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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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愛息のために

「と、まあ、一応ナイト様のイメージアップは量れたっす!でも、フロントが人気落としちゃったす!」


ライガは明るくナイトに報告した。

その後ろでは、


「もう、フローレス様が出てきたから、私のイメージが台無しじゃなないですか!!」

「はあ!?私が出て行ったからあれくらいで済んだんでしょうが!?」


フロントとフローレスの喧嘩が続いていた。

ライガの報告よりナイトの注意はこちらにむいていた。


「だいたい、ナイトの人柄の良さをアピールするなら他にもあるでしょう?わざわざ、子供の頃のエピソード持ってきても皆わかんないわよ!」


指摘されフロントは言葉に窮する。


「そ、そうは言われてもですね!私は最近になってやっとナイト様に会ったことになってるんです!話せるエピソードなんて、昔のことぐらいしかなかったんです!」

「だったら、私から聞いたことにしなさいよ!突進してくる『悪党』から、ナイトが私とネティアを身を挺して守ってくれたことよ。もう、惚れ惚れしちゃった!」


悪党が強調された。

その悪党とは他ならぬフロントだった。

心にダメージを受けつつ、


「ほ、惚れ惚れしたのは、ネティア様では?」

「あ、そうそう、ネティアは一目惚れなんかしてないわよ!したのは、私!ナイトがランドの騎士達とやり合ってるところを私がスカウトしたんから」

「一目惚れ!?私と言うものがありながら…でも、ナイトならわかる…」


フロントはジェラシーを燻らせながらも、容認してしまている。


「あのさ、俺の昔のエピソードってなんだ?」


隙ができたので、ナイトは話に入り込んだ。


「あなたが友達のプレゼントに木彫りのクマを贈ったって話よ。大きな写真付きで」


フローレスの説明に合わせて、ライガが木彫りのクマの写真をナイトに見せた。

ナイトの顔から火が出る。


「に、兄ちゃん、これ、俺が4歳の時にニールのため作った木彫りのクマじゃないか!?こんなもん公衆の面前で見せたのか!?」

「もちろんだ!」


フロントは悪びれた様子もなく断言した。


「やめてくれよ、恥ずかしいじゃんか!」

「ナイト、いや、ナイト様、何も恥じることはありませんよ。あのエピソードで聴衆はナイト様に親しみを抱いたと思いますよ」


ナイトは頭を抱える。

その横でリュック、ルビ、アルトは珍しそうにナイトを見つめてくる。

水の国ではこんな醜態微塵も見せたことがなかったから、珍しのだろう。


「まあ、親しみは湧くけど、子を持つ親からしたら、普通のエピソードじゃないか?」

「私もそう思うわ、ライガ。フロント、あなたは兄バカぶりと共にナイトの隠されていた可愛らしい過去を暴露しちゃったのよ、ほら!」


フローレスが指し示す先に、水の国からナイトに付き従ってきた3人の騎士がいた。

彼らはライガから写真を借りていた。


「うわあ、これクマですか?4歳にしては上出来ですよ」


ルビが遠慮なく感想を述べる。


「王子にもこんな時代があったんですね」


リュックが写真とナイトを交互に見ながら呟き、


「王子も人の子だったんですね…」


と、アルトが止めを刺す。


「…み、見ないでくれ………」


ナイトは消え入りそうな声で呟く。

彼らを従わせるため、ナイトは自分の弱みを一度たりとも見せたことがなかった。


「あなたがライガに女装姿を見せるようなものよ」


ナイトは羞恥に震えていた。

フローレスの言葉で、やっと兄は気付いてくれた。


「ごめん、ナイト…」

「兄ちゃんの馬鹿!」


しかし、ナイトはそっぽを向いた。


「まあ、ナイト様の親密度はちょっぴり上ったからいいとして、フロントの人気回復が課題っすかね。あれで、しばらくは誰もフロントの話を聞きたくないでしょうし」

「それは放っておいていいわ、身から出た錆だから。あれほど忠告したのにやちゃんうだから、少し反省すればいいのよ」

「そ、そんな…」


フローレスの冷たい態度にフロントは涙目になる。


「親密度は上がってもさ、王子の優秀さが半減しちゃったんじゃない?」


初めて可愛らしいナイトの姿を見たリュックが困惑気味に呟く。


「そうだよな、水の国にいた時の王子のイメージはカッコよかったよな。なんでもできて頼りになってさ」

「そうだな、ウォーレス王や大臣達に突き付けられた無理難題をことごとく解決された」


ルビとアルトの言葉でナイトは機嫌を直して、照れ笑いを浮かべる。


「そうよ、それをアピールしなきゃ!それこそ虹の民が求めているものよ!」

「それならば、もう一度私が!今度こそナイト様のすばらしさを…グゥ!!」


フローレスがフロントの脇腹に肘鉄を食らわせた。


「あなたはお留守番よ。ここはナイトを良く知る人物に任せるのがいいわ!」


フローレスは期待を込めてナイトの側近達を見る。

必然的に年長のアルトに視線が集まる。

彼にはすでに堅物シリウスを結婚へと導き、ランド領主に賠償を飲ませたという実績があったからだ。


「そうですね…では、私が…」


「ちょっと、待て!その役は私が引き受けよう!」


アルトが大役を引き受けようとした矢先、闖入者登場した。


「陛下!?」


アルト、ルビ、リュックは驚いて敬礼する。

ナイトの父ウォーレス王だ。

父は並々ならぬオーラを放ちながら部屋に入り込むと、蹲っていた兄フロントの下へ歩み寄る。


「フロント、話は聞いた。よく頑張ったな」

「勿体ないお言葉…」


力ない兄の肩に父の力強く手が置かれる。


「後は、私に任せろ!虹の民に存分に我が子ナイトの素晴らしさを知らしめてやろう!そして、お前の名誉も私が回復して見せよう!血のつながりがないとは言え、お前も立派な私の子だ!」

「………父さん………」

「フロント…」


感極まったフロントとウォーレス王は熱い抱擁を交わすのだった。

熱い父と兄の絆。

しかし、ナイトは不安にかられる。


「何か、嫌な予感しかしないんだが…」

「そうね、なんか、フロントと同じ匂いがするわ」


フローレスが同調した。


「そうっすか?ウォーレス王なら虹の国でも人気っすから大丈夫社ないっすか?」

「ライガ、あれを見ても同じ事言える?」


フローレスが号泣しているフロントを指す。


「ヤバいっすね…」


ライガはあっさり見たかを変えた。


「いや、まさか、だって、水の国の王ですよ。陛下が墓穴なんか掘るとは思えませんけど…」


リュックがウォーレス王を擁護するが、


「陛下も相当な親バカだからな」


アルトの呟きに、ルビが驚く。


「そうなのか?親バカなら治安最悪の領土に年端も行かない息子を放り込むか?」

「獅子は我が子を尖刃の谷につき落とす。陛下はそういうお方なのだ」

「スパルタってことか…」


ルビは納得したが、


「しかし、今回は様子が違うようだ。陛下もやはり人の親。1人残してしまった子供に償いたいようだ」


アルトは溜息を吐きながらウォーレス王を見る。

やる気満々の王の決定を臣下が止めること得策ではない。


「ナイト、大船に乗ったつもりでいろ!この私が直々にお前の優秀さを虹の民アピールしてやるからな!」


ナイトは言葉が出ない。


「あははは、嬉しくて言葉が出ないか?では、フロント。行ってくる!」

「お気をつけて、父さん!」


フロントは涙を拭ってウォーレス王を見送る。

その姿を幼い頃ナイトは見たことがある。

父が魔物退治に出かける時だ。

命懸けの仕事に出かける父を一家総出で見送った。

しかし、今はどうしてもそんな気にはなれない。

大船どころか、沈没する船に無理やり乗せられた気持ちだ。


「ナイト、今回は諦めましょう」

「次の手立てを考えた方がいいす」


フローレスとライガがナイトを励ました。




結果は、フロント同様大惨敗だった。




***




王家への不審渦巻く虹の王都の夜。

しかし、ミゲイル、ブラッドが滞在してるホテルのバーは大祝宴を催していた。

大敗確実思われたフロントとウォーレス王相手に彼らは圧勝したのだ。

その立役者になったのはミゲイルの配下の騎士ニールだ。


「いや、まさか、ここまでうまくいくとはな。お前のお蔭だ」

「ナイト王子ではなく、あのウォーレス王に的を絞って正解だったな」


ニールは同僚達から祝い酒をドンドン注がれ、それを笑顔で受けていたが、酒の味は苦いものだった。

安酒ではない、すべて高級酒だ。

その酒を不味くしているのは、ニールの罪悪感だ。

ニールはターゲットのナイト王子と知り合いだった。

スクリーンに映し出された木彫りのクマをもらったのは彼自信だったのだから。

10年以上の歳月が過ぎ、もうその木彫りのクマはない。

環境も変わった。

彼は今、王の一族の一つミューズ家の家臣になっていた。

つまり、かつての友、ナイト王子とは敵対関係にある。

ターゲットが旧知のナイト達親子であったがため、彼の立てた作戦は面白いほど的中した。

フロントの自滅をヒントに、あのウォーレス王の評判を叩き落したのだ。

ウォーレス王が親バカであるのを利用したのだ。

虹の国にいた時からその親バカぶりは村中で評判だった。

ウォーレス王はフロント同様、ナイトのアピールと言うより自慢を始めた。

しかし、前妃が失踪してからは、ナイトへの接し方はとても冷酷なものだった。

その矛盾を突いたのだ。

知っている人間から見れば、それはナイトへの愛で溢れていることに気づくだろう。

ニールもその一人だ。

しかし、世間一般の目からは非道な父親にした見えない。

虹の民から反感を買ったウォーレス王は渋々退散していった。


『悪いな、ナイト、おじさん、フロントさん…』


旧友親子を陥れてでも彼は出世をしたかった。

欲しいものがあったのだ。

その為にはどうしても出世しなければならなかった。

彼はその晩、苦い勝利の美酒を飲み続けた。




***




ウォーレスは独り部屋でひどく落ち込んでいた。

聴衆からの野次に深く傷ついたのだ。

野次は精神的な攻撃だ。

人の上に立つ者として百も承知している。

だが、やはりきついものだった。

何よりも守りたかったナイトとの確執を突かれたのだ。


前妻寂しさから、そっくりな後妻を迎えたことからナイトとの確執は始まった。

邪魔になり、口実をつけて光の国にある学園へ無理やり放り込んだ。

その学園を首席で卒業したナイトを当時治安が最悪だったシープール領主へと任命した。

そして、今回、親子喧嘩の末、虹の国近くで謹慎。

その間、脱走したナイトがネティアと恋仲になったことで虹の国へと婿入りさせることを即断。

ランド領主に有無を言わせぬ大金と圧力をかけた。

すべてはナイトを厄介払するために。

その為に払った賠償金など、安いものだと。


すべて、事実…であるように錯覚してしまう。

すべてはナイトのためにしたことなのに。

自分の私利私欲はなかったか?

と問いかけてしまう。

ソファの背もたれに倒れ込み、宙を仰ぐ。


「…ミズホ…」


心身ともに疲れ果てたウォーレスは、自分の下を去った妻の名を呟いて、目を閉じた。



パタン…



静かに扉が閉まる。

その部屋に入ろうとしていたレイガルが閉めたのだ。



「全く、本当のことを言えばいいだろうに…」



ウォーレスの苦しみをレイガルはすべて知っていた。

そして、それを言えない理由も。


「レッド、ブルー、いるか?」


レイガルが呼びかけると、2人の忍びが音もなく現れた。


「しばしの間、ウォーレスを閉じ込めていてくれ」


レッドとブルーは顔を見合わせる。

主の命とあらば、仕方ないが、他国の王を閉じ込めて良いものか不安に思ったのだろう。


「安心しろ、監禁する必要はない。ただ、私が事を起こすまでの間の時間稼ぎをしてくれればそれでいい」

「と、言いますと、陛下も虹の民に呼びかけをされるのですか?」


レッドが更に不安そうな顔をする。


「そうだが、何か問題でもあるのか?」

「いえ、そうではありませんが…」


レッドは言葉に窮する。

王が民に呼びかけるのは普通のことだ。


「私が余計なことを言わないか、心配なのだな?」

「…はい…」


レッドは正直に返事をした。

レイガルは小さく溜息を吐いた。

過去に発言したことで失敗したことがあったのだ。

それが一因となり、王の一族との関係が悪化した。

しかし、レイガルには一切悪気はなく、自覚もなかった。


「カリウス様にお任せした方がいいのではありませんか?」


ブルーも心配して進言してきたが、


「いや、ここは虹の王である私が出ていくべきだと思うのだ。このままではウォーレスが浮かばれん。それに、ナイトは私の大事な後継者だ。守らなければならない」

「…承知いたしました」


レッドとブルーは不安に思いながらも引き下がった。










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