表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
72/134

虹の王への道は険しく

寝る準備をしていたティティスの部屋に、突如親衛隊が訪ねてきていた。


「女王陛下、お騒がせして申し訳ありません」

「何事か、あったの?」


ティティスは驚いて対応した。


「ございました。我々が起こしまた」

「何を起こしたの?」

「ネティア姫の寝所に来られたナイト王子を我々が追い返しました」


絶句するティティス。

初夜のため、新婦の寝所を訪れた新郎を追い返すなど、前代未聞だ。

しかも、彼女に忠実な親衛隊がだ。

親衛隊は一斉に平伏す。


「どのような処罰も受ける覚悟で参りました。しかし、その前に我々の進言をお聞き届けください!」

「明日の戴冠式でナイト王子に王冠を渡すのをお考え直しください!」

「我々には到底、納得できません!」


親衛隊の並々ならぬ決意に、ティティスは思案するしかない。

彼らの気持ちもわからなくはない。

突然、明日から他国から来てよく知らない者の命令を聞かなければならないのだから。

王の一族に続き、女王の親衛隊もとなると、明日、ナイトに王冠を渡すのは危険だ。



『やっぱり、急ぎ過ぎたかしらね…』



思うところはあるが、自らの親衛隊の言葉に耳を貸さないわけにはいかない。


「わかりました…追って沙汰を下します。それまで自分達の任務を全うしなさい」

「は!」


ティティスの命を聞いて、親衛隊は速やかに退散していった。


「ティティス様…」


その後、フロントが慌てた様子で現れた。


「フロント、ナイトは?」

「ナイト様はフローレス様のところにいらっしゃいます」

「無事なのね?」

「はい、かすり傷はありましたが、目立った外傷はございませんでした」


ティティスはホッと胸を撫でおろした。

親衛隊はただナイトを数で圧倒して追いかけ回しただけのようだ。

女王の親衛隊が自分の娘の花婿に大怪我を負わせていたら、戦争ものだ。


「フロント、至急会議を開きます。レイガル達を私くしの執務室に集めて頂戴」

「畏まりました」


フロントが速やかに伝令に走ると、苦い顔をして、傍で控えていた侍女長のラナに命を下す。


「ラナ、このことをネティアにも知らせて来てくれるかしら」

「…お辛いですね、拝命いたしました」


ラナはティティスの心情を慮ってから、他の侍女に自分の役割を任せて赴く。


「私くしも支度をするわ」


ティティスは会議に備えて、身支度を始めた。




***




レイガルは1人酒を煽っていた。

他に誰もいないわけではない。

ウォーレス、ロン、ソーダの3人と給仕に水の騎士が十数名がいた。

ウォーレスとロンはナイトの話で盛り上がっていたので、ソーダ達水の騎士がレイガルの相手をしてくれていたが、酔いつぶれてダウンしていた。

ウォーレスとロンは相変わらず、ナイトのアルバムの写真を2人で眺めては目を赤くはらしていた。


「ナイトと言う名は、騎士のように、強く誇り高く、皆と力を合わせて弱き者を守れる人間になってほしい、と言う、願いを込めてつけたのだ」

「まさに、その通りのなりました、ウォーレス王!」

「ああ、ナイト・・…こんなに可愛かったのに、あんなに立派になって・お前のスピーチ良かったぞ…父は、父は……嬉しいぞ…・・!!」

「あんなにヨチヨチしてたのに、今は、本当に強くなった。絶対、絶対、歴代虹の王の中で1番強い王になりますよ!!!」

「私も、そう思う!あの子は、親の目から見ても、本当に優秀な子だった!!」

「ええ、わかりますとも!わかりますとも!」

「しかし、ナイトは繊細な子でもある。まだ年も若い。ネティアの守護の力もあるが、絶対ではない。ロン、ナイトに何かあったら守ってくれよ!」

「もちろんですとも!このロン、命に代えても、ナイト王子をお守りします!」

「頼んだぞ!」


酒を酌み交わしながらこんな調子で喋っているウォーレスとロンにレイガルはうんざりしていた。

朝までこんな話を聞かされるかと思うと、地獄だ。

レイガルは暇つぶしに1人酒を煽る。

唯一の救いは、自分が底なしに酒が飲めるといことだった。

ビールがなくなったようで、今度はウィスキーが出てきた。

レイガルは氷を入れてロックで煽る。

ウィスキーを持ってきた水の騎士がギョッとしている。

レイガルの底なしに心底驚いていいるようだ。

この分だとあるだけの酒を飲みつくしてしまいそうだと、レイガル自身思っていた。

酒は好きでも嫌いでもなかったが、ウォーレス達の話に入っていくよりはましだった。

これが朝まで続くのかと、思っていると、救いが訪れた。


「レイガル様!ウォーレス王!」


火急の知らせを持ったフロントが慌てた様子で飛び込んできたのだった。




***




女王の親衛隊がナイト王子を襲撃したことはシュウの耳にも届いていた。

シュウは披露宴の後片付けを済ませ、明日の戴冠式の準備をするところだった。


「やれやれ、父上の引退で押し切れると思ったのですが、やはりだめでしたか…」

「女王の親衛隊には王の一族の息はかかっていないはずですが…」

「かかっていなくとも、彼らには王の一族に匹敵する立場にあるのです。昨日今日来た者の命令など聞きたくないということでしょう」

「どうなされるのですか?」

「どうもこうも、こうなっては、ナイト王子の即位は一先ずお預けでしょう」

「それはで、ネティア姫の女王即位も延期と言うことになるのですか?」

「それは、会議の結果次第でしょう。取りあえず、戴冠式の準備はしておいてください」


そう命令して、シュウは部下に任せて自らは会議に赴く。

女王の親衛隊の反対によって、ナイト王子の王即位はほぼ絶望的だったが、ネティア姫の即位の可能性は残っていた。

ネティア姫の結婚イコール女王即位は前々から約束事項だった。

ティティス女王は原因不明の病により足が不自由になり、車椅子の生活を送っていたからだ。

そうなると、王位は空位か、それとも…








「………………………………………………………………・…・嫌だ………」



眉間に皺を寄せ、レイガル王は小さな声で答えた。

長い沈黙の末だった。

周囲から大きな溜息が漏れる。


「もう、自分の娘でしょう?」


ティティス女王が困った顔で夫を諭している。

ティティス女王は約束通りネティア姫に女王の座を明け渡し、退位することにしていた。

だが、レイガル王はナイト王子が認められるまでの間、代わりに王の座に留まる必要がある。


「あなた以外いないでしょう?」


王の代わりを他人が変わることはできない。

夫が無理なら、父親しかいない。


「…・・……私は………別に…・・……構わないが、・・…………その…・・…………ネティアが…・・…どうか…………」


レイガル王は言いにくそうに、娘のネティア姫を気遣う。

実は、レイガル王はネティア姫が苦手だった。

対して、ネティア姫も父王が苦手だったのだ。

別段、2人の間に何かあったというわけではない。

原因はネティア姫のあまりに強すぎる魔力のせいだった。

赤子の時からネティア姫にはレイガル王の人ならざる力の源が見えてしまうようで、父王が近づくだけで泣き出すと始末だった。

今は、そんなことはいものの、敬遠しているのは周囲にもわかる。

父と慕いながらも、怖さの方が勝り、近づけないのだ。


「困ったものね…ラナ、ネティアは?」


ラナが進み出てきてこちらも言いにくそうな顔をしていた。

ティティス女王は耳を貸して、事情を聴いた。


「………・わかったわ、ネティアには明日、伝えましょう。フロント、ナイトを連れてきてくれるかしら?」


フロントがすぐさま駆け出して行った。




***




「ナイト、落ち着いた?」


フローレスから水をもらって飲んだナイトは小さく頷いた。

新婚初夜を妨害されたショックからは立ち直れたが、溜息が漏れる。


「…まあ、すんなり虹の玉座に座れるとは思ってなかったけどさ…まさか、初夜に行こうとして追い返されるとは思わなかった…」

「…そうね、まさか、母上の親衛隊がこんな大胆なことをするなんて、思いもよらなかったわ」


フローレスも驚いて、肩を落としている。


「ネティアも大丈夫かしら?」

「…うん…きっと、俺が来るの待ってるよな…」

「こんなとになってるって知ったら、きっと、ショックを受けるわ…」


ナイトはフローレスと共に溜息を吐いた。


トントン


ノックから間髪入れずにフロントが顔を出した。


「ナイト様、女王陛下がお呼びになれています」

「わかった…じゃ、行ってくるよ」


ナイトはソファから立ち上がって、フロントの下へ行く。


「フローレス様、すぐにライガ達が参りますから、部屋にいてくださいね」

「わかってるわよ。その代わり、私の代わりにナイトをちゃんと支えるのよ」

「わかってますよ」


フロントは苦笑いを浮かべてナイトをティティス女王の執務室へ案内する。

部屋に入ると、虹の国側はティティス女王、レイガル王、虹の宰相カリウスとシュウがいた。

水の国側はナイトの父ウォーレス王だけだった。

公の場で、父王の傍に将軍のソーダの姿がないのは珍しいことだった。

後、当事者のネティアの姿もなかった。

皆、難しい顔をしていた。


『ネティア…もしかして、こんなことになって悲しんでいるのか…』


ナイトは胸が引き裂かれるような気持になった。

命を、いや、前世の人生のすべてを掛けて守った国に背かれるのはとても辛いことだった。


「ナイト、明日の戴冠式は予定通り行うわ。ただし、ネティアだけね。あなたを虹の王に据えるのは今回は見送ることにしたわ」


ティティス女王の発表にナイトは衝撃を受ける。

ネティアが女王、ならば、ナイトの立場は一体どうなるのか?

ナイトが困惑していると、ウォーレス王が口を開いた。


「まあ、仕方がないな。ベルク王とレイガルのせいで余所者が虹の国の王になるための慣例ができてしまったからな」

「慣例?」

「他所の国からきたベルク王とレイガルは一兵卒から這い上がって王になった。つまり、親衛隊はお前にも実力を見せろ、と言ってきたのだ」

「え、ってことは、俺も一兵卒からのし上がれってことか!?」


ナイトは面食らう。

一兵卒からとなると、王になるまでかなりの行程を踏まなければならない。


「それはない。お前は仮にもネティアの夫だ。それに水の国の王子という立場もあるから一兵卒はない。だが、虹の国の一将から始めて、虹の民から信頼を得るしかないだろうな」


ナイトは安堵の溜息を吐いた。

一応は人との上に立つ地位だ。


「まあ、お前なら何とかなるだろう。命を落とさなければな」


父は笑いながら物騒なことを言って、ナイトに格言を授ける。


「ナイト、鮭はな、激流を遡って子孫を残すんだぞ」

「………・俺、鮭じゃねぇし!」


父の格言にナイトは呆れた。




***




翌朝。

ネティアはカーテンから差し込む光で目覚めた。

抱きしめていた枕には涎がついていた。

それを見て、はっとする。

そう、昨夜は初夜だったはず。

しかし、ナイトの姿はない。

ネティアはナイトを待ちわびて、いつの間にが眠りに落ちていたのだ。


「ネティア様、お目覚めになられましたか?」


遠慮がちに声を掛けてくる侍女のサラにネティアは勢いよく振り返った。


「ナイト様は?」

「…実は…・…」


サラは昨夜の起きた事件のことをネティアに知らせた。

幸せな夢は吹き飛び、驚きと、羞恥で顔が真っ赤になる。


「そんな、大変ことになっていたのに…私くしたら・…」

「仕方ありません、お疲れだったのですから」

「でも、でも、今日の戴冠式はどうなるの!?」

「そのことなのですが…」


サラはまた言いにくそうにな顔になった。




***




正午の鐘が鳴り響く。

予定より少し遅れて、虹の国ではネティア姫の女王即位のための戴冠式が行われた。

ネティアは母であるティティス女王から王冠を授けられると、父レイガル王の隣に立った。


『ネティア、ナイトが認められるまでの辛抱だ』


と父王が耳打ちしたが、ネティアの顔は浮かない。

娘が女王で父が王と言う不釣り合いな治世が始まる。

この治世は、けっこう長引く。





女王に即位したネティアをナイトは複雑な思いで見つめていた。

因みに、ナイトは虹の国に婿入りしたにもかかわらず、水の国のシープール領主の地位に留まった。

父ウォーレス王のせめてもの温情だった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ