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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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重鎮の決断

ランド領主ジャミルは突然やってきたレイス領主ビンセントを迎え、秘密の会談を行っていた。


「突然、どうなされたのですか、ビンセント様」

「とぼけなくてもよい。私が来た理由などお前ならわかっていいよう?」


ビンセントは真剣な顔でジャミルを見つめてきた。


「王都で騒いでいるミゲイルとブラッドのことですか?」

「そうだ、お前ならあの2人を大人しくできるだろう?」

「そうですね、ですが、あの2人を私が止めることはできません。あの2人は私のために怒ってくれているのですから」


ジャミルの返しに、ビンセントは大きく溜息を吐いた。


「お前の気持ちはわからんでもない。だが、もう決まったことだ。いくら足掻いても決定は覆らない。こうなる運命だったのだ」

「運命とおっしゃいましたか?」

「そうだ、ナイト王子が現れた以上お前が敗れるのは必然だったのだ」


必然と言われ、ジャミルは眉を潜めた。


「腑に落ちませんね。なぜ、私が敗れると断言できるのですか?」


「ナイト王子がこの国の初代虹の王の生まれ変わりだからだ」


ジャミルの問いにビンセントは即答してきた。

始めは、何を言っているのかわからなかったが、


「初代王の生まれ変わり!?あの水の国の王子が?」


理解が追い付くと、ジャミルは驚きの声を上げた。


「そうだ」

「何故、そのようなことがわかるのですか?」


ジャミルは礼も忘れて、ビンセントに詰め寄った。


「私にはわからん。だが、あのネティア姫が土壇場で自らの決断を覆されたのだ。間違いないだろう…」

「前世の記憶ですか…」


頷いたビンセントからジャミルが離れた。

名を偽り、旅の傭兵と身分を偽り、ネティア、フローレスの双子姫を守るようにたった1人で立ちはだかったナイトの言葉が蘇る。





『俺は虹の王になれなければならない』


『俺はこの国の王になるために生まれてきたんだからな』



『惚れた女を売り渡すなんて、そんな恰好の悪いことできるかよ』

「そんなものは一時的な感情にすぎない」

『それが一時的じゃないんだな、俺の場合は。なんせ“前世”からだからな』




ナイトは確かに『前世』と言う言葉を口にした。

つまり、ナイトにも前世の記憶があったのだ。


「納得したか?初代女王と王の最期の話は虹の民なら知らぬものはいない。ネティア姫とナイト王子の絆は時を越えても固く結ばれている。ただ虹の王の座を取り戻したいという程度の私欲では到底あの2人を引き裂くことなどできない」


ジャミルは納得せざる得なかった。

ネティアは待っていたのだ。

ナイトが来るのを。

しかし、彼女は焦っていた。

いつ来るかわからない運命の伴侶を待つ時間がなかったのだろう。

だから、誰でもいいから夫を迎える気になったのだろう。


「わかりました…私が王では到底太刀打ちできぬ大事がやってこようとしているのですね?」


ジャミルはビンセントを睨んだ。


「その通りだ…」


ビンセントは溜息交じりに言葉を吐いて立ち上がり、窓の傍へ立つ。

ジャミルも立ち上がると、憂いを帯びた初老の男の背に立つ。

見上げているのは虹の結界だ。


「虹の結界の崩壊の噂は本当なのですね?」


ビンセントは振り向かずに静かに頷いた。


「今は争っている場合ではない。全ての虹の民が一致団結して虹の結界の崩御に備える必要がある」

「一致団結ですか、ナイト王子が来たことでさらに悪化したように思えますが?」

「来なかったら何も変わらなかったはずだ」


ジャミルの皮肉をビンセントは即座に切り捨てた。


「確かに、私では変わらなかったかもしれません。ですが、ナイト王子にはそれができると仰るのですか?」

「確証はない。だが、私はナイト王子ならばできると信じている」

「確証失くして、信じるとは、あなたらしくないですね、ビンセント様」

「そうかもな…」


ビンセントは静かに笑った。

ジャミルは大きな溜息を吐いた。

王家側とは言え、王の一族の筆頭であるレイス家当主が決めたことに従わざる得ない。

ジャミルはビンセントの前に膝をつく。


「承りました。あなたの決断に従います」


ビンセントは静かに頷くと、


「もう一つ、お前に重要なことを伝えておきたいことがある」

「何でしょうか?」


ジャミルは予想だにしない、もう一つの案件をビンセントの口から直接聞くことになった。




***




フロントはナイトのいる部屋へと戻ってきていた。

ドアを開ける前に大きく深呼吸をし、そっと開ける。

ナイトとばっちりと目があった。


「兄ちゃん!!」

「あはははは、ただいま帰りました。怪我はなかったですか?」

「なかった!」

「それは良かった」


フロントは笑いで誤魔化しながら中へ入っていく。

中には、フローレス姫と虹の忍び衆、虹の将軍ロン。そして、水の騎士3人がいた。

この場にネティア姫とライガの姿はない。

世継ぎ姫として公務に戻ったのだろう。

ライガはそのネティア姫の傍についているのかもしれない。


「所用って、親父のところに行ってたんだろう!?」


ナイトは血走った目でフロントに詰め寄ってきた。

立腹度はかなりのものだ。


「そうだとも!」

「何の用事だったんだ!?」

「…決まっているだろう、『重要なあるもの』を受け取るためです…」

「重要なあるもの?」


フロントは懐に手を忍ばせた。

ナイトはその手を視線で追った。


「これです!」


フロントは懐から重要なものを取り出して掲げた。

皆、一斉に注目する。




「…あれ、写真か?」

「写真だな…」


ルビの疑問符をアルトが確定させる。


「あ、あの写真、見たことある。確か、水の国小学生一斉テストで王子が1位の成績をとって表彰された時の写真だ」


リュックが掲げられた重要なものの正体を明かした。

ナイトは真っ白になって崩れ落ちた。

リュックが近づいてきて写真を見る。


「へぇ、懐かしいな…僕も写ってる」

「どこだ?」


つられてルビとアルトも写真を見に来た。


「ここだよ」

「あ、本当だ!5番目くらいか、お前、頭良かったんだな」

「当然だろう、ルビ。リュックは王子について光の国の学校へ入学したのだからな」


アルトの捕捉にリュックは誇らしげだ。


「それにしても王子もお前も可愛いな、何歳ぐらいだ?」

「ええっと、確か、7歳ぐらいかな」


アルトは写真と現在のナイトを見比べる。


「王子、王子にもこんな可愛らしい時があったのですね」

「ほんと、目が澄んでる。王子にファンがいた理由が分かりました」


「お、お前ら…見るな!!!」


ナイトはゆらりと立ち上がると、写真目がけて突撃してきた。

フロントはすぐさま、数枚の写真を束ねると、ロンへと飛ばした。

ロンは飛んできた写真を難なく受け取ると、懐にしまった。


「フロント、焼きまわしたら、返す!また、後でな!」


ロンは図体に似合わぬ素早さで部屋からを飛び出していった。


「こら、ロン!!!!!」


ナイトはドアの外まで出て叫んだが、ロンの姿はもう見えなくなっていた。

ナイトがゆらりっとフロントの下へ戻ってきた。


「兄ちゃん、重要なものって、あれがか!」


ナイトの怒りは頂点に達しているが、


「そうだとも、私にとってはとても大切なものだ…」


フロントはしみじみ答えて、時空間からアルバムを取り出した。

それを開き、


「ナイト様、あなたの成長は私の宝物でした…。しかし、突然の別れから12年間…!!私は大切なあなたの成長を収めてません…。家族が大切な家族の写真を集めるのは当然でしょう!!家族の証なのです…特に!血の繋がりのない私にとっては!…いけませんか!?」


フロントは目に涙を浮かべながらナイトに訴えた。

ナイトはタジタジになっている。


「…………それは…別に…いいけど……」

「……ありがとう、ございます…ううう・…」


ナイトの怒りを下げ、許しを貰うこと成功した。

しかし、思わぬ強敵の存在がいることを忘れていた。


「ナイト、騙されちゃだめよ!何が『大切なあなた』よ!あなた、走っている馬上からその大切な人を落としたじゃない!?」


フローレス姫だ。

ナイトの怒りが再燃する。

フロントは心の中で舌打ちする。


「え~と…あ、あれはですね…ちょっと、計算違いで…」

「どうやったら、計算違いできるのよ!?大人3人定員オバーは当たり前でしょう!?」

「そ、そうなんですけど…私の中では、お2人はまだ子供だったものですから…」


「子供!?」

「私達が!?」


「だって、お2人ともよく『馬に乗りたい』って、私によくせがんできてたじゃないですか!?私の中ではまだあなた方は可愛いままの子供だったったんです!」



『兄ちゃん、僕も馬に乗せてよ!』


『フロント、私も一緒に乗りたい!』



ナイトとフローレス姫はちょっと思い返すところがあったのか、一瞬沈黙した。

しかし、


「それはもう昔のことでしょう!」

「そうだよ、俺もう1人で乗れるし!」

「私だって!」

「そうですよね…もう、馬に乗せてとせがんでくるのはネティア様だけでしたね…」


フロントは寂し気に呟いて、涙を1粒流す。


「2人ともこんなに大きくなって…私は…私は…嬉しです…」


感極まったフロントは泣き出した。

すると、ナイトだけでなくフローレス姫までタジタジになった。


「なんかあんまり嬉しそうじゃないけど」

「甘えん坊達が立派になってしまったがら寂しいのだろう」


ルビの疑問にアルトがしみじみと解説した。


「わかったから、泣くなよ、兄ちゃん」


ナイトが堪りかねてフロントを宥めてきた。


「…許してくれますか…」

「……」


潤んだ瞳で問いかけると、ナイトは返事に窮したが頷きそうだった。


「許しちゃだめよ、ナイト!絶対、演技だから!あなたのお兄さんだったかもしれないけど、それは昔の話よ!」


ナイト陥落をフローレス姫が阻止してきた。

いつもそばにいるだけあってフロントの本性を見抜いている。

だが、今回ばかりは全てが演技ではない。


「酷いです、フローレス様!今も昔も私はナイト様の兄です!」

「酷いのはどっちよ!変な言い訳してるあなたの方じゃない!?本当にナイトの兄だと思っているなら、恥ずかしいと思いなさいよ!」


フローレス姫の説教にフロントは固まった。


「何、驚いてるのよ?」

「…いえ、フローレス様の口からそんな真っ当な言葉が出て来るなんて思ってもみなかったもので…」

「…どういう意味よ!?」


フローレス姫の怒りの回し蹴りが飛んできたが、フロントは飛んでかわし、ドアの前へと逃れる。

ここは逃げるが勝ちだ。


「やっぱり、出直してきます!」

「待ちなさい!!」

「こら、兄ちゃんまだ話が…!!」


フローレス姫とナイトの声を無視して部屋の外へと退散としようとしたフロントだったが、ドアを引く前に、先に開いた。

ライガが戻ってきたのだ。

飛び込むうに入ってきたライガはいつもと様子が違った。

目の前にいるのがフロントだと気づくと掴みかかってきた。


「フロント、大変だ!」


ライガの鬼気迫った様子にフロントは逃走を忘れた。


「何かあったのか!?」


ナイトとネティア姫の結婚が無効になったのかと心配になったがそうではなかった。


「何かあったもんじゃない!ビンセント様がレイス家当主の座を退かれることになった!」


フロントに未だかつてない衝撃が走った。


「…・・…あの…ビンセント様が……・」


衝撃を受けたのはフロントだけではなかった。


「嘘でしょ…」


フローレス姫は絶句し、


「何でこんな時に…」


忍び衆たちは困惑していた。


「ビンセントとは、確か、王子の取り調べをされた虹の大貴族では…」


アルトの言葉にナイトが頷く。

状況がつかめてないのはナイト達水の国の者達だけだった。

しかし、その衝撃の大きさを感じているようだった。

一番動揺しているのは紛れもなくフロントだった。

ライガ、フローレス姫、忍び衆たちの視線が自分に集まっていた。


「…そんな、嘘だ…」

「嘘ではありませんよ」


絞り出すように言ったフロントの言葉はすぐさま打ち消された。

半開きのドアから眼鏡の青年が静かに入ってきた。


「シュウ…」


フローレス姫が呟く。

シュウは周囲の視線を浴びながらナイトの前に膝まづく。


「ナイト王子、正式なご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません。シュウ・レイスと申します。先の数々ご無礼はお許しください」


シュウの突然の挨拶を受けてナイトは困惑していた。


「いや、俺の方こそ、他国の人間でありながら、虹の国のことに首を突っ込んで、挙句にネティア姫を連れて逃げたり、いろいろと迷惑かけた…」

「あなたの勇気ある行動は同行した騎士達から聞いております。あなたはただ、我らが双子姫の願いをお守りになられただけです。ネティア姫がランド領主からあなたに心変わりされたのは当然のことと存じます」


シュウはナイトとネティア姫の結婚を祝福していた。

それはレイスがナイトを次期虹の王として支持したことを意味する。


「我がレイスは私の代よりあなた様のお力になることをお約束いたします」

「…ありがとう…シュウ…頼りにさせてもらう」

「いつでもお声をおかけください」


ナイトは戸惑いながらシュウに握手と交わした。

フロントは呆然とその光景を見ていた。













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