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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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間違った恋愛感情

バルトから娘の婚活(主に)を頼まれたナイトは溜息を吐いた。


『何で俺が人の縁結びしなきゃならないんだ…』


新妻ネティアへ思いをはせる。

人の縁結びを頼まれたわけだが、自分の恋路はまだ途中だった。

新婚ほやほやなのだ。

夜が更けるにつれて会いたい思いが募っていく。

ナイトは剣を取った。

ネティアの寝所へ赴くために。

邪魔をする親衛隊をぶっ飛ばし、一刻でも早く思いを遂げたい。

部屋を出ようとした時、窓を叩く音が聞こえた。

フロントが訪ねてきたのかと思い、窓に近づくと忍び衆のグレイ、レッド、ブルーの3人だった。

珍しい客に、ナイトは不思議に思って窓を開け、3人を部屋の中に入れた。


「夜分遅くに申し訳ありません」


グレイを筆頭にレッドとブルーもナイトの前に跪いて詫びを入れる。


「どうしたんだ、こんな夜更けに?緊急の用件か?」

「いえ、そういうわけではありませんが、若やフロントには内緒でお願いの儀がありまして、参上した次第です」

「内緒で?」


言いにくそうにグレイが話し出す。

次にブルーが前に出てきて、


「はい、ナイト様が『バルト様の娘子の婚活を引き受けた』と聞いたので我々もと思いまして…」


バルトが思いつめて腹を切りそうだったので仕方なく引き受けたのだが、話はかなり広まっているようだ。

つまりは、忍び衆も嫁が欲しいということかと、ナイトは予測したが、


「どうか、お力をお貸しくださいナイト様!」


今まで黙っていたレッドがものすごい形相でナイトに飛びついてきた。


「どうか、お助け下さい、ナイト様!!

「我々ではもうどうにもならないのです!!」

「わあわああ、離れろ!!!」


グレイ、レッドも感情を爆発させてレッドに続いてきた。

堪らず、




ゴス、ドス、ドカ!!





身の危険を感じたナイトはテンポよく3人を鎮めた。


「いきなり、何をするんだ!?」

「す、すいません、ナイト様が救いの神に見えて、つい、縋り付いてしまいました…」


ナイトから肘鉄をもらい、鼻血を垂らしながらグレイが謝罪した。


「で、お前達は俺に何を頼みに来たんだ?」


ナイトは身だしなみを整えて、椅子に座った。

グレイ達はナイトの前に正座し、話しを切り出した。


「はい、若のことでお願いに参りました!」

「若?ライガのことか?何か問題があるのか?」


ナイトが意外そうに質問すると、3人は強張った表情になった。


「問題大ありですよ!!」

「若は、フロントが大好きなんです!」


レッドとブルーが激しく抗議した。


「ああ、なんか、フロントの女装姿に惚れてるって聞いたけど…」


仮面がはがれる事故により、反乱を起こした闇の騎士の正体がフロントだとバレ、女声を出した瞬間、『マイスィートハー二-』と叫びながらライガが助けに来たことがあった。

フロントの女装姿を見たが、ナイトから見ても美しく、男にしとくにはもったいない気もした。

ライガの茶々を入れたくなる気持ちもわかる。

しかし、そんな人間は他にいなくもない。

世界は広いのだ。


「それが問題なんですよ!!」

「え、まさか、ライガはフロントを女としてみてると言うんじゃないよな?」


3人は神妙な顔をして沈黙した。


「嘘!?」

「本当です。若はフロントを本気で嫁にするつもりでいます」

「よ、嫁って、フロントは男だぞ?見た目は髪が長くて、綺麗な顔してるけど、子供産めないぞ!しかも、無茶苦茶強いじゃんか!!」

「そうなんですよ!!化けの皮を被った悪魔ですよ!!あんな血も涙もない、女でもいな奴に惚れるんなんて…」

「…いや、そこまで言う?」


グレイの言いようにナイトは顔をしかめる。

仮にも一緒に育った中なので、フロントを悪魔とまでは思わない。


「若の父上である頭は、『力こそすべて』という人で、『欲しいものは自分の力で手に入れろ』と、よく若に言い聞かせておいででした」

「若はそれを真に受けて…!!!」


グレイの説明の後に、レッドが苦悶の表情で顔を伏せる。


「それって、力づくであのフロントをものにしろってか?」

「そうです。若ならできそうで怖いんです」


ブルーが震えながら言った。

ナイトが虹の国来てからすでに2回、フロントはライガを殺しにかかっていた。

しかし、2回ともライガは生還していた。


「フロントは若が生還するたび、更に、自らの持てるすべての技と知恵を総動員して若の殺害計画を日々企てているのです」

「…負けを認めたら、男を捨てることになるので、死に物狂いなんです…」

「…・まあ、そうなるよな…」


苦しそうに話すグレイとレッド、ナイトはフロントを気の毒に思う。


「それで、若もフロントもどんどん強くなっていって我々ではもう止めることができないくらいのレベルまで上がってしまっているのです!!」


ブルーは絶望的に叫ぶ。


「そうなると、頭は、フロントがライガを殺すのを認めてるってことか?」

「もちろんです。力こそすべてが信条の人ですから。もし、若がなくなった場合はフロントが我々の頭になることになります」


グレイが淡々と話すと、後ろでブルーが倒れ込む。


「ブルー!!」


レッドがブルーを助け起こす。


「い、嫌だ。フロントが頭になるなんて…絶対、若がいい……」

「ブルー、それはみんな同じ気持ちだ!!頭だって、本当は…」


レッドはブルーを励ましながら、涙で言葉が詰まった。


「どういう意味だ?」


ナイトがグレイに訪ねると、


「頭も本心では若に女人との結婚を望んでいるはずです。ただ、我々は忍びですので、普通の家庭を築くのは難しいのが現状です。だから、頭は本心が言えないのだと、我々は推察しているのです」

「なるほどな…」


納得の理由が返ってきた。


「若は絶対モテると思うんです!!ですが、裏の仕事なので、女人との心を通わす機会がないのが問題だと思うんです!!」

「我々のような厳つい男しかいない場所に、綺麗な顔をしたフロントが入ってきて、恋というものを勘違いしてしまっているんです!」

「…確かに、ライガのルックスなら結構もてると、俺も思うな」

「「「でしょう!!」」」


3人同時に叫んだ。

ライガのルックスに絶対の自信があるようだ。

ライガは明るい茶髪で目元鼻元はキリリとしている。

鍛え抜かれた肉体は小麦色に焼けていて、ワイルドなナイスガイだ。

外見だけでなく、中身も良さそうだ。

仲間に慕われている。

ただ、問題なのは一途で融通が利かないことだろう。

グレイが仕切り直す、


「ですので、我々がお願いしたのは、若に女人を紹介して欲しいのです!!」

「紹介はできるけど…好みがわからないとな…」


女装したフロントのそっくりさんを連れてくれば、解決するのだろうか?

ナイトの心配をよそに、グレイは自信満々に言い放つ。


「若の好みなら、わかっています!!、レッド、ブルー、例の物を!!」


グレイの指示で2人は大きな巻物を広げた。

どうやら、ポスターのようだ。

ポスターを見て、ナイトは顔から火を噴くのを感じた。

風呂上がりの艶っぽい女性だった。


「こんな感じの女人をお願いします!!」

「こ、こんな感じて…・・グラビアのポスターじゃないか!!!!」


目のやり場に困ってナイトが言うと、グレイ達が顔をゆっくり横に振る。


「グラビアアイドルではありません。亡くなられた女将さんです」

「え、これ、ライガの母親!!!???」


ナイトが仰天する。

よく見ると、目のあたりが似ているような気がする。


「しかも、これはそこらへんに売られているポスターなんてもんじゃありません。ブルーが撮った写真です」

「え、え!?ブルーが撮った写真か!!プロ並みだな」

「女将さんのベストショットはすべてこのカメラに収めています」


ブルーは懐から誇らしげにカメラを取り出した。

ベストショット、たぶんそのほとんどは際どいものだろう。


「女将さんは若が物心つく前に亡くなられました。つまり、若は女性どころか母親がどんな人だったか知らないのです。周りは我々のようなモサイ男しかいませんでしたから…」

「それで、フロントの女装姿に惚れてしまったと…」


グレイ達は重く頷く。


「男の子は母親に似た人を好きになると言い伝えられています。つまりは、女将さんのような女人なら若は男として絶対目覚めます!!」


ナイトも子供の頃、母親のような人と結婚すると言ったことがあった。


「…なるほど、理屈はわかった。引き受けるよ」


自信はなかったが、図らずもとばっちりを受けるている兄フロントの為にもナイトは引き受けた。

いざとなったら、バルトの娘を片っ端から紹介してみればいいだろう。


「ありがとうございます!!」


グレイ達は深く深くお礼を言って、窓から出ても何度も振り返って、ナイトに頭を下げながら帰っていく。

その後ろ姿に後光が差す。

こうして、ナイトの夜は終わった。




***




仮眠しか取れぬままナイトは仕事に行くことになった。


「ナイト様、昨夜はちゃんとお休みになれましたか?」


迎えに来たフロントが怪訝そうな顔で聞いてきた。


「実は寝てないんだ。昨日ちょっと考え事をしてて…」

「何か悩み事でも?」

「いや、そうじゃないんだけど・…」


フロントは心配してナイトに詰め寄ってきた。

グレイ達は内緒で来たので理由は言えない。

ただ、気掛かりなことはあった。


「兄ちゃんさ、フローレスと上手くいってる?」

「え、フローレス様と………!?」


ナイトの予期せぬ質問にフロントは困惑した。


「最近、俺について回ってるからさ。フローレスはどうしてるのかなって?」


ナイトはさりげなく、フロントとフローレスの近況を探る。


「フローレス様にはライガがついているから心配ありません。それに仕事が終わってから、毎晩会いに行っている」

「毎晩会いに行ってるのか…」


それを聞いてナイトは安堵した。

2人の仲は良好のようだ。

そう思うと、自分がもどかしく思う。

ネティアに会いたい。


「よし、今夜こそは、ネティアの部屋に行くぞ!!」

「頑張ってください」


フロントは笑顔で応援してくれた。




***




夜闇に紛れ、ナイトはやってきた。

夜の番をしていた親衛隊は篝火を掲げてナイトを照らし出す。


「もう来ないかと思っていたぞ、ナイト」


親衛隊の間からせせら笑いが聞こえる。

しかし、それに臆していてはネティアには会えない。


「必ず行くって、ネティアに約束してる。だから、必ずここを突破して見せる!!」

「我々親衛隊を前に簡単に言ってくれるな」

「何度でも言ってやる。俺はこの国の王になる男だからな!こんな数十人程度のバリケードぐらい1人で突破してみせる!!」

「笑止!返り討ちにしてやる!」


こうして、火蓋は切って落とされた。

数十人を相手にナイトは孤軍奮闘した。

しかし、やはり、突破は敵わなかった。




「くそ、お前ら覚えてろよ!!」




ナイトは雑魚キャラのように捨て台詞を吐いて敗走した。

そして、辿り着く場所は、フロントがいるフローレスの部屋だった。


「兄ちゃん!!!!あいつらひどいよ!!!!!」

「よしよし、お前はよく頑張ったよ」

「そうよ、これを飲んで落ち着いて」

「ありがとう、フローレス…」


兄と義妹に慰めてもらうナイト。

温かいココアをゆっくり飲みほすし、2人を見上げる。

急に気まずい思いが込み上げてきた。

2人だけの時間に乱入し、邪魔したような感じがしたのだ。


「御馳走さま、今日はもう帰るわ」

「え、もう?今来たばかりなのに…」

「明日も早いから、じゃ、また明日」

「よく休んでくださいね」

「ああ、明日もチャレンジするから、よろしく」


フロントとフローレスが話足りなさそうな顔をしていたが、ナイトはそそくさとお暇した。

気を利かせたつもりだった。




「ナイト様、もう帰るんですか?」

「どわあ!?お前らいたのか!」


薄暗い廊下に出たナイトの背後にいつの間にかグレイ、レッド、ブルーがついてきいていた。


「2人の邪魔をしたら悪いだろう?」



「「「邪魔???」」」



3人はキョトンとしている。


「だって、あの2人恋人同士だろう?」


ナイトは当然のように言ったが、3人は釈然としない。


「…そういえば、許嫁でしたね…」

「あの2人、くっつくんすかね?」


グレイは思い出したように言い、レッドは疑問を口にした。


「え?え?くっつくだろう?」


ナイトは困惑した。

前世の因縁からして、くっついてもらわないと困る。


「どうもそんな気配ないですよ、だって、あの2人のベストショットまだ1枚もないですから」


ブルーが懐から大事なカメラを取り出して言う。

ナイトは数回瞬きをした。


「…へ?…・何もない???どういことだ?」

「そのまんまです」

「フロントは毎晩会いに行ってるって言ってたけど?」


ナイトはブルーに詰め寄る。


「ええ、確かに…でも、ナイト様が思ってるようなことは何1つないですよ」


ブルーは明快に言い放った。


「…・…じゃ、兄ちゃんは一体、毎晩何しに行ってるんだ!?」


ナイトは叫んだ。

若い男女が夜、部屋に2人だけ、逢引きじゃなければなんなのだろうか?


「それは決まってるじゃないですか、『お世話』ですよ」

「お世話?」


笑って答えたレッドの言葉をナイトは心の中で反芻した。

だが、意味は理解できなかった。
















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