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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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水の王の来訪

ウォーレスは虹の国に向けて出発の準備をしていた。


「全く、ナイトめ、私の許可も得ずミズホの指輪を持ち出しおって!!」


イライラしながら、虹の国へ持っていく賠償金や贈り物の品目のリストに目を通していた。

そこへいつもの来客の知らせが来る。


「失礼します、国王陛下。宝石商がお目通りを願っておりますが」

「宝石商か…もう間に合っていると言え」

「それが、陛下とお知り合いだと言っておりまして…」


ウォーレスは顔を上げた。

商人と言えども無下にはできない。

王族と言う身分を捨てて、一庶民として暮らしていたころ世話になった者達がいた。


「…何と言う名だ?」

「サムだそうです」

「宝石商のサム…」


人懐っこい金髪の青年の顔が浮かんだ。


「…確かに知り合いだ。すぐ会おう」

「では、謁見の間に通しておきます」


ウォーレスは目録を机に放り投げて笑みを零す。


「えらく珍しい客が来たものだな」


しかし、愛息にすり替えられた偽の指輪を見て顔を曇らせ、上着を着て謁見の間へ向かった。


「陛下のおなりだ」


謁見の間に着くと、騎士が声を張り上げる。

控えていた商人が禿げた頭を伏せている。

ウォーレスはそれを見ながら玉座に腰を下ろした。


「面てを上げよ」


顔を上げさせると懐かしい顔が見えた。


「サムか?」

「はい、お懐かしゅうございます。陛下はあの頃とほとんど変わられてませんね」

「はははは、よく言われる。そういうお前は、剥げてしまったな」

「はははは、苦労が絶えませんで」

「そうか…積もる話があるだろう。どうだろう、私の部屋でゆっくり話さないか?」

「よ、よろしいのですか?」


サムは驚いた顔をする。

水の国は第一王子の犯した問題のせいで忙しいはずだ。


「こちらも話したいことがあるのだ…」


ウォーレスはバツの悪い顔をした。


「…そうでしたか、では、お邪魔させて頂きます」


ウォーレスはサムを自室に招き入れ、人払いをした。


「ところで、今日はどうした?何か困りごとでも起きたか?」


サムの来訪の目的を探る。

水の王になる前に、世話になった礼に何かあったら力になると約束していたのだ。


「ウォーレス王のご時世に困りごとなどありませんよ。今日こちらへ伺ったのは別の理由でして」

「別の理由?」


サムは一旦間をおいてから、


「ミズホ様へ贈られた指輪はまだお持ちですか?」


と切り出してきた。

意外な質問にウォーレスは目を丸くした。


「いや、今は手元にない。だが、失くしたわけではない…」

「ナイト王子がお持ちなのでしょう?」


サムの言葉にウォーレスは2度驚いた。


「何故分かった?」


今にも笑い出しそうな旧知の宝石商を不思議そうに見つめる。


「いえ、昔のあなた様そっくりの青年が大切な人に渡すからと、母親の形見の指輪を加工してい欲しいと頼んできたので、もしやと思いまして…」


サムは堪らず腹を抱えて笑い出していた。

その光景にウォーレスは唖然となっていた。


「待て、ナイトの奴、お前にミズホの指輪の加工を頼んだのか?」

「はい、もう驚きましたよ。自分が作った指輪がまた戻ってきたので…」

「ならば、指輪はもうネティアに渡ったようだな」

「恐らく…くくく…」

「笑い過ぎだぞ」

「申し訳ありません。ですが、あまりにもお姿そっくりだったもので、金髪にお染になったらますます…くくくはははは!!!」


ウォーレスは苦虫を噛み潰したように笑っているサムを横目に見る。

実はウォーレス、虹の国に住んでいた当初は正体を隠すため金髪に染めていたのだ。


「いや、親子とはよく似るものですな」

「それ知らせにわざわざここへ来たのか?」


ウォーレスは少し怒り気味に聞くと、サムはやっと笑いを収めた。


「いえ、実はお願いしたい義がありまして参りました。どうか、陛下からナイト王子に口添えいただけないでしょうか?」


打って変わって真剣なサムの様子にウォーレスは興味を引かれた。


「構わんぞ。して、何を口添えしてほしいのだ?」

「実は…」


「陛下!!」


サムが話を切り出そうとした時、兵士がノックもせずに駆け込んできて、ウォーレスの前に跪く。


「どうしたのだ?」

「はい、虹の国より火急の知らせです!ナイト王子がレイガル王に殴られて重症だそうです!たぶん、ネティア姫の事で…」


兵士の最後らへんは兵士の主観だろう。

それを聞いてウォーレスは大きな溜息を吐いた。

サムは青ざめた顔でこちらを見るが、


「どうやらレイガルの奴、我慢できなかったようだな…」


「陛下…!」

「大丈夫だ、心配いらん。すぐ虹の国に向かうと伝えておけ」

「わかりました!」


兵士は勢い良く退出していった。


「…本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫だ、あれでも私の血を引いている。して、何をナイトに言えばいいのだ?」


ウォーレスは話を戻して、サムの願いを聞いた。




***




アルトは虹の王都に辿り着いてからその報せを聞いた。


「アルト!!」


リュックとルビがアルトを見つけて駆けてくる。


「王子のこと聞いた!?」

「レイガル王に一発食らって重症だってさ」

「ああ、たった今聞いた」


ナイト王子は年齢はまだ若いがそれでも猛者には十分入る。

その王子が虹の王の一撃でやられたとはにわかには信じられなかった。


「レイガル王の強さは知っていたが、まさかあの王子を一撃で…」


虹の王の強さは世界中に知らしめた事件が2年前に起きていた。

水の国はその当事国だった。

賢王にして勇猛な騎士でもある水の王ウォーレスが虹の王レイガルと大喧嘩の末に生死を彷徨う大怪我を負ってしまったのだ。

普段は大人しい水の国の騎士達もこの時ばかりは烈火のごとく怒り狂った。

戦争まで起きかけたのだ。

誰も止められないと思うほどの怒りだった。

シープールの治安をようやく安定させることができたナイト王子でさえその怒りの波の前に成す術もなかった。

だが、その波の前にレイガル王はたった1人で現れた。

剣も持たず、小さな飛竜1頭と見舞いのメロンだけを持って。

その潔い姿を見た水の国の騎士達の怒りが衰えた瞬間、ナイト王子はレイガル王を手厚く持て成し、そして、何事もなく帰した。

その間、誰もレイガル王に手出しはできなかった。

レイガル王が帰った後、水の騎士達はナイト王子に詰め寄った。

なぜ、自分の父親に瀕死の重傷を負わせた男を無傷で返したのかと?



『ただの喧嘩だ。レイガル王は謝罪に来た。父上が目覚めればすべては元に戻る』



ナイト王子はそれだけ言うと父王が目覚めるまで政務を黙々と代行した。

そして、ウォーレス王が目覚めた後、レイガル王との関係は何事もなかったかのように続いた。

この時、誰もがナイト王子の偉大さに気づいた。

そして、水の国の次期王はナイト王子で間違いないと誰もが思った瞬間でもあった。


「今思えば、あの時だったのかもしれんな…レイガル王のお気持ちが決まったのは」


アルトの呟きにリュックとルビも残念そうな顔を浮かべた。

名君に仕えるのは本当だったら彼らだったのだから。

しかし、主が自分で決めたことだ。

彼らは送り出さなければならない。


「陛下はいつこちらへ来られる?」

「使いを送ったから、今日中には来られると思うよ」


リュックの言葉に頷いてアルトは、


「そうか、なら陛下が来るまで待機だな」


と指示を出す。

シリウスをシープールに残してきたので必然的にアルトがリーダーシップをとる。


「…シリウスはうまくいったみたいだね…」


リュックが遠慮がちに切り出した。


「まあ、当然だろうな。付き合って長かったらしいからな。バネッサ殿はシリウス以上に肝が据わっておられた」


アルトの意味ありげな呟きにリュックとルビが反応する。


「アルト、まさか、シリウスの彼女に何かしかけたのか?」


アルトは当然のような顔をルビに向けた。


「当たり前だろう。これから私が一生仕えるかもしれない方だ。ただの凡人では困る。これでも水の国で名の知れた名家の出なのだからな」


ルビとリュックは青ざめた。


「そうだろうけど、相手は一庶民だぜ。もしかしたら、それで破局してたかもしれないぞ」

「そしたら、あのシリウスだって立ち直れないよね」

「そうなった時のために我が家の一族の女達を用意しておいた。もし、シリウスがそんなことで廃人になってしまったのならそれまでの男だ。シープール領主補佐の私が実権を握るだけのことだ」


シリウスの心配をする後輩2人をよそに、アルトは自分の野心を余すことなくあっさりと暴露した。


「そんなこと考えてたの!?」

「これくらい貴族社会では当たり前だ。出世するには良い主に仕えられるかだ。もし、そうでなければ、蹴落として何が悪い」


リュックは言葉をなくした。

心優しい彼にはシリウスにそのようなことはできなかっただろう。


「何はともあれシリウス達は合格したんだよな」

「そうだ、だから、これから私がビシバシと鍛えてやるつもりだ。あの2人はなかなか骨があって扱きがいがありそうで楽しみだ」


アルトがニヤリと笑うとルビとリュックからは無言の笑顔が返ってきた。


「ところで、ライアスはダメだったようだな」


アルトは話をライアスの方に切り替えた。

すると、リュック達の顔が一変する。


「まあ、そうなんだよね…」

「まだ付き合って3ヶ月だったらしいぜ」

「王子も酷なことをなさる」


予想していたことだが、やはりライアスが気の毒だった。

だが、リュックとルビは急に怒り出していた。


「でも、フラれて良かったと思うよ。だって、その女、ライアスが持って行った指輪と花束もらっていったんだから」

「男がプロポーズ用に持っていったプレゼントを、プロポーズを受けもしないのに普通もらうか?」

「なるほど、酷い女だ」


2人が怒っている理由を知ってアルトは苦笑した。


「そうでしょう!虹の国でいい女を見つけた方が絶対いいよ!」

「そうさ、あんな女さっさと忘れちゃおうぜ!」


2人が同時に振り返ったので、アルトは不思議に思ってよく見ると、塞ぎこんだライアスを発見した。


「…ライアス、いたのか?」


ライアスは失恋のショックから塞ぎ込み、大きな体を小さく小さく縮めてしまっていた。

そんなライアスを後輩2人は一生懸命励ましていた。


「ライアスをフルなんて、その女目がないよ!虹の国ではその筋肉で絶対モテるよ!だって、虹の国は強い男がモテるんだよ!」

「そうそう、その筋肉でモテモテさ!男の俺でも惚れ惚れする!」


リュックとルビがライアスの筋肉を褒めちぎっている。


『まあ、確かに…』


アルトは心の中で賛同した。

すると、ライアスが一瞬身を震わせたような気がした。

無理やりモデルにされたことを思い出したのかもしれない。


「ライアス、色々あって疲れただろう。王子が目覚めるまでゆっくり休んでいろ。後始末は我々がやる」


アルトの言葉にライアスは少しだけ顔を上げた。


「リュック、ルビ、ライアスについてやってくれ。私が陛下を出迎える」

「うん、わかった。何かあったら呼んでね」


ルビはライアスに肩を貸して、リュックと共に連れて行った。

アルトは3人を見送ると、ウォーレス王を出迎えるため虹の王都の入り口で待った。


太陽が中天を少し通り過ぎた頃、地平の彼方に虹の国王正規軍の黒竜の旗と水の国の国旗であるウィンディーネの旗を掲げた一団が現れた。

虹の国王正規軍に案内される形で、ウォーレス王は武装した水の騎士千騎ほどを従えて現れた。

アルトは出迎えに来ていたレイス卿の配下の騎士と共にウォーレス王を出迎えた。


「ウォーレス王、お待ちしておりました」


レイスの騎士は緊張した声で短く出向かの言葉を切り出した。


「レイスの騎士か…ナイトはレイス卿の世話になっているようだな」

「はい、我が主がナイト王子の身を預からせていただいております」

「レイガルはどうしている?」

「…国王陛下は女王陛下の言いつけで謹慎しておられます。まずは、我が主がウォーレス王をお出迎え致します」

「わかった」


ウォーレス王の視線がレイスの騎士からアルトに向けられた。


「陛下、お待ちしておりました」

「アルトか、ナイトのことでお前達には苦労を掛けるな」

「滅相もありません。臣下の務めですから」

「うむ、話は虹の王宮に着いてからだ。アルト、お前には働いてもらうぞ」

「心得ております」


アルトは恭しく君臣の礼をとる。


「それではご案内いたします」


レイスの騎士が先導してウォーレス王一行を虹の王都へと誘った。

都の人々は理路整然として入ってきた水の騎士団に道を譲り、、見物する。


「水の国のウォーレス王だ。どうして来られたんだろう?」


何も知らない虹の民は水の王の来訪に首を傾げていた。

水の王一行は友好的なムードで迎えられた。

他国の王族の来訪など風の国以外では珍しいことだった。

それにウォーレス王は虹の国にしばらく住んでいた。

知っている者達がウォーレス王に手を振ると、手を振り返していた。

しかし、水の騎士達は終始緊張した面持ちだった。

自国の王子が婚約者のいた虹の世継ぎ姫を奪ったのだから、心中穏やかではない。

どのような話し合いになるのか気が気ではない。

もし、交渉が決裂でもしたら、敵陣の中、主君親子を守らなければならないのだから。

ウォーレス王とアルトを除いた水の騎士達はピリピリとしたムードを漂わせながら虹の王宮に入場した。














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