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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
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取り調べ

「…良かった…」


フロントがネティアと虹の女王ティティスを連れ去った後、フローレスは安堵の溜息を吐いて座り込んだ。


「さあて、ナイト、説明してもらおうか?」


グルグルと周りを飛び回っていた風の精を捕まえて、アルアがナイト(ルーク)に笑顔で迫ってくる。

ネティアの命を助けてくれたのだから事情を話さないわけにはいかい。

だが、


『…話したくない…』


と言うのが本音だ。

絶対話のネタにされるのが落ちだからだ。


「実はだな、ちょっと、親父と喧嘩しちまって、虹の国の国境近くの別荘で謹慎してたんだ。けど、退屈でさ…暇つぶしに、昔住んでた虹の国に出かけたんだ。そしたら、ネティアが結婚するって聞いてさ…もしかしたら、兄ちゃんに会えるかもって思って行ったら、ネティア達が賊に襲われて、フローレスがその賊にさらわれて…とにかく、虹の国のイザコザに巻き込まれてこうなったんだよ!」


最後は面倒になって、乱雑にまとめた。


「ふーん、1人で?」


アルアがニコニコしながら探りを入れてくる。


「途中に1人倒れてただろう?」

「ああ、そういえばいたな、君の腰巾着。それで、他は?」

「あいつらは、置いてきた。俺の監視役だからな…」


アルアは尚も笑顔を崩さず、ナイトをじっと見つめた後、引いた。


「…なるほど、筋は通ってるね」


ナイトは心の中で胸を撫でおろす。

何とか乗り切ったと、


「でも、それは表向きの話だよね?」


ギク!


乗り切ったと思ったが、アルアの追及は続いていた。


「真相を教えてくれよ、ナイト…」

「…真相?何のことだ?」


アルアはナイトの肩に腕をかけて、顔を引き寄せる。


「ネティア?フローレス?虹の国の双子姫を気安く名前で呼ぶなんて、いつの間にそんな仲になったの?それに、君みたいな大物がこんな小国に何の用かな?…小耳に挟んだけど、水の国の玉座、君の弟のセリオスが継ぐて?」


ナイトは油汗を掻く。


「相変わらず、正直者だね、君は」


アルアは笑って、止めを刺す。


「さっき、何でもするって言ったよね?」


ナイトは観念した。

アルアの読心術には勝てない。


「…わかった、後で話す…ここは場所が悪い」

「そうだね。じゃ、場所を変えよう」


アルアはあっさりOKしてくれた。


「フローレス、君の部屋借りていい?」


アルアがフローレスに訪ねると、


「ええ、いいわよ」


快諾してくれた。


「じゃ、決まり」


話がまとまると、フローレスが立ち上がってこちらに来た。


「じゃ、行こうか」


アルアに連行されるような気持で、ナイトは渋々従う。





「動くな!!」





フローレスの部屋へ移動しようと動き始めた時、レイスの兵が祈りの間に雪崩れ込んできた。

どうやら魔法騎士がレイス卿を連れてきてくれたようだ。

だが、タイミングが悪い。

アルア一行は包囲された。

風の民の女術者達が、アルアを守るように円陣を組む。


「無礼者!この方は風の国の王子アルア様と知っての狼藉か!」


女術者が叫ぶと、レイスの兵の動きが止まる。


「これは失礼しました。アルア王子」


朗々とした声が虹の兵の背後から上がり、兵が道を開ける。

すると、1人の鋭い目つきをした初老の男が、眼鏡の青年を従えてこちらへ歩いてくる。


「あ、まずいのが来た…」


アルアが嫌そうな小声で呟いた後、対応のため前に出る。


「何者だ?」


ナイトがフローレスに訪ねると、


「ビンセントよ…レイスの現当主よ…」


フローレスはどこか悲し気な声で教えてくれた。


「ビンセント・レイス…王の一族の長か…」


ナイトは呟いて、自分の命運を握るであろう男に目をやる。

彼の一言は、他の王の一族を従わせ、王と女王も無視はできない。


「アルア王子、遠路からの救援、痛み入ります。王と女王に代わり、お礼申し上げます」


ビンセントは臆することなく、堂々と虹の国の代表として国賓である風の国の王子アルアを遇した。


「礼には及ばないよ、ビンセント。毎年のことだからね」


アルアは笑顔で応じる。

面の厚さは相変わらずだと、ナイトは思った。


「ところで、女王陛下に挨拶に来たら、こんな状況でびっくりしたよ。虹の国では何か起きてるのかな?」


アルアは興味津々で訪ねると、ビンセントは一瞬鋭い視線を返してきた。


「…実は、ただいま立て込んでおりまして、ネティア様とティティス女王はどちらに?」

「ああ、それなら心配いらないよ。僕が診たから。その後すぐ、フロントが来て2人を連れて行ったよ」

「フロントが…」


ビンセントの視線がまた一瞬光った。


「と言うわけだから、僕らに休みをくれないか?疲れてるんだ。それにフローレスと話もしたいし…」


アルアが話を切り上げて行こうとすると、レイスの兵が再び立ちふさがった。

例え国賓でもそう簡単には通してくれないようだ。


「お疲れでしたか、それは気付かず申し訳ありません。すぐにお部屋をご用意しますので少々お待ちください。そちらで、フローレス様と心行くまでお話しされてください。ですが、その前に…」


ビンセントは一旦言葉を切って、アルアとフローレスに隠されるようにいたナイトに鋭い視線を投げてきた。


「その男はこちらに引き渡していただきたい」


フローレスが強くナイトの腕を掴む。


「…これは僕の友人だ。途中から一緒に来たんだ」


アルアが嘘をついて庇ってくれたが、


「本当ですか?その男は今、虹の国で起きている事件の重要参考人です。庇い建てされては風の国の名に傷がつきますよ」


後ろで黙っていた眼鏡の青年が口を挟んできた。

アルアは少し考えてから、


「…僕の友人て言うのは本当だ。それもただの友人じゃない、この男に手を出したら大変なことになるぞ」


脅しのような言葉を混ぜた。


「…なるほど、ただ者ではないと思っておりました。アルア様がそこまで仰るのならその男の処遇は『検討』させていただきます。ですので、お引き渡しください」


眼鏡の青年に風の国の王子の脅しは通用しなかった。

アルアは舌を巻いた。


「アルア様、どうかお引き渡しください。悪いようにはいたしません。このビンセントが保証いたします」


ビンセントが眼鏡の青年より柔らかく頼んできた。

アルアは困ったようにナイトを見る。

虹の国の重鎮の言葉を無視することはできない。


「いいよ、アルア。行くよ」


ナイトが前に出ると、


「じゃ、私も行くわ!」


フローレスも一緒にくっついてきた。

レイスの兵が困惑する。


「フローレス様はご遠慮ください」

「黙りないさい、シュウ!私がルークを雇うようネティアに頼んだのよ!私にも同席する権利はあるわ!」


眼鏡の青年、シュウは黙り込んだ。

虹の姫の言葉には逆らえない。

沈黙の中、大きな溜息が零された。

アルアのものだ。


「僕も同席させてもらっていいかな?2人とも連れて行かれたら話し相手がいなくなってしまう」


アルアはそう言いながらナイトの横に立った。

今度はビンセントが溜息を吐く番だった。


「…仕方ありません。『3人』とも一緒に来てもらいましょう」

「3人!?」


従者の数が入ってないことに風の民の女術者達に動揺が走った。

抗議しようと従者が声を上げる前に、アルアが制した。


「大丈夫だ。虹の国は同盟国だ。それよりお前達は本来の職務に着け」

「…は、仰せのままに…」


アルアの言葉に女術者達は渋々引き下がった。


「さて、早く連れて行ってもらおうか?」

「では、こちらに…」


アルアが先頭を切ってビンセントについていく。

その後にナイトとフローレスが続いた。

それを取り囲むようにレイスの兵達が困惑しながら連行していく。

風の民の女術者達は主の姿が見えなくなるまで見送っていた。




***




フロントは女王ティティスの寝室に、この部屋の主とその娘ネティアを連れてきていた。

ネティアをベッドに寝かせ、ティティスをソファの上に横たえた。

そして、呼びかけた。


「ティティス様、起きてください!」


うーん、と唸りながらティティスはおぼろげに目を覚ました。


「…あら、フロント…目覚めたのね…」

「はい、つい先ほど…」


フロントは優しく語り掛ける。

ティティスの覚醒は不完全だ。


「あのね…変な夢を見たの…ネティアが妊娠して、もう生まれそうだったの…それがあまりにも急だったものだから、わたくしったら気を失ちゃったの、ネティアはどうなったのかしら?」

「もう、生まれましたよ」


フロントは意識がはっきりしないティティスに話を合せる。

すると、ティティスは微笑みを浮かべた。


「あら、もう生まれたの…わたくしおばあちゃんだわ」

「おばあちゃんですね」

「どんな子?」

「父親似の元気な『男の子』です」





「え…!?男の子!?」





ティティスは飛び起きた。

虹の王家には女児しか誕生しない。


「嘘よね!?」

「嘘です」


フロントがあっさり認めると、ティティスは胸を撫でおろした。


「お目覚めになられたみたいですね?」

「悪いジョークはやめて…目覚めが悪いわ…」


胸を押さているティティスにフロントは水の入ったコップを差し出した。

ティティスはそれを一気に飲み干す。


「ところで、ネティアは本当はどうなったの!?あのお腹は!?」

風邪フウジャにかかられてしまったようです。ですが、アルア王子が治療してくださいました」

風邪フウジャに!?そんな、ネティアに限って…!?」

「その原因を今からお見せします」


フロントはそう言うとティティスの前に車いすを持ってきて乗せ、ネティアが寝ているベッドへと連れて行った。


「ネティア様を調べてみてください」

「わかったわ…」


ティティスは困惑しながら眠っているネティアに手をかざした。

同じ術者である娘に魔力を通してみるのは初めてだった。

正常な肉体であれば、魔力の光は肉体をすり抜ける。

しかし、ネティアの肉体で魔力の光が通過しない場所があった。


「!!?」


ティティスは驚いてフロント振り返る。

フロントは大きく溜息を吐いていた。


「やっぱり、ありましたか…」

「ええ、頭の部分に…これは…呪いね…フロント、何か知っているのなら話しなさい!」


フロントは少し迷ったが、話さないわけにはいかなかった。

この呪いを解けるのは術者であるネティア以上の術者、つまり母であり師であるティティスを置いてほかにはいなかった。


「ネティア様は、その呪いをご自分でかけられたのです…」

「何ですって!?」


ティティスは驚て自分の娘を見る。


「何故、そんなことを…?」


問いかけるもネティアはまだ深い眠りの中にいた。


「これは推測ですが、ネティア様は前世の記憶をお持ちでした。それを封印してしまわれたようです」

「…なんてバカなことを…」


ティティスは悲しそうにネティアの髪を撫でる。


「いつ来るかわからない前世の夫を待つより、王の一族との和睦を優先させたかったのでしょう。そのためには邪魔な記憶でしたから…」

「そんなことをしていたなんて…なぜ、わたくしは気付かなかったのかしら…?」


ティティスは後悔の念を呟いて、気付く。

何故フロントは気付いのか?

疑問に思って、フロントを見る。


「私も始め気づきませんでした。ネティア様は自分にかけた呪いを上手に隠していらっしゃいましたから。私が気付けたのはお側にお仕えしていたからです」

「…そうだったの、よく気付いてくれたわね」


ティティスはフロントを褒めてから、また首を傾げる。


「でも、隠せていたってことは、ネティアはちゃんと魔力をコントロールしていたってことじゃない?だったら、風邪フウジャにかかるなんてことはないはないんじゃない?」

「ネティア様はコントロールできない精神状態に陥ったのです」

「…フローレスね…」


ネティアの弱点は双子の妹フローレスだった。

フロントは頷て、人差し指を立てる。


「それともう1つ、ネティア様の前世の夫を強引にですが連れてきました」

「前世の夫を?…まさか、ナイトを!?どうやって…?」


ティティスは喜んでいいのか、困惑した様子だった。


「レイガル様と一緒に私もウォーレス様に会いに行きました。首を縦に振ってはくださいませんでしたが、ナイト様の選択に任されたようです」

「…そう、あのウォーレスが…」


ティティスは友人の顔を思い浮かべて、感謝しているようだった。


「それでナイトは今どこに?」

「ビンセント様の取り調べを受けているはずです」


ティティスは厳し表情になった。

それは避けては通れないものだった。

ビンセントの聴取をパスしなければ、ナイトはネティアの相手として認めれれない。


「ナイト様なら大丈夫ですよ」


フロントは太鼓判を押す。

フロントにとってナイトは今も変わらず、自慢の弟だった。




***




フローレス、ルーク(ナイト)アルアの3人はレイスの兵に誘導されて、取調室までやってきた。

フローレスはルークにピッタリくっついていた。

しかし、取調室の中までは一緒に入れない。

不安げにルークの顔を見上げる。


「ありがとう、俺は大丈夫だ。アルアと待っててくれ」


ルークは腕にしがみついていたフローレスの腕を優しく解く。

取調室に取調官であるビンセント先に入る。

何やら準備をしているようだ。

シュウは入口の前でレイスの兵に示を出して、隣の部屋を整えさせていた。

隣の部屋は控室のようだ。

隣の部屋と取調室から兵がシュウの下へ報告に行く。


「準備が整いました」


感情のない声で言った後、シュウは取調室の扉を開けさせた。


「お入りください、『フローレス様』」


アルアとルークの驚いた視線が向けられた。

フローレスはキョトンとなる。


「…え?…私?」

「はい、フローレス様は闇の騎士に囚われていたのですよね?その時の事をビンセント様はお聞きになりたいそうです。闇の騎士の捜査も我々の任務ですので」

「…わかったわ…じゃ、行ってくる」


フローレスはルークとアルアを一瞥すると、取調室に入った。


「アルア様とあなたは隣の部屋でお待ちください」


扉が閉まる前にシュウがルークとアルアを案内している声が聞こえた。


『アルアもいるし、大丈夫よ。それにビンセントは酷いことはしないわ…』


フローレスは自分に言い聞かせて、取調室のもう1つの扉を開けた。

厳しい表情のビンセントが向かいの席で立って待っていた。

その表情にフローレスは悲しみを覚えた。

幼いころよく見たビンセントのあの優しい笑顔はもうないと。


「お久しぶりですね、フローレス様」

「お久しぶり、ビンセント…」


ビンセントの低い声に気圧されまいとフローレスは気丈に振舞う。


「どうぞ、おかけください」


勧められて椅子に座り、ビンセントと対峙する。


「フローレス様は闇の騎士なる賊に囚われていたとお聞きしました。ご無事な姿を見れて安心しました。覚えていることで構いません、どのような者達だったか教えてもらえませんか?」


ビンセントは探るようにフローレスの目を見つめて訪ねてきた。


「首謀者は男だと思ってたけど、女だったわ」


フローレスはっきりと答えた。

その答えにビンセントは目を見開く。


「『女?』正体を見られたのですか?」

「…顔ははっきりとは見てないわ…でも、声が女だったの」


真実を伝える。

ただ不都合な真実は言わない。


「…首謀者は女ですか…それは意外でした…」


ビンセントの呟きを書記が記載し、控えていた兵が1人外へと出て行った。

恐らくシュウに知らせにいったのだろう。


「他には?」

「悪いんだけど、他はわからないわ。襲撃の時はたくさんの闇の騎士がいたけど、囚われている間はその首謀者の姿しか見てないの」

「そうですか…わかりました…では、この話はこれで終わりましょう」


その言葉にフローレスは胸を撫でおろした。

乗り切ったと思ったのだ。


「もう1つ別のお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「もう1つ?」


フローレスはギックと身を強張らせた。


「あのルークとか言う青年の正体についてです」

「…正体?何のことかしら…?」


しらを切ったつもりがフローレスの声が思わず上ずる。


「あの者の正体をご存知ですね?」

「知らないわ!だって、ランドの騎士と乱闘しているルークを見て私が気に入っただけだもの!」


ビンセントは疑いの目を向けてくる。


「本当よ!強いし、なかなかハンサムだし、フロントの代わりにちょうどいいなって思って、雇って、ってネティアに頼んだのよ!」


フローレスはムキになって真実を訴えた。

ルークの正体は闇の騎士に捕まった後で話を聞いたのだ。

雇った時点では本当に何も知らなかった。


「…では、そういうことにしておきましょう」


ビンセントはあっさり引いた。

疑いは晴れなかったが、ビンセントはフローレスをもう尋問する気はないようだ。

席を立ち、控えていた兵に扉を開けさせる。

フローレスは胸を撫でおろして、外へ出ようとする。


「『フロント』にはもう会われましたか?」


不意の質問にドッキっとする。

ビンセントの口からフロントの名前が出たことも驚きだった。

多分もう気付かれている。

冷や汗が出たが、すぐに蒸発した。

蒸発した理由は怒り。


「会ってるわけないでしょう!会ってったら私がまたベッド送りにしてやるんだから!私達が大変な目にあってたって言うのに、あいつ、ベッドの上でのうのうと寝てたのよ!本当に来ないなんて信じられない!!」


フローレスは怒りのあまり、椅子を蹴飛ばした。

その怒りの凄まじさにレイスの兵が慄いて後退る。

椅子を蹴飛ばしたことで、怒りがスッと抜けて冷静さが戻ってっ来る。


「でも、ルークがいてくれたから助かったけど…私達の恩人に手荒な扱いしないでよ、ビンセント」

「心得ております…」


フローレスはビンセントを一瞥すると、外へ向かった。




***




フローレスがビンセントの取り調べを受けている間、ナイト(ルーク)はアルアの取り調べを受けていた。

部屋の中には見張りはいなかった。


「何、極秘の見合い?しかも婚約者がいる相手と?君の父上、相変わらずすごいこと考える人だね」


アルアは豪快に笑う。

ナイトの父は奇想天外な発想で周囲を驚かせるのが大好きな人物だった。

お蔭でイベントには引っ張りだこ。

息子であるナイトにはいい迷惑だったが、父のファンは多い。

アルアもその1人だった。


「俺だって御免だったさ。始めは破談させるか、延期させるつもりだったんだが……」


アルアが席の反対側からニュッと顔を近づけてきた。


「それって、一目惚れ?」

「……………まあ、そんなところか…………」


ナイトは言葉を濁して、顔を背ける。

対面が強烈なビンタだったので、正直一目惚れではないが、普通に会ってたらそうなっていたかもしれない。


「うん、うん、いいね、お堅い、君がね…」


アルアはそう頷きながらナイトの横に異動してきた。


「それで…超えたの?」


耳元で一番聞きたいことを囁いてきた。

超プライべーどなことなので答えたくないナイトは顔を背けるが、アルアは諦めない。


「美少女と2人きりでしょう?何もないわけないよね?」


ナイトは無言を貫く。


風邪フウジャのネティア、すごいお腹だったよね。あれ、絶対、虹の騎士達、勘違いしたと思うよ?」


ナイトが右左と背ける顔を変えても、同じように右左から追及してくる。


「で、どうなの?ここ、大事なとこだよ?」

「だあああ、うるさいな!そうだよ!黒だよ!」


ナイトは白状した。

すると、面白がっていたアルアの顔から急に笑顔が消えた。


「え、本当に?ナイト…君、殺されるよ?」

「わかってる!」

「いや、これ冗談じゃないから…」


自暴自棄になったナイトにアルアは困惑してしまった。


「わかってるさ、虹の姫に手を出すってことがどういう意味かぐらい、理解しているつもりだ」

「じゃ、本当に水の国の玉座を捨てるのかい?君の父上、本気じゃなかったと思うけど?」

「俺は虹の国の王になる。そう決めた」


アルアは頭を掻く。


「まあ、君なら大丈夫だと思うけど、大変だよ。虹の国はバラバラだから…」

「水の国だってバラバラだろう?すべての国の民が混ざり合ってるんだから」

「そうだけど、虹の国は水の国とは違うよ。他民族との壁は保たれたままの国だよ。いわば、光の世界の縮図だよ。君がやろうとしていることは光の王族のような統治だよ?」


アルアが心配そうにナイトを見つめてくる。

光の王家は正直言って、この光の世界を統治しているとは言い切れなかった。


「いいんじゃね?だって、俺達も光の王族の血統だろう?それに、血統だけで国は治められないだろう?この虹の国がいい例だ」


初代虹の王は豪商の息子だったが、その血筋は高貴ではなかった。

何がおかしかったのか、アルアは噴き出した。


「君らしいね。いいよ、君が虹の王になるんなら、力を貸すよ」


アルアが握手のため手を差し伸べてきた。


「なるべく頼らないようにする」


ナイトは本気とも冗談ともつかないことを言って、友人の手を取った。


「ルーク!」


フローレスが取調室から戻ってきた。

ナイトが出迎えると、不安げな視線で見上げてきた。

次はナイトの番だ。


「来い、次はお前の番だ」


レイスの兵に厳しい口調で促がされた。


「アルア、フローレスを頼む」

「任せてくれ、レディを落ち着かせるのは得意だからな」


アルアはフローレスを優しく引き寄せると、ナイトを手を振って見送る。


「大丈夫だ、すぐ戻ってくる」


不安そうなフローレスの頭を撫でてナイトは控室を出てビンセントが待つ取調室に向かう。


「どうぞ、お入りください」


入口に立っていた眼鏡の青年シュウがナイトをに一礼して中に案内する。

レイスの兵と対応が違うのを見て、シュウはナイトの正体を知っているようだ。

取調室の中に通されると、ビンセントが立ってナイト出迎えた。

鋭い視線に射抜かれそうだった。

ビンセントは部屋にいたシュウを始めとするレイスの兵に目配せをした。

皆、黙って退出していく。

目配せは人払いの合図。

ナイトとビンセントの2人だけになった。

静寂が流れる。


「お父上にそっくりですな」


ビンセントの砕けた第一声は父のことだった。

父は虹の国でレイガル王の傍に仕えていたのだから、ビンセントと知り合いでもおかしくない。

だが、ナイトはビンセントに会ったことがなかった。


「親父を知ってるってことは、俺のことも知ってるのか?」

「はい、よく存じております、ナイト王子殿下」

「よく?」


意外な言葉にナイトは疑問に思う。


「お父上はあなたとご家族の写真をいつも持ち歩いておられました。ことあるごとに自慢されていましたよ」


ナイトは急に気恥ずかしくなった。

父にはそんな親ばかな一面があった。


「何故、虹の国へ?」

「親父に怪我を負わせちまったから、虹の国の国境近くの別荘で謹慎していた。でも、つまらなかったから、昔住んでた虹の国に遊びに来たんだ。ちょうど、ネティアが結婚するみたいな話を聞いて、もしかしたら、兄ちゃんに会えるんじゃないかって思ってさ…」

「しかし、フロントは出発の時点からネティア様達とは一緒にはいなかった。なぜ、帰られなかったのです?」

「…それは、ランドの騎士と一悶着してた時にたまたまフローレスに気に入られて、傭兵として雇われたんだ」

「たまたまですか…」

「そう、たまたまだ…」


嘘は言っていない。

自分でも出来過ぎている話しだとは思っている。


「闇の騎士団の襲撃を受けて、フローレス様が攫われた。フローレス様を救出したいというネティア様の意思をランド卿が許さず、あなたがネティア様を連れ出した?」

「そうだ」


ナイトは正直に答えた。

ビンセントはそこまでで調書を置く。

その後のことはナイトとネティアの2人しか知らない。

聞きたいことはたくさんあるはずだが、ビンセントはそれを訪ねなかった。


「私がお聞きしたいのは2つだけです」

「2つ?」

「ネティア様とのご結婚の意志はありますか?」


ストレートに聞いてくるビンセントにナイトは一瞬気後れしたが、


「無論だ」

「水の国の玉座を捨てるお覚悟ですか?」

「ああ、水の国の玉座は弟に譲る。そして、俺は虹の国の玉座に座る」

「流石は、水の国の第一王子、大した自信ですね?」


ビンセントが皮肉を言う。


「自信なんてない。でも、これは俺が決めたことだ。『この国を造った者』として果たせなかった責任をネティアと共に果たしたい」


ナイトは真っ直ぐにビンセント見つめて、訴えた。


「話は終わりです…ナイト王子、失礼ながらあなたの身柄はお父上が来るまで拘束させていただきます。ここからは国同士の話になりますから」


ビンセントが立ち上がると、扉が開き、外に出ていたシュウと兵達が戻ってきた。

2人の兵がナイトを連行するため脇に立つ。


「丁重におもてなしをせよ。この方は水の国の第一王子ナイト殿下だ」


ビンセントの命に兵達は驚いてナイトを見てきた。

すぐに居住まいを正す、


「ご案内いたします」


と丁寧な対応に変わった。

ナイトは立ち上がって、兵達についていく。


「ナイト王子!」


取調室を出ようとした時、急にビンセントに呼び止められた。


「謀反を起こした闇の騎士のことです。フローレス様は首謀者は女だったと仰っていましたが、あなたは顔を見られましたか?」


フローレスが供述したことをビンセントが復唱してくれた。


「…はっきりとは見えなかった…でも、女だったと思う。声が女だったし、黒い髪も長かった…」


フローレスと口裏を合わせることができた。

ビンセントはあまり闇の騎士の検挙に熱心ではないようだ。


「…そうですか、黒髪の女ですか…」


ビンセントは意味ありげに呟いた。

ナイトは取調室を後にした。





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