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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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何故か選ばれる者

水の国で父ウォーレスが怒りの咆哮を上げているころ、ナイトは隔離されている虹の王宮の一室に水の国5騎士を呼び寄せていた。

5人は緊張した面持ちで、ナイトを見ている。

ナイトが虹の国に婿入りすることが決まったため、正式に連れて行く者を決めなければならなかった。

ナイトともに水の国の時代を担うはずだった側近達。

領地のシープールのこともある。

連れて行く者は自然と絞られる。

だが、もう決めてある。

それは、アルトだ。

水の国でも屈指の名門貴族の出のアルトならば、水の国との太いパイプ役になるし、彼ならば大概のことはこなせる。

愛想がないところが不安だが、決して愛嬌がないわけではない。

アルトの趣味は絵画。

その趣味があれば、虹の国でも馴染めるだろう。

すでにアルトはわかっているのか、静かにナイトの言葉を待っていた。

他の4人も同様のようだ。

特にわかりやすいのが、シリウスだ。

かなり項垂れている。

ナイトについていけないことを察知しているのだ。

シリウスには領地のシープールを任せるつもりだ。

シープール出身者のシリウスならまず間違いはない。

どんな困難があろうともナイトの愛し育てた都を守ってくれるはずだ。

領民達もシリウスなら受け入れてくれるはずだ。

しかし、シリウスだけでは領地を治めるのに足りない。

そこで必要になってくるのが、リュックだ。

リュックもアルト同様水の国屈指の名門貴族。

その血筋が社交の場やさまざまな交渉で生かされるはずだ。

しかし、気が弱いのが難点だ。

気の強いシリウスに尻を叩かれながら、頑張ってくれるだろう。

ルビは弟のセリオスに仕えさせようと思っている。

二刀流で腕が立つ彼ならいい護衛になる。

それに面倒見がいい。

セリオスを可愛がってくれるだろう。

いずれは、ライアスと並ぶ騎士となり、セリオスを支えるだろう。

武勇ばかりでちょっと頭が足りない2人が王になった弟の隣立っている絵を想像し、ナイトは少し不安を覚える。


『右腕は自分で探せよ』


ナイトは心の中で弟に語り掛けた。

これがナイトができる異母弟への最大の贈り物だ。


「王子の嘘つき…」


ナイトが口を開こうとした時、感極まったリュックが声を発した。


「こら、リュック…」


シリウスが窘めるも、いつもの勢いがない。

抑制の効力はなく、リュックはナイトを非難する視線を送る。


「僕は、王子と学生時代からずっと一緒にいたのに、どうして教えてくれなかったんですか?」


ナイトの頭に???が犇めく。


「何のことだ?」


ナイトは同い年のリュックには大概のことは話していた。


「もう、とぼけないでくださいよ!『夢の乙女』の話ですよ!ネティア姫が夢の乙女だったんですよね!?」


その言葉を聞いたナイトは固まった。

ずっと心に秘めていた自分だけの秘密。

その話を知っているのは…


「まさか…王子の思い人が現実に存在していたとは…」


ライアスが感慨深げに言葉を発する。

ナイトの最初の従者であるライアスのみ。

しかし、ネティアが夢の乙女だと断定するにはいささか急すぎる。

ナイトでさえ、ネティアが夢の乙女だとは断定するには時間がかかった。

可能性があるとすれば、父王から直接命を受けているアルト。


「国王陛下から概ねの話は聞いておりました。ですが、暴露したのはライアスです」


視線を向けるとあっさり返事が返ってきた。

ナイトはライアスに視線を移す。


「初めて夢の乙女の話を聞いた時は、『危ない子』だなと思いました。成長されればきっと妄想から解放されると思っておりました。しかし、王子は成人されても目の前の美女達に関心をお持ちにならず心配しておりました。しかし、夢の乙女が、王子の前世の最愛の女性で現世でも生涯を固く誓っておられたなどこのライアス、『露ほどにも思っておりませんでした』」


いい話だ…と涙するライアス。


ムカムカ…


「私も、その話を聞いて王子をお止めすることはできなくなりました…」


シリウスは諦めたようで、今回のことは納得しているようだった。


「水の国とシープールのことは我々にお任せください」

「僕達、どこにいても王子を応援してるからね」

「何かあったら、いつでも呼んでください。王子のために駆けつけますから」


水の国に居残りが確実視されているシリウス、リュック、ルビがナイトの背中を押す。

ナイトの胸が熱くなる。

だが、


「王子、末永くお幸せに!」


ハンカチに目を当てて涙を拭う仕草をするライアス。

ムカムカする。

ライアスの涙は喜びの涙だ。

ナイトが水の国からいなくなって喜んでいるのだ。

ナイトとしても腐れ縁のライアスと縁が切れることは嬉しい。

だが、ライアスの喜ぶ顔を見るのがどうにも気に食わない。

心をモヤモヤとした黒いものが覆う。

その感情を察知した者がい1人いた。

アルトは大きな溜息を吐く。

ナイトはドロドロした感情を吐き出すように口を開いた。


「アルト、やっぱり、お前にはシリウスの補佐をしてもらう」

「え!?」


驚きの声を上げたのはシリウスだった。

補佐は予定ではリュックのはずだったからだ。


「では、誰を連れて行かれるのです?」


一番ナイトについていきたいシリウスが知りたがる。

ナイトは意地悪な笑みを浮かべライアスの肩を叩く。


「ライアス、お前を連れて行くことにした」


アルト以外の3人が驚きの表情を浮かべる。

肩を叩かれたライアスはナイトからの指名をすぐには理解できなかった。


「……………………は?」


それもそのはず、一番可能性がなかったのだ。

ライアスは国王直属の騎士だ。

ナイトが勝手に連れて行くことはできない。

それに、ナイト本人もライアスを連れて行く気は一切なかった。

それにも関わらず土壇場で変更したのは、ナイトがライアスの困った顔が見たかったのだ。


「お、お待ちください、王子!私は今は国王陛下の騎士です!国王陛下の許可なしには王子に同行できません!」


案の定、ライアスは慌てふためいて抵抗する。


「許可がおりたらついてくるんだな?」

「そ、それは…」


ナイトの意地悪な攻めに、ライアスは引きつった表情になる。


「お待ちください、王子!」


そこへシリウスが待ったを掛けた。

ライアスにとっては助け舟だ。


「私はアルトだから納得したのです。こいつは信用できません!王子に仇を成すかもしれません!」

「いや、さすがにそれはないと思うぞ」


アルトがライアスを擁護するが、


「仇を成します!」


とライアスは自分でシリウスの言葉を肯定する。


「それでいい」


ナイトは壮絶な笑みを浮かべて了承する。

シリウス、アルト、リュック、ルビの4人は一瞬固まる。


「え、いいの?」


リュックが確認するようにナイトに聞いてきた。


「こいつはいいんだ。でないと、『使い捨て』にできないだろう?」


『使い捨て』と聞いてライアスの顔が青くなる。


「と言うことだから、アルト。シリウスと2人でシープールを守ってくれ」


アルトは硬直しているライアスを盗み見て、


「わかりました」


と答えた。

それを聞いて、リュックが慌てる。


「ちょっと待って、僕はどうなるの!?」


先にシリウスの補佐を拝命していたリュックの立場がなくなる。


「それなんだが…お前はルビと一緒にセリオスに仕えてくれ。その方がお前の地位も向上するし、家族も納得するだろう?それにお前達はセットの方がいいような気がするんだよな」


名門貴族の出であるリュックならセリオスを人脈面でも守ることができる。

それにリュックはアルトほど策略家ではないが、頭は切れる方だ。

武のルビと知のリュックがセリオスを支えればバランスがいい。

そして、残り物のライアスはナイトがこき使えるという算段だ。


「…僕は別に構わないよ…」


セリオスに仕えることはリュックとっては悪い話ではない。

家の株は上がるし、目の上のたん瘤だった年上3人組は消えるし、気心の知れたルビも一緒だ。


「これからもよろしくな、リュック」


ルビも納得している。


「王子…!」

「シリウス、王子がお決めになったことだ」


意見を言おうとするシリウスをアルトが抑えた。

シリウスは渋々口を噤む。

臣下であるライアスは王子のナイトの命を拒むことはできない。

だが、ライアスはその常識を踏み倒そうとする。


「王子、私はあなたにはついてはいけません!」

「俺の命に背くのか?」

「はい!」

「理由は何だ?」

「私には心に決めた女性がいます。その女性と別れるなどできません!」

「なら、一緒に連れて来ればいいだろう?」

「……え?」

「誰も別れろとは言ってないぞ」


ナイトの思わぬ許しに、ライアスは呆ける。


「お前が心に決めた女なら、女の方も同じ気持ちだろう?」

「……いや………その………」


先ほどの威勢が嘘のようにライアスの声が小さくなった。

どうやら、女性の意思確認はまだのようだ。


「一週間やる。その女を連れて来い。ルビ、リュック、ライアスに同行しろ」


ナイトはリュックとルビをライアスの監視役としてつけた。

逃げ出さないようにするためだ。


「じゃ、待ってるからな。主従揃って一緒に結婚式を挙げようぜ」


ナイトはにこやかにライアスを送り出した。

一緒にリュックとルビも部屋から出される。

ライアスは沈黙している。

リュックが重い口を開く。


「あのさ、ぶっちゃけ付き合って何年?」

「……………3ヶ月」

「勝算は?」


ルビの質問にライアスの返事はなかった。







ライアス達を追い出した後、ナイト王子は残ったシリウス、アルトの方を向く。


「王子、鬼ですね」

「何のことだ?」


アルトの指摘に王子は意地悪な笑みを浮かべて見せる。

ライアスが玉砕して帰ってくることをわかっている笑みだ。


「ははは、ライアスの嫁がどんな女か楽しみだ」


心にもないとを言う王子にアルトは溜息を吐く。

どんなにできた王子でも、中身は人間。

当然エゴはある。

主命に背いた報いだろうが、ライアスも悪い。

ライアス以外の者は主についていきたくてもいけないのだ。

王子とてライアス以外の者を連れて行きたいはずだ。

それなのに、ライアスだけは快く王子を祝福し送り出そうとした。

それが王子の気に障ったのだ。

嘘でもいいから、周りに合わせて名残惜しそうにしていれば従者に選ばれることはなかった。

だが、嘘のつけないライアスにはそれができなかった。


「ライアスのこと、撤回はできませんよ。国王陛下はお許しになるでしょうから」

「心配するな、撤回する気はない。あれはあれで有効活用できるからな」


アルトの最終確認にも、王子は決定を覆さなかった。

シリウスの口から落胆の溜息が漏れる。

そのシリウスに王子が視線を向ける。


「じゃ、アルト。シリウスの方は任せたぞ」

「お任せください」

「私の方?」


下された命に即答するアルト。

シリウスは訳が分からずアルトと王子を交互に見る。


「さあ、我々も行くぞ」

「行く?どこにだ?」

「シープールにだ」

「シープールに戻るのか?それなら王子の結婚式を見届けてからでいいではないか?」

「ただ単に戻るのではない。『お前も結婚』するのだ」


シリウスはしばし目を白黒させた。


「結婚!?私が!」

「そうだ。お前はシープールの領主になるのだ。領主には伴侶が必要だ」

「いないと何かと不便だからな。この機会にお前達も結婚してくれ、シリウス」

「いや、待ってください!我々は結婚にはまだ早いです!」


シリウスには結婚の約束をした幼馴染がいた。

早いということはないはずだ。


「何を言う?将来を約束しているのだろう?今結婚せずにいつ結婚するのだ」

「駄目だ、急すぎる!それに、元海賊だった私がシープールの領主になるのも恐れ多いのに、バネッサが領主夫人など勤まるはずがない!」


シリウスは取り乱し、せっかく決心した領主も辞退しそうな雰囲気になってきた。

早速補佐になるアルトの出番だ。


「大丈夫だ。そのために私がお前達につけられたのだ」


アルトが宥めると、パニックになっていたシリウスの心が落ち着いていく。

アルトは水の国でも有名な貴族の出だ。

当然、知識と教養もあり、社交界にも顔は広い。

シリウス達を教育するのもアルトに下された任務だ。


「私達に勤まるでしょうか?」


シリウスは不安げに呟く。


「そんな気弱では困る。必ずシープールに相応しい領主になれ」

「はい!


王子が厳しく命令すると、シリウスは顔を引き締めた。


「頼んだぞ、アルト」

「お任せを。私がお前と夫人を立派な領主と領主夫人にしてやるから大船に乗ったつもりでいろ」


アルトは不安げなシリウスの肩を叩いて微笑む。


「吉報を待ってるからな」


ライアスの時とは違い、王子はにこやかにシリウスにエールを送る。


「では、行くとしよう」

「…よろしく、頼む」


アルトはシリウスと共に港に向かう。

その目は補佐としての初仕事に燃えていた。















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