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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第2章 明暗
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監視者

虹の国の東の隣国に森の国がある。

その国を治めるのは若干18歳の優艶な女王エメラ。

虹の国と同じく代々女王が治める国でライバルでもある。

エメラは水の国第一王子ナイトと虹の国の世継ぎ姫ネティアの結婚の情報をいち早く入手していた。


「次期虹の王が決まったのね…」


エメラは優美に椅子から立ち上がると、窓の外に目をやる。

森の国と言うだけあり、豊かな森が広大に広がる。

しかし、その森の色はくすんでいた。

普段なら森の癒しの緑が心を落ち着かせてくれるのだが、今日は違った。

空に暗雲が立ち込めていたのだ。

それはエメラの心の中を映し出しているようだった。

そして、これから先の世界に不吉な予兆も…

しかし、窓に透けて映るエメラは微笑を浮かべていた。


「ふふふ、父親の方ではなく、息子の方だったのね…」


ナイトの父ウォーレスと現虹の女王ティティスは一度見合いをしていた。

しかし、2人は親しい友人にはなったものの、それ以上の進展は見られなかった。

同時期に2人にそれぞれ運命の相手が現れたからかもしれないが、現われなくても2人が結ばれることはなかったようだ。


「やっぱり、ネフィアを追いかけてあなたも来たわね、スカイ…」


エメラはこの時を待ち望んでいた。

1000年前の再来を。


「でも、あなた達の思うようにはさせないわ」


エメラは振り返ると、ずらっと控えている若く逞しい臣下達を見る。

彼らは皆、彼女の虜。

皆、彼女の供に選ばれたいと必死だ。

しかし、たった1人心ここにあらずの者がいた。


「光の王へ報告に参ります。ザハード、わたくしの供をなさい」

「はい、女王陛下…」


指名されたサハードは恭しくエメラの命を受けると、即座に立ち上がり部屋を出ていく。

その後ろ姿を選ばれなかった他の臣下達が憎々し気に睨んでいたが、彼が気付くことはなかった。

彼には競争心がない。

他の臣下達に興味がないのだ。

そして、数々の男を虜にする妖艶の女王エメラにも。

彼の関心がある事柄と言えば、エメラの命令と虹の国に関することぐらいだろう。

そう、彼こそ、一代前の虹の女王ディアナから追放されたバイソン卿の孫だった。

追放されたバイソン卿はその後、森の女王に拾われ、以来、森の王家に仕えていた。

彼の祖父は虹の国へ帰ることを切望していたが、ついに叶わなかった。

そして、その意志を受け継いだ父親は早々に他界。

今は孫のザハードが祖父の夢を受け継いでいるのだが、祖父や父に対して、さほど熱心ではない。

虹の国に残ったバイソン家の臣下達や親族の根強い働きかけがなければ、無関心にも等しい。

虹の国建国以来の大貴族の誇りは他国で生まれた孫にはもうどうでもいいことなのだ。

彼の目には生気が感じられない。

ただ祖父が残した強烈な夢が彼を人形のように動かしていた。


『優秀な男なのに、勿体ない…』


エメラはザハードを哀れに思う。

彼はこのまま森の国で一生を終える。

エメラは彼を飼い殺しにするつもりだ。

それは今は亡き親友の願いだった。

生気のない彼だが、放置すれば戦火の火種になりかねいない。

彼は自分で思っているよりも強大な力を秘めている。

その彼に野心が宿ったら、エメラの首輪などものともせずに出ていくだろう。



「まあ、その時はあなたが何とかするでしょう…」


エメラは雷雲轟く空に呟いた。




***




夕刻、水の王ウォーレスは溜まっていた政務を終え、ようやく一息ついたところだった。

コーヒーを片手に窓際に立って、海を眺めながら考え事をしていた。


「失礼します、陛下…」


宰相のスパークが入ってきた。

いつもの険しい顔に難しい顔がプラスしてある。

一目見て要件が推察できる。


「光の国からの呼び出しか?」

「…その通りでございます。なぜ、わかったのです?」

「お前の顔にそう書いてある」


スパークは懐に常備している手鏡を取り出しす。

毎度毎度、ウォーレスが要件を先に言い当てて、『お前の顔に書いてある』言うので手鏡を持つようになったのだ。

自分の顔を見るが、いつものように首をひねる。


「まあ、お前自身にはわからんだろう」


ウォーレスは笑いながら政務室を出て行った。







3日後、光の宮殿にウォーレスの姿があった。

供は連れていない。

光の宮殿は光の王家の血を引いた者か許された者しか入れないのだ。

光の貴族達が物珍し気に水の王の参内を遠巻きに見つめている。

ウォーレスが足を止めることはなかった。

閉鎖的な光の貴族に特に親しい者などいなかったからだ。

謁見の間に入り、光の王都の謁見に臨む。


「ウォーレス、久しいな」

「は、ご無沙汰しております、光の王」


謁見の間に現われた光の王がウォーレスに声を掛けてきた。

その声は威厳に満ちていた。

ウォーレスが顔を上げると、光の王は玉座に腰を下ろしていた。

声同様、顎髭を蓄えた厳格なる顔つきは世界の国々をまとめる盟主と言っていい。

だが、見た目とは裏腹に、光の王はまだ25歳だった。

ウォーレスより7つも年下だった。


「そなた、相変わらず、若いな」

「ははは、まだ『世継ぎ』が5歳なので老いてなどおられません」


光の王のいつもの社交辞令に、単刀直入にメッセージを込めた。


光の王から微笑が消えた。


「ナイトを廃嫡したというのは誠だったのだな」

「やはり、ご存知でしたか」


光の王は重く頷く。


「で、今ナイトはどうしている?」

「虹の国に囚われております。全く、あいつめよりによってネティア姫に懸想するとは…」


ウォーレスは憤慨して見せる。

世間的にはナイトは父であるウォーレスを斬りつけ、謀反の罪で謹慎している間に、脱走。

伴侶を得るまで人前に顔を晒せない隣国の虹の国のネティア姫

がランド領へ赴くことを聞きつけ、ランド軍に近づき、騒ぎに巻き込まれ、ネティア姫と恋に落ちたと言う事になっている。


「親泣かせのドラ息子です」


と光の王には説明した。

むろん、真実は違う。


「…そうか、それでナイトはどうなる?」

「先方の態度からして、ナイトはネティア姫と深い中になっておるようです。結婚を許すほかないかと、拒めばナイトの命はないかと…」

「そなたの力でどうにかならぬのか?そなたは我が国に次ぐ権威ある水の国の王だぞ」

「虹の国に我々の権勢は届いていないことは、光の王もご存じではありませんか?我々の祖先は光の王家より血を頂き、国を興したのですから」


つまり、すべての王家は光の王家の血を引いていた。

例外は虹の国だけだ。

光の王は親身になってナイトを救う手立て考えてくれた。


「ならば、金を積んではどうだ?」


光の王の提案にウォーレスは苦笑する。


「それで助かるのならいくらでも積みましょう。ですが、虹の王家が金を受け取ることはまずないでしょう」

「ならば、縁故を頼ってはどうだ?」

「縁故ですか…」


ウォーレスは顔を渋らせた。


「そなたは虹の王と女王と親しい間柄だと聞いているが?」

「はい、その通りです。虹の女王ティティスには前の妻と世話になりました。虹の王レイガルが王位につけるよう手を貸したのも私であります」

「ならば、その恩を返してもらえばよかろう?」

「…そうなのですが、虹の王も女王も嫁入り前の娘を傷物にされかなり怒っておりますので…難しかと…」


これは事実とは真逆だ。

2人は今頃大喜びしていることだろう。


「権威も金も縁も駄目となると、力づくで取り返すしかないな…」


光の王が思いもよらないことを言い出したので、ウォーレスは慌てた。


「恐れながら、光の王!虹の国を敵に回すのはやめた方がよろしいかと思います」

「しかし、そうでもしない限りナイトを取り戻すことはできないではないか?」


光の王は思いのほか、ナイトに執着していた。

ナイトは父のウォーレスから見てもなかなかの逸材だった。

当然、光の王の評価も高かった。

そこを逆手に取る。


「光の王、これは好機でございます』

「好機だと?」

「はい、ナイトが虹の国に婿入りすれば、虹の王家は我々と縁続きになります。そうなれば、我々の意向も届くようになり、虹の国の内情も手に入ります」


虹の国の内情と聞いて、光の王の眼光が鋭く光った。


「この世界を覆う虹の結界は1000年を経て脆くなっていると、報告を受けておりますが現状を知るのは虹の王家のみです。それに、闇の国情報も手に入るかと…」


ウォーレスは光の王が最も手に入れたいと思っている2点の情報をちらつかせた。


「ナイトとネティア姫との結婚を認めよう」


効果は絶大。

光の王はあっさりナイトの虹の国への婿入りを許した。


「ありがとうございます。ナイトなら確実に光の王のご期待に応えることでしょう」

「うむ、ナイトに期待していると伝えてくれ」

「御意」


光の王が退出するのをウォーレスはひれ伏して見送った。

光の王が去った後、ウォーレスは大きな溜息を吐いた。

最大の難関は乗り切った。

盟主に偽りを報告したのだがら、どっと疲れが押し寄せてきた。

しかし、ウォーレスは水の王。

人前でそんな姿を見せるわけには行かない。

謁見の間を出る時には威風堂々とした水の王に戻る。

光の貴族達の好奇の瞳にさらされながら、回廊を歩く。

バラのつるで作られた緑のトンネルに入る。

この先に光の宮殿の東門がある。

ここに入ると人気がなくなった。

東門は光の王家に許された者が通る門だった。

そのため、人気はほとんどない。

ウォーレスはやっと一息ついた。


「光の王への謁見ご苦労様です。水の王」


甘美な声にウォーレスははっととして、辺りを見回す。

いつの間にか後方にウェーブのかかった豊かな緑の髪を靡かせた優艶の美女が立っていた。


「森の女王か…目の保養になるな…」


森の女王の豊満な肉体を見てそう言ったのではない。

金髪だらけのキラキラの光の宮殿はウォーレスにとっては目が痛かった。

だが、森の女王の緑の髪は今の彼の目にとって優しく映ったのだ。

排他的な光の民以外の民に出会てホッとしたのもあった。

だが、決して彼女は味方ではなかった。

むしろ、光の王側の人間だ。

光の王にナイトとネティア姫の結婚の報告をしたのも彼女だろう。

彼女はずっと虹の国を監視し続けている者だからだ。


「ナイト王子、虹のネティア姫とご結婚されるそうですね。おめでとうございます」


微笑を浮かべてナイトの結婚を祝福する森の女王にウォーレスは冷たい視線を送る。

水の国の第一王子でウォーレスの後を継ぐはずだったナイトが突如として辺境の虹の国に婿入りすることになったのだ。

世間は大混乱だ。

しかし、森の女王だけは驚いている様子はない。

彼女はナイトのことを何か気づいていたのかもしれない。


「ステイシア…」


ウォーレスが呼びかけると、森の女王の顔が一瞬強張った。

しかし、すぐに微笑を戻し、


「それは母の名前です」


とやんわり訂正してきた。

だが、ウォーレスは訂正するつもりは一切ない。


「そうだな。だが、どんなに姿が変えようとも私達にとってお前は『ステイシア』だ」


森の女王は大きな溜息を吐くと、諦めた様子で、


「好きに呼ぶといいわ…」


と答えた。


「では、ステイシア」


ウォーレスは遠慮なく、彼女をステイシアと呼ぶ。


「ナイトとネティア姫の仲を妨害しないところを見ると、この婚姻を認めるということでいいのだな?」

「ええ、そうよ。だって、その2人が一緒にならないと始まらないのよ」

「始まる?」

「ふふふ…あの2人は大事な鍵なの。この『光の世界』を守るためのね」

「ナイトとネティア姫が光の世界を守る鍵?」

「そのうちわかるわよ。『2人にお幸せに』、と伝えておいて」


ステイシアは意味ありげな伝言をウォーレスに託す。

そして、


「ところで、ナイトにミズホのことはもう話したのかしら?」


仕返しも忘れない。

ウォーレスの前妻の話を持ち出してきた。

答えないでいると、ステイシアはせせら笑う。


「もう話してもいいころじゃないかしら?ナイトはもう子供じゃないのだし…、それとも、あなたが話せないでいるのかしら?」

「…いずれ話す。これから多忙になるのでこれで失礼する、森の女王」


言葉とは裏腹に、ウォーレスはステイシアを一睨みするとその場を足早に歩き去った。







水の国に帰ったウォーレスは自室にこもった。

慣れない宮仕えに出向いて、更に、前妻の話を持ち出されたから疲れがどっと出たのだ。

氷を入れたグラスにウォッカを並々と注いで、ソファーにドカリと腰を下ろし、前妻の肖像画を眺める。

静かに去っていった最愛の妻のことを思う。


「ミズホ…ナイトがネティアちゃんと結婚することになったぞ」


話しかけると、今でも返事が返ってきそうだ。


『あら、そう。早く孫の顔を見たいわね。たしか、ナイトの子供は2人だったかしら?』


ウォーレスは微笑を零す。

まだ虹の国にいた頃、ナイトは結婚した未来の自分を想像して、子供は2人と言っていた。


「残念だが、ナイトの子供は1人だ。虹の王家には世継ぎの女児以外は誕生しないからな」


前妻の肖像画が少しガッカリした顔になったような気がした。

手製の靴下を2人分作る予定だったのだろう。

ウォーレスはウォッカを飲み干した。

そして、前妻の肖像画の下へ歩いていく。

肖像画を外し、何もない壁。

しかし、ウォーレスが手を置くと文様が現れた。

すぐ横の書棚が横にスライドした。

そこには何年も開けていない金庫が隠してあった。

金庫のダイヤルを回す。

暗証番号はナイトの誕生日だ。


カチャ!


長年閉じられていた扉が開いた。

ウォーレスは金庫の中から小さな箱を取り出す。

その中にはウォーレスがミズホに贈った愛の証が入っていた。

ナイトが結婚する時にそれを渡そうと大切に保管していたのだ。

その時がやってきたのだ。

ウォーレスは感慨深げに小箱を見つめた後、開けた。









「!?」









ウォーレスは小箱を取り落としそうになった。

中に入っていたのは、おもちゃの指輪だった。

こんなことをするのはこの世にだだ1人しかいない。












「ナイトぉぉぉおおおおおお”!!!!!!!」
































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