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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
9/134

出発前の準備

ほとんど眠れないままナイトは肌寒い朝を迎えた。

差し込む朝日に導かれるようにカーテン開けると、広大な森と遠くにそびえる山脈が目に飛び込んできた。

ここは虹の国との国境に近い水の王家の別荘地。

ナイトは父王を誤って切り付けてしまった罰として、謹慎を申しつけられたのだ。

だが、それは表向きのこと。

本当は虹の国の姫ネティアとランド領主の婚約をぶち壊すためにはるばるやってきたのだ。

その目的は公にはできない。

水の国で知っているのはナイト本人と企てたナイトの父、水の王ウォーレスと宰相スパークだけだった。

ナイトの直属の部下も知らなかった。


『さて、どうやって行くかな…?』


ナイトは窓際に腰かけてこれからのことを考える。

1人で行くことにはしていた。

部下達は置いていく。

今回の任務は国家機密だ。

父王を切りつけた事件のこともある。

彼らに要らぬ心配をさせたくなかった。

しかし、ナイトが突然いなくなると探し出すのは目に見えている。

特に、右腕のシリウスとお目付け役のライアスの2人は危険だ。

シリウスはナイトが投獄中にいる時、宰相に直談判したり、衛兵に追い出されてもなお、城の門を離れず嘆願し続けてくれていた。

忠義に厚いいい男だ。

だが、ナイトに置いて行かれたことを知ったらシリウスは発狂することだろう。

逆に、ライアスはあまり忠義臣がない。

ナイトを子守している感覚なのだ。

保護者面するだけあって、嗅覚はすごい。

ナイトが何も言わずにフラッと出かけてもついてくる。

ライアスには野生の感があるのだ。

この超デリケートな任務中に現れると困る奴だ。

後の3人は比較的理解がある。


アルトは、「王子の好きになされるといいと思いますよ。私はただあなたに従うまでです」


ルビ、「1人になりたい時ってありますよね、王子もたまには息抜きをしないと。あ、俺、見なかったことにするんで」


リュック、「僕は何も見てませんから!」


と今まで事あるごとに見逃してくれた。

だが、シリウスとライアスだけは融通が利かない。


トントン…


ナイトが考えあぐねていると遠慮がちなノックの音が聞こえてきた。

シリウスが朝食を持ってきてくれたようだ。

ナイトがまだ落ち込んでいると思って、入りずらいのだろう。


「入れ」


許可すと、扉が静かに開いた…


「おはようございます、王子!!!!」


予想に反して一番に入ってきたのはライアスだった。

ナイトが沈んでいるのに対し、超ご機嫌だ。

『お誕生日おめでとう!!!』的なのりで入ってきた。


『こいつ、楽しんでやがるな…』


ナイトは殴りかかりたいのを堪えた。


「お食事を持って参りました!」


ライアスが言うと、ドアからルビとリュックが1台ずつ台車を押してきた。

ナイト1人分にしては多すぎる。

最後にエプロン姿のシリウスまで入ってきた。

シリウスも台車を押してきた。


「まさか、お前らここで食べるのか?」

「その、まさかです!」


ライアスはニカッと笑うとテーブルクロスを広げた。

そこにルビとリュックが食器類を並べる。

準備ができたところにシリウスが料理を盛っていく。


「王子、どうぞ、お席に」


アルトが椅子を引いてくれたので、ナイトはそこに座った。

座ってからライアスを覗く4人の顔を窺う。

皆、普通にしていた。

しかし、ちょっと、シリウスは落ち込んでいるようだ。


「それではいただきましょうかな」


ライアスがどっかと腰を下ろし、手始めにパンに手を伸ばした。


「この不忠者め!まずは王子からだろうが!」


シリウスは目にもとまらぬ速さでパンの入ったバスケットを引くと、ナイトに差し出した。


「王子、どうぞ。出来たてですよ」


ナイトはまだ熱々のパンを頬ばった。


「うまい!さすが、シリウスだな」

「お褒めに預かり光栄です!」


シリウスの誇らしげな顔を見てから、アルト達は食事に手を付け始める。

ライアスもパンを手にする。


「全く、かわらんな、あいつは」


ライアスはムッスリした表情でパンにかぶりつく。


「それを言うならライアスだって変わらないよ」


リュックがハムエッグを食べてから返した。


「そうか?」

「そうだよ、主より先に食事に手を出しちゃいけないだろう」

「そうだ、そうだ」


ルビがガバガバとパンをかじりながらリュックに賛同する。

ライアスは不満気にアルトを見るが、


「リュックが正しい」


素っ気なく言われた。


「私は、王子の食欲がないだろうと思ってだな、率先して食べたのだ」

「ただ食べたかっただけだろう」

「俺、食欲大ありだけど」


言い訳するもシリウスに一刀両断され、ナイトが止めを刺す。

一斉集中砲火にライアスは孤立した。


「何か、虐められてるような…」

「うん」


リュックが事も無げに言うとライアスの瞳に光るが。


「皆で寄ってたかって酷いじゃないか!」

「お前は王子の元を去った裏切り者だからな」


シリウスがスープをすすりながら冷たく言い放つ。


「確かに王子の元を離れたが、裏切り者はないだろう?今こうして一緒にいるじゃないか」

「見張り役としてな」


シリウスはフォークを立ててライアスを睨みつける。

今にも襲い掛かりそうだ。


「まあ、それは置いといて…王子を励ますために一緒に朝食を取ろうと提案したのは私だろう?」


周囲に賛同を求めると一瞬、静寂が広がった。


「ああ、そうだったね」

「忘れてた…」


リュックとルビが思い出したように呟く。


「お前ら!」

「ライアス、お前にしてはいいアイディアだった」


アルトがフォローを入れるが、


「アルト、お前、言葉に棘があるぞ!ああ、そうだとも!私は見張り役で裏切り者だからな!自分の部屋で1人で食べる!」


怒ったライアスは台車を1台掻っ攫うと乱暴に扉を閉めて1人出て行った。

静寂が返ってきた。


「褒めたつもりだったのだがな…」


アルトが閉まった扉を見て首を傾げた。


「ちょっと、虐めすぎたみたいだね」


リュックは後悔しているようだった。

ライアスが出て行ってしまったことで部屋が静まり返ってしまったからだ。

彼らにはこんなことはできなかった。

ナイトの身近にいなかったライアスだったからできたのだ。

ナイトはナイフとフォークをテーブルに置いた。


「皆、心配かけたな」


明るく言ったつもりだが、皆の表情は暗かった。


「謹慎が解けたらさっさとシープールに帰りましょう!みんな心配して待ってますから!」


ルビが力強く言った。


「そうだよ、水の国の王位が何だよ。何なら、王子を立ってシープールを国にしちょうおうよ!ね、シリウス!」

「…ああ、そうだな…シープールの富は他国の小国より、はるかにあるからな…!」


盛り上げようとするリュックの言葉に乗ったシリウスだったが、声は掠れていた。

現実には独立などありえないことを理解しているからだった。

アルトは何も答えなかった。


「そうだな、帰ったらゆっくり休むとするか!御馳走さま!」


ナイトは明るく答えてベランダへ向かった。

勇気づけてくれる気づかいが嬉しくて、悲しかった。


「後片付けにしよう…」


アルトが言う皆無言で立ち上がり、皿を片付け始める。

片付けはゆっくりで、皆、時折ベランダにいるナイトの様子を窺っているようだった。

ナイトはまだ肌寒い風に当たりながら気づかないふりをした。


「王子、片付けが終わりました」


ルビの明るい呼びかけでナイトは部屋へ戻った。

戻ってきたナイトを部下達が温かく迎える。


「我々は昼は出かけますが、夕食はまたみんなで食べましょう」

「僕とルビとライアスで魚を釣りに行くんですよ、楽しみにしてくださいね」

「夕飯は川魚か、いいな。期待してるぞ、リュック」

「任せてください、絶対大漁ですから!」

「リュック、遊びに行くんじゃないんだぞ。それにお前、釣り初めてだろう?」


ルビは指摘したが、


「取れるよ!だって、たくさんいるんだろう?」

「…まあ、数打ちゃ当たるかな…」


リュックの楽しそうな顔を見るとバッサリ切り捨てるようには言えなかった。


「ルビ、リュック」


急にアルトが口を開いた。


「魚釣りを頼んでおいてなんだが、朝食の片付けも頼んでいいか?」

「え…」


ルビとリュックは顔を見合わせ、シリウスを見る。

シリウスは元気がなかった。


「片付けくらいなら、私が…」

「そうじゃない…」


アルトはナイトに視線を向けてきた。


「話したいことがあるのです…」


声の調子から重要なことだと察したルビとリュックは静かに頷いて部屋を出て行った。


部屋には、ナイト、シリウス、アルトの3人だけになった。


「話とはなんだ?」


シリウスが早々に口を開いた。

アルトは懐から手紙を取り出し、ナイトに渡した。


「これは?」

「虹の国からの密書です」


アルトの口から『虹の国』と言う言葉を聞いて、思わす手紙を開く手を止めた。


「虹の国からの密書!?それはどういうことですか、王子!?」


シリウスは何も知らないようだが、アルトはすべて知っているようだった。

アルトはライアス同様、父王がナイトにつけた従者だった。

真実を知っていてもおかしくはない。


「親父の命令か?」

「はい、王子が事を起こしやすいようにサポートするよう仰せつかっております」


アルトは淡々と答えた。


「ちょっと待て、何のことだ!?」


逆にシリウスは混乱していた。

ナイトの身辺のことは誰よりも詳しいと自負していた彼に、知らないことがあった。

そんなことはあってはならなかった。

ナイトがシリウスに説明しようとすると、アルトがそれを制した。


「シリウス、王子が事を起こされる前にお前にだけは真実を知らせておく」

「真実だと、それは何だ?」

「王子はこれから虹の国第一王女ネティア姫に会いに行かれる」

「ネティア姫の元へ?何しに行かれるのだ?」

「見合いだ」


シリウスは一瞬言葉を失った。


「な、何を言っているんだ、アルト?ネティア姫はランド領主と婚約なされたと聞いているぞ」

「だから、ランドに着く前に王子はネティア姫にお逢いしなければならない」


シリウスは驚いてナイトを見るが、返す言葉がない。


「ネティア姫は虹の国の次期女王だぞ」

「国王陛下は王子を廃嫡なされた、問題ない」

「まさか、そのために…」

「…そういうことになる。これは国王陛下のご意向だ」


シリウスは後ずさりして、ナイトにすがるような視線を送る。


「王子、虹の王になられるのですか!?」

「気が早いぞ、シリウス。俺はただネティア姫とランド領主の結婚を破談させに行くだけだ」

「…本当ですか!?」

「本当だ、姫が俺に一目惚れしない限りあり得んだろう?」


シリウスはヘナっと倒れ込んだ。

良かった、良かったと繰り返し呟いている。


「一緒に手伝ってくれるな?」

「ああ…」


アルトはシリウスに手を貸して立たせ、ナイトの方を見る。


「これで第一の問題は片付きましたね」

「ああ、助かった、アルト」


ナイトは溜息を吐いた。

悩みの種が一つ消えた。

次はライアスだ。


「ライアスのことも私にお任せください」


アルトはナイトの苦手なものを把握しているようだった。


「頼んだぞ」


ナイトは安心して出発の準備を開始する。

まずは密書に目を通す。


「これは急がないとヤバいな」

「どうなされたのです?」

「ネティア姫の引き留めに失敗したそうだ。もうランド領に向けて出発したと書いてある」


ナイトは言いながら大きなカギの付いた箱をクローゼットから持ってきて中を開けた。

中には旅の準備品が入っていた。


「明日の朝発つ」

「了解しました」


アルトが恭しく一礼する。

しかし、シリウスは不安げな視線をナイトに向けてくる。


「必ず戻ってきてください」

「そんな深刻な顔するな、絶対帰ってくるから」


しかし、ナイトがそう言ってもシリウスの顔は晴れなかった。




***




月が傾き始めたころ、ナイトは水の国の王子から旅人に華麗に変身していた。

旅人の服を着て、2,3日分の食料をバックパックに詰め込んだ。

不足品が出たときのために金は多めに持っていく。

そして、仕上げに愛刀を腰に下げた。

正体がばれてはいけないが、身を守る上でこの剣だけは手放せなかった。

武器としてはもちろん、いざというときのための身分の証だ。

荷物を背負うと準備が整った。

ナイトは静まった薄暗い部屋を見回した。

夕食は朝同様、みんなで集まってここで食べた。

まだ無法地帯だったシープールに6人で乗り込んだ時の事を思い出した。

皆、あの時と何も変わっていなかった。

苦楽を共にした大切な仲間、そして、ナイトが帰る場所。


「ちょっとの間だけ留守番頼むな、皆…」


ナイトは誰もいない部屋で呟いて、静かに廊下に出た。

明かりの灯らない廊下を忍びのように歩いていく。

ナイトが出かけることを知っているのはシリウスとアルトだけだ。

他の3人に気付かれないようにしなければならなかった。

もし、気付かれたとしても、シリウスとアルトが何とかする手はずになっていた。

そのため、気分は少し楽だった。


別荘の長い廊下を抜け、広い玄関ホールにたどり着いた。

あと少しで、外と言うところでドアの前に人影が立ちはだかった。


「王子、もうお休みの時間ですぞ!」

「うわあ、ライアス!?」


ナイトは舌打ちした。

夕食の時、シリウスとアルトを使って大量に酒を飲ませて酔いつぶれさせたはずだった。


「このライアス、酒は飲んでも飲まれる男ではありませんぞ!」


そう叫んで、剣を抜きながらこちらに向かってくる。

だが、少しヨロついている。


「たく、毎度毎度、しつこい奴だな、お前は!?」


ナイトは剣を抜いてライアスの剣を弾いた。

ライアスがよろめく。

その隙をついてナイトは蹴りを入れた。

ライアスが壁の方まで吹っ飛んだ。

すぐに起き上がろうとするもなかなか立ち上がれないようだ。

どうやら酒が相当利いているようだ。

これならナイトの敵ではない。

だが、気付かれた以上放って置く訳にはいかない。

放って置くとルビ達を起こしかねない。

真実を知っているシリウスとアルトも、ナイトの脱走の知らせを聞いたら、建前上追わなければならないだろう。

ナイトは一計を案じた。


「王子、謹慎中の身で脱走などあってはなりません!罪が重くなりますぞ!」


ライアスはお目付け役の面子にかけて何とか千鳥足を立たせた。

そんなライアスにナイトは冷酷な微笑と共に剣を向けた。


「ライアス…お前の忠義に免じて俺が直々に手を下してやろう!」

「王子、何をなさるのです!?」

「うるさい、動くな!」

「ぎゃあああ!!ムグムグ…!!」


暗闇の中でライアスの悲鳴は掻き消された。




***





「お、見えてきた!」


夜通し森の中を歩いてきたナイトは国境の河に差し掛かった。河の向こうに見えるのは虹の国ランド領の街グミ。

グミは地の利を生かした水の国との貿易で商業が盛んだ。

大概の物は手に入るだろうし、人の往来も多い。

必要な情報も手に入るだろう。

そういった理由でナイトはこの街を最初の目的地に選んだ。

まだ早朝だというのに関所には商隊の長蛇の列ができていた。

その最後尾は橋の上まで及んでいた。

ナイトは最後尾に並んだ。


「うわあ、多いな…」


ナイトが呟くと早速お喋りな商人が振り返った。


「夜中から並んでるがなかなか進んでないよ」

「へえ、そりゃすごいな。おっさん、何の商売しているの?」

「宝石商さ」


商人は手にはめている指輪を見せた。

ナイトは顔をしかめた。

元虹の民だから知っているが、虹の国はあまり豊かな国でない。

金よりも物の国だ。

宝石など実用的でない装飾品はあまり欲しがらない。


「宝石なんて虹の国で売れるのか?」

「今回は特別さ」

「特別?」


ナイトが疑問符をチラつかせると、宝石商が辺りを窺って手招きした。

その招きに応じて、ナイトは耳を宝石商に近づける。


「ここだけの話だぞ」

「うん」

「虹の国のネティア姫がランド領主とご結婚されるんだ」

「え、婚約だけじゃないのか!?」


思わず声が大きくなってしまった。

宝石商は慌ててナイトの口をふさいだ。

誰もこちらを気にしてないのを確認してから、手を離し、今度は首に肩をまわして顔を近づけてきた。


「大きな声出すなよ!」

「すまん、すまん…で、結婚てなんだよ?婚約のパーティーをランドで開くって話は聞いてたけど…」

「お前、虎穴から出てきた姫をランド領主が返すと思うか?」

「…いいや…」

「虹の国の国王と女王は姫の結婚に反対している。婚約を発表しても、王都に返してしまったらなら破棄される可能がある。だったらこの機に結婚してしまえば、後の祭りってことさ」

「なるほどな…それで、宝石か…」


ナイトは宝石商の指輪を見る。


「そうだ、女の気を引くには宝石が一番!虹の王家には魔石はあっても宝石と言う宝石はないからな、行けるんじゃないかと思ってよ!」

「なるほど…いいんじゃん」

「ところで、あんちゃんは何の商売してんだい?」

「俺か?俺は傭兵さ。そういう話なら一波乱ありそうだよな」


ナイトは剣を見せた。


「へえ、傭兵ね。人は見かけによらないね」


宝石商はナイトの顔と剣を見比べて不思議そうに呟いた。


「何だよ、疑っているのか?こう見えて俺、結構強いんだぞ!」

「そうかい、なら、何かあった時はよろしく頼むわ」


およそ信じてない顔をして宝石商は列の空白分先に進んだ。


「絶対信じてないな…、これでもここに来る前に一人血祭りにあげてきたんだぞ」


ナイトは不満気にボヤイて歩を進ませた。




***




ナイトが関所で順番待ちをしているころ、ライアスは発見されていた。


木漏れ日が差し込む玄関ホールでリュックとルビはそれを発見した。


「これやったの王子だよね…相当ストレスが溜まってたんだね」

「…だろうな、じっとしてないとは思ってたけど…」


2人は言葉を切って再びそれを見上げた。

玄関ホールの中央の柱の真ん中あたりにライアスが磔にされていた。

衣服は脱がされ、ライアス自慢の筋肉が朝日にさらされていた。

際どい腰布1枚で大事なところは隠されている。

ガムテープで塞がれた口をモゴモゴと動かし助けを求めている。


「取り合えず、ガムテープ取ってやるか、リュック」

「仕方ないね…」


リュックはルビに肩車をしてもらってライアスの口のガムテープを剥がしてやった。


「おおお!!!王子じいいいいいいいいい!!!!」

「うわあ、うわあああああ!!!」

「こら、リュック暴れるな!!」


ガムテープを取った瞬間からものすごい雄叫びが上がった。

リュックとルビは驚いてバランスを崩してしまった。

助けに来てくれた2人は打ち所が悪かったのか、気を失ってしまった。


「何の騒ぎだ?」


ライアスの雄叫びを聞いて起きてきたシリウスが2階の廊下から不機嫌な顔で現れた。


「シリウス、王子が逃げたぞ!!」

「喧しいぞ!」


ライアスが大声を放つと、一層シリウスの顔が険しくなった。

昨夜、シリウスもライアス同様大酒を食らっていた。

そのせいか二日酔いになっているようで、頭を押さえて気だるそうに階段を下りてきた。

更に、朝日とライアスの裸を見て気分が悪くなってしまったようで、階段の途中で座り込む。


「アルト、アルトはいないか!?」


ライアスはシリウスが使い物にならないと知るとすぐにアルトを呼んだ。


「騒がしいな…」


アルトはシリウスとは反対側の暗い2階の廊下から静かに現れた。


「王子が逃げたのだ!早く開放してくれ!」

「それは大変だな…わかった…」


階段を下りる途中でアルトの目にまばゆい朝日と共にライアスの裸体が目に飛び込んできた。

足が止まる。

シリウスはアルトを黙って見つめる。


『どうする、アルト?』


ナイトが脱走することを知っていた2人はライアスを足止めしなければならなかった。


「どうした、アルト?早く下ろしてくれ!」


ライアスに急かされたアルトはゆっくりと近づいてくる。

その足取りはどこか危なっかしい。

近くにきたアルトだったが、再び足を止めた。

そして、ライアスを凝視する。

同僚の熱を帯びた視線にライアスは困惑した。


「ライアス、お前、美しいな!!!」


シリウスとライアスは一瞬思考が止まった。


「アルト、お前、まさか酔っているのか!?」

「目はばっちり醒めている。お前のお蔭だ!!」


普段からは想像もできないほど力強い声にライアスは開いた口が塞がらなかった。


「こんなチャンスはめったにない!待っていろ!!」


アルトは言うが早いか、部屋に駆け足で戻って行った。

大きなキャンバスと画材道具を持てるだけ持って降りてきた。


「何をする気だ、アルト!?」

「お前には私の絵のモデルになってもらう!大丈夫だ、神々しく書いてやるぞ!」


そう宣言すると、アルトはキャンバスに絵筆を走らせ始めた。

シリウスはアルトの意外な趣味を知って呆然自失になった。

目を覚ましたリュックとルビは絵筆を持つアルトを見て、互いの頬を引っ張り、正気を確かめた。


「こんなことしてる場合じゃないだろう!!!!」


ライアスの叫び声が空しく屋敷内に木霊する。

腰布一枚で柱に磔にされたまま、ライアスはアルトの絵のモデルやる羽目になった。


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