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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
73/134

主人と従者


鮭………


    ・・……・…・!?



          ……………………じゃなかった。




コツコツと足音を響かせ、ナイトはやってきた。



「な、ナイトが来たぞ!?」

「何、まさか!?」


戴冠式の夜も果敢に新妻ネティアの寝室に赴くいていた。

昨夜、初夜に来たところを撃退したばかりなので、親衛隊は驚いて集合した。


「呼び捨てにするな!王子をつけろ!」


婿養子で虹の国に来たナイトには水の国の第一王子という立派な身分がある。


「帰れ!女王陛下の寝所に入れるのは王のみだぞ!」


昨夜同様に立ちはだかる親衛隊にナイトは言い放つ。


「夫が妻の部屋に行くのに、王の座は関係ない!」


ナイトは王にはなれなかったが、新女王ネティアの夫であるのは間違いない。

親衛隊を代表する赤と青の騎士アインとカインが出てきた。


「確かに、正論だ。しかし、我々はお前を認めないと言ったはずだ」

「故に、ここから先は一歩も通さん!」


親衛隊はネティアの部屋の守りを固めた。


「…認めさせればいいんだろう?」


ナイトは不敵に呟いて、剣を抜いた。


「お前らを突破して、俺はネティアの下へ行く!」


無謀な宣戦布告に親衛隊はたじろいだが、アインが笑いを漏らした。


「…・この我々の守りを突破できると本当に思っているのか?愉快だな、カイン?」

「全くだ、俺達も舐められたものだな」


アインとカインが槍を構えた。


「いいだろう、ナイト!お前が我々の守りを突破した暁にはお前を虹の王に認めてやろう!」

「言ったな、約束だからな!」

「我々に二言はない!」

「行くぞ!」

「「おおおおおおお!!!」」


こうして、ナイトと親衛隊の夜の攻防が始まった。

これは、ナイトが王になるまで夜の日課となる。

自らの存亡と子孫を残すため、鮭の激流への挑戦が始まった。







フロントはフローレス姫の部屋で浮かない顔をしていた。

ネティア女王の下へ行ったナイトのことを心配していたのだ。

結婚したのに妻の部屋に行けなことに納得できなかのだ。

しかし、相手は女王の親衛隊、王の一族の次に王に近い存在。

歴史を紐解くと、王の一族から選ばれた王が亡くなった場合、後継に選ばれる王は女王の親衛隊から選ばれるパターンが結構ある。

故に、彼らの覚悟も半端なものではない。


「ナイト、大丈夫かしら?」


フローレス姫も同じことを考えていたようで、2人でドアの方を黙って見つめていた。

しばらくすると、スースーと何かを引きずる音が響いてきた。

2人は溜息を漏らした。

激流に敗れた鮭が流されてきたのだ。


キィ…


ゆっくりとドアが開いてナイトが倒れ込んできた。

フロントが慌てて駆け寄って助け起こす。


「兄ちゃん…・、俺、…・弱いのかな!?」

「………いや、お前は十分強いよ…」


『認めさせる』と啖呵を切ったナイトだったが、多勢に無勢の上に、親衛隊は超がつくエリート。

撃退されて当然だったのだ。

一対一なら絶対にナイトが勝っていたとは思うが。


「兄ちゃん…虹の王って、親衛隊クラスの連中…・を1人で倒せる…・…くらい…・強くないと…・なれないの?」


ナイトは子供のようにしゃくりあげながら問いかけてきた。






『こら、お前ら、大勢で寄ってたかって、ずるいぞ!』


と、大人数の親衛隊に全く歯が立たないナイトが抗議すると、


『虹の王なら、我々ごときの数、楽々と倒せるはずだ!』





と、返されたらしい。

親衛隊はナイトを現王レイガルと先代の王ベルトと比べているのだ。

しかし、彼らはこの2人の以外の王の強さを知らない。

フロントもそうだが、はっきり言えることがある。


「……いや、そんな化け物はレイガル様とベルト王の2人だけだ。それ以外の王はお前と同じぐらいだったはずだよ」


魔王と恐れられるフロントでさえ、女王の親衛隊全員を1人で薙ぎ払うことは無理だった。


「……だよね…」


ナイトは少しほっとした顔になったが、


「そんなのと比べられたらたまんないよ!!!これじゃ、いつまでもネティアの部屋に行けいないよ!!ネティアと一緒にいたいよ!!!!」

「うわあ、落ち着け、ナイト!フローレス様、お水を持ってきてください!」


突如泣き崩れたナイトをフロントは必死に宥める羽目になった。




「ふむ・・…孫の顔は当分、お預けのようだな…まあ、親衛隊相手ではまだまだといったところか…」




開けっ放しになっているドアから少し離れたところから、中を覗き見たウォーレス王は溜息を漏らした。

ナイトの様子をこっそり見に来ていたのだった。

諦めてウォーレス王は踵を返した。




***





戴冠式の翌日、結婚式から3日目。

水の王ウォーレスは水の国へ帰る日だ。

結婚式のお祭りモードも冷め始める今日から、ナイトの虹の国での新生活が始まる。

初夜を終えることなく、仕事始めだ。

父王を見送るため、ナイトは自室で身支度を整えて唯一の従者が来るのを待っていた。

しかし、いくら待っても来ない。

イライラがしながら部屋の中を行ったり来たりを繰り返していたが、不意に足を止める。


「あの野郎、まさか、逃げたんじゃないだろうな…」




***




リュック、ルビ、アルトの3人は水の国へ帰るウォーレス王に付き従って港に到着していた。

帰る前の話題はやはり、


「ライアス、大丈夫かな?」


ライアスのことだった。

ナイト王子の結婚式の後、部屋で夜通し飲み明かし、次の日は二日酔いで潰れていた。

その時に、ナイト王子が女王の親衛隊に初夜を妨害されたことを聞いて、かなり悲観していた。

今日からはそのナイト王子の従者はライアスただ1人。

虹の国に残していくことになる。


「心配だよな…」


リュックの問いにルビが同調するが、


「お前達、人のことより自分達のことを心配しろ。お前達は国に帰ったらセリオス王子の従者になるのだぞ。早く気持ちを切り替えろ」


とアルトに一喝された。

因みに、アルトの仕事はシープール領主代理のシリウスの補佐と変わりはない。

領主はナイト王子のままだが、虹の国にいては公務は不可能だ。

アルトはもう気持ちが切り替わっているのか、騎士の出で立ちではなく文官の出で立ちに変貌していた。


「切り替え早…って、アルトって、目悪かったのか?」


ルビに問われて、アルトはかけていた眼鏡を取る。


「これは飾りだ。剣より弓矢を得意とする私の目が悪いわけあるまい」

「…・・あ、そうですか・…」


ルビは引きつった笑いで答えた。


「セリオス王子はナイト王子と比べて普通の子供らしいから苦労はないだろう」

「普通の子供か…想像つかないな…」


今まで過激なナイト王子とウォーレス王親子に振りまわれ続けた日々を送っていたリュックとルビは普通が分からなくなっていた。

2人は幸運だった。

セリオス王子に仕えることで、平穏と言うものがどういうものかを知ることになるのだから。

そして、ナイト王子の異質性に初めて気づくのだった。


「おおおおおおいいいいいいいい、待ってくれ!!!」



水の国の者はほぼ全員港に到着したはずだったが、まだ1人残っていたようだ。

ライアスだった。


「ウォーレス王、やっぱり、私には無理です!!!!どうか、水の国に帰らせてせてくださいいいいいいい!!!」


ライアスが荷物を抱えて走ってくる。

不安が的中したリュックとルビは硬直している。

その横で、


「撃退する」


いつの間にか、アルトが弓矢を番えていた。

昨日まで同僚だった相手に弓矢を向けている。


「アルト、あれ、ライアスだよ!?」


リュックが慌てて制止するが、


「知っている。だが、あいつはもう水の国の者ではない。よって、あいつが戻ってくると我々の出港の妨げになる。故に、撃退する!」

「…・・……情け容赦ねぇ・…」


アルトの非道ぶりにルビが呆れる。


「当然だ。あいつが頑張ってくれなければ、私の身が危ない」

「本音出たよ…」


ライアスが辞退すると、アルトが虹の国に残らなければならない。

しかし、ナイト王子を取り巻く環境は絶望的に厳しい。

シープールでシリウスの補佐をやっている方が天国だ。


「おお、ライアス!」


ざわめている水の騎士達はるか頭上から、声が響いた。

ウォーレス王が船の上から姿を現したのだ。

やってきたライアスは船の前で土下座する。


「ウォーレス王!どうか、私も連れて帰ってください!!」

「それは無理だ」

「何故です!?」


「こら、ライアスううううううう!!!!!」


背後から聞こえた声にライアスは凍り付いていた。

単身馬に乗ったナイト王子が猛スピードで追いかけてきた。

そして、ものすごい形相でライアスの後ろで馬を降りた。


「お前、この俺に恥をかかせるのが大好きなようだな!?」


親衛隊に初夜を撃退され続けて、虫の居所が悪いのもあったが、ナイト王子自信が選んだただ1人の従者が逃げようとしたのだから更に怒りは倍増している。

怒りの炎が顕現して見えるようで、水の騎士達は後退りした。


「この俺がお前を指名したんぞ!有り難く思え!俺は未来の虹の王だ!俺の下にいれば出世は思いのまま!他の奴らがこぞってなりたがる俺の側近の座をお前はまた蹴るのか!?まあ、苦労はするだろうがな…」

「はい!苦労したくありません!」


水の騎士達の顔面から一気に血の気が引く。

主に対して、例え、嘘でもそんなことは言えなかった。

だが、ライアスはバカがつくほど無欲で正直者だった。


「くくくく・・・・・・はははははははははh!!!!」


ナイト王子が突然、狂ったように笑い出した。

リュックとルビは凍り付いた。

確実に逆鱗に触れた。

ライアスはここで斬り殺されてもおかしくない。


「い、命だけは助けを…」

「誰が殺すか!!お前には俺が虹の王になるところをちゃんと見届けさせてやるからな!!!覚悟しとけよ!!」

「え!?」

「…・・…あれでいいのか……・?」


これにはライアスだけでなく、水の騎士達一同も度肝抜かれた。

しかし、ただ1人アルトだけは違った。


「さすがはナイト王子、寛大なご処分に感服致しました。この大馬鹿者のライアスに王子が虹の王になられたお姿を、是非、見せて差し上げてください」


ライアスを売った。


「ああ、もちろんそのつもりだ」

「羨ましい限りです。選ばれなかったのが残念でなりません」」


リュックとルビを始めとする水の騎士達は驚愕の表情をアルトに向けた。


『さっきと言っていることが違う!!』


そんなことは露ほども知らないナイト王子は、すまなそうな表情になる。


「すまなかったな、アルト。お前でも良かったんだが、こいつに俺が虹の王になった姿をどうしても間近で拝ませたくてな」

「ええ、わかります。王子の器量は誰も認めるところです。必ずや虹の王になられることでしょう。私は、シリウスとシープールから見守っています」


アルトは素晴らしすぎる演技を通して見せた。

しかし、その演技に騙された者がもう1人いた。


「そんなに言うのなら、アルト、代わってくれ」


ライアスだ。


「断る。お前はナイト王子の守護神だ。責務を全うしないと、シリウスから呪わるぞ」


とすがってきたライアスをアルトは一蹴した。

船上からウォーレス王の笑い声が降ってくる。


「と言うことだ、ライアス。すまんが、ナイトの面倒を見てくれ。退職金は多めに出しておくから」

「…・・……はい…・…」


とどめの王命にライアスは観念した。


「リュック、ルビ、お前らもセリオスの下で頑張れよ」

「「…はい…」」


ナイト王子から突然声を掛けられたリュックとルビはぎっくしゃくしながら答えた。


「王子、よろしければこれを」

「おう、アルト、気が利くな」


進み出たアルトがナイト王子に渡したのは縄だった。

何の縄か、それはライアスを縛るためのものだ。

こうなった時のためにアルトが前もって準備したいようだ。

その縄でナイト王子はライアスを縛った。

その様子を船上から見届けたウォーレス王は声を隣にいたソーダ将軍に告げる。


「よし、出航だ!」

「陛下、まだ虹の国の見送りがきていませんが」

「これ以上いるとライアスが泳いででも戻ってくるかもしれん。『急用ができた』と早馬を走らせろ」

「…・畏まりました・…」


ソーダ将軍は気の毒そうにライアスを見下ろしてから、出航の合図と虹の国への早馬を走らせた。


「じゃな、お前ら達者でな」


ナイト王子はライアスを縛った縄を持ったまま騎乗した。

その姿は主人と従者と言うより、主人と奴隷のようだった。


「はい、頑張ります。それじゃ、王子とライアスも頑張って!」

「ライアス、気張れよ!!」


リュックとルビは早口で別れの挨拶を述べると、早々と船に乗り込んでいった。

他の水の騎士達も逃げるように乗船した。





「ほら、行くぞ」




船が離岸するの見て、ナイトは徒歩のライアスに呼びかけてから帰路に着いた。

ナイト王子に捕まり、水の国の帰国を許されなかったこの時のことを後のライアスはこう振り返っていた。


『夜明け前が一番暗かった』と…













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