」

「自覚がないんですか!救いようがないですね!」


フロントとフローレスが取っ組み合いの喧嘩を始めようとしたのでナイトとライガが慌てて間に入った。


「フローレス、落ち着け」

「これが落ち着いていられる!?」

「本当のことです!」

「こら、フロント、らしくないぞ」


ライガにさえぎられたフロントは口を閉ざした。

2人が落ち着いたところで、レイガル王が決定を下した。


「親衛隊がフローレスを受け入れたのなら、騎士となることを認めよう」

「やった、やったわ!ナイト!!」


決定を聞いたフローレスは大喜びでナイトに抱き着いてきた。

フロントは不貞腐れて背を向けた。




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