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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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剣の稽古

ナイトは多忙を極めていた。

虹の国のことを学びながら、義父王の公務をも代行しなければならなかった。

事務作業が苦手な義父王に変わり、ナイトはその処理も行う。

昼は会合や集会、会議に参加し、夕方は明日の予定の予習。

夜は、子孫を残すために、ネティアの寝所に赴き、親衛隊と戦い。

ボロボロになって、眠りにつく。

ゆっくりできるのは起きてすぐの朝の時間ぐらいだ。


コンコン。


見ると、ライガが窓の外にいた。

窓を開けると、ひょいっと入ってきた。


「朝早くすいませんっす」

「どうした?何かあったのか?」

「緊急の要件と言わけではないんすけど・・・」


緊急の要件だと思って中に入れたが、ライガは申し訳なさそうに頭をかいている。


「そうか・・・」


ナイトはベッドに戻っていく。


「え、また寝るんすか!?」

「俺は多忙なんだ。貴重な睡眠時間をあと1時間でも堪能したい。私用ならまた後で来てくれ」

「昼間はダメなんすよ!」


ベッドに潜り込んだナイトだったが、布団を剝がされる。


「多忙なのはわかってるっす。失礼を承知で伺ったす。内密でお話があるっすよ!」

「内密って、誰に?」


ナイトは気だるそうに起き上がって聞くと、ライガは辺りを伺ってから、耳打ちしてきた。


「フロントっすよ」

「フロントにバレたらまずいのか?」


ライガは重く頷く。


「とりあえず、一緒に来てくれないっすか?フローレス様のところに」

「フローレスのところに?」


義妹の名前が出て来たのでナイトは目を丸くした。




***




フローレスは秘密基地でライガが戻ってくるのを今か今かと待っていた。

ナイトを説得する算段を頭の中で繰り返しながら。

木々にトンネルを抜けて、ライガが顔を出した。

ライガの顔は明るい。

フローレスがライガの元に駆け寄ると、ナイトが顔を出した。


「フローレス様、お連れしたっす」

「ありがとう、ライガ!大好き!」


フローレスはライガに抱き着いて喜びを表現した。

ナイトは不思議そうにフローレスの秘密基地を見回している。


「虹の神殿の中にこんな広場があったのか・・・」

「私が見つけた秘密基地よ。ようこそ、ナイト!」


フローレスはナイトの手を掴んで歓迎した。


「・・・不思議な場所だな・・・・」

「そうっすね。フローレス様が許可した人間しか入れないっすよ。結界の一種みたいなんすけど、術者はいないんす。でも、どうもあの祠がこの空間を作っているみたいなんすよね」


ライガの説明を聞いて、ナイトは祠に近づいてじっくりと観察する。


「なんか、私、その祠に気にいられたみたい」

「・・・・うん、そうだな・・・・」


顔を上げたナイトは一瞬悲しそうな顔をしていたが、


「で、俺に話ってなんだ?」


すぐにいつもの顔に戻っていた。


「私に剣の稽古をつけてほしいの!」


聞かれて、すぐ即答した。

ナイトは目を丸くしている。


「そんなことか?」


拍子抜けしていたようだ。


「そんなことじゃないわよ!誰も私に剣の稽古をつけてくれないのよ!!」

「え、そうなのか?」


ナイトはライガの方を見る。


「お教えしたのは山々なんすけど、ご身分ご身分ですし、フロントとティティス様が特に反対されてるんす」

「そうなのよ、フロントと母上は過保護なのよ!」


ナイトは顎に手を当てて考えている。


「義父上とネティアは反対してないのか?」

「レイガル王はフローレス様の一番の理解者っす。その証拠にフローレス様の剣はレイガル王が下さったものっす。ネティア様は中立っすね。フローレス様の意思を尊重してくれてはいるんすけど、危ないことはさせたくないみたいっす」

「でも、父上、教えてくれないのよ!」

「それは、レイガル王は強すぎるっすから、娘をケガさせちゃいけないっていう親心すっよ」

「でも、ちょっとくらい見に来てくれてもいいじゃない?」

「レイガル王はティティス様が恐ろしいんすよ」


フローレスは口ごもった。

父だけではない。

フローレスも母が怖い。

ネティアも母には逆らわない。


「それで、なぜ俺に?」

「フロントに対抗できる人間がいないかなって考えてたら、ナイトが浮かんだの!そしたら、ナイトはネティアの夫で、未来の虹の王だから、母上にも対抗できるんじゃないかって」


フロントとは元兄弟の間柄だが、身分はナイトの方が上。

強さもフロントに引けを取らない。

虹の女王に即位したネティアの夫で、行く行くは虹の国の実権を握る王になる。

つまり、前女王である母にも対抗できる。

目を輝かせて、フローレスは迫ったが、ナイトは頭を抱えている。


「まあ、立場的にはそうだけど、俺もフロントと義母上を怒らせたくないな。ネティアもあんまりいい顔しないんだろう?」


婿入りしたナイトとしては家族と波風を立てたくないのが本音だ。

だが、フローレスはとっておきの策を用意しておいた。


「私、ナイトの家来になってもいいよ」

「え!?」


ナイトは驚いてフローレスを見る。


「だって、何にもすることないんだもん」

「何もすることないって・・・?」


目をしばたかせているナイトにライガが説明する。


「本当っすよ。フローレス様はこうやって剣の稽古を一人でされるか、街にお忍びで出かけられるか。レイガル王同様、狩りや魔物退治に興じてらっしゃるんっす」

「なんでまた?」

「だって、社交の場って退屈なんだもん。ついでに、勉強も嫌いだし。魔法もダメでしょう?でも、剣は、自分で言うのもなんだけど、けっこういい線言ってると思うのよ。だから、騎士になるって、宣言したけど、母上に却下されたの」

「そんなわけでこんな状態なわけっす」

「それは、もったいないな・・・」

「でしょう!?」


同調してくれたナイトをすかさず押す。


「うん、でも、母上達の気持ちもわからなくはいな・・・騎士は危ないもんな・・・」


ナイトは目をそらし逃げようとする。


「もし、私をナイトの家来にしてくれるんなら、私、親衛隊の隊長になるわ」

「親衛隊の隊長!?」


驚くナイトにライガがすかさず売り込みをかけてくれる。


「そうっす、親衛隊なら王宮内だから安全っす。ネティア様やティティス様の目の届くところっす。フローレス様は親衛隊にも引けを取らなっすよ。女王の双子の妹っていう身分もあるからピッタリっす」


ナイトは腕を組んで考え始めた。

揺れている証拠だ。


「でも、親衛隊の奴らが、受け入れるかどうか・・・」

「受け入れさせてみせるわ!」


フローレスは断言した。

自信があるわけではなかったが、なんとかして見せるという気概から出た言葉だった。

しかし、ナイトは難しい顔をしている。

後、一息、何か決め手が必要だ。

効果があるかわからないが、フローレスはいうだけ言ってみる。


「私が親衛隊の隊長になったら、ネティアの寝所に普通に通えるようになるわよ!」


ナイトの腕組みが解けた。


「え、普通に・・・本当に?」


兄や義母への遠慮より、新妻への愛が勝った。


「約束するわ、私がいつでもネティアに会わせてあげる!」

「よし、わかった。お前を鍛えて、親衛隊の隊長に推薦しよう!」

「やった!」


ナイト攻略に成功したフローレスは満面の笑みでライガを見る。


「やったすね、これから大変っすよ」

「望むところよ!みんなを驚かせてやるわ!」


フローレスは鼻息荒く宣言した。







フローレスを親衛隊の隊長にすると約束したナイトだったが、やはり、実力が必須だ。

彼女が我流で身に着けた剣技がいかほどのものか、実力を知る必要がある。


「よし、早速だが、手合わせするぞ!お前の実力を見せてもらう」

「は、はい!!」


フローレスは嬉しさのあまり声が上ずった。


「じゃ、木刀で」


ライガがナイトとフローレスに木刀を渡す。

フローレスは緊張しているのか、木刀を構える手が震えている。

ナイトは何回か木刀を素振りして手になじませてから構えた。


「遠慮はいらないぞ。本気で掛かってこい」


ナイトが声をかけると、フローレスは唾を飲み込んで頷くも、緊張のあまり動けないでいる。

大丈夫か心配になるが、


「だそうですよ、フローレス様。本気で行っちゃってください。俺がちゃんとみてますから」

「うん、ありがとう・・・」


フローレスの緊張をライガがほぐした。

フローレスは目を閉じて深く深呼吸をする。


「ナイト様、準備はいいっすか?」

「え、ああ・・・」


ライガが意味ありげに笑いかけてきた次の瞬間。


「やあああああ!」


いつの間にフローレスが目の前に踏み込んできていた。

その瞬発力にナイトは度肝を抜かれた。

間一髪横に飛んで剣先をかわしたが、冷や汗がどっと吹き出した。

フローレスが振り下ろした剣先の地面の草が風圧で吹き飛んでいた。

スピードもさることながら力も凄まじい。

拍手が上の方から聞こえてきた。

ライガは木の上に上って見物に興じていた。


「さすがっす、フローレス様の本気の切込みは、俺ですら気を抜けないっす」

「確かに・・・」


ナイトは体制を立て直したフローレスから目を離さずに答える。

鬼神でも降臨したかのように目を爛々と輝かせて、再びナイトに向かってきた。


「やあああああ!!!!」


斬撃の嵐がナイトに襲い掛かる。


『速い、しかも、重い・・・!』


フローレスは大の男並みの力を有していた。

しかし、攻撃は単調だった。

斬撃も長くは続かない。

切れたところで、ナイトは反撃に出た。

木刀を横に一閃。

フローレスの木刀を払い落すつもりだったが、後ろに飛ばれ逃られた。

体力の回復をさせながら、間合いを見て詰めてくるかと思ったが、なんと、すぐに再び攻め込んできた。

再び斬撃の嵐が待ち受けていた。

イノシシのような突進と体力にナイトは度肝抜かれる。

攻撃は読みやすいが、防御による体力の消耗が激しい。

攻勢に出て早急に勝負をつけなければ、負ける。


「あ、朝食の時間30分前には部屋に戻ってくださいっす。バレますんで」


ライガが時間制限をつけてきた。

もちろん、そのつもりだ。

ナイトは反転攻勢でて早期決着を狙うも、フローレスはすばしっこかった。

まるで蛇のようにクネクネと攻撃をかわされてしまう。

焦るナイトに疲労の色が出た隙をフローレスは見逃さない。

頬を剣筋掠めた。

かすり傷ができた。


「あ、ナイト様、ケガしないでくださいね。直通でネティア様にバレちゃんで」

「無茶言うな!」


ライガの注文にナイトは切れた。

フローレスの実力は予想をはるかに超えていた。

スタミナも男のナイトよりもありそうだ。

スタミナ切れを狙うのは無理そうだ。

長期戦、怪我もやむなしの強敵だ。

寝不足だの、運動不足だの言ってられない。

ナイトも本気の構えを見せた。

すると、ライガまた、


「あと、フローレス様にも傷一つつけないでくださいっすね。マジでフロントに殺されるっすから」


ナイトの本気の構えが崩れる。


「どうやって、戦えっていうんだ!?」

「それは、ナイト様の実力で、うまくフローレス様を負けさせてくださいっす」


ライガの脅迫まがいの無理難題と猪突猛進のフローレスを相手にナイトの苦悶の朝練の日々が突如として始まったのだった。







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