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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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顔合わせ

ナイトは人目を集めながら、馬に乗り、ライアスを連れで港から虹の王宮に戻ろうとしていた。

その道中、向かいから走ってくる者がいた。


「ナイト様!!」

「あ、にいちゃん…じゃなかった、フロント!!」


ナイトの血の繋がりのない兄フロントだ。

フロントは今、フローレス姫の専属の騎士だ。


「部屋に行ったらいなくなってたのでびっくりしました!」

「ごめんごめん。だって、こいつが逃げ出すもんだからさ…」


ナイトは馬上からライアスを見下ろす。

縄で繋がれているライアスを見てフロントはギョッとした顔になっていた。


「あの、ナイト様、縄は解いてあげた方がいいでしょう。人目もありますし、それに、大事な顔合わせがありますから…」

「ああ、そうだった…もう、大丈夫だろう…」


ナイトは馬から降りて、水の国の船団が沖に出たのを確認してからライアスの縄を解いた。

洋上に出た船団を見てフロントは慌てふためく。


「え!?とう…ウォーレス王はもう出航されたんですか?」

「ああ、そうなんだ、火急の用ができたから…知らせは出してたよ」

「そうですか…」


フロントは残念そうな顔で船を見送っていた。

ナイトはライアスに目を向ける。

解放されたライアスは暗い表情で下を向いている。

イライラが込み上げてくる。


「元気出せ!これから虹の国で生活していくんだからな!」


背中を叩くが、ライアスからの反応はない。


「たく、まだ怒ってんのか?言っとくけど、お前が女に振られたのは俺のせいじゃないからな!お前の運命の女じゃなかっただけだ」


ライアスはまた無反応だった。


「前の女のことは忘れて、虹の国で女作ればいいだろう?未来の虹の王の俺の従者だから縁談は嫌ってほどくるぞ。保証する!選び放題だぞ!」


ナイトが母国、水の国で経験したことだったからまず間違いない。

ライアスはようやく小さな溜息を吐いた。


「たく、辛気臭い顔しやがって…」


ナイトとライアスの間に重苦しい空気が流れる。


「ライアス殿ですね。私はフロントです。ネティア女王陛下の双子の妹フローレス姫の専属の騎士です。ようこそ、虹の国へ」


何となく事情を察したフロントが明るく自己紹介をし、手を差し出してきた。

ライアスはおずおずと差し出された手を握った。

そこで終わりたそうだったが、小さな声で自己紹介を始める。


「この度、ナイト王子の従者に選ばれました、ライアスです。『かつて』は水の騎士5騎士の1人と呼ばれておりました…」


かなり大昔の話に聞こえるが、昨日までライアスは水の5騎士の1人だった。


「聞き及んでおります。ライアス殿は剣の腕が5騎士1だとか」

「まあ、一応…ですね…」


力なく笑う。

ナイトは反吐が出そうだったが、その強さは認めていた。


「こいつ、それしか能がないから」

「ナイト様!」


フロントが窘めるような口調でこちらを見たので、ナイトは黙った。

身分差ができたとは言え、やはり兄は怖かった。


「これから何かと大変になると思いますが、わからないことがあったら何でも私に相談してください」

「ありがとうございます…」


フロントが優しく語り掛けると、ライアスは涙ぐんでいた。

何の準備もなしに見知らぬ土地で暮らすことになったので、不安で堪らないのだろう。

それはナイトだって、同じだ。


『たく、図体だけ立派ななりしてるくせに、心はガラスみたいな奴なんだよな…』


ライアスは強いが、馬鹿がつくほど無欲で正直者、気が優しく、人を疑うことができない。

まず、出世しないタイプだ。

だが、ナイトは彼を引き立てた。

その理由は自分の最初の従者だからの一言に尽きる。

この男に見せたいのだ。

人の上に立つ景色を。

その素質は十分ある。

まず、剣の腕は天下一品、戦場に出れば勇猛果敢だ。

今の状態からは想像できないが。

人柄がよく、仲間の騎士達からの信頼が厚く求心力がある。

人に利用される危険性もあるが、副官がしっかりしていれば問題ない。

何より、いざと言うときは決断できる男だ。

ナイトが窮地に陥った時、必ず助けに来るのはライアスだった。

悔しいがそれは認める。

それが、ライアスを従者に選んだ2つある最大の理由の1つだ。

そして、もう1つは、


「しゃっきとしろよ、お前に一番会わせたい人がいる」


顔に似合わず涙ぐんでいるライアスにナイトはハンカチを差し出す。


「え、私にですか?」


ハンカチを受け取って鼻水を噛んだライアスはキョトンとしている。

虹の国には縁もゆかりもないからだろう。


「そうだ、お前にだ!!俺がお前を従者にした最大の理由はその人に会わせたかったかだ!」


ナイトはすごんで言ったが、ライアスは首を傾げる。

何故、会わせたいのか?

皆目見当がつかない様子だったが、急に頭を掻きだした。


「会わせたい人がいる…なんか、結婚前提の恋人を親に紹介する時のセリフですね」

「なんか、違うけど、そういうことだ!!ていうか、もう結婚してんだよ!」


ナイトがライアスにどうしても紹介したい相手、それは妻ネティアだった。




***




その頃、ネティアは母ティティスに懇願していた。


「母上、親衛隊を厳罰に処することを許してください!」


親衛隊のせいで、夫のナイトが寝所に入ってこれないことが許せいないのだ。

女王に即位したネティアには親衛隊を罰することができるのだが、前女王である母の許可がいる。

退位したとはいえ、母を蔑ろにはできない。

母は親衛隊の暴挙を許していた。


「あなたの気持ちはよくわかるわ。処罰するのは簡単よ。でも、それで親衛隊を心から従わせることはできないわ。皆、あなたを慕っているのよ」

「それは、嬉しいですが、私くしはナイト様一筋と決めていますから」


国中から集められ、女王のためだけに結成された騎士団だ。


「私くし達はか弱い女のなのよ。身辺を守ってくれる者が必要なのよ。親衛隊は私くし達が持つ数少ない兵力なの。王が反乱を起こしたとしても、彼らは私くし達を守る盾になってくれるわ」


虹の国の歴史を紐解くと、女王が国主ではあるものの、兵は王の物だった。

そのため、女王の意思を無視した政治を行われたことがあり、その対策のために作られたのが親衛隊だった。


「ナイト様は反乱なんか起こしません」

「それはわかっているわ。でも、もし、ナイトが死んだ時のことを考えて御覧なさい?ナイトに代わる者が必要よ。もうジャミル達を頼ることはできないわ。頼りのレイスも力不足。ならば、最も信頼できるのは親衛隊だけよ」


母の想定は到底受けれいられないものだった。


「ナイト様は死にません!」

「ええ、死なせないわ。でも、ナイトに手を貸すこともしない。だって、ナイトは強いもの。必ず、あなたの下へたどり着くわ」


ネティアは口籠った。

ナイトは確かに強いが、たった1人だ。


「もう、あなたはただ待っていればいいのよ。モテる女は辛いのよ」

「ですが…」

「今すぐ来て欲しいのはわかるわ。でも、時間が必要よ。ナイトはその強い意志で、必ず、親衛隊に自分の存在をを認めさせるわ」


母に押される形で、ネティアが頷いた。

今は待つしかないようだ。

母との会話がちょうど一段落したところで、父のレイガル王が部屋に入ってきた。


「父上、見送りに行かれたのではなかったのですか?」

「ウォーレスはもう出航したそうだ。なんでも火急の用ができたらしい。もうすぐしたら、フロントがナイトを連れて戻てくるそうだ」

「あらあら、それじゃ、これからのことを話さないとね。シュウも呼ばなくちゃ」

「もうすぐ来るだろう」


父が入ってきたことにより、顔合わせの準備が始まる。

今日より虹の国は、新しく女王となったネティアと父レイガル王を中心とした体制に移行する。

そこに、ネティアの夫であるナイトをどう組み込むが話し合いの焦点になる。

と言っても、話はもう父と前女王である母の間で決まっているようで、ネティアとナイトはその決定に従うだけだ。

ネティアは新女王として、母からその公務を引き継ぐ。

しかし、ナイトをどうするかはまだ聞いていなかった。

ナイトは何をやらせても何でもこなせる万能タイプだ。

だが、まだ虹の国では人脈がない。

そこが、ネティアは不安で堪らなかった。


「ナイト様をお連れしました」


フロントがナイトを連れて戻ってきた。

ネティアが顔を上げると、ナイトがすぐさま従者を目の前に連れてきた。


「ネティア、俺の従者を紹介する!よーく、見ろよ、ライアス!本物だぞ!!夢じゃないぞ!」


屈強の騎士がネティアを頭の天辺から爪先までマジマジと見つめて、とても驚いた顔をしている。

ネティアの顔は不安から一転して、困惑した。


「あ、あの、お手を取ってもよろしいでしょうか?」


顔に似合わず、おずおずと聞いてきた。


「…ええ、どうぞ」


ライアスは恐る恐る、ネティアの手を取った。

力強く握られたかと思うと、すぐに手を離した。


「おおお!ほ、本物だ。とても美しい!本当に、実在したのですね!!王子が貞操を貫から抜かれた理由がようやくわかりました!」


叫ぶように声を上げて驚くライアスを見て、ナイトは満足そうに頷いている。

何が起きているのかネティアを始めとする一同にはわからない。

フロントがそっと出てきて、ネティアに耳打ちしてきた。

事情を知って、ネティアの顔が綻ぶ。


「お前、散々俺をバカにしてれたよな?ネティアが実在した以上、これから一生をかけて償ってもらうからな!」

「はい、もちろんです!!ネティア女王、初めまして、ライアスと申します!これからよろしくお願いします!!」


ライアスは畏まって、ネティアの前に膝まづいた。


「こちらこそ、よろしくね、ライアス。サラ…」

「は、はい!!」


ネティアは専属の侍女を呼んだ。

カチコチになって、サラが控えていた壁際から出てきた。


「サラよ。私くしの専属の侍女です。サラはあなたがモデルとなった守護神の絵を見てからあなたのファンなのよ」


ネティアが紹介すると、ライアスがサラの方を向いた。

サラの顔が一気に真っ赤になる。


「光栄です、サラ殿」


ライアスは屈託のない笑顔で握手を求めた。


「あ、あの、これから、よろしく願いします…わからないことがあったら、なんなりとお聞きください…」

「ええ、そうさせていただきます!」


オズオスと差し出されたサラの手をライアスが力強く握った。

サラの頭から蒸気が吹き上がるが傍目がもよくわかる。

横からナイトがニヤニヤしながら口を添える。


「あ、サラ、もし良かったら、こいつと付き合ってやってくれない?実はこいつ、彼女に振られたばかりでフリーなんだよ」

「え?え?えええええ!!!」


サラが目を大きく見開いて、ライアスを見と、


「あははは、恥ずかしがしながらそうなんです」


と頭を掻きながら答えた。


「そ、そんな、信じられません。ライアス様はとても、素敵な方なのに…・」

「いや、そう言ってもらえると嬉しいです」


ライアスは本当に嬉しそうに、サラにありがとうと言った。

サラはボーとライアスに見惚れている。

2人の間にいい感じの空気が流れる。


「ライアス、良かったな。いっそ、今、デートの約束でも取り付けたらどうだ?」

「デ、デート・……!?」


その空気を察したナイトが茶々を入れ、サラが驚きの声を上げたが、


「ははは、王子、気が早すぎますよ。まだ私達は出会ったばかりでお互いのことを知らないのですから」


と、ライアスがサラっと流したので、サラは肩を落とした。

話の流れで、デートを期待していようだ。


「ですが、もし、サラ殿がよろしければ、今度お茶でもいかかですか?虹の国のことをゆっくり教えていただきたい」


デートの誘いではなく、情報収取のためのお茶のお誘いだが、デートのようなものだ。


「はい、喜んで・・…なんて紳士的な方…・」


サラは即答して、うっとりとライアスを見上げている。

この2人はもしかしたらいいカップルになるかもしれない。

初対面でお互いに好印象を持ったようだ。


「失礼します」


シュウが入室してきた。


「これで、揃ったな。では、行くとするか…」


父王の下にシュウ、フロント、ナイト、ライアスが集められ、別室に行こうとする。


「ナイト様!」


ネティアは不安なあまり呼び止めてしまった。

すぐさま、ナイトがこちらにやってきた。


「俺は大丈夫だ。必ず、周りの連中を認めさせてお前の隣に立つから。待ってろよ。頑張って、親衛隊の奴らをぶっ飛ばしてお前の部屋に行くからな!」


ナイトはネティアを安心させるように微笑んで父王の下へ戻った。









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