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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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転生してきた理由

ナイトは夢を見ていた。

前世の夢だ。

と言っても、銀の乙女、ネティア達の夢ではない。

もう1人の大切な家族の夢。


『あ、ごめん』


それはナイトが道具屋で買い物をしている時だった。

薬草を手に取ろうとして、他の者の手が伸びてきた。

見覚えのある優し気な笑いが目に飛び込んできた。

ナイトが前世で所属していた軍隊の指揮官だった。

しかし、威張り散らかしている一般的な指揮官ではなく、腰が低い人物だった。

育ちが良いせいか人懐っこくどこか頼りない人物だった。

その彼とは趣味が合うのか、食堂やら、厠、休日の温泉、買い物などでたびたび遭遇していた。

何か深い縁でもあるのか。

遭遇するたびに、彼と食事を一緒に取るようになった。

話も合い、いつの間に親友と呼べる間柄になっていた。

いや、それ以上の存在になっていた。

ナイトは家族との関係に悩んでいた。

彼も実の兄と周囲との関係に悩んでいて、よく相談に乗ったり乗ってもらったりと主従を越えた関係を築いていた。

そのせいで仕事でもプライベートでも、いつも一緒にいるようになったせいか、動作まで似てきた。




『何か、私達兄弟みたいだな…』




笑って言った彼の言葉がとても印象的だった。


『兄弟ってことは、お前が兄か?』

『まあ、そうだな、私の方が年上だし』

『頼りにない兄貴だ』


ナイトは爆笑して言った。

彼は魔法は使えたが、剣の腕ではナイトより落ちる。

それに人を疑うことを知らないため騙されやすい。

ついこの間も詐欺に遇い掛けたのだ。

大いに笑ってやったのだが、彼が怒ることはなかった。

一緒になって笑っていた。


彼はナイトにとって何でも話せる友人以上の存在だった。

しかし、別れは突然やってきた。

突然、父親から結婚するよう強要され、ナイトは慌てて出奔した。

ほとぼりが冷めるまでの予定だったが、その旅先で、最愛の女性に巡り合い、結婚した。

妻とその双子の妹と3人で穏やかな暮らしをしていた時に、彼が突然訪ねてきた。

高貴な身分だというのに、従者も連れずに1人で。

彼は怒っていた。

ナイトが別れを告げずに突然いなくなってしまったことに。

謝って許してもらった。

すぐに仲直りして、当然だが、妻と義妹を紹介した。

すると、義妹がすぐに気に入って、彼をあちこち連れまわしていた。

何物にも縛られない4人での生活はものすごく楽しかった。

彼も本当の家族のようだった。

彼がやってきてから早2ヶ月が経った頃、家に帰ってきら妻が玄関から中を覗き込んでいた。

中を覗くと、義妹と彼がいい雰囲気だった。

その時に初めて妻から義妹が彼を好きなことを知らされた。

ナイトは焦った。

義妹に友人を紹介するという約束はしたが、彼ではない。

彼にはすでに婚約者がいたからだ。

それに本当なら、庶民は近づくことも許されないほど高貴な身分だった。

ナイトは断腸の思いで彼に早く帰ってくれるよう頼んだ。

彼は寂しそうに了承し、次の日には帰路に就いた。

義妹にも彼の素性を話した。

仮に彼が義妹を選んだとしても、活発な彼女には貴婦人のような生活は向いていない。

住む世界が違うのだと諦めさせたが、彼がいなくなってから義妹はしばらく元気がなかった。

2人が再び会うことはないと思われた。

しかし、彼が来たことで義妹の存在が国に知られてしまった。

それが悲劇を呼んだ。

膨大な魔力を上手くコントロールできない義妹はすぐに世界を守るため結界の生贄に決定された。

世界に危機が迫っていることをナイトも知っていた。

だが、どのような形でその危機が来るかまでは知らなかった。

それを突いて、『世界を救うために力を貸してほしい』という軍からの要望を受けて、妻と義妹を残して軍の指揮官の1人になった。

ところが、それはナイトを2人から引き離すための策略だった。

それを知ったのは友人が旅立つ前に送ってくれた使いのお蔭だった。

しかし、戻った時にはすでに遅かった。

義妹はその命を捧げて、世界を守る虹の結界に成り果て、兄と慕った友人は結界の外へ旅立った後だった。

ナイトは驚いていた。

彼が深く義妹を愛していたいことを。

そして、取り残された人々を助けに行った勇気に。

彼は弱くはないが、けして、、強くもなかった。

それでも、自らの地位にかけて、責任を取りに行ったのだ。

ナイトも後を追いかけたかったが、傷心の身重の妻を守るのが先決だと諦めた。

妻は彼とした約束について何も話してくれなかった。

きっと、ナイトのことを思ってのことだと思う。

何となくだが、気づいていた。

有能な術者である2人が途方もない誓いを立てたであろうことを。

仲間外れにされたような寂しさを覚えたが、ナイトは魔法を使えなかった。

そんなナイトが2人についていくことなど不可能に近かった。

だが、ナイトはネティアの下に辿り着いた。

何とか2人についていきたくて、前世で妻達に匹敵する術者の力を借りたのだが、それ誰だったかは、思い出せない。






目を覚ますと、横に寝ていたと思われるネティアが身を起こして何かを見ている。

顔が綻んでいる。

ネティアがこんな顔をする時は大体妹に関係することが多い。

ナイトが身を起こすと、案の定、あの2人の姿があった。



『何だよ、俺より早く来てたのか…』



前世ではナイトがネティア達と最初にあった。

しかし、今世は彼に先を越されていた。

ナイトが起きたことに気づいたネティアが微笑みを浮かべて、身を預けてきた。

2人は何やら痴話げんかをしているようだ。

前世ではよく見ていた光景だった。

転生してまで見たかった2人の幸せな姿。

ナイトとネティアがここにいるのはこの2人の為だった。

一緒に2人の痴話げんかの行方を見守る。







フローレスは近づいてくるフロントから後づ去りしていた。

しかし、壁に追い込まれる。

フロントは懐に手を入れて、木製のスプーンを取り出した。

それで湯呑のお茶を掬って、フローレスの口元に持ってきた。


「はい、あーん、してください」

「嫌だって、言ってるでしょう」

「一口だけでいいですから」

「嫌、絶対、苦い」

「ほんのちょっとの辛抱じゃないですか」


フローレスは口をギュッと噤んだ。

絶対に飲まないという防御だ。

フロントは溜息を吐く。


「もう、フローレス様はお子様ですね」


その言葉にカチンとくる。

絶対防御していた口が開く。


「お子様じゃないわよ!」

「だったら、証明してください」


フロントはにっこりと笑いながら木製のスプーンを近づけてくる。


「どうしました?お子様じゃなかったら飲めますよね?」

「くぅ…」

「あはははは、大丈夫ですって、そんなに苦くないですから」


フロントは笑いながらスプーンのお茶を飲んで見せた。


「ね!」

「ね、じゃないわよ!私とあなたの味覚を一緒にしないで!」

「本当ですって、まあ、飲まないとわからないですけど」

「その手には乗らないわよ!」


フローレスは断固拒否した。

すると、フロントは大きな溜息を吐いた。


「もう我がままですね。そんなに拒否されると絶対飲ませたくなりました」

「飲ませられるもんなら、飲ませてみなさいよ!」

「言いましたね?」

「言ったわ!」

「じゃ、覚悟してください」


フロントはフローレスを壁に押し付けた。

強引にスプーンで飲ませるかと警戒したが、あろうことが、そのスプーンを放り投げた。

かわりに、湯呑を自分の口元へ持っていく。


「ちょっと、何する気!?」

「何って、口移しで飲ませようかと思いまして…」

「口移し!!!!!!?」


絶叫するフローレスにフロントは意地の悪い脅しをかけてきた。


「もうお子様じゃないんですよね?だったら、いいですよね?許嫁ですし…」

「よよよよよよくないわよ!!!」

「じゃ、自分で飲んでくれますよね?」

「そ、それは…」

「え、嫌なんですか?じゃ、口移しで…」

「わかった!飲むわよ!!」


フローレスは観念して、フロントから湯呑を受け取ろうとした。

だが、フロントはその湯呑を手放さなかった。


「ちょっと、何でくれないよ。自分ので飲むって言ったでしょう?」

「気が変わりました。やっぱり、口移しにしましょう」


フローレスは数回瞬きをして驚愕する。


「ちょっと、冗談でしょう!!!!?」

「いいえ、本気になりました」


フロントは咳払いをする。


「これはフローレス様の唇を奪える絶好のチャンスだと気づきましたので…」


フローレスは困惑する。


「こんなところで何言いだすのよ…」

「フローレス様は私のことがお嫌いですか?」


フロントの悲し気な声とその魅惑的な紫の瞳で見つめられると

、強く言い返せない。


「誰も嫌いって言ってないでしょ…」

「じゃ、好きですよね?」

「…まあ、好きかな…」


フローレスは誘導尋問されたようにそう答えてしまった。

それをOKとっとたのか、フロントがぐっと顔を近づてきた。


「もう子供じゃないんですよね?私のこと好きなんですよね?なら、その証が欲しいです」


冗談だと思っていたが、本気のようだ。

フロントは湯呑のお茶を口に含んだ。

フローレスは覚悟を、決め…られるわけがなかった。


「待ってよ!ここにはネティア達がいるでしょう!」


フローレスは無我夢中で近づいてきたフロントの顔を寝ているネティア達の方へ向けさせた。




ゴク!




フロントがお茶を飲む大きな音が聞こえた。


「え、今自分で飲んだ?」


フローレスが目を開けると、フロントは固まっていた。

見ると、ネティアとナイトが起きてこちらを凝視していた。

フロントがフローレスに迫っている現場をしっかり目撃していたのだった。


「こ、これは、その…」


寝ていると思っていた2人にじっと見られていたことを知ったフロントが言い訳に苦慮していた。

そんなフロントを他所に、


「ネティア、もう少し、寝るか?」

「そうですね」


ナイトとネティアは再び布団を被った。


「ちょっと、やっと起きたのに寝ないでよ!!」


フローレスは再び寝ようとした2人の布団を慌てて剥ぎ取った。
















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