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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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ゲームオーバー

午後3時。

ナイトとシュウは書類に目を通しながら、ランチデートに出かけたフロントの帰りを今か今かと待っていた。

フローレスとの関係が進展するかどうかを焦点にシュウと忍び衆のレッドとブルー、そしてライガが賭けをしていた。

ナイトはそれに巻き込まれた。

シュウ、レッド、ブルーの3人は毎回『進展なし』に掛けていた。

許嫁でありながら2人の仲はどう見ても恋人以下の関係だったからだ。

ただ、ライガだけは『進展あり』に大金を掛けていて、毎回大損しているらしい。

シュウの話によれば、ライガは大穴を狙っているとのことだが、本人の真意は不明。

ライガはフロントの女装姿に惚れている。

フローレスは恋敵になる。

やはり、シュウの推理通り大穴を狙っているか?

ナイトは、現状では難しいと思いながらも『進展あり』に掛けた。

それは、兄のフロントを応援した気持ちもあるが、前世の悲恋を思えば、2人が結ばれないはずがないと、信じているからだった。

しかし、フローレスが白目で寝かしつけられた顔が頭に浮かぶ。




『やっぱり、失敗だったかな…』



ナイトが後悔していると、ドアが開いた。


「お帰り…」


結果が気になったナイトは書類を置いてフロントに駆け寄ろうとしたが、その足が止まる。


「ただいま…ゲップ…」


フロントはパンパンに膨れたお腹を擦りながら、苦しそうに答えた。

出て行った時のスマートな体はどこへ行ってしまったのだろうか?

シュウも相撲取りのような容貌に成り果てたフロントを見るなり、眼鏡のピントがずれたのかとかけ直してみていた。


「す、すいません、今日は帰らせてもらっていいいですか?ちょっと、食べ過ぎてしまって…ゲプ…」

「………ああ、そうみたいだね…・・…今日はもういいよ…・…」


ナイトは何とか言葉を絞り出した。


「ありがとうございます、ナイト様…では、失礼します…・」


フロントは首だけペコリと垂れて、ノソノソと帰っていく。

入れ替わりに、レッドとブルーがやってきた。

ドアが閉まるなり、ナイトは2人に駆け寄った。



「一体、ランチデートで何があったんだ!!!?」



フロントを尾行していた2人に真相を訪ねる。

すると、ブルーが1枚の写真を取り出し、渡してきた。

ナイトはその写真を見て首を傾げる。

シュウも一緒に覗き込む。

写真に写っていたのは、表彰台に上り、トロフィーと1年分のピザ食べ放題券を掲げたアイマスクを掛けた女性。

横断幕には『第1回虹の王都ピザ大食い大会 優勝 “プローレス”』との文字が


ナイトとシュウは顔を見合わせて、レッドとブルーの方を見た。


「「プローレス?」」

「フローレス様です」


ブルーが答えた後、レッドがその経緯を話す。


「大食い大会に出場するために、フローレス様が秒で考えた仮名です」


ナイトは頭を整理に少しばかり時間を要した。


「ランチデートが大食い大会だったのか?」

「いえ、フロントはちゃんとお洒落な有名レストランを予約してましたよ」


ブルーはフロントが予約していた店も写真に収めていた。

バラのアーチが素敵な店だ。


「ただ…その道中、たまたまピザの大食い大会のイベントに遭遇しまして」


ブルーはお忍びで変装している2人の写真から、大食い大会の横断幕、フローレスが目を輝かせてその会場へ走っていく様子、その後を追いかけていくフロントの写真を順番に見せた。


「フローレス様が、『ピザ、食べ放題!面白うそう』だと急遽飛び入り参加しまして、フロントも仕方なく参加し、結果は100位。フローレス様は見事優勝した次第です」


レッドが締めくくると、ナイトは脱力した。


「そ、そんな阿保な・・…」

「いえ、これが事実です」


レッドがナイトに手を差し出してきた。

掛け金の徴収だ。

ナイトは渋々懐から貴重な100ゴールドを取り出して、渡した。

虹の国でこれからもらう給料からすると手痛い出費だった。

天井からライガも降りてきた。


「ほらよ」

「ありがとうございます、若!!」


レッドはナイトとライガから徴収した金貨をブルーとシュウに掲げて見せた。

3人は早速山分けを始めた。

かくして、フロントのランチデートは失敗に終わった。

そして、賭けに負けたナイトは100ゴールドを失った。

気分は最悪だ。

失意のまま、ナイトは今日の仕事を切り上げて、部屋に戻る。

起死回生を図るとなれば、今夜こそ親衛隊を蹴散らし、ネティアの寝所に辿り着くことだけだろう。

部屋に辿り着いたナイトは気持ちを切り替えた。

そして、自分の荷物の中から、少し多めの金を懐に入れると、外出しようとした。


「何を買いに行かれるんすか?」

「ライガ、お前いたのか!?」


ライガがドアの前に立っていた。


「まさか、本気でダイナマイト買いに行かれるんじゃないっすよね?」


ライガの問いにナイトはコクリと頷く。


「え、マジっすか!?ダメっすよ!いくらナイト様でも王宮に火器はご法度すよ!火事になったらどうするんすっか!?」

「……だよな・…」


ナイトは出かけるのをやめて、ソファに崩れ落ちた。

ライガの言うことは常識だ。


「まあ、追い込まれてるのはわかりますけどね。火器はダメっす。でも、道具や魔法を使っちゃいけないわけじゃないっすよ」

「え、使っていいのか!?例えば!?」


思わぬライガのアドバイスにナイトは飛びついた。


「火はダメすけど、煙幕はいいっすよ」

「なるほどな!他には?」


ライガはナイトを見て、


「ナイト様は水属性の剣をお持ちすから、多少はその剣の力を使っていいと思うっす」

「そうか、そうだよな!!ありがとう!」


ナイトは目から鱗が落ちたようだった。

王宮内でも、火のような危ない能力以外は使っていいのだ。

ナイトは復活した。

水の剣の技は種類が豊富だ。

それが使えるとなれば、親衛隊など恐るに足らない。


「待ってろ、ネティア。今夜こそはお前の下に辿り着いていやる!!」


意気揚々と燃えるナイトに


「あ、でも、親衛隊は水の魔法は警戒してるはずっす」


とライガは重ねてアドバイスをしてくれた。




***




ライガのアドバイスを元に、待ちに待った夜を迎える。

ナイトは親衛隊の守備を突破する気満々でネティアの寝所へやってきた。


「来たか…」


親衛隊の方も準備は万端だった。

親衛隊でも選りすぐりの実力者が揃っていた。

明日はネティアが女王になって初の結界継承の儀式だ。

夫であるナイトが来ないはずはないと確信してのことだろう。

あちらも気合いが入っている。

夫婦のどんな大事の前だろうと、『王と認め者しかここを通さない』という親衛隊の決意を改めて感じた。


「今日はどんな手段を使っても、ここを通させてもらうぞ!!」

「それは楽しみだ。だが、どんな汚い手段を使われようとも我々の防衛網はお前を通さん!!」


カインが高らかと宣言すると、親衛隊の方が先に動いた。

数でナイトを包囲する。

今までにない展開だ。


「お前の実力は我々と同じくらい。数に勝る我々が相手では手も足も出まい!大人しく、水の国へ帰れ!『命があるうちにな!』」


カインの大胆な言葉が親衛隊の本気度を示す。

だが、ナイトも引けなかった。

愛する者を守るため、この国を創った。

そして、それを支持し、自分が亡き後もこの国を守ってきてくれた者達のためにも、ナイトはこの国の玉座にもう1度就かなければならないのだ。


「実力はそうだな、お前らと同じくらいだろう。だが、『悪知恵』勝負だったら勝つ自信はあるぜ!!」

「その悪知恵、さっそく披露してもらおうか!!」


アインを先頭に一気に親衛隊が斬りかかってきた。

ナイトは大きく一呼吸すると大技を放つ。


『水爆』


剣を振ると水蒸気爆発が起こり、アイン達先陣を吹き飛ばした。


「次!」


カインが間髪入れずに次の隊を送り込む。

技を繰り出す時間を与えない作戦だろう。

ナイトは隠し持っていた煙幕を放った。

煙がモコモコと湧き出す。


「煙幕か!?」


煙幕を前に送り込まれた親衛隊の足が止まった。

煙幕がナイトとその隊を飲み込んだ。

こうなればナイトとしてはやりやすい。

自分以外は全員敵だから、気配を感じたら全員倒していけばいい。


ドカ!「ぐは」

ゲシ!「ぐわあ」

ブン!「うわああ!!」


面白いほど親衛隊がやられていく。

ナイトは煙幕を広げて、親衛隊の数をドンドン減らしていく。


「煙幕をなんとかしろ!」


煙幕から逃げまどう仲間に向かって、指揮を執るカインが叫ぶ。


「俺に任せろ!」


大槍を持った大柄な騎士が高らかに叫ぶ。


「ゼインか!頼む!」

「おお!!秘儀、『大旋風』!!!」


ゼインは頷くと、大槍を頭の上で旋回し始めた。

風が起き、煙幕がゼインの下へ集まっていく。

ナイトは煙幕の隠れ蓑を失う。

だが、その前に全体の指揮を執っているカインの背後へ襲いかかる。


「カイン!!」


相棒のアインが気付いて注意を促す。

カインは咄嗟に振り返り、ナイトの斬撃を受け止めた。

紺碧の瞳にナイトの顔が映った。

切り倒して置きたかったが、抑え込むのがやっとだった。

カインが不敵な笑みを漏らした。

その姿がある男の姿と重なる。

遥か昔、命を懸けた大勝負でナイトがただ一度敗北した男に。


「うわぉぉおぉ、ナイト!!」


アインが赤い流星のように突進してくる。


『2人揃うと厄介だ…』


ナイトは斬り結んでいたカインから離れた。

カイン1人でも強敵なのに、相棒のアインが揃うと彼らは最強のコンビネーションを見せる。

勝算はゼロだ。

ターゲットを変える。

煙幕を取り除いているゼインだ。

煙幕を大技で集め続けているため、無防備だった。


「ゼインを守れ!!」


ゼインが狙われていることに気づいた仲間3人が盾になろうと、ナイトの前に立ちはだかる。


「今日の俺は手加減できないからな!!」


3人を切り伏せて、ゼインへと一気に迫る。


「そう来ましたか、これはお返ししましょう!」


ゼインはナイトの白刃を後方に飛んでかわした。

追撃すると、ゼインは自分の頭上に集めた煙幕をナイトに向けて放ってきた。

煙幕返しを受けた形だが、仕掛けたのはこっちだ。

ちゃんと、防煙マスクは用意してある。

更に、煙幕を追加して、親衛隊全員を巻き込んで再び倒していく。


「くそ、ナイトの奴、どこだ!?」

「そこか!」

「違う、違う!!」

「うわあああ!!」


煙幕の中、親衛隊達はいい感じで同士討ちになっている。


『よし、そろそろいいだろう…』


ナイトは親衛隊を半分ほど倒した後、煙幕中、壁際を伝ってネティアの寝室のドアを探す。

こうしていけば煙幕の中、確実にドアを探せる。

ナイトは親衛隊に気を付けながら、進んでいく。

そして、


『やった、ドアだ!』


ドアノブを回そうとした時、物凄い殺気を感じてナイトは振り返った。

煙幕の中から一本の槍が飛んでくる。


『ヤバイ、よけ切れない!』


槍はナイトの心臓を確実に捉えていた。

走馬灯のようにネティアやフロント、フローレス達の顔が過ぎる。


「く、こんなところで!!」


このまま死ぬのか、と思った時、ナイトの前に突如影が現れた。


トス!!


ナイトの前に降り立った影は槍をあっさり受け止めた。

煙幕晴れていく。

親衛隊達の姿が露わはになった。


「あ、ナイト!!?」


女王の寝所のドアの前にいるナイトに気づいたアインが叫んだ。

全員がこちらを見る。

立っていた者達は剣や槍を全員持っていた。

槍を投げたのは倒れている者の中にいるのか?


「誰だ、お前は!?」


アインはナイトの前に立つ男を誰何する。


「誰って、そりゃ、虹の王家に仕える忍び衆に決まってるだろう」


男は仮面を被っていたが、声でライガだと知れた。

ライガは受け止めた槍を放り捨てる。

忍び衆と聞いて、親衛隊達に動揺が走る。


「いい度胸だな、俺達の目の前でこの方を本気で殺そうとするとはな」


ライガの殺気の籠った声に、エリートぞろいの親衛隊も恐れをなしている。


「今日のところは見逃してやる。一部の奴らの面子をたててな。お前らにもいろいろ事情があるんだろうからな」


ライガは振り返って、


「ナイト様、今日はゲームオーバーす。また次、頑張りましょうっす」


と告げた。

完敗したナイトは力なく頷いた。









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