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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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財政難

ネティアは微笑みを浮かべたまま固まり、何も言えずに夫を見送る。

初夜の時、親衛隊に阻まれて愛する夫が苦戦している時、ネティアは疲れ果てて寝てしまっていたことを思い出しからかだ。

ナイト達が父王に連れて行かれた後、母が隣にやってきた。


「ナイトの心配をしている暇はないわよ。あなたはこれからもっと疲れるのだから。初夜のことは親衛隊に感謝なさい。次にナイトが来たとに起きていればいいのよ」


具の音もでない。

もし、親衛隊の邪魔が入らずにナイトが初夜に来ていたとしたら、寝ている新妻を見てさぞがっかりしただろう。

そうならなくて良かったとは思う。


「ナイト様が来られた時、絶対に起きて迎えます。どんな苦難も耐えて見せます」


ネティアは決意を新たに母を見上げる。

女王に即位したネティアの前には数多の試練が用意されている。


「それでこそ、私くしの娘。では、おさらいをしましょう」


母は優しく微笑んだ後、厳しい顔つきになった。


「世界を覆う虹の結界は7層から構成されています。それを1層ずつあなたに引き継がせます。今はすべて私くしの魔力が結界を支えています。それをすべてあなたの魔力で支えるのよ。結界の維持のために、莫大な魔力が持っていかれるわ。自分の魔力でありながら、自分のためには自由に行使できない。身を守るには他人を頼るしかなくなるわ」

「わかっています…」


いい例が父と母の関係だろう。

結界を維持するため自由に動けいない母の代わりに、戦いに赴むいて危険を排除し、国の安全を守る。

母はその魔力で、自分の一部として父を守る。

強い絆が必要とされる。

まさに一心同体。


「後、もう1つ、これが最も重要よ。あなたは巨大な結界を引き継ぎながら、その結界を継ぐ者を産み、育てなければならないわ」


母は溜息を吐いてから続ける。


「本当は結界を引き継がせる前にあなたには子供を産んで欲しかったわ。結界を引き継いだ後だと体への負担が大きいから」


母は不自由になった自分の足を見て言った。

母は結界をすべて引き継いだ後にネティアとフローレスを産んだ。

結界への魔力供給と双子の出産の後遺症だと噂されている。


「だけど、今の状況では当分先になりそうだから、まずは結界の1層を先に引き継がせるわ。あなたの魔力なら1、2層ぐらい引き継いだ後に子供を産んでも大丈夫でしょう」


これは1人ではできない夫婦共同作業だ。

しかし、親衛隊の邪魔の他に、公務と言う大事な仕事がある。

果たして、早々に子宝に恵まれるか不安になる。

虹の国はどの分野をとっても人材不足だ。

もし、もっとも人材不足が深刻な魔物討伐にナイトが借りだされでもしたら、果たして、夫婦の時間はあるのだろうか?


「父上を信じて上げて、始めからナイトに危ないことはさせないから」


ネティアの顔が深刻に見えたようで、母がおかしそうに笑っている。


「ナイトにはまず、この王都内での仕事が与えられるはずよ」


それを聞いて、ネティアは一先ずホッとした。




***




女王の執務室から王の執務室に場所を移ったナイトは緊張した面持ちで、目の前に座る義父のレイガル王の言葉を待っていた。

レイガル王の隣には宰相のカリウス、将軍のロンがいた。


「ナイト様、もしかして、水の国から連れてきた従者はお1人ですか?」


新顔のライアスを見た後、辺りを見回し、カリウスが驚いた様子で聞いてきた。


「ああ、このライアス1人だ。水の国を出たからと言って、すべて放り出すことはできない。だから、他の4人には残ってもらった」

「ご、ご立派なお考えです…」


カリウスはそう答えたものの、顔には難色が見えた。


『従者1人はまずかった?』


ナイトはフロントに小声で質問したら、苦笑いが返ってきた。

レイガル王、カリウス、ロンの3人で話し合いを始めた。

ナイトの従者1人が想定外だったようだ。

ナイトの傍には、ライアス、シュウ、フロントが控えていた。

皆、一言も発せず、ただその話が終わるのを待っている。


「なら、そのようにいたしましょう…」


カリウスが話し合いの終わりを告げた。

ロンは頷いて、レイガル王の右隣に控えて立ち、カリウスは左に立った。


「ナイト、お前の仕事内容が決まったぞ」


胸躍る気持ちでその発表を待つ。

ナイトの希望はもちろん、前世で果たせなかった魔物討伐だ。

剣の腕には自信がある。

それに、もうすぐ魔期だ。


「お前にはシュウとフロント共に『政務官』として働いてもらう」


思わぬ発表にナイトは思わず、前のめりになる。


「え、文官!?騎士じゃなくて!?」

「まずは文官だ。お前は虹の国について何も知らないだろう?まずは内情を知ってもらう。それに、ネティアに子供ができる前にお前に死なれては困るのでな」

「それって、子供ができるまではずっと文官てことですか?」

「そういうことだ」


ナイトは固まった。

ネティアのいる寝所(源流)に辿り着くには、親衛隊の守り(試練の滝)を突破しなければならいなかった。

そう簡単に突破できるものではない。


「軍事の方はまだ大丈夫だ。私もいるしな。むしろ、文官の人材が不足しているのだ。お前ならできるだろう」

「できますけど…」


ナイトは水の国の第一王子であり、一領主を経験しているから執務は問題ない。

だが、とてつもなく不満だった。


「不満な顔をするな。私も執務は嫌いだ。王の執務とは実に面倒くさい。だから、お前が来るのをずっと待っていた。お前が来れば執務から解放されると思っていたからな」


ナイトは目を瞬かせた。

横でフロントがまた苦笑いを浮かべている。


「え、あの、それは一体どういう意味でしょうか?」

「お前が来たら、王の執務をすべて任せるつもりだった。私は魔物討伐の時以外はお飾りだからな」


ナイトは話の流れをいったん整理する。

つまり、レイガル王は執務を行っていないことになる。


「じゃ、誰が執務を?」

「今はカリウスに任せている」


カリウスが目をウルウルさせてナイトを見つめてくる。


「ナイト王子、私もあなたが来てくれてとても嬉しいです!ウォーレス王が虹の国をさられてから私がずっと王陛下の執務を代行して参りましたので…」


と涙ながらに話してきた。


「つまり・…親父がいたときは親父が王の執務をこなしてたのか?」

「その通りだ。だから、ナイト、今度は頼むぞ」


水の国に帰るまで、父はレイガル王の執務を隠れて代行していた。

初めて知る事実にナイトは呆れた。

光の王家に次ぐ水の王家を出奔していたのに、他王家で何をやっていたのかと。


「や、やりますけど…義父上は何を何をなさるんですか?」


次期虹の王になるナイトに断る理由はないが、現王である義父のその後の日常が気になる。

魔期は3ヶ月程度だ。

それ以外は何をするのか?


「私は魔物退治と『食料調達』を担当する」


レイガル王は自信をもって宣言した。

ナイトはまた思考が停止した。

何か、王の仕事ではないような単語聞こえた。


「…食料調達?」

「うむ、食糧庫の食料だけではどうにも足りなくてな。足りない分は私が調達しに行くことになっている」


確認すると空耳ではなかった。


「何か食べたい物があったら何でも言ってくれ。狙った獲物は必ず捕まえる自信はある」


レイガル王は一国の王と言うより、凄腕の狩人だった。


「…は、はい…・・…えーと、それじゃ、何かあったら、よろしくお願いします…」

「うむ、任せろ!腹が減っては仕事いくさはできんからな。その代わり、王の執務はすべてお前に任せたぞ!」


つまり、王の執務は実質ナイトが肩代わりしなければならないようだ。

フロントの手がナイトの肩に置かれる。


「頑張りましょう、私も全力でサポートしますから」

「………・う、うん…・…」


ずっと憧れていた秀才の兄の手助けは嬉しいが、ナイトは何か腑に落ちないものがあった。


「それでは、シュウ、ナイト様達にいろいろとこの国のことを教え差し上げてくれ」

「お任せください、宰相殿」


カリウスとシュウのやり取りは普通だったが、どこか変な感じがあった。

シュウは平然としているのだが、カリウスはどこか後ろめたいものがあるような様子だった。


「それでは、我々は仕事に戻る。後は、頼んだぞ、フロント、シュウ」


レイガル王はカリウスを伴って部屋を出る。


「ナイト様、これからいろいろと大変だと思いますが、頑張ってください。私も陰ながら応援させて頂きますから…」

「…・・うん…・ありがとう、ロン・・・…」


涙ながらにロンはナイトに伝えて、レイガル王の後を追った。

レイガル王達が去った後、なぜか重苦しい空気が残った。

シュウは無表情だったが、フロントは何か考え事をしていた。

何か言いにくいことがあるようだ。

この2人だけでなく、ライアスも、


「あの、王子、私も文官なのでしょうか?」


困惑していた。

ライアスはその見た目通りのバリバリの武闘派った。

文官のような儀礼や、緻密な計算や言葉選び、人材の斡旋などことは到底無理だった。


「まあ、それは後で考えよう。今日はとりあえず、王宮内部署を見て回るくらいだろうからな」

「まあ、そうですね」


ナイトの言葉をフロントが肯定した。


「シュウ、まずはどの部署から回るんだ?」


見学を主導するのはシュウの役割のようだ。

シュウの眼鏡が鋭く光った。


「それはもちろん、この虹の国の心臓部である、『財務』から見学していただきます」

「いきなり、財務から!!?」


フロントは驚愕の表情を浮かべ硬直している。


「なんか、問題でもあるのか?」


ナイトが何気なく聞くと、


「いや、その…」

「大ありです!」


フロントが言いよどむのを押し退けて、シュウが食いついてきた。


「財務部、それは国費を各部署に振り分ける大事な、大事な部署です!」

「…それはどこの国も一緒だからよく知っているけど…」


急に熱くなったシュウにナイトは気圧されそうになる。


「その財務がどうしたんだ?」

「取りあえず見て頂きましょう」


シュウが部屋を出たのでナイト達は後に続いた。

その財務部に先導しながらシュウが話し掛けてきた。


「虹の国が万年財政難だというのはご存知ですか?」

「ああ、聞いてる。領主からちゃんと税金を徴収できてないんだろう?」


積極的な国交がなくとも、虹の国の政情は水の国にも伝わっていた。


「その通りです。ちゃんと虹の王家を敬い、国に税金を納めてくれる領主もいます。しかし、特権意識の強い『自称』王の一族は難癖をつけて一部しか税金を納めません。彼らの影響を受けた多くの領主がそれを真似るので、税収は減る一方です。今年はさらに渋るでしょうね」


ジャミル達のことを言っているのはすぐわかった。

ナイトが来なければ、今頃はジャミルがネティアと結婚して虹の玉座にあったはずだ。

『王の一族』に自称とつけたとこに最大の侮蔑を感じる。

シュウが当主となったレイス家もまた王の一族に入るが、彼らと同列ではないことを指し示している。

国全体のことを考えない者に『王』の称号は似つかわしくないからだろう。


「俺のせいで、すまないな」

「ナイト様が謝ることありません。むしろ良かったです。彼らに国の中枢を握られた方がゾッとします」


シュウは振り返って答えた。

その表情には安堵の色が見えた。


「しかし、ですね。税収が減るのは問題です。少ない国費の争奪戦になりますからね」


階段を降りると、重厚な扉が現れあ。

どうやら財務部に着いたようだ。

扉を開ける前から中の喧噪が漏れ出てきていた。

かなり、忙しそうだ。

シュウが扉を開けた。




「何だ、この額は!?」





扉を開けると同時に怒声が響いた。

中では屈強な騎士が、貧相な財務職員の1人の襟首を掴んで持ち上げている。

財務部の職員達が持ち上げられている仲間を見て震えている。


「もっと、金を出せ!こんなんじゃ質のいい魔剣10本も買えないだろう!?正規軍の部隊が何十隊あると思ってるんだ!」

「そ、そうは言われてもですね、これが限界ないんです!!」


上ずった声で持ち上げられた職員が必死に理解を求めた。


「ふざけるな!安価な装備で魔期に生き残れると思ってるのか!?」

「ひいっぃいぃぃぃぃ!!ごめんなさい!!」

「わかってんなら、もっと金を出せ!」

「ですから、これ以上は…!!」


すごむ騎士はまるで銀行強盗のようだった。

誰も動けずにいる中、フロントがその騎士に歩み寄る。


「その辺にしてもらえないか?」

「あん?」


フロントの顔を見た騎士は、掴んでいた財務職員を即座に解放した。


「フ、フロント殿、フローレス様付きの貴殿がなぜ、こちらに?」

「ナイト様のお供だ。王陛下よりナイト様のお世話を仰せつかった」

「さ、左様でしたか・…」


フロントを前にした騎士は及び越しだ。


「軍部の予算が不満だったのか?ならば、私から王陛下に直接進言してもいいぞ」

「いや、滅相もない!この予算で何とかします!それでは、失礼しました!!」


国王配下の正規軍だった騎士は逃げるように財務部を飛び出していった。

呆然としていた財務職員の間から拍手が沸いた。

ナイトは改めて兄の凄さを肌身で感じた。

さすが、魔王。







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