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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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ダンスの後は

シュウとの短い会話を終えたナイトは、お色直しに行ったネティアが戻ってくるまで、食事と来客達との会話を楽しむ。


「おーい、ナイト!」


ナイトの悪友ににして、虹の国唯一の縁続きである風の国の王子アルアが艶っぽい女性を伴ってやってきた。


「じゃ、また後で…」


ナイトの前で親し気に手を振って別れた。

どうやら今夜のお相手らしい。

20人の妃を持つ風の王の唯一の一粒種。

そのため女性関係は派手だ。


「相変わらずだな…」

「独身時代の特権だよ。羨ましいだろう?」

「いや、俺は愛する女は1人だけで十分だ」

「勿体ないな、世界中にはまだ見ぬ美女がたくさんいるっていうのに…」

「かもな…でも、最愛の人は意外にすぐ近くにいるもんだ。遠くばっかり見てると、他の奴に持って行かれるぞ」

「名言だな…、覚えておくよ…」

「こら、どこを見ながら言ってんだ、お前は…!?」


アルアの視線の先にはフローレスがいた。

1人で食事をしている。

婚約者兼護衛のフロントはまた席を外しているようだ。


『たく、大事な婚約者を放って、どこへ行ったんだよ?オオカミが狙ってるじゃないか』


ナイトはアルアがフローレスのところへ行かないように見張っていた。

ところが、食事のために流れていたリラックスした曲が、リズミカルな曲に変わった。

人々が会場入り口に注目して、感嘆している。


「花嫁が戻ってきたみたいだね」


アルアは笑いながらナイトを小突いた。

2度目のお色直しを終えたネティアの姿が見える。

白と水色を基調とした体のラインに沿った動き安いドレスで戻ってきた。

そのネティアを始めにエスコートするのは父親のレイガル王だ。

大柄で美丈夫な義父はナイトより頭一個分背が高い。

ネティアはかなり上を見上げている。

レイガル王はダンスに慣れていないのか、ぎこちなく手を差し出す。

慣れてないのは娘のネティアも同様で、カチコチで父の手を取る。

ぎこちないラストダンスが始まる。

しかし、踊っていると次第に音楽のリズムに乗って父娘のダンスの最後は優雅に終わった。

次の曲が流れ始める。

ラストダンスの曲が少し哀愁の漂う曲なら、今度は明るく弾むような曲調だ。


「腕の見せ所だな、ナイト。頑張ってエスコートしろよ」


アルアに背中を押されてネティアの下へ行く。

レイガル王がネティアから離れていくと、ナイトの出番だ。

世界一の富豪の国である水の国の第一王子であるナイトは世界各国の社交界で注目の的だった。

そのため、ダンスは慣れたものだった。

自らの結婚式で、初めての社交界デビューのネティアはダンス慣れしていないが、ナイトの見事なエスコートで優雅に踊っている。

とても初披露のダンスとは思えない。


「うわあ、ネティア上手く踊れてる!ナイト凄い!」


食事をガバガバと食べながら花嫁の双子の妹姫フローレスは姉夫婦のダンスをうっとり眺めていた。


「そうだ、私もナイトに踊ってもらおうっと!」


傍にフロントや忍び衆がいたら必死で止めたところだろうが、生憎誰もフローレスの傍にはいなかった。

何故なら…







『所用』を済ませてきたフロントは慌てた様子で結婚式会場に戻ってきた。

主にして婚約者であるフローレス姫を1人にしてしまった。

何かしでかしていないか心配だ。

特にダンスは危険だった。

しかし、運よくまだ花嫁と花婿のファーストダンスの途中だったのでホッと胸を撫でおろす。

これからが来客達も入り混じったダンスの始まりだ。


『ライガを餌にグレイ達を仕留めるのに手間取ったから、一時はどうなるかと思ったが、うまくいった。邪魔者は排除した』


『魔王』の名に恥じぬよう、フロントは仲間を葬ってきたのだ。

グレイ命名の『ラスボス』はレイガル王が適任なので譲って、フロントは『魔王』の称号を得た。

魔王の手口はこうだ。

まずは女装を解く前にライガを誘惑。

これを秒殺にして封印。

女装を解いて戻り、、フローレス姫にちょっかいを出す虫を追い払った後、ライガが戻ってこないことに気が付いたグレイ達の後をつけ、罠にかけて一網打尽で捕獲し、監禁した。

それもこれも、今宵、愛しい姫と2人きりで過ごすためだ。

双子の姉姫が結婚したのだ。

いくら色恋に疎いフローレス姫でも、『私も結婚した!』となるはず、まさに、絶好の好機なのだ。


『今夜こそは、あなたを手に入れる!』


フロントは並々ならぬ決意を胸にフローレス姫を探しに会場に足を踏み入れた。

だが、その前に、


「フロント様、お待ちしておりました」

「うっ…!」

「マリア嬢がお待ちです」


マリアのボディーガードが待ち受けていた。


「お、お役目、ご苦労様です。しかしですね、私もフローレス姫を護衛するという大切な役目があるので…」


主であり婚約者のフローレス姫が最優先だと、フロントはマリアのボディーガードに訴えた。

しかし、


「あなたがマリア様のお相手をしている間、我々がフローレス姫をお守りします。ご安心ください!」


フロントがフローレス姫を最優先と考えるのと同様、ボディーガードもマリアを最優先に考えていて譲らない。

突っぱねたいところだが、マリアは宰相の娘、無下には扱えない。

それに、国一番の美女を蔑ろにすれば取り巻きの男達から非難が殺到する恐れがある。


「…わかりました…先にマリア様と踊りましょう…」


フロントは観念してマリアを優先させた。


「フロント様!」


満面の笑みでマリアが駆け寄ってきた。

フロントは焦る気持ちを抑えて、微笑みを返す。


「では、一曲お相手を…」


フロントは優雅に礼をしてマリアに手を差し出した。

マリアは嬉しそうにその手を取った。

曲に合わせて、マリアを攫う様にダンスの輪の中に入った。

マリアがうっとりと見上げてくる。

国一番の美女に好意を寄せられ、満更でもない。

しかし、本命のフローレス姫のことは頭の片隅にこびり付いている。

踊りながら、居場所を探る。

フロントがマリアの相手をしている間、ボディーガード達がフローレス姫を護衛してくれると言っていた。

屈強の戦士達がいい目印になる。

彼らの間から食事をしているフローレス姫の姿が見えた。

不機嫌そうな顔でこちらを一瞬見た。

しかし、それ以降は食事に精を出している。


『ああ、やっぱり、怒ってるよな…』


「フロント様!」


フロントがよそ見をしていることに気づいたマリアが必要以上に体を密着させてきた。


「マリア様…!?」


フロントは慌てて身を離し、フローレス姫の方を振り返った。

フローレス姫は食事を止めてどこかへ行こうとしていた。

ばっちり見ていたようだ。


「フローレス様の許可はとってありますわ。ですから、もう少しお相手しくてください…そのためにだけ、わざわざ出てきたのですから…」


マリアの熱いまなざしを受けては、フロントも嫌とは言えなかった。


「よそ見して申し訳ありませんでした。では、あと1曲だけ…


フロントが申し出ると、マリアは花のように笑った。







ナイトはネティアと一曲踊り終えていた。

次の曲が流れ始めた。

ナイトは続けて踊ろうとネティアを引き寄せた。


「ナイト様、申し訳ありません。私くし、疲れてしましました…」


初めて公の場で踊ったネティアは緊張と疲労で踊れないようだ。


「私くしのことはいいですから、ナイト様はダンスを楽しんできてください」


とネティアに言われ、ナイトは手持無沙汰になってしまった。

適当な相手がいない。

義母のティティス女王は車いすだから踊れない。

女性の友人でも来てくれていれば良かったのだが、それもいない。

見ず知らずの好みの女性を見かけては声を掛けるアルアのようなことはナイトにはできなかった。

女性には奥手なのだ。

だから、身内や友人など知っている女性がいいのだ。


「ナイト!」


元気な声に呼び止められた。

義妹のフローレスだ。


「ナイト、ネティアは?」

「休んでるよ。初めてのダンスで疲れたみたいだ」

「じゃ、今誰か相手を探してるところ?」

「まあな」

「じゃ、私と踊ってよ!」

「いいぞ」

「やった!」


ナイトは快諾した。

花嫁の身内と踊るのは通過儀礼だ。

しかし、その通過儀礼の恐ろしさをナイトは身をもって体験することになる。

慣れた手つきでフローレスの手を取る。

クルクルとナイトの懐へフローレスが飛び込んでくる。


『何だ、ネティアと違ってうまいじゃないか』


ドス!


「!!」


脇腹にものすごい痛みが走った。

フローレスが離れるが、手は離さなかった。

何が起きたかわからなかったが、ナイトは何食わぬ顔でダンスを続ける。

またフローレスがクルクルとナイトの懐へ転がり込んできた。

その時、殺気を感じ、身をかわした。

フローレスの拳が空振りするのが見えた。


「ちっ!」


離れ際、舌打ちするのが聞こえた。

確信犯だ。

再び近づいてくると、今度はドレスの裾から蹴りを繰り出してきた。

傍目には踊っているように見えるが、華麗に決めてくる。

ナイトもダンスを崩さないようにその蹴りをカードする。

ようやく、フローレスの肘鉄を捕まえることに成功した。


『さすが、ナイト!』

『こら、何のつもりだ!?』

『何のつもりって、ダンスだけど?』

『これがダンスだって!?』

『だって、私、これしか踊れないもん!』

『誰に倣ったんだ!?』

『誰って、フロントに決まってるじゃない?』


ナイトは言葉がでなかった。

兄は何を考えて婚約者にこんな殺人ダンスを教えたのだろうか?

決闘のようなダンスの終わりに、観衆の中にフロントの姿を見つけた。

ナイトは笑顔を引き攣らせて、フローレスと共にフロントの下へ行く。


「あら、フロント、マリアはもういいの?」

「ええ…、マリア様はもう帰られました…」


フローレスの嫌味に答えながら、フロントはナイトを気にしていた。


「ナイト様とのダンスは楽しかったですか?」

「うん、もちろんよ!さすが、私のお義兄さんだけあるわ!ちゃんと最後まで踊ってくれたもの!これで3人目よ!」

「…3人目?」

「フローレス様と最後までダンスを踊れた男の数です」


フロントの返答にナイトは苦悶の表情を浮かべる。


「今度は私と踊って頂けますか、フローレス様?」

「もちろんよ!今日こそコテンパンにのしてやるんだから!あ、その前にちょっと喉乾いたからジュース飲んでくるわね」


フローレスはジュースを飲みに行った。


「…ナイト、すまない…」

「すまんじゃないだろう!何なんだよ、あのダンスは!?」

「実は…フローレス様に普通のダンスを教えようと試みたんだが、『騎士になりたいから嫌だ』と言われたんだ。そこで、護身用のダンスを教えると言ってみたら、喜んで覚えてくれて、今では私とレイガル様しか踊れないほどの達人になってしまったんだ…」


事情を知ったナイトは大きな溜息を吐く。


「それ、始めに言っといてくれよ…俺、自分の結婚式で大恥かくとこだったんだけど」

「すまない、お前とは躍らせないつもりだったんだ。でも、マリア様のボディーガードに捕まってしまって…」


フロントは申し訳なさそうに頭を下げる。


「あれじゃ、一生他の男とは踊れないぞ」

「大丈夫…ちゃんと、責任はとるさ…」


フロントは不敵な笑みを浮かべた。


「お待たせ!さあ、踊りましょう!」


フローレスも笑みを浮かべている。

2人から強烈なオーラが放たれている。

ダンスではなく、まるで今から決闘でもするかのような雰囲気だ。


『責任取るって、一生あんなダンスを2人で踊る気なのか?』


ナイトはダンスと言う名の熾烈な格闘技を見物することになった。

と言うか、脇腹の痛みのためもう踊ることはできなかった。

フロントは格闘ダンスを教えただけあって、見事にフローレスの攻撃をかわしながら踊っていた。


「やあ、ナイト、フローレスと最後まで踊り切るなんて、さすがだね」


再び現れたアルアがニヤニヤしながらやってきた。


「お前、知ってたな…」

「知ってるも何も、一応身内だからね。部屋の中央から壁まで見事に蹴り飛ばされたよ…」


アルアはフローレスの殺人ダンスの犠牲者の1人だった。

蹴り飛ばされた時のことを思い出したのか、溜息を吐いていた。


「男としてちょっと自信喪失したよ…でも、きっとリベンジるよ!」

「しなくていい!」

「えええ!僕は狙った獲物は必ず仕留める主義なんだよ!」

「え、誰を仕留めるんですって?」


アルアの顔が急に真っ青になる。

さっきまでフローレスと踊っていたフロントがすぐ横にいた。

顔は笑っているが、声が凍りのように冷たかった。


「あ、もうこんな時間だ!女の子との約束の時間に遅れちゃう!それじゃ、ナイト、フレイのこと何かわかったら知らせるよ!」


アルアは尻尾を撒いて魔王から逃げ出した。


「今晩は楽しんでいってくださいね…」


言葉とは裏腹にフロントは塩を撒いていた。


「兄ちゃん、フローレスは?」

「フローレス様ならレイガル様と踊られているよ」


フロントが指さした先に先ほど見た父娘のダンスの光景がリプレイされていた。

ちょっと、違うのはネティアが双子の妹フローレスに変わっていること、ダンスの軽快さだ。


ドスドス!!ゴスゴス!!


フローレスが近づくたびにゴツイ効果音が聞こえる。


「…あれ、全部食らってないか?」

「…・・…その通りだ。レイガル様にとってフローレス様の攻撃はかわすほどではないんだ…」

「…さすが、ラスボス…」


影を落として説明するフロントに、ナイトは脇腹を押さえて震撼した。


「そういえばさ、兄ちゃん。ライガ達の姿が見えないんだけど、なんかあったのか?」


この会場で忍び衆はいつもどこかで目を光らせていたのだが、ダンスが始まってからはパタリとその姿を見せなくなった。


「よく気付いたな、ナイト。その通りだ」

「え、何があったんだよ!?」

「いや、これから起きるんだ」

「何が!?」


ナイトが驚いて尋ねるが、フロントに慌てた様子はない。

落ち着いた様子でワインを口元に運ぶ。


「今夜、一線を越える!」

「…超える?・・…………え?それって、つまり、兄ちゃんがライガ達をやったのか!?」

「これも愛のためだ!」


フロントはレイガル王と踊っているフローレスをじっと見つめている。

どうやら本気のようだ。


「レイガル様とのダンスが終わったら、私はフローレス様を部屋へ連れて帰る。かなり消耗されているはずだからな…フフ…」

「…弱っているところを襲うのか?」

「介抱だ!」


フロントは強く否定したが、疚しいことがある言葉だ。


「ナイト、お前も頑張れよ」

「え、あ、うん…」


この披露宴が終われば、ナイトもネティアの部屋へ行く。

初夜だ。










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