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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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他のやり方

ナイトとネティアが目を覚ましたことはすぐに虹の女王ティティスに報告された。

ティティス女王がナイトの父である水の王ウォーレスと共にすぐさま飛んできた。

ティティス女王は車いすで部屋に入ってくるなり、一目散に愛娘のネティアを抱きしめに来た。


「ネティア、良かった…あなたがちゃんと目覚めてくれて…」

「母上、大袈裟です…」


母親の豊満な胸の中でネティアはもがいて顔を赤らめながら脱出、双子の妹フローレスの下へ逃れる。


「ちっとも、大袈裟なんかじゃないわ。レイガルは力の加減ができないのだから…」


愛娘に逃げられたティティス女王はナイトの方を向いた。


「ごめんなさいね、ナイト。レイガルがあなたに酷いことをして」

「いえ、俺もいけなかったんです。他のことに気を取られていて、こんな醜態を晒してしまいました…」


ナイトはそう返しながら、目線は兄フロントを睨む。

フロントは苦笑いを返してきた。

後で、捕まえてじっくり話をするつもりだ。

今は、義母になるティティス女王と父ウォーレスと話をしなければならない。


「ふふふ、強い子ね、レイガルが気に入るわけだわ」


ティティス女王はやってきて、ナイトの頭に手を伸ばしてポンポンと叩いた。

その後、グレイが進み出てきた。


「女王陛下、ちょっと、着替えてきます」

「それでは、女王陛下、我々はお暇いたします」

「ええ、ありがとう」


ライガは忍び衆を率いて部屋を出て行った。

部屋に残ったのはナイト、ネティア、フローレス、フロント、そして、ティティス女王と父ウォーレスの身内だけになった。


「ナイト…」


父は大きな溜息と共にナイトの名を呼ぶ。


「全く、とんでもない大事件を起こしてくれたな…」


ガッカリしたような父の台詞にナイトはカチンときた。


「仕方ないだろう!なるように成っちまったんだから!!」

「まあ、そうだが、お前ならもっとうまくやってくれると思ったんだが…」

「うまくって、できるわけないだろう!突然、廃嫡にされて、婚約したばかりの女を口説いて思いとどまらせろって、城追い出されて、何も考えられるわけないだろう!!」


ナイトは溜まりに溜っていた怒りを父にぶちまけたが、


「そうか?」


とキョトンとして返されてしまった。

ナイトは一瞬唖然となったが、


「…どんなやり方想像してたんだよ…」


父の頭の中のストーリーを聞いてみることにした。

略奪愛に、もっと他にやりようがあるなら聞いてみたいと思ったのだ。


「私ならこうするぞ。自分の正体を隠さず、堂々とネティアちゃんに会いに行く」


自信満々に言い切った父の言葉にナイトはズッコケた。


「ネティアが親の反対押し切って、嫁に行こうとしているのに、『久しぶり、俺、水の国の第一王子ナイトだ。この結婚、やめた方がいいぞ』って、俺が言えるわけねぇだろう!!」


ナイトは近くにあった机を叩いて吠えた。

だが、父はティティス女王の方を向いて、


「言えるよな?」

「ありだと思うわ」


まさかのティティス女王の言葉にナイトは絶句する。


「ナイトよ、考えて見ろ。お前は幼い頃ネティアちゃんに会っていて、伴侶になる資格を得ていた。面会は可能だ。例え、ネティアちゃんが会いたくないと思っても、お前の水の国の第一王子と言う身分は無下にはできない。故に、ネティアちゃんはお前に会わざる得ない」


ナイトは具の音も出なかった。

確かに、父の想像していたやり方なら容易くネティアに近づけた。


「お前なら、ランド卿との結婚で起きる問題点を指摘して、ネティアちゃんに結婚を思いとどまらせると思ったんだがな」


グサ!


胸に言葉が突き刺さる。

ネティアに興味がなかった当初、そのプランでナイトは動いていた。


「…だけど、その方法だとジャミルが俺を排除しようとしたかもな…」

「私がそうはさせなかったさ!」


父のプランの方が有効的だったと認めたくないナイトの気持ちに気づかずに、フロントが熱く話に入ってきた。


「お前が堂々とネティア様に会ってくれていたら、私はそれを口実にお前の下へ行けた」


ネティアと喧嘩していたフロントはナイトのもとに行きたくても行けなかったのだ。


グサグサ!!


ナイトが正体を隠したばかりに、兄も正体を隠してしまうという負の連鎖が起こってしまっていた。

普通に出て行っていれば、すぐ兄と再会できていた。


「だけど、そんなやり方でネティアが俺に好感を抱くはずがないだろう?」


ナイトは感情論を持ち出した。

突然やってきて、結婚を思いとどまるよう説教すれば、『何様なの、この男』と思われるのは必須。


「そうだろう、ネティア?」

「…え、ええ、っと…」


ネティアが返答に窮していると、横にいたフローレスが代わりに応える。


「大丈夫よ、どっちにしても嫌われてたわ」

「それは、お前のせいだ」


ネティアとの初対面を思い出して、ナイトは即答した。

ナイトは何の準備もないまま、フローレスからネティアの前に蹴り出された。

そして、驚いたネティアから盛大なビンタを食らった。


「その後、ちゃんとフォローしたでしょう?もし、身分を偽らずに来ても、『あ、こいつ、嫌な奴』とか思っただろうけど、『ジャミルよりまし』だと思って、絶対フォローしてたわよ」


フローレスはとても正直者だった。


「私も絶対フォローしたぞ。ジャミルなんかより、お前の方が何万倍もいい男だと進言したぞ!」


そう熱くなる兄はいつでもナイトの味方だった。


「そうよ、私とフロントがフォローすれば、だいたいネティアは落ちるのよ!」

「…フローレス…」


ネティアは双子の妹の言葉にちょっと納得がいかない顔をするが、ナイトはちょっとだけ納得。

最後に、父が締めくくる。


「そもそも、お前とネティアちゃんの仲だから、始めはもたついても自然となるようになると思ったのだ。ナイト、お前、自分の前世が初代虹の王だと気づいてなかったのか?」

「気づいてたら、とっくの昔に自分から虹の国行ってたに決まってるだろう!!」


ナイトは叫んでしゃがみこむ。

父のやり方を聞いてしまった後では、自分はなんて馬鹿なことをやってしまったのだろう、という後悔しか浮かんでこなかった。

そんなナイトの肩に父の手が乗る。


「何だかんだ言っても、お前の前世からの願いは叶ったんだから良かったな」


ナイトはネティア、フローレス、フロントを順にみて微笑を零した。

最愛の妻、可愛い義妹、尊敬する兄。

前世で守れなかった大切な存在。


「大願成就の後なら、賠償など安いものだろう?」


父の言葉でナイトの顔から笑みが消えた。


「お前が寝ている間に、処理は済ませた」

「済ませたって…まさか、シープールの財産に手を付けたのか!?」

「当然、お前がやらかしたことだから、それ相応の対価を払っておいた」


父はウィンクする。


「詳細はアルトに聞くといい」


と言われ、肩を強く掴まれた。

止めを刺されたナイトは全身から血の気が引いた。

フラフラっと、ネティアのベッドに腰が落ちる。


「ふははは、2人とも今日まではゆっくり休め。明日からは忙しくなるからな!」

「そうね、今日まではゆっくり休みなさい。フロント、後はお願いね」

「お任せください」


父ウォーレスとティティス女王はフロントにナイト達の世話と任せると早々に引き上げて行った。


「ナイト、大丈夫か?」


フロントがナイトの顔を覗き込んで聞いてきた。


「う、うん…」

「そうか、なら、今からお前の部屋に案内する」


ナイトは目を瞬かせる。


「え、ここじゃ、駄目なのか?ここ、ネティアの部屋だよな?」


妻の部屋なら夫婦一緒でいいのではないかと思ったのだ。


「ナイト、気持ちはわかる。でも、まだお前とネティア様は結婚してない。だから、一緒の部屋にいるのはとても不自然なことなんだ。お前がここにいるのはトップシークレットなんだ。だから、今すぐ部屋を移るぞ」

「う…、わかった…」


ナイトは渋々座っていたネティアのベッドから離れた。

フロントを中心に床に青い光を発する魔法陣が出現した。

瞬間移動するようだ。


「後で、遊びに行くね」


フローレスがニコニコしながら言った。

ナイトは魔法陣の中に入って、ネティアの方を向く。


「また後で」

「はい、楽しみ待ってます」


ネティアが目に涙を溜めて寂しそうに言うものだから、ナイトは胸が熱くなった。

前世では、出かける時、生きて帰ってこれるかわからなかった。

だから、毎回今生の別れのような見送りになっていた。

最期の時は夫婦一緒に迎えたが、もう妻のあんな顔は見たくなかった。

ナイトはネティアにデコピンを食らわせた。


「痛い!」


頬を膨らませるネティアにナイトは爆笑する。


「ナイト様!」

「あははは、怒った、怒った!」


ネティアが仕返しをしようとナイトに伸ばす手をさらりとかわす。


「兄ちゃん、早く!」


移動魔法を待機させているフロントに促す。


「フロント、待ちなさい!」


ネティアが制止するも、フロントは魔法を発動させた。


「じゃ、また後で、仕返しはそん時な」


消える瞬間、ナイトは怒っているネティアの顔を見て笑った。











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