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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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女王の親衛隊

ナイトとネティアの披露宴はダンスの後から徐々に形を成さなくなってきた。

客人達は各々好きなことを始める。

食べることが好きなものは食べまくり、酒が好きなものは酒を好きなだけ飲む。

飲食そっちのけで言葉が尽きない者達。

新しく知り合った者達、または久々に旧知の者との再会。

家族や友人の近況や趣味、女、儲かりそうな話、今流行しているものなど多岐に渡る。

そして、体を動かすことが好きなものはひたすらダンスをしていた。

フローレスとレイガル王がダンスのいい例だった。

必殺の格闘ダンスの技をすべて受けているのに倒れない父を必死に倒そうと夢中になっていた。

父と踊ると他の者とは一切踊らないのだ。

そのためフロントは手持無沙汰になり、ナイトと共にワインを飲みながらひたすら眺めていた。


「頑張るな、フローレス様…」


フロントは10本目のワインを空にしていた。

ダンスを見物するのも、ワインを飲むのも飽きてきたようだ。


「じゃさ、誰かと踊ってきたら?」

「馬鹿言え、その間にフローレス様が戻ってきたらどうするんだ?」

「待っててもらえばいいじゃないか?」


ナイトは当たり前のように答えたが、フロントは首を振る。


「フローレス様のことだ。『ああ、疲れた』と言って、私のことなど構わず1人で部屋に戻って寝てしまわれる。そうなったら、私の計画がすべて台無しだ」

「じゃ、寝た後でもいいじゃないのか?」


フロントとフローレスは許嫁だ。

多少強引だが、熱烈に愛しているというのは伝わる。


「それじゃ、ただの夜這いじゃないか!私は、私はの気持ちをフローレス様にちゃんとお伝えしたいんだ!」


フロントはマリアのことでフローレスがどう思っているのか心配で堪らないらしい。


『見た感じ、いつもと変りないような気がするけどな…』


義妹は必死にラスボスに挑んでいた。

しかし、見方を変えれば八つ当たりしているようにも見えなくもない。


「もしできなければ、『ライガ達の犠牲』が無駄になってしまう」


愛のために仲間を葬った魔王はいら立ちが隠せない様子。

確かに、ここまま魔王の思惑通りにいかなければ、ライガ達が報われない。

フローレスに早く戻ってきてもらい、魔王の毒牙にかかってももらわなければ…

と言い方が悪かった。

この2人はネティアとナイト同様、前世からの恋人だった。

前世は悲恋に終わった。

この2人の愛の行く末をナイトはネティアと共に見届ける責務がある。


『仕方ない、付き合ってやるか…』


また1本ワインを空にしたフロントを優しく見守る。


「王子」


後ろから声を掛けられてナイト振り向くと、アルトが出来上がった仲間を引き連れて立っていた。

その中にはサム親子もいた。

出来上がっているサムを息子のアダムと嫁のミナが介抱していた。

アルトも相当出来上がっていたが、さすがは貴族と言うべきか、恭しくナイトに礼をする。


「王子、そろそろ夜も更けて参りましたので我々はこれにて失礼させて頂きたく、ご挨拶に参りました」

「ありがとう、アルト。今日はお前のお蔭で本当に助かった」

「勿体ないお言葉です。王子とネティア姫の末永い幸せをシープールから願っております」


ナイトは顔を引き締めた。

シープール、ナイトの初めての領土であり、理想郷。


「シープールを頼んだぞ」

「お任せください。シリウスと共に必ずや王子の力になってみせます。困ったことがあったらいつでもお越しください」


アルトは微笑を返して踵を返した。

その後にアルトの芸術仲間が続く。

2次会をやるのだろう。


「ナイト様、またお会いできて光栄です」

「ミナ、アダム」


ミナとサムを背負ったアダムが話し掛けてきてくれた。


「お前達もアルトと一緒に行くのか?」

「いいえ、私達はもう帰ります」

「かぁうぇる!?わあだしは行くぞぉ!そぉしぃて!アルぅトぉしぇんせぇんのおはぁなぁしぃを、もっと、もおっと聞くのだぁ!」

「父さん、もう駄目だよ!僕たち帰るんだから!」


アダムの背中でサムが子供のように駄々を捏ねている。


「義父があんな状況なので…」

「大変そうだが、頑張ってな」

「はい、では、失礼します」


ミナが頭をげて、その後にサムを背負いなおしたアダムがやってきた。


「これからも縁がありそうですね。何かありましたら、どうか御贔屓に」

「ごぉひぃきぃに…」


サムも息子の後追いで商人の決まり文句を言った。

親子が逆転しているようだ。


「ああ、もちろん贔屓にさせてもらうさ、じゃあな」


ナイトはアルト一行とサム親子を見送った。

それだけなのだが、一気に会場がガラガラになったような気がした。

主要客である虹の国を支える大貴族がさっさと帰ってしまったので、それに続く属貴族も長居せずに帰ってしまった。

虹の王家の唯一の縁者である風の国の王子アルアもフロントに追い払われ退散。

風の国一行は主に従った。

残った大口がアルトとシリウスの絵に見せられた貴賤を問わない芸術家やコレクターだったのだ。


「ただいま、ナイト!」


フローレスがやっとラスボスを倒すのを諦めて帰ってきた


「お帰り、フローレス」

「もう、父上が全然倒れないのよね」

「はははは、そりゃそうだ…」


花婿や花嫁の父が結婚式のダンスで花嫁の妹にぶっ飛ばされるなど、大恥過ぎる。

ナイトが相手をしている間、フロントはさっと空にした空き瓶を片付けさせ、お洒落なオレンジ色のカクテルを準備していた。

間違いなく高アルコール。

この猛獣を仕留めるべく、魔王は着々と準備を整えていた。


「ああ、喉乾いた」

「お疲れ様です、フローレス様。これをどうぞ」

「あら、フロント、気が利くわね」


フローレスはフロントから受け取ったカクテルを何の疑いもなく一気飲みする。


「おいしい!………あれ?」


フローレスはよろめいた。

フロントがとっさにその身を支える。


「だいぶ、お疲れみたいですね。」

「そうね、ちょっと、疲れたみたい」

「もうお部屋に戻りましょう」

「ええええ!!、せっかくのおめでたい日なのに…」

「この後、『最も大事な用事』がナイト様にはあるのですよ」

「大事な用事・・…・・あ、そうね、そうだったわ!」


フローレスは合点して、手を打つ。


「じゃ、私達これで失礼するわね、『お義兄様』!」

「失礼します、ナイト様、ネティア様と良い夢を」


フロントはよろめくフローレスをさりげなく支えて去って行く。

その様子をナイトは何とも言えない表情で見送っていた。




同じく、何とも言えない表情で見送っている者がもう1人いた。

先ほどまで、フローレスと踊っていた父レイガルだ。


「まあ、なるようになるだろう…」


レイガルは妻である女王ティティスがいる場所に戻ってきた。

その場には花婿の父ウォーレス王と率いる水の国の一行とレイガルの腹心のロンがいた。


「陛下、そろそろ…」

「そうだな…」


レイガルが戻ってきたところで、ソーダ将軍が進言した。

ウォーレス王は旧知のロンとワインを酌み交わし一気飲みした。

そして、遠くにいるナイトを見つめて、涙を滲ませた。


「さて、参りますか…」


ロンが巨体を上げた。

レイガルは嫌な予感を覚えて、咄嗟に去ろうとしたが、ロンに腕を掴まれた。


「レイガル陛下もご一緒に…」


その目は異様な輝きを放っていた。

ウォーレス王と同じだ。


「ティティス・…」


レイガルは妻に助けを求めたが、


「いいじゃない、ウォーレスの話を聞いてあげなさいよ」

「だが、明日は即戴冠式だぞ」

「あなたなら大丈夫。魔期でも疲れ知らずのスタミナを持っているあなたですもの。友人の話を一晩聞いたくらいじゃヘタレないわ」

「一晩中、ナイトの話を聞かされる身にもなってくれないか?」


魔物退治ならへっちゃらだが、息子を溺愛している親バカのウォーレスの話には果てがない。


「仕方ないでしょう、あなたがナイトを欲しいって言ったんだから」

「そうだが、それはネティアのためだ」


ティティスはレイガルの口に人差し指を立てる。


「なら愛娘の為にも、もう少し頑張らないと、大事な客人をもてなすのも王の仕事でしょう?」


王の仕事だと言われては、何も言えない。


「じゃ、私くしはもう部屋へ戻るわね、お休みなさい、レイガル、頑張ってね」


妻の口づけを頬に受けてレイガルは観念した。


「わかった、頑張るよ。お休み、ティティス」


妻の頬に口づけを返して、見送る。


「さて、行くぞ」


ウォーレス王が重い腰を上げると、水の国の騎士達も一斉に付き従う。

また更に会場の人数が減った。




父と母、義父をが退席していくのを見て、ネティアはソワソワとし始めた。


「ネティア様、そろそろ頃合いですね」


侍女のサラの耳打ちにネティアは小さく頷いた。

主要客はほぼ退席した。

明日の戴冠式の準備もある。

部屋に戻ってナイトを受け入れる準備をしなければならない。

ネティアは大きく深呼吸をすると席を立ち、静かに退場する。



花嫁の退場の知らせは司会のシュウを通して、ナイトに届けられる。


「わかった、もう少ししたら行く」


と返事をして、ガラガラになった会場をゆっくり一周する。

主要客が帰り、酒も食事も食べつくされ、踊りに興じていた者もダンスの曲が同じものが流れ、会場内は飽きの空気が流れていた。

ナイトは給仕からワインを最後に1杯貰うとそれを一気に空けた。


『そろそろ行くか…』


ナイトは遠くにいるシュウに目で合図を送ると、会場を出た。



会場を出ると嘘のように静かだった。

長い廊下には人っ子一人いない。

ネティアの部屋への道標の役目を果たすランプが揺らめいているだけだった。


『初夜か…なんか、緊張するな…初めてじゃないんだけどな…』


新妻の部屋と向かう長い道のりを1人歩きながら、2人が初めて契りを交わした時のことを思い出していた。

頬が高揚する。

潤んだ瞳で、熱い吐息を吐きながら、ネティアは彼の名前を呼んだ。



『あああああ、ルーク…!』



ナイトは足を止めた。

『ルーク』それはナイトが使った偽名だった。

急に高揚感が冷める。

ルークはナイトだが、自分の名前ではない。

やはり、本当の自分の名前を呼んで欲しい。

そうでなければ、本当に契りを交わしたことにはならない。

ナイトは再び足を動かし始めた。

運ぶ足が速い、心に火が付いたのだ。




ネティアは湯あみを済ませ、香油を塗り、薄い夜着を来てベッドの上でナイトが来るのをドキドキしながら待っていた。


『ああ、ナイト様…早く来てください・…』


ネティアは枕を抱きしめ、扉が開くのを今か今かと見つめていた。




ネティアの想いに応える様にナイトは進行していた。

しかし、途中その足が止まる。

誘導灯の役割を果たしていたランプの明かりが消えていた。


「あれ、おかしいな?」


誘導灯はネティアの部屋までついていなければならない。

しかし、部屋まではもう少し距離がある地点から明かりが消され真っ暗だった。

誰かが消したのかもしれない。


「そうか、これは演出だ!」


ナイトはそうと決めつけて、勝手に燃えた。

暗闇を迷わず、突き進んでいく。

前は良く見えないが、突き当れば目指すネティアの部屋だ。

暗闇の道を半分ぐらい進んだところで、ナイトは何かに躓いた。


カランカラン!


乾いた木の音が響いたかと思うと、突然照明がついた。

今までのようなムードのあるランプの光ではなく、強烈な光だ。

ナイトは眩しさのあまり目が開けられなかった。

光が弱まり、辺りが見回せるくらいになると、目の前の光景に仰天した。

武装した100名近い騎士が待ち構えていたのだ。

さすがのナイトも気が動転して何が起きたのが分からない。

騎士団の中から2人の騎士が出てきた。

出てきた赤髪と青髪の騎士が名乗りを上げる。


「我が名はアイン!」

「我が名はカイン!」

「我々は女王陛下に仕える親衛隊だ。その我々がここに宣言する!」

「水の国の第一王子ナイト!我々はお前を王とは認めない!」


突然現れた女王の親衛隊の宣言を聞いてナイトは慌てた。


「女王の親衛隊!?ちょっと、待ってくれ!俺とネティア、姫は式を挙げたんぞ!今更、反対されても…!」


王の一族内4家はナイトが王になること認めないと言っていたが、筆頭のレイス家が認めてくれた。

だから、結婚できたのだ。


「他が認めても、我々親衛隊は認めん!」

「小癪な手段で初心なネティア姫を誑かした罪、許しがたい!」

「小癪な手段て…」


偽名を使って近づいたのは間違いないが、誑かした覚えはない。


「ネティア姫の部屋へは行かせん!」

「追い返すぞ!!」


代表2人の号令に呼応する女王の親衛隊。


「ちょっと、待て!ティティス女王はこのことを知っているのか!?」


ナイトは義母のティティス女王の名を出して抵抗を試みる。


「知らせていない、我々の独断だ!」

「反逆罪に問われるぞ!」

「女王陛下に再考していただくのだ。そのために我々は決起した!やれ!」


騎士達が剣を抜く。

本気でナイト追い返そうとしている。

多勢に無勢、武器も持たない。

成す術もなくナイトは追い返された。






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