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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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ライアスの使い道

財務職員の熱い拍手を浴びた後、フロントはナイトを紹介してくれた。


「皆、次期虹の国の王になられるナイト様だ」


財務職員達は集まってきて整列した。

責任者が出てきた。


「ナイト様がおいでなっているとは露知らず、お見苦しいところをお見せいたして申し訳ありませんでした!」


と謝罪を受けた。


「して、こちらにはどのようなご用件で起こしになられたのでしょうか?」

「視察だ」


今度はシュウが出てきて話を進め出した。


「ナイト様は虹の国に来られてからまだ日が浅い。この国のことをまだご存じないから今の現状を包み隠さず見ていただこうと思ってお連れした次第だ」


財務職員達の間で小さな感嘆の声が上がった。


「だいたいいつも、先ほどご覧になった通りでございます」


と簡潔にシュウは説明した。

財務部は常日頃から、銀行強盗のような目に合っていることを暗に指し示していた。

悲哀に満ちた視線がナイトに集中する。

その横にいたフロントが一歩下がった。


「この国の根本は弱肉強食なんですよ!!」


先ほどまで落ち着いていたシュウが爆発したように声を荒げ、


「それは、命を削って魔物と戦うのは尊敬しますよ!だからと言って、我々に文官に無理難題をお付けていいと思われますか!?」


ナイトに詰め寄ってきた。


「いや…・・…それは…・間違っている…・・文官も大変だよな……」


文官に囲まれ、そう答えるしかなかった。

ナイトはどちらと言うと騎士よりだが、文武を兼任するため文官の気持ちも痛いほどわかる。

兄フロントも文武両道のはずだが、かなり騎士よりだ。

力に物を言わせて、先ほどの騎士を追い払ったのだから、後ろめたさからか更に後方に下がっている。

事態が飲み込めたバリバリの騎士であるライアスもフロントに倣っていた。


「そうなんですよ!結界が弱体化し、魔物が跋扈して、民が土地を追われ住むところを失い、税金は増えるどころか減る一方、なのに!金金金と騎士共は!!!!」

「そうだそうだ!!」


財務職員もシュウに同調して声を上げる。


「闇の国から迷い込んでくる流民と住居を失った国民に住むところと職を与えるのにも金がかかる。国土を失ったことに農作物の収穫量も減り、物価が徐々に上がってきます。王都の食糧難も危ぶまれます!!」

「そ、それは、大変だ!!」


深刻な問題だ、そうそうに解決策を練らなければ。


「それなのに!!俺達は文官は騎士の半分しか給料がもらえないです!!」

「何!!?」


財務職員の涙の訴えにナイトは仰天した。

もっとも、深刻な、問題だ。

給料が低ければ文官の士気が上がらないのは当然だ。

文官スタートのナイトの給料も例外ではない。

だが、他の国では金を握っている文官が力を握っているはずだが。


「政策上、騎士を優遇しているのです。魔物と戦う者がいなければこの国は滅びますからね」


シュウが簡潔に説明してくれた。

だからと言って、このままでは内部から滅びかねない。


「よし、わかった!お前達の処遇改善をこの俺が約束しよう!」

「ほ、本当ですか!?」

「本当だ。魔物退治は確かに重要だ。だが、足元の国の維持管理が行き届かなければ魔物退治どころではなくなるからな」


しかし、悲嘆に暮れている財務職員達はあまり喜ばない

新参者のナイトにこの現状を覆せるのか疑問なのだろう。

本気度を示す必要を感じる。


「俺は明日からお前達と一緒に仕事をすることにする」

「え!?我々と一緒に仕事をなされるんですか!?」

「そうだ、まずは現状を知りたいからな。別に構わないよな?」


ナイトは財務職員達とシュウとフロントに確認する。


「え、まあ、ナイト様がそうお決めになられたのなら従います」


まず、フロントが気後れ気味に答えた。

財務職員達も困惑気味で返答にこまっていると、


「…我々と共に汗を流してくだ去るとは、流石は未来の王…」


シュウは呟いてナイトの前に跪き、


「感無量でございます!我ら一同に異論はありません!」


と他に有無を言わせず、ナイトが財務で働くことに同意した。


「よし、じゃ、決まりだな!明日からよろしくな!」

「は、はい、よろしくお願いします!」


ナイトの仕事場が決まり、その日はとりあえずそこで引き上げた。

その帰り、


「シュウ、1つ聞きたいことがある」

「何なりと…」


ナイトの質問を予感していたのか、シュウはすぐさま応じた。


「文官の給料ってどれくらいだ?」

「一般の騎士が10000ゴールドですから、その半分の5000ゴールドです」


その低さに絶句する。


「…………俺も!?」

「ナイト様は特別に加算給がありますからもう少し上です。上位の文官ですから+1000。従者1人付き1000×3で3000で、トータルで9000ゴールドと言ったところですか」

「え、少な!!俺、一般の騎士以下!?」


覚悟はしていたが、予想外の低さに震撼する。

ナイトのシープール領主の給料が7000万だから、7000分の1以下と言うことになる。


「やっぱり、ショックですよね…」


愕然としているナイトを見てフロントが苦笑いで同情する。

カリウスやフロント、ロンが余所余所しかった意味を今ようやく理解した。

そんな中、シュウは淡々と話を続ける。


「虹の国では王族の給料が最も低く抑えられています。レイガル王なんて無給に等しいですよ」

「え、嘘!?」

「本当です。その代わり、王族には特権があるんです。娯楽施設や馬車などの交通関係はほぼすべてが無料ですから」

「レイガル様は、趣味が狩りなのでほとんどお金がかからないんです。逆に、その狩りで稼いでます」


シュウの後にフロントが説明を追加した。

ナイトは衝撃を受けた。

給料の低さはもちろん、副業しなければ収入を得られないということだった。

ナイトの母国、裕福な水の国ではあり得ない話だ。

いや、他の国でも皆無に等しい。

副業するものももちろんいたが、投資や趣味の範疇だ。

レイガル王の狩りも趣味だが、国民生活を支える重要な役割になっている。


『こんな国があるのか…』


ナイトは苦悩した。

国のために、自分の子孫がこんなに苦労していたとは露ほども思っていなかった。


「あの王子、私も財務の仕事をするのですか?」


ライアスが慌てた様子で訪ねてきた。

給料の話を聞いたからだろう。

仕事はわからないは、給料は低いでまたライアスに逃げられかねない。

ナイトは考えを巡らせる。


「そうだな…」


フロントとシュウは普通に問題ないが、財務の仕事ではライアスははっきり言って足手纏いになる。

先ほどのフロントのように、高圧的な騎士を追い返すのには役に立つだろうが、それ以外は必要ない。

しかし、遊ばせるのはもったいない。

ナイトはあることを閃いた。


「ライアス、お前にピッタリの仕事があったぞ!」

「何ですか、それは?」

「お前、『親衛隊』に行け」




「「「え?」」」




ナイトの命令が意外過ぎたのか、側近の3人から同じ反応が返ってきた。


「骨の髄まで騎士のお前を見込んでのことだ。親衛隊に行ってあいつらを全員まとめて来い」

「…・・……む、無理ですよ!!ネティア女王の夫である王子を追い返している連中ですよ!!」


ナイトの無理難題にライアスは激しく首を振るが、


「お前ならなんかできそうな気がするんだよな。だって、お前、けっこう人に好かれるしな」

「王子の側近の私が好かれるわけないじゃないですか!!」

「だったら、お前、他に何ができる?」


ナイトがドスを利かせた質問をするとライアスは返答に窮した。


「取りあえず、行ってみろ。ダメだったら、また考える」

「はい…」


ライアスは渋々承諾した。

フロントとシュウが心配そうに見ているが、意見はしてこなかった。

まだライアスに何ができるか測りかねているから様子を見ることにしたのだろう。

港からナイトに連れ戻された時のように絶望した様子でトボトボとついてくる。


「ああ、もうお前はもういいから、早めに帰って寝ろ!」


鬱陶しいので突き放すと、ライアスが捨てられた子犬のような目でナイトを見つめてきた。

筋肉美の図体に似合わない。


「じゃあな!」

「し、失礼します!!」

「ライアス殿!」


泣き出しそうな顔でライアスは走り去った。

フロントが呼び止めようとしたが、ライアスは振り返らなかった。


「ナイト様、ライアス殿はまだ虹の国をあなた以上に何も知らないんですよ!それなのに1人にさせるのは良くありませんよ!」


当然、フロントが抗議の声を上げてきた。

ナイトはちゃんと言い訳を考えていた。


「大丈夫だって、あいつ強いから。それに俺、能力のない奴にできない仕事は押し付けないから」

「ライアス殿がどんなに強かろうとも、1人にすれば罠に掛けられるかもしれませんよ」

「その時はちゃんと助けるよ」


罠にもよるが、大概のことはライアス1人で大丈夫だと言う自信があった。

ただ、確証はなく、ナイトの感であることは黙って置く。


「…そこまで仰るのなら、何も言いませんが…」


フロントは引き下がってくれた。

兄弟として育ったが、今はナイトの方が地位は上だ。

自分の王族の身分に感謝する。

もし同等の立場だったら、兄にコテンパンにされるのは目に見えていた。

ライアスの話はそこで終わるったが、偶然、前方に2人の親衛隊の騎士を見つける。


「おーい、お前ら」


ナイトが声を掛けると、親衛隊の騎士はギョッとした表情でこちらを向いた。


「…これは、これは、ナイト様…我らに何か御用ですか?」


フロントとシュウがナイトの背後にいるからか、礼儀正しく応じたが、警戒心は剥き出しだった。

相手のことは気にせずナイトは笑顔で切り出す。


「お前達に知らせておきたいことがあってさ」

「知らせておきたいこと?」

「俺が水の国から連れてきたたった1人の従者ライアスをお前らのところに行かせるから、預かってくれ」


親衛隊の2人の騎士はお互いに困惑した顔を見合わせた。


「ライアス…・・あの…『守護神』の絵のモデルになった騎士か?」

「そうそう、そいつだ。見かけ通り滅茶苦茶強いぞ。それ以外はいまいちだけど…」


ナイトがライアスを売り込むと、親衛隊の騎士達は不吉な笑みを零した。


「それは楽しみです…ぜひ、手合わせをしてみたいです…なあ?」

「ええ、是非、ナイト様の守護神のお手並みを拝見したいです」

「好きなだけ遊んでやってくれ。ホームシックなんだ。お前らが遊んでくれたらちょっとは元気になるだろう」

「喜んで…仲間達もきっとライアス殿を歓迎してくれるでしょう」

「じゃ、頼んだぞ」


親衛隊の騎士2人は形だけの敬礼をしてナイト達を見送る。

角を曲がったとろで、


「ナイト様、あれではライアス殿は親衛隊の格好の餌食にされてしまいますよ!」


案の定、フロントが猛抗議してきた。


「私も同感です」


今度はシュウも加わってきた。

さっきの売込みは、親衛隊に大義名分を与えたようなものだ。


「さっきも言ったろう?ライアスは大丈夫だって!」

「しかし…・…!」

「ああ、もう!心配し過ぎなんだよ、ライアスはうまくやるから、黙って見ててくれよ!」

「どうやって?」

「それは…………明日になってからのお楽しみだ」


ナイトはライアスの能力を測りかねていた。

何をしでかす予測できないのだ。

ただ一つ言えることは、必ず結果を出す、と言うことだけだ。




***




ナイト王子の下を離れたライアスは途方に暮れていた。

部屋には戻らなかった。

どうせ寝付けないからだ。

王宮を出て、フラフラと街を彷徨う。

見慣れない風景、異国の地、当然、知り合いはいない。

孤独だった。

必然的に飲みたい気分になる。

開いていた酒場を見つけると、すぐに入り込んだ。

店内は薄暗く、カウンターに年老いた店主が1人。

お洒落な店とは言えない、廃れた店だった。

酒を飲みたいだけのライアスはあまり気にすることもなく、カウンターに座る。


「いらっしゃい、旦那、何にします?」

「この店で一番強い酒をくれ」

「はいよ」


ライアスは出された酒を一気に飲み干した。


「いい飲みプリだ」

「どんどん注いでくれ」

「何かあったのかい?」

「何もかもが嫌になった。だから、一時だけでも忘れたい」

「そうかい、なら、ドンドン飲みな。この世の中は、不公平で、嫌なことだらけさ」


店主はライアスの話を聞きながら、酌をする。

店主もついていないないようだった。

店内はガラガラで客はライアスだけ。

だが、ライアスにとっては都合が良かった。

愚痴を聞いてもらいながら、酌をしてもらえるのだから。

店主にとっても、ライアスは高い酒だけを注文してくれる羽振りのいい客だ。







親衛隊の筆頭格アインとカインは仲間を連れて夜の街に繰り出していた。

酒の肴ができたから一杯やりながら計画を練ろうと言うことだ。

酒の肴と言うのは、彼らが反抗しているナイト王子が送り込んでくるライアスことだ。

ナイト王子が惟一人水の国から連れてきた従者で相当強いらしい。


「よし、ここにしよう」


人気のなさそうな酒場を見つけて、アインが足を止めた。

すぐに仲間達からブーイングが上がる。


「湿気た店だな、もっといい店行こうぜ」

「このくらいがちょうどいいさ。俺達、これから悪い話するんだからさ。なあ、カイン?」

「そうだ、ここにしよう」


アインが決めた店をカインはすぐに了承した。

相棒である2人は公私共に仲が良く、常に行動を共にしていた。

外見は赤と青で全然似てないのだが、中身がそっくりなので仲間達から『双子』と呼ばれていた。

2人が決定した店なので、仲間達はそれに従い中に入っていく。


「おい、アイン、カイン」


仲間の1人がカウンターを指さしてる。

店主に酌をしてもらっている、見慣れない騎士が1人。

思わず口笛が出る。


「噂をすれば影か…」

「ああ、間違いないライアスだ…」


酒の肴を見つけたアインとカインは微笑を零す。


「ナイト王子の許可は下りてるんだ、さっそく歓迎してやろうぜ!」


喧嘩早いアインが先行してカウンターのライアスの下に向かった。


「いらっしゃいませ」


アインに気づいた店主が酌を止めると、ライアスが振り返った。

アインの制服を見て、眉を潜めたがすぐに表情を戻し、酒を煽る。

その姿をせせら笑い、アインとカインはライアスの両隣り腰を下ろした。


「よう、『守護神様』今日のお勤めは終わりですか?」

「ああ、今日はもうオフだ。だから、酒を飲んでいる」


アインのからかいにライアスは普通に反応した。


「1人でか?」

「王子達は忙しい。私に構っている暇はない」

「それは、可哀そうだな」

「そうでもないさ、慣れている。俺は剣しか能がないからな…」


カインのからかいにも淡々と答えた。


「ナイト王子はお前を放り出して何してるんだ?」

「レイガル王の指示で文官として、明日から財務部で仕事をされる」

「財務部だと?」

「おいおい、ヤバくないか、そんなところに入られたら、俺達の予算カットされるぞ」


カインの質問に淡々と答えるライアス。

ナイト王子の次の行動を知った親衛隊の面々の顔が青くなった。

予算は公平ではなかった。

各部署の力関係がそのまま予算に出ていた。

親衛隊はいずれも強者ぞろいなので予算を多くとることができた。

しかし、ナイト王子が財務部に入るとなれば、公正にチェックされ好き勝手ができなくなる。


「いいのか?ナイト王子の動向をべらべらと喋っても」

「何か問題があるのか?」


カインの質問にライアスは首を傾げている。

今の言動でナイト王子の身が危うくなるかもしれないことに頭が回らないようだ。


「王子は公明正大な方だ。不正は確実に正される。私はそういう細かな仕事はできないから、お前達のいる親衛隊に行かされるのだ」


「つまり、厄介払いされたわけか?」


アインが直球をなげると、さすがのライアスも俯いた。

アインはカインと目で会話をした。


『どうする、カイン?強そうだけど、こいつバカだぞ』

『好都合じゃないか、懐柔すれば、ナイト王子の情報を聞き出すことができるかもしれないぞ』


アインは落ち込んでいるライアスの肩に手を置いた。


「今からお前の歓迎会をするぞ」

「え?歓迎会?」


ライアスは気後れ気味答える。


「明日から、親衛隊に来るんだよな。じゃ、俺達仲間だ」

「仲間…」

「1人は寂しいよな?」


仲間と呟いたライアスの目が潤んだ。


『落ちたな…』

『ちょろいちょろい!』


カインとアインは仲間達にも目で合図を送った。

仲間達も承諾の笑みを浮かべた。


「店主、今からここは貸し切りだ」

「よし、ライアス、朝まで飲むぞ!」

「え、明日の仕事に響くのでは…」

「真面目だな、俺らの仕事は女王陛下をお守りすることだが、王宮内は安全だ。つまり、ほとんど何もすることがないのさ。あるとすれば、ナイト王子を叩き返すぐらいだ」


親衛隊の面々は大笑いしているが、真面目なライアスは反応に困っている。

ジョークではなく事実であり、一応ライアスはナイト王子側の人間だ。


「ライアス、お前の話も聞かせろよ」

「そうだ、そうだ。守護神、お前、水の国ではどんな生活してたんだ?」


カインとアインはライアスに絡み、ナイト王子の弱みを聞きだしにかかった。

始めは戸惑っていたライアスだが、少しずつ話し出した。

こうして、ライアスは親衛隊の術中に落ちて行った。








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