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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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復職後の初仕事

ナイトは疲れ切って父の部屋を退室した。

親子の会話と言うより尋問された気分だった。

待機していたルビがランプを持って恭しく出向かてくれた。


「王子、気分でも悪いのか?」


ルビが心配そうにナイトの顔を見てくる。


「いや、大丈夫だ」


と言って歩き出したナイトだったが、足がもつれる。


「陛下に、何か言われたか?」

「…まあ、そうだな…」


父に言われた言葉がナイトの胸に強く突き刺さっていた。


「ルビ…」

「はい」

「やっぱ、親父ってはすごいわ…」


ナイトは白旗を上げた。

父はナイトに今後の指針を示してくれたのだ。


「はははは、それは王子のお父上だがら当然でしょう?それで、何を言われたんです?」

「お前は初代虹の王かそれとも水の国の王子か?って聞かれた」


ナイトが嘆息して答えると、ルビは明快に笑った。


「それはどっちもでしょう?」

「……………まあ……そうなんだけど……………」


ルビの単純さにナイトは力が抜けた。

ここで思慮深いシリウスやアルト、リュックならナイトの置かれた立場を察してくれただろう。

だが、そんなところがいいのかもしれない。

変に気を使わない。

だから、安心して本音を漏らせる。


「何か問題でも?」

「問題だろう…」

「そうなんですか?」


目を丸くして訪ねてくるルビにはナイトは仕方なく説明する。


「俺はな、前世で光の国に少なからず反感を抱いていた。だから、光の国には属さない全く新しい国を造ったんだ。だが、現世は光の国を支える水の国の王子だ。だから、光の国には逆らえない。とういか、水の王である親父が許さない」

「ああ、なるほど…」


ルビはようやく理解したようだが、ナイトは大きな溜息を漏らす。


「逆らうとか逆らわないという以前に、俺には何の力もないけどな…」

「そうですか?」

「そうだろう?虹の国では初代王の生まれ変わりってだけだ。水の国では、まあ、シープールや、お前達がいるけど、後は全部親父の力だ。俺は親父から力を借りないと虹の国で何の働きもできないんだ。まるで、赤ん坊だ」

「赤ん坊ですか?いいじゃないですか?子供の面倒を見るのは親の役目ですから、大いに陛下に甘えればいいじゃないですか」


ルビは当然のように単純明快に答えた。

だが、ナイトはその回答に不満だった。


「親父に甘えるのが嫌なんだよ」

「でも、力がないなら借りるしかないじゃないですか?あ、借りたら返さないといけないからですか?」

「それもあるけど…面倒かけたくないんだよ…」

「かけたくなかった面倒分だけ倍返しすればいいんじゃないですか?きっと、陛下も大喜びしますよ」


ナイトは言葉に詰まる。


「簡単に言うけどな、婚約の決まっている他所の国の王女と結婚する尻ぬぐいだけでも相当な借りだぞ。それに俺が王になるためにこれからいろいろ援助をしてくれるとしてだ、その借りを倍にするどころか、半分も返せない、いや、もしかしたら、恩を仇で返すかもしれないんだぞ」

「大丈夫ですよ、王子ならちゃんと倍返しできますって。なんせ、王子は名君である水の王ウォーレス陛下の息子であり、虹の初代王の生まれ変わり何ですから」


ルビはナイトに太鼓判を押す。


「だからって、どうやって返すんだよ?」

「王子の立場なら、虹の国と光の国の橋渡しをすることができるじゃないですか?案外、そのために生まれ変わってきたんじゃないですか?」


ルビはランプをナイトに近づけ、冗談めかしく疑いの目を向ける。


ナイトはプイと横を向いた。

虹の国と光の国の橋渡し、それが一番望ましい形だというのはわかりきっている。


「俺に虹の国と光の国の橋渡しができるかな?俺は皆を味方につけることができるかな?」


ナイトは弱気な声を漏らした。

前世で不可能に思われた国を造った。

それはみんなが味方になってくれたらだ。

しかし、前世は戦乱の世だった。

今は太平の世だ。

状況が全く違う。

前世では皆、生きるために居場所が欲しかったのだ。

だから、力を貸してくれた。

しかし、現世は利害関係など複雑だ。


「そうですね、前世の王子がどのような方だったかは知るすべはないですが、きっと、今とたいして変わらなかったと思いますよ」

「俺もそう思う」


ナイトは笑った。

そこで話は終わると思っていたら、ルビが足を止める。


「だから、他も同じですよ」

「え?」

「前世も現世も関係ないですよ。みんな対して変わらないと思いますよ、王子と同じですって。協力者は絶対現れますよ」


ルビの意味深な発言にナイトは拍子抜けした。


「はははは、ルビにしては深いな」

「そうですか?不変の理ってやつだと思いますけど」

「お前、そんな難しい言葉知ってたのか?」

「知ってますよ、これでも王子より年上ですよ!」


ナイトはルビとの会話に和みながら部屋へと戻って行った。




***




大仕事を終えたウォーレスは独り部屋でボーとしていた。

ドアをノックする音にはっとして、身構える。


「失礼します」

「何だ、アルトか…」


ウォーレスは安堵から緊張を解いた。


「王子が戻ってきたと思われたのですか?」


アルトの揶揄いにウォーレスは引きつった笑みを返した。

アルトは人の悪い笑みを浮かべて、2人分のコーヒーを用意する。


「お疲れさまでした」


アルトが入れたコーヒーをウォーレスは手に取って、ふとある要件を思い出した。


「ああ、アルト、ライアスはどんな様子だ?」

「もう気持ちの整理がついたようです。明日から王子の下へ戻る予定です」

「そうか、なら、丁度いいな。実は、私の旧友が訪ねてきてな、頼み事をされたのだ。それをナイトに伝え忘れたから伝えててくれ」

「承知しました。して、陛下のご友人の頼み事はどのようなことですか?」


ウォーレスの説明を聞いたアルトは2つ返事で快諾した。




***




ライアスは身支度を整えて、鏡の前に立っていた。

だいぶ見れる顔になった。

失恋の痛手からかなり憔悴しきっていた。

しかし、いつまでも落ち込んでいても仕方ない。

彼女は運命の人ではなかったのだ。

新しい出会いに期待しようと、心を切り替えた。

幸い、ナイト王子の従者として虹の国での新しい生活が始まる。

この新天地にきっと運命の人はいる。

ライアスはそう信じることにした。

ナイト王子との間にちょっとした確執があり、離れていた。

だが、もともとは最初の従者。

ナイト王子に仕えると決まった時に、一生仕えると誓っていた。

その誓いが復活しただけのことだ。

それにこれはナイト王子が自分を許してくれた証だ。

ライアスは顔を引き締め、


「王子、不肖ライアス、今度こそ王子に一生お仕えいたします!」


と、言い聞かせた。

ライアスは決意を新たに閉じこもっていた部屋を意気揚々と出て行った。

そして、一生を捧げると誓った主のいる部屋へと真っ直ぐ歩いていた。

決意は固い。

主が待つ部屋の前に来ると、深呼吸で心を落ち着ける。

心の準備ができたところでドアをノックする。


『誰だ?』


ナイト王子本人の誰何する声に、ドッキとする。


「王子、私です。ライアスです!!」


声が裏返らないように、めい一杯大きな声で名乗った。


『…ライアスか、入れ』


許可が出た。

ライアスは意を決して、ドアを開けた。


「失礼します!!」


部屋に入り込むと、アルト達水の騎士とフロントを始めとする虹の騎士を従えたナイト王子の厳めしい顔が目に飛び込んできた。

一瞬たじろいだが、跪く。


「王子、不肖ライアス、ただいま戻りました」


声が震えないように大きな声で出仕の挨拶をする。


「ああ、これから頼むな。いろいろと…」


ナイト王子は厳めしい顔を崩して微笑んだ。

ライアスは心の中で安堵する。


「は、何なりとお申し付けください!」

「じゃ、さっそく、アルト」

「は!」


出仕初日に早速出番のようだ。

ライアスは緊張した面持ちで立ち上がってアルトの方を向く。

アルトは近づいてきながら右手を出してきた。

握手かだろうか?



『電流の檻!』



ライアスは一瞬何が起きたかわかなかった。

自分の周りが電流の壁に囲まれていると理解するまで数秒かかった。


「確保成功」

「何だ、これは!!!!???」


ライアスは電流の檻の中から叫ぶ。

すると、アルトが檻越しに説明する。


「ライアス、王命だ」

「王命!?何の王命だ!?」


と聞き返すと、アルトはニヤケ顔で勿体ぶって話し出す。


「陛下の古いご友人が私とシリウスの絵を大変気に入ってくれたようでな。また描いて欲しいとわざわざ水の王宮まで頼みに来られたそうだ。だから、今からシープールにお前を連行する」

「はあ!?」


寝耳に水のライアスは主であるナイト王子を見ると、


「あ、親父の旧友は俺が世話になった人でもあるから頼むわ。後、俺の結婚祝いにも欲しいから」


と満面の笑顔で返された。


「ああ、腕が鳴るな!我々の芸術をわかってくれるとは!!!ライアス、最高の絵を描いてやるからな!!」


アルトの高笑い聞いて、ライアスの顔から血の気が引く。


『また剥かれる…!!』


「ご婚儀までには仕上げてお持ちします。つきましては、ライアス『護送』にルビとリュックもお借りしてよろしいですか?」

「ああ、俺は大丈夫だ。双子姫の騎士達が守ってくれるから」

「では、直ちに出立いたします」


と言ってすぐアルトはライアスを確保している電流の檻ごと用意していた台車に乗せた。

それをルビが押す。


「まさか、最後の仕事がライアスの護送とはな…」


ガッカリするルビ。


「本当だよね…でも、シリウスとアルトの絵がまた見れるのは嬉しいかも」


リュックはウキウキしている。

すっかり2人の絵のファンになっていた。


「でも、シリウス、ちゃんと描いてくれるかな?」


シリウスは大のライアス嫌いだった。

ナイト王子のため、嫌々ライアスの絵を描いていた。


「ルビ、心配は無用だ。手は打ってある!」


アルトは自信満々で言い切った。


「では、フロント殿、ナイト王子のこと。お任せいたします」

「ええ、もちろんです…私もお2人の絵画を是非、拝見したいです」

「もちろんです!是非、見てください!腕によりを掛けますので!」


アルトは熱のこもった握手をフロントと交わして、引き継ぎ完了。

ライアスは身の毛がよだった。


「じゃ、楽しみに待ってくるからな」


ナイト王子は運ばれていくライアスを満面の笑みで見送る。


「やっぱり、王子に仕えるのは嫌だああああああ!!!!」


護送されながら、ライアスは叫んだが、


「今更、遅い」


アルトに一喝され、電流を流された。

ライアスの意識はそこで途絶えた。






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