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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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特別な愛

グレイ達からフロントとフローレスの話を聞いた翌日の夜。

ナイトはネティアの寝所の前にやってきた。

当番の親衛隊が立ちはだかる。


「凝りもせず、今日も来たか…」

「何度だって挑戦するさ。ここを突破しないことには俺は虹の王にはなれないからな、行くぞ!!」


ナイトは果敢に挑んだ。

数回激しく剣をかわした後、ナイトは剣を収めた。

いつもと違う行動パターンに親衛隊は警戒を強めた。


「今日はこれくらいにしといてやる!」


あっさり退却していくナイトに親衛隊は呆然となった。


「え、終わりか?」

「何か今日はあっさりしてたな・…」

「わかったじゃんねぇの?1人で俺達に勝つのは無理だってさ」


剣を収めて1人が呟いた。


「そりゃそうだろうな。ちょっと腕が立つくらじゃ俺らは突破できない。まあ、レイガル王みたいな化け物じみた奴なら話は別だが、ナイトはそんな玉じゃない。俺ら1人1人よりちょっと腕が立つ奴だ」


仲間達は頷いた。


「しかし、あいつも災難だよな。水の国にいれば水の王になって、贅沢な暮らしができただろうに」

「運命ってやつだな」


運命という言葉に場が静まり返る。


「運命?なら、あいつが本当に初代虹の王の生まれ変わりだということになるぞ」

「…・あれが偉大な初代虹の王なら、失望もんだな。デマに決まっている」


笑いが起きるが、すぐに収まる。


「何にせよ、ここに来たのが運の尽きだ。他所の者のあいつは女王の下には決して辿り着くことはできない…」


その言葉が重く響いた後、彼らは無言で持ち場に戻った。







ナイトが退却した理由は親衛隊が考えていたものとはまったく違うものだった。

フロントとフローレスの関係が気になってしかなかったのが本当の理由だ。

しかし、ネティアとの約束もあるので、親衛隊に挑んだ後、早々に退却を演じた。

フローレスの部屋に急ぐ。

フロントが部屋に来る前から潜んで、2人の日常を盗み見るためだ。





「ナイト様、こちらです」


待っていたグレイ、レッド、ブルーがナイトをフローレスの部屋へと続く隠し通路へと誘う。

その通路の壁の穴から部屋の中を覗く。





フローレスは部屋に1人だった。

イライラしているのか、剣を持って部屋に中をうろうろしている。

始めから色恋の『い』の字も感じない。

鼻歌が聞こえた来た。

フロントがやってきたのだ。

フローレスは剣を抜いて、ドアが開くのを待つ。


「ご機嫌よう、フローレス様!!!」

「待っていたわ、今日こそ、その口から苦悶の声を出させてやるわ!!」


フロントがドアを開け放つと同時にフローレスは剣を構えて突撃した。

フロントはひらりと攻撃をかわし、部屋の中に入り込む。

フローレスはフロントを追って、再び突きを連続で繰り出す。

殺気がものすごい。

それをフロントはすべて見切り、最後には剣をあっさり叩き落した。


「あいたあ!!」


フローレスが手を押さえて倒れ込む。


「はい、『運動』はここまで。宿題を出しれください」

「くぅ…」


フローレスは苦虫を噛み潰したような顔で、渋々ノートをフロントに提出した。

まるで、教師と居残り生徒のようだ。

フロントはノートにさっと目を通した後、フローレスに返却した。


「まあ、いいでしょう。では、今日のお勉強を始めましょうか」


フロントは部屋の隅から黒板を持ってきた。


「今日は水の魔法の話をしますね。水の魔法は他の魔法に比べてバリエーションが一番多いんです。知っての通り、水は液体、固体、気体に変化します。液体の状態は水、固体時は氷、気体の時は水蒸気、湯気とか雲もですかね…」


フロントがスラスラと喋っている目の前でフローレスの頭から湯気が上がっていた。

もうオーバーヒートしてしまったようだ。


「では、実際に水の魔法をお見せしましょう」


フロントは水差しからコップに水を入れた。

その水を空中に撒くと、霧のように消えた。


「これが気体です。次に液体に戻します」


フロントは空になったコップをテーブルの上に置いて、手を広げて空気を集めると、雲ができた。

その雲をコップの中に入れると、水に戻った。


「では、次に固体にしますね」


フロントは水の入ったコップを下に撫でると、あっという間に凍結した。


「氷になりました」


コップを逆さにしてみせる。


「手品みたい」

「水は最も身近な物質変化ができるます。魔法は水の変化を加速し、人の意のままに操つることができるのです」


フロントは液体に戻したコップの水を、今度は大きな水玉にして宙に浮かび上がらせた。


「うわあ、シャボン玉見たい!」


フローレスは宙に浮かぶ水玉を見つめては触ったりして面白そうに観察している。

フロントはその様子を見て微笑んでいる。








『フロントは何をフローレスに教えているんだ?』


壁の隙間から覗き込みながらナイトはグレイに訪ねた。


『魔法の勉強です』

『え、でも、フローレスは魔法が使えないじゃないのか?』


魔法が使えない者が実践的な魔法を学ぶのはあまり意味がないような気がする。


『そうなのですが、虹の国の王女である以上は最低でも魔法の知識を知っておくようにと、ティティス陛下のご意向でして…』

『フロントも苦戦しているようです。魔法が使えないフローレス様にどう教えるべきかと。フローレス様も無駄だと仰って反発されて、それより剣を習いたいと。でも、フロントはフローレス様に剣を持たせたくなくて…』

『それで、今に至るというわけです…』


4人はまた覗きに戻る。



現在の状況はフローレスはフロントを倒すことができれば、魔法の勉強をしなくて済むという条件のもと現状を受け入れているようだ。

なので、自己流で剣技を磨いてフロントに挑み、負ければ、魔法の勉強をするというルールができあがった。

しかし、圧倒的に強いフロントが負けるわけもなく、フローレスは負け戦を日々挑んでいることになる。


『……一石二鳥?』

「「「…ですね…」」」


3人は口を揃えた。







中の様子に戻る。

始めこそ、面白そうにフロントの水魔法の実演を見ていたフローレスだが、ダンダンと飽きてきたようだ。

たまに、ドアをチラチラと見るようになってきた。

どうやら、ナイトが来るのを待っているようだった。

ナイトが親衛隊に敗れて来るタイミングはちょうど、フローレスが勉強に飽きた時だったようだ。

しかし、ナイトはもう来ていて、2人を覗き見ているのだった。

頃合いを見て、登場しなければならないかと、思っていると、


「フローレス様、今日はナイト様は来ませんよ」

「え、何でよ!?」

「たまにはそういこともあるでしょう?」

「ええ、つまんない!!」


駄々を捏ねるフローレスにフロントは寝間着を用意する。


「さあ、もうお休みの時間ですよ」

「え、もう、寝るの!?」

「夜更かしは美容の大敵ですよ」

「そんなこといっても眠れいないわ」


フローレスがむくれてい言うと、フロントの目が光った。


「大丈夫、すぐ眠れますよ」

「眠れないわよ!」

「では、試してみましょうか?さあ、着替えてください」


フロントに促されるまま、フローレスは渋々寝間着に着替え行く。

不貞腐れて戻ってきたフローレスをフロントはベッドへ寝かせた。

そして、ベッド横に座ると、分厚い本を取り出した。

むくれていたフローレスの顔が青ざめる。


「フローレス様の大好きな『素敵なレディになるためのマナー本を読み聞かせましょう…それでは良妻賢母について…」

「ひいぃいぃぃぃいぃ!!!」

「身を正し、心を正し、常に微笑みを忘れず…」


フローレスは悲鳴を上げて、布団を被ったが、フロントは構わず読み聞かせを開始する。

朗読中、フローレスは布団の中でのたうち回っていたが、その内動かなかくなった。

静かになったところで、フロントは布団を剥いでフローレスの寝顔を確認する。

本を閉じて、フローレスの顔に布団を被せる。


「安らかに眠ってください」


と物騒なセリフを吐いてフロントはベッドを離れた。







『な、なあ…、フローレスの奴…、死んでないよな…?」


ナイトは震えながら、グレイ達に聞く。

素敵な女性になるためのマナー本を読み聞かされたフローレスはまるで毒でも盛られたように苦しみもがいていた。


『大丈夫です、明日になれば生き返ってますから』

『フローレス様はレディとは正反対な方ですから、マナー本は精神的に毒なんですよ』


レッドとグブルーが答えた後、グレイがもっともわかりやすい例えを考えた。


『ゾンビが回復魔法をかけられたようなものですから』


ドン!


突然、壁が強く叩かれた。

慌てて部屋を覗くと、目の前にフロントの顔があった。


「こんな所で何をなさっているんですか、ナイト様?」

「ひゃああああああ、兄ちゃんあんんン!!!!」


兄の壁越しの壁ドンにナイトは悲鳴を上げた。

ナイト達は観念して、部屋の中にやってきた。


「で、お前ら、ナイト様をかどわかして何をしていたんだ?」

「かどわかしてなんかない、ただ、ナイト様がお前とフローレス様の日常をお知りになりたいと仰ったから、覗いてもらったんだ」


フロントは今朝ナイトからフローレスとの仲を聞かれたことを思い出したのか、


「今日のは日常ではありません。いつもはもっと穏やかです」


と弁解したが、


「いつもとほぼ一緒です」

「今日はパシリとお願い事がなかっただけです」


レッドとブルーが即座に否定した。


「パシリとお願い事?」


ナイトが疑問に思うとすぐに、レッドとブルーが答える。


「パシリとは、フローレス様は甘いものや、何か欲しいものがあったらよくフロントに買ってこさせるんです」

「お願い事は、よく王宮を抜けだして困っている人を見つけたときに、フロントに何とかしてあげてと頼んでいるんです」

「その二時だけ、フローレス様はフロントに対してとても甘い顔をされるのです」

「その二時だけじないだろう!!」


グレイがの締めくくりをフロントは否定したが、3人は意見を覆さなかった。

ナイトも自分で見聞きしたことから判断するに、グレイ達の方を支持するしかない。

フロントとフローレスの関係は婚約者とは名ばかりの、家庭教師と生徒という結論に至った。


「そんなことはありません!私とフローレス様は相思相愛の仲なんですよ!!」


フロントは必死に否定したが、


「部屋を訪れた相愛の男に早々剣を向けてくる女っているのか?」

「まずいないと思います。いたとしたら、浮気した後の修羅場か、政略結婚や諸事情があるカップルなどで、憎しみ合ってるからでしょう」


ナイトの疑問にグレイが淀みなく答えた。

レッドとブルーは頷いて同調する。


「そ、その、愛は人それぞれで、私とフローレス様は特別なんです!!」


フロントは必死に訴えるが、それが本当ならなかなかマニアックな愛と言える。


「お疑いなら、証明して見せましょう!!私とフローレス様の愛を!!」


疑いの目を向けるナイト達にフロントは力強く宣言した。

しかし、その背後に白目で寝ているフローレスが映ると、フロントの言葉は空しくも力を失っていた。







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