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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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弟の成長

ウォーレス王に招かれて部屋に入ると、サクマは窓際にあるソファにふんぞり返り、前のテーブルに足を乗せた。

その横柄さに、フロント、ソーダ将軍は目を吊り上げたが、ウォーレス王が手で制した。

書斎机の椅子に腰を下ろしたウォーレス王を囲むように、フロントとソーダ将軍は立った。


「ソーダ、水の国はどのような状況だ?」

「水の国は今のところ騒ぎは起きていません。心配されたシープールも同様です。シリウスが上手くやってくれているようです」

「そうか…」


前王妃の子で第一王子のナイトを廃嫡にした余波はそれほど大きくならなかった。

ウォーレス王は少し寂し気に笑った。

水の国の民が廃嫡されたナイトのために暴動でも起こしてくれることを、心の中では望んでいたのかもしれない。


「陛下、虹の国は今どのような状況ですか?」


今度はソーダ将軍が近況を聞いてきた。

まだ虹の国についたばかりのようだ。


「ランド領主とは和解が成立している。だが、他の王の一族が反発して、虹の民を扇動しようとしている」

「それは一大事ではありません!」


血相を変えるソーダ将軍



「もうすぐ鎮火する」


窓際にいるサクマを一斉に見る。


「それはどういうことだ?」


ウォーレス王が訪ねると、サクマは意地の悪い笑みを浮かべた。


「あんたの天敵が助け舟を出してくれたんだよ」

「……ビンセントか?」

「そう、今頃、ランド領主に会っているころだろうな」


ウォーレス王に嫌悪する相手の名前を言わせて、サクマは満足そうな笑みを浮かべた。


「…仕事が早いな」

「ナイトがそこの大好きな兄貴と遊んでて暇だったんでな。それに、これが最後の仕事だからな…」


サクマはもう休暇に入ってるかのようにのんびりとした口調で言った。


「ほう、誰が暇を出すと言った?」


サクマが飛び起きる。

今度はウォーレス王が意地の悪い笑みを浮かべた。


「俺はもうお役御免だろう!?ナイトの護衛はそこの強い兄貴が引き継ぐはずだろうが!」


サクマはフロントを指して叫んだ。


「そのつもりだったんだが、状況が変わった。お前には引き続きナイトを影から守ってほしい」

「けっ!冗談きついぜ!」


サクマは立ち上がってそっぽを向く。


「サクマ、王命だぞ!」


ソーダ将軍が一喝するも、サクマは意にも介さない。


「は、何が王命だ!はなっからこいつの命令なんか従う義理はねぇ!俺が従うのは『水の巫女』だけだ!」


フロントはそこでサクマが水の巫女の忍だと知った。


「王なんて、民を食い物にするただの強欲な悪人だ!どんなに善人面してたとしてもな!」

「サクマ!!」


ソーダ将軍が顔を真っ赤にして怒鳴ったが、サクマはそれでも反省する様子はない。


「サクマよ、これは命令ではない。頼みだ」


ウォーレス王が静かに口を開いた。


「はっ、てめぇの頼みなんざ聞く耳のもたねぇよ!!」


サクマはにべもなく拒絶するが、


「私の頼みではない『ミズホ』の頼みだ」


水の国の前王妃の名前が出た途端、サクマの表情が変わった。


「…ミズホ王妃の名前を出すなんて、汚ねぞ、クズ王」

「私は民を食い物にするクズ王だからな、使えそうな物は何でも利用する」

「…開き直りやがった…」


サクマは憎々し気にウォーレス王を睨んだ後、『けっ!』と小さく吐き捨てたが、拒否はしなかった。


「ありがとう、お前はずっとナイトを見守ってきてくれた。だから、本当はかわいいと思っているのだろう?」

「誰があんなクソガキ可愛いと思うか!」


ウォーレス王の言葉にサクマすぐさま反論した。


「ミズホ王妃の最後の頼みだから聞いてやったんだ!勘違いするなよ!!」

「じゃ、今回もミズホに免じて頼む」


サクマは悪態をつきながらソファから立ち上がった。


「俺は一旦、水の神殿に戻るからな!」

「ああ、水の巫女によろしくな」


ウォーレス王が気楽な口調で言伝を頼んだが、またもやサクマの表情が豹変した。

今度の表情は殺気に満ちていた。


「お前が気安く水の巫女を口にするな」

「うん、気を悪くしたか?なら『サクラ』様によろしくな」


ウォーレス王の飄々とした言い直しに更にサクマの表情が険しくなった。

今にも襲い掛かりそうな顔だ。

フロントとソーダ将軍がウォーレス王の前に立って思わず身構えたほどだ。

サクマはしばらくウォーレス王を睨んでいたが、手出しは不能と見て、踵を返した。

そして、そのまま術で姿を消した。

サクマが去った後、ソーダ将軍の口から大きな溜息が漏れた。


「陛下…」

「ああ、すまん、すまん」


ウォーレス王は笑いながら謝った。

フロントは不満気に振り返る。


「ウォーレス王、あの男は…」

「ははは、お前もそう怒るな。あの男は特別だ。私が道を踏み外した時、私の目を覚ませてくれた者だ。あの男に殺されても私は文句を言えん」


フロントは黙っていたが、納得はできなかった。


「大丈夫だ、サクマは鬼ではない。私には反抗的だが、ナイトはしっかり守ってくれる。母と子を引き裂いてしまった自責の念がある」


そう聞いてもフロントは不満だったが、渋々納得した。


「わかりました、でも、あの男の手はかりません!」

「仲良くしくれ、ナイトはサクマを気に入っておるから」

「私は気に入りません!」


フロントは怒って、そっぽを向いた。

ウォーレス王は困った顔をソーダ将軍に向けた。


「サクマのことは時間が解決してくれるでしょう…それよりも…」


ソーダ将軍の声が低くなった。

本題に入ると見たフロントは、サクマへの怒りを一旦収めて、話に加わる。


「どこから情報が漏れたのかはわかりませんが、光の国ではもうナイト王子が初代虹の王の生まれ変わりであると言う噂が広がっております」


ウォーレス王は厳しい顔をした。


「光の王はそのことについて何か言われたのか?」

「沈黙していらっしゃいます」


ウォーレス王は腕を組んで大きな溜息を吐いた。

その溜息が、安堵から不安からかはわかない。


「どちらにせよ、いずれ呼び出しがかかるだろう。その時に私が誤解のないよう説明をする。光の王はきっとわかってくださる。問題は周りの人間だ…」

「光の国の主要人物には高価な贈り物をすれば黙るでしょう」


ソーダ将軍が進言する。

その言葉に侮蔑が垣間見えた。

最古の国である光の国が宗主国であるの歴史上当然の流れだ。

しかし、宗主国と言う地位を維持するため、従えた国に姻戚関係を強要し支配下に置いているのが現状だ。

そのため、権力を欲しいままにした光の国は不正が横行していた。

つまり、金品さえ積めばどんな所業も目を瞑ってくれるのだ。


「光の国はそれでいいが、問題は我が国…」

「それは考え過ぎではありませんか?彼らの願望はセリオス王子が水の王位を継がれることで叶います。ナイト王子は水の国の王位を自ら手放され、国を出るのです。追い打ちをかけるほど、血も涙もない者達でしょうか?」


当然のことだが、水の国にナイトを疎む一派がいたようだ。

ナイトの異母弟セリオス王子を押しているとことを見ると、セリア妃に関係のある物だろう。

ウォーレス王の悩みは深い。


「しかし、私のような例もある。もし、セリオスが早々に亡くなれば水の王位はナイトへと戻る可能性がある」

「しかし、その頃にはナイト王子は虹の王になられていらっしゃるでしょう。いくらナイト王子でも2国を束ねるのは無理があります。」

「そうだ、難しいだろうな。だが、口出しはするだろう。セリオスに子がいれば貢献を自分が信頼する者を立てるはずだ。いなければ自ら選定役を買って出てくるだろう。現に、ナイトは腹心を2人セリオスに譲っている」

「監視も兼ねてですか、さすが、ナイト王子」


フロントはウォーレス王とソーダ将軍がナイトの話をしているのを聞いて弟の成長を誇らしく思った。


『すごいぞ、ナイト…』


3歳下の可愛いらしい弟はいつもフロントの傍にいた。

剣の稽古の時も、一緒に大人たちの難しい話を聞きたがったり、勉強もフロントと同じ内容を学びたがった。

そのため同年のことより強く、勉強も良くできた。

離れてしまったことで、ナイトはフロントをいつの間に追い抜いてしまったようだ。

少しだけ、寂しさと、不甲斐なさを覚えた。


「そうだな、考えすぎかもしれんな。シープールの牙は抜いておいたし、セリオスが王太子になれば安心するだろう」


水の国の将来の不安は取りあえず置いて、ウォーレス王はフロントに向き直った。


「さて、フロント…」

「わかっています。ナイト王子は命に代えても守って見せます」


フロントは深々と敬礼する。


「マルコ王の例もある。ビンセントは助勢はしてくれるだろうが、今のレイスは力がない。頼れるのはお前だけだ」

「心得ております。ナイト王子が虹の王になられるまで必ず守り抜いてみせます!」

「期待しているぞ」


フロントは固く誓いを立てて部屋を辞した。


「終わったか?」


部屋を出ると頭にたんこぶをつくったライガとグレイが待っていた。


「まだいたのか?」

「いるさ、呼びに来たんだからな」

「呼びに来た?」

「ナイト様はカンカンだったぞ」


フロントはここに来る前に、誇りに思った弟にした仕打ちを思い出して、固まった。














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