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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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部下の5騎士達を追い払って、ナイトは1人になった。

退屈だった。

しかし、軟禁されている以上それは仕方のないことだった。

父王が来れば、新しい日常が否応なしに押し寄せてくる。

虹の王になるための試練だ。

虹の世継ぎ姫ネティアとは前世から夫婦の契りを交わしていた。

だが、現世のネティアは国の争いを治めるためにナイトを待たず、他の男と結婚しようとしていた。

何とか食い止めたが、相手からは相当恨みを買ったはずだ。

世間も良くは思わないだろう。

他国の王子でありながら、婚約中の世継ぎ姫を横取りし、虹の玉座を奪ったのだから。


「ああ、俺って、極悪人だな…」


婚約者と虹の玉座を目前で奪われたジャミルの怒りを今でも思い出すと身震いする。

ナイトとネティアとフローレスの3人だけでランドの敵中で孤立させられたのだ。

あのバカ兄貴のせいで…

ナイトは閉まったままの唯一の入り口をじっと見つめる。

待っているのだ、兄の登場を。

始め、ナイトは兄が心配で虹の国にやってきた。

その後、兄の企てにより、多大な苦労を強いられた。

強硬な手段の理由はネティアに会って分かった。

だが、敵中に大切な主である双子姫と弟であるナイトを放り出して、そのまま放置するのはあんまりだ。

謝罪あってしかるべきだ。

頭を掻きながら、入ってっ来る兄の幻影をナイトはずっと見続けていた。

しかし、待てど暮らせど兄は来なかった。

ナイトは不貞腐れる。

別れてからあんなにも兄を思い続けていたのに、兄はナイトのことなどたいして思っていなかったようだ。

寂しい気持ちになり、涙が出てきそうになった。


トントン…


待ちに待ったドアの音にナイトは慌てて涙を拭った。

待ち人がやってきたのだ。

ナイトは平静を装い、『どうぞ』と低い声で促した。

なるべく怒っているように見せかけるために。

しかし、心の中は歓喜していた。


「やっほー!」


ドアから顔をのぞかせたのは元気いっぱいの黒髪の少女だった。

ナイトの歓喜が半減する。


「何だ…フローレスか…」


思わず落胆した声を出してしまった。


「えへへ、ごめんね、ネティアじゃなくて」


フローレスは罰の悪そうな笑いをしてドアを閉めた。

ネティアが来れないことはナイトも知っていた。

ネティアはまだ療養中だった。

風邪フウジャで死にかけたのだからまだ安静が必要だったのだ。

しかし、フローレスが来てくれたことは嬉しかった。

それに、兄はフローレスの護衛で許嫁だ。

兄が何をしているの聞ける。


「いや、来てくれて嬉しいよ。1人で退屈してたんだ」

「あははは、同じ。私もよ」


フローレスは嬉しそうな笑みを浮かべた。

同じ?

ナイトは怪訝な顔をした。


「従者は…フロントはどうしたんだ?」


ナイトが一番知りたかった兄のことを切り出すと、フローレスの笑顔がたちまち曇った。


「ああ、フロントね…」


怒った様子でナイトの前にあるソファにドカっと座る。

何か聞いてはいけないことを聞いたのだろうか?

ナイトの背中に冷たい汗が流れる。


『フロントなら、療養所で寝ております』

「………え?」


フローレス以外の男の声が答えてきたので、ナイトは辺りを見回すと、天井から5つの影降りてきた。


「驚かせて申し訳ございません、ナイト王子。我々は虹の王家の忍び衆であります。主にフロントと共にフローレス様の護衛を任されております。フローレス様警備を兼ねて御挨拶に参りました」


現われた5人の忍びはナイトの前で平伏した。

そして、先頭の壮年の灰色の髪の忍びが立ち上がる。


「私の名前はグレイです。若頭ライガの補佐をしております。先日はご無礼をいたしまた。どうか、お許しを」

「ああ、お前らあの時の闇の騎士か、許すよ」

「お許しいただきありがとうございます」

「グレイだな、覚えておこう。ところで、ライガはどうしてるんだ?」


ナイトが不思議に思って訪ねた。

ライガはナイトを迎えた最初の忍びだ。

ナイトの様子を見に来ないのはどうも腑に落ちない。

グレイ達の顔が強張る。

こちらも聞いてはいけない質問だったのだろうか?


「我々は若の居場所を存じません…若の居場所はフロントが知ってるものと思われます…」

「また兄ちゃんか…それで、療養所でまた寝てるってどういうことだ?」


ナイトの質問にグレイは居住まいを正し答える。


「はい。フロントはナイト様とネティア様を結び付けることに成功したことを喜び勇んで国王陛下に報告に行ったのですが…」







「よくやった!」

「はい、少々てこずりましたが、頑張りました!」


レイガル王はフロントを褒めたが、目が鋭く光る。


「…手こずっただと?フロント、お前、まさか、ナイトに負けたのか?」


ギク!


「いいえ、負けてはいませんが、ネティア様の力も得ていて何分手強くて…私も微かすの体力で戦っていたので…」

「言い訳はいい。私の下にいながら負けるとは何事だ!?」

「ひぇ、すいません!!!あ!」


ドサ!!!







「と言う次第で、ベッドに逆戻りしたそうです」

「…何で兄ちゃんが俺に負けたくらいでレイガル王はそんなに怒るんだ?」


グレイの説明にナイトはわからない顔をする。

子供のころならともかく、大人になったナイトが兄に勝っても別におかしくはない。


「父上はウォーレス様に負けるのがものすごく嫌なのよ。だから、どんな状況であれフロントはあなたに勝たないといけなかったのよ。特に、虹の王家に仕えることになってからは『お前を最強にする』と言って毎日しごいてたもの」

「…そうか…」


ナイトは手を合わせた。

レイガル王の強さは桁外れていた。

ナイトとフロントを育てた父ウォーレスでさえ、手に負えない怪物だ。

その怪物の逆鱗に触れてしまった兄の冥福を祈った。


「では、自己紹介に戻らせていただきます」


薄情にもフロントの話を終わらせる。


「右から、レッド、ブルー、グリーン、イエローです。お見知りおきください」


グレイより少し若めの屈強な男達が順に顔を上げる。

名前は髪の色で決められたようだが、何かに似ている。


「…ピンクが足りなくないか?」


ナイトの指摘に忍び衆がピクリと反応する。


「…残念ながら、くのいちはおりません。なので、グレイの私が入っております」


一番年長のグレイが黄昏た様な口調で言う。

そして、何故か、目尻に光るものを見つけてナイトは慌てた。

見ると、他の忍び達も涙ぐんでいる。


『何!?俺また何か変なこと言った!?』


冗談のつもりだったのに、ナイトは忍び衆に何と言葉を掛けていいのかわからなくなった。


「ピンクは私がやってあげてもいいわよ」


重くなった雰囲気をフローレスがその一言で壊してくれた。


「そうです、ピンクは我らが姫フローレス様です」


とグレイ他4名はすぐさま立ち直った。


「そ…そうか…よろしくな」


フローレスのよくわからない助け舟のお蔭でナイトの窮地は救われた。


「ちょっと、長居するから下がっていいわよ」

「わかりました。御用の際はお呼びください」


忍び衆はフローレスとナイトに一礼すると天井裏に帰っていった。


「ああ、フロントじゃないから肩が凝っちゃうわ」


と言って、フローレスは肩を回す。


「覚えやすい名前だったけど、雑なつけ方だな」

「頭がつけるのが面倒だったよ。でも、いいじゃない、皆似合ってるし。私、好きよ、皆の名前」


『ありがとうございます…』


天井裏からグレイの感極まった声が聞こえた。

他の4人もたぶん涙ぐんでいることだろう。

ナイトとしては話しずらい。

が、フローレスはお構いなしに話を続ける。


「あ、そうそう。忍び達の前で女の話はNGよ」

「何でだ?仕事に支障が出るからか?」

「あの5人は大丈夫よ、諦めてるから」


ゴンゴンゴン!


天井裏が騒がしくなった。

どうやら抗議しているようだ。


「問題はライガなのよ」

「ライガ?普通に結構モテそうな顔してたぞ」

「そうね。普通に生きてたら普通にモテるわよね。でも、ライガは忍びだから。同じくらいの異性との接触がつい最近までなかったの。もしかしたら、私とネティアが初めかも」

「それならこれからじゃなか?女できたら変わるぞ」


ナイトはライアスとシリウスを思い浮かべる。

シリウスはしっかり者になった。

ライアスは強面がデレデレになっていた。


「それがね、その前に出逢っちゃったのよ」

「出逢った?」

「フロントよ」

「…何で、兄ちゃんが出てくるんだ?兄ちゃん男だぞ?」

「ライガは忍びの頭の1人息子で、同年の友達もいなかったの。フロントが最初の友達と言ってもいいわ」

「それとこれがどう繋がるんだ?」

「それがあるのよ。フロント、男にしてはきれいな顔してるでしょう?」

「まあ、そうだけど…女には見えないぞ」

「それが化粧をしたら化けるのよ。それをみたライガが一目惚れしちゃって、女装したフロントを追い掛け回してるわけ」


ナイトの思考が停止した。

確か、ライガは洞窟で兄のことを『マイスウィートハニー』と呼びながら助けに現れた。


「まさか、兄ちゃんとライガって…そんな関係?」

「まさか、あれでも私の許嫁よ。女装はネティアと私の護衛の為よ」


ナイトは胸を撫でおろす。

だが、


「女装する度にライガの強烈なアタックにフロントも辟易してて、返り討ちにするようになったわけ。たぶん、今回もその件で行方不明になってるのよ」

「………返り討ちって…それって、始末?」


安心したのも束の間、ナイトは青くなった。

だが、フローレスは笑っている。


「ライガなら大丈夫よ。フロントに何回も殺されてるけどちゃんと戻ってくるから」

「………………ゾンビか……………?」

「そんなわけないでしょう。ちゃんと生きてたでしょう?まあ、それがフロントを怖がらせてるのよね。父上の次にライガが怖いんじゃないかしら?」


フローレスは愉快そうに笑うが、ナイトは笑えなかった。

天井裏の忍び達もナイトと同じ気持ちなのか、大きな溜息が聞こえてきた。


「あ、そうそう、フロントで思い出したわ。あいつ酷いのよ!」


フローレスは怒った様子で話題を変えてきた。


「何があったんだ?」

「あいつが闇の騎士になってるとき、私を攫ったでしょう?その時の話よ!」


フローレスは腕を組んで、かなり立腹している。








フローレスは洞窟で猿轡をされ、椅子に縛り付けられていた。

そこへ、不気味な仮面をつけた闇の騎士が帰ってきた。

ネティアが自分を助けるためにルーク(ナイト)とランド軍を飛び出したことを報告してきた。


「もうしばらくしたら吉報が届くでしょう。それまでお待ちください.。それまで少しお話をしましょう…」


闇の騎士はそう言ってフローレスの前に自分の椅子を置いて座った。

そして、仮面を取った。


「もう、フローレス様。いつも私が申し上げていたでしょう?いくら腕に覚えがあるからって、護衛より前に出ないで下さいと。私の言いつけを守らないから、攫われちゃうんですよ」


『ムロント(フロント)!?』


正体を明かし、普通に説教してくるフロントにフローレスは唖然となった。


「まあ、計画通りでしたけど」


フロントはニコニコしながらフローレスに近づいてきた。


「あの水の国の傭兵を一目で取り立てるなんて、さすが、フローレス様はお目が高い!」


急に褒められてフローレスは目が点になる。


「実は、あのルークと言う傭兵、本当は水の国の第一王子ナイト殿下なのです!」

『え!?』

「驚かれるのも無理はありません。これは水の国、虹の国でもトップシークレットですから。実は、お見合い大作戦なんです!」

『ムームーモッテ、ヌテラフォフラオウ(ちょっと待って、ネティアは知らないでしょう)!?』

「そうです。でも、大丈夫です!お2人は結ばれる運命にありますから!」

『ヌウワホンヒョニ(何を根拠に)?』


自信満々のフロントにフローレスは理由を聞くと、満面の笑みが返ってきた。


「よくぞ、聞いてくれました!その理由をお話ししたかったのです!」


そう言いうと、フロントは虹の国にいた頃のウォーレス王の養子となり、その後生まれたナイトと兄弟として育ったことから話し始めた。

それから、偽名の名前『ルーク』はフロントよく読み聞かせた絵本の主人公の名前だと教えてくれた。


「いや、覚えててくれて嬉しいな。まあ、頭も飛び切り良かったんですけどね。同学年の子なんか比じゃないですよ。だって、私と同じ勉強をしてたんですから。剣の腕だってダントツでしたよ!」


フロントの口は滑らかに回り続ける。


「水の国行った後も第一王子として恥じない功績を残しました。海賊の拠点だったシープールを生まれ変わらせたんですから!父さん、ウォーレス王をしのぐ人気なんです!それに、世界最高峰の学校では学業でも、武術でも、常に首席だったんですよ。教師からも太鼓判を押され、友達も数え切れないほどいて、もう、兄としては誇らしくて誇らして、自慢の弟なんです!」

『ムーーーー!!!!(理由になってない)!』







「子供の頃からの写真やらなにやら見せられて、自慢話の最後に、あなたが前世の奥さんの夢をずっと見てるってやっと言ったわ」

「………そうか、俺の兄ちゃんがすまなかったな………」


ナイトは恥ずかしくなった。

だが、ちょっぴり嬉しくも思った。

フロントもずっとナイトのことを思っていてくれたのだから。













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