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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
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孤軍奮闘

闇の騎士団が逃亡した後、ナイト(ルーク)、ネティア、フローレスの3人はランド軍の真っただ中に取り残された。

今、ランド軍は君主の婚約者で世継ぎ姫ネティアとその他を保護している状態だ。

だが、ネティアがナイトを選び、婚約を破棄した場合、ここは敵陣の真っただ中に変わる。

沈黙のランド軍が2つに割れ、道ができる。

その道を威風堂々とした1人の赤髪の騎士がゆっくりとネティアの下へ歩いてくる。

ランド領主ジャミルだ。

固く手を繋いでいるナイトとネティアを見て、ジャミルは目を鋭くした。


「…どういうことか、説明して頂きたい、ネティア姫…」


凍えるようなジャミルの声に、ネティアは青くなりながらも、返答する。


「ジャミル、わたくしはあなたとは結婚できません。ごめんなさい…」


震えないようにはっきりと、ネティアはジャミルに決別の言葉を伝えた。

その声は決して大きくはなかったが、静寂の大空洞の中に響き渡った。

軍全体に届いたと思われる。

怒りや嘆きの声があがると思いきや、戻ってきたのは恐ろしいほどの静寂だった。

この空間を埋め尽くしている騎士達は幻ではないかと錯覚してしまうほどだった。

だが、それこそ幻だ。

ナイトはひしひしと感じていた。

彼らは主の言葉を待っているのだと。





「…それで済むと、お思いか?」





長い沈黙の後、ジャミルは凍るような声を発した。

声とは裏腹に、目は怒りに燃えていた。

ネティアは息を飲み、震え出した。

自分が破った約束の大きさを感じているのだろう。

その肩をナイトは力強く抱きしめる。

不安そうな顔を上げるネティアに微笑んで安心させる。


「後は、俺に任せろ」


ナイトはそう言うと、フローレスを見る。

フローレスはすべてをわかっているようで、ネティアを引き受けた。

囚われているときに、ナイトのことを兄から聞いたようだ。


「悪いな、横取りして」


ナイトはそう言いながらジャミルを振り返る。


「次の虹の国の王は俺だ」


ナイトがそう宣言してもランドの騎士達は微動だにしない。

ただ沈黙を守っている。


「貴様が虹の王だと?貴様にその資格があると思っているのか?」

「大ありだ。俺は虹の王にならなければならない」

「ならなければならないだと?高々、ネティアを手に入れたぐらいで頭に乗るな!」


ジャミルは剣を抜いて、ナイトに向けた。


「虹の王の資格があるなら見せてもらおう!この俺を倒してみろ!」


沈黙を守っていたランドの騎士達が歓声を上げる。

まるで闘技場にいるような気分になる。

ジャミルの勝利を信じて疑わない歓声にナイトは足がすくみそうになる。


「望むところだ。お前を下して、俺はお前を従わせてみせる!」


ナイトは不敵な笑みを浮かべて、剣を抜いて応じる。

両者、同時に切り込み、一撃を交わす。

火花が散る。


『重いな…さすが、虹の王に名乗りを上げるだけのことはある…』


剣を交わした後、ナイトの口角が上がる。

ジャミルの力量を認めたのだ。

久々の好敵手に武者震いが起きる。

ジャミルの口からも微笑が漏れていた。

同じことを思ったようだ。


「なるほど…口だけではないようだな…」

「当たり前だろう?俺はこの国の王になるために生まれてきたんだからな」


その一言はジャミルの顔から笑みを消し去った。


「少々腕がある程度で、余所者が大口を叩くな!」


怒りの連続攻撃がナイトを襲う。

それらを交わしきり、最後の一太刀を受ける。


「…ベルク王もレイガル王も余所者だろう?それに…」


ジャミルの剣を返して、笑う。


「実は俺は余所者じゃないんだ」

「…何だと?」


離れたジャミルに混乱が起きた。


「実はさ、俺、この国の生れなんだ。でも、親の都合で水の国に引っ越したんだ」

「虹の国の生れだと…?貴様、一体、何者だ?」


ジャミルは混迷を深める。


「それはな、俺がお前に勝ったら教えてやるよ!」


ナイトはジャミルに突進し、突きを連続で繰り出す。

ジャミルはそれをかわし切る。


「まだまだ!」


一旦距離を取ったナイトはすぐに高く飛んで、会心の一撃をジャミルに放った。


ガシャン!!!!


重い金属音が響く。

ランドの騎士達の歓声が強まる。

ジャミルはナイトの会心の一撃を受け切った。


「…しぶといな…」

「…甘く見られたものだな…これでも一国の領主だ。そう簡単に倒れてたまるか…」

「その誇り高さ、嫌いじゃないぜ。だがな、俺はお前よりももっと大きなもの背負ってるんだ。悪いが、お前にはここで沈んでもらう!」


ナイトの剣が金属から氷へと変質する。


「魔剣か!?」


ナイトの剣が魔剣と知って、驚愕するジャミルは離れようとするが、


『氷柱!』


ナイトはジャミルを氷漬けにして離れた。


「ジャミル様!!!」

「この卑怯者め!」


ランドの騎士達から絶叫のような声が上がり、動揺が走る。

まさか、自分達の主が負けるとは思ってもみなかったのだろう。

憎悪の視線が降り注ぐ中、ナイトはネティアとフローレスの元に戻る。

涙ぐんだネティアがナイトを迎えた。

それは幾度となく前世で見てきた顔だった。


「ただいま…」

「…お帰りなさい…」


ネティアと抱擁を交わした後、顔を引き締める。

まだ終わっていない、ここから脱出するまでは。

味方につけた闇の騎士団は逃亡したばかりだ。

いくら変わり身が早かろうと戻ってくるのには多少時間がかかるだろう。

ナイトが連れてきた従者達もさすがにこの辺鄙な場所に辿り着くのは難しいだろう。

自力でこの洞窟を脱出する必要があった。

外に出てしまえば、近くに正規軍が来ているはずだ。

しかし、洞窟内部は憎悪に満ちたランドの騎士で埋め尽くされている。

大人しく外に出してくるとは思えない…

ナイトはネティアとフローレスの方を見る。

3人だけで脱出を試みなければならない。

2人はナイトに頷いて返してきた。

覚悟を決める。


「ジャミルとの決着はついた!さあ、道を開けてもらおうか!」


ナイトは包囲しているランドの騎士達に剣を向けて要求した。

その横に剣を持ったフローレスが立つ。

思案の沈黙が流れる。


「…ジャミル様は?」


ジャミルの側近らしい騎士が聞いてきた。


「大丈夫、死んでない。俺達が無事にここから出られたら魔法を解いてやる」


返答を聞いたその騎士は同僚達と何やら少し話した後、部下達に目配せした。

すると、ランドの騎士達は道を開いた。

第1関門は開いた。

その道を突破するのが第2関門。


「…行こう…」


敵が作った道をナイトが先頭に立って歩く。

その次にネティア、最後にフローレスが背後を守る。

重苦しい空気の中を3人の靴音だけが響く。

洞窟の出口までそれが続く。

何もないとは考えられない。

氷漬けにしたジャミルは無論置いていく。

しかし、離れれば魔法の効果が弱まる。

これは予測されていると思って間違いない。

ジャミルにかけた氷の魔法の効果が切れた時が開戦の合図だ。


「大空洞を出たら、走るぞ…」


ナイトはネティアとフローレスに小声で伝えた。

2人は静かに頷いた。

しかし、開戦の合図は早めに上がった。



『まだ勝負はついてないぞ!』



洞窟内にジャミル声が響いた。

ナイトは仰天して振り返る。

ジャミルが赤く光っている。

まだ対して離れていないのに、氷の魔法にヒビが見える。

魔法が切れる前にジャミルは自力で出てこようとしている。

ランドの騎士達がさっと引いていく。


「まずい!」


ナイトはネティアとフローレスの前に立って、こちらに放たれる赤い光線の盾となる。


「ミズホ!」


愛刀に呼びかけて、咄嗟に氷の壁を作った。

それでも、相当の高熱が予測されたが、赤い光線は直前で消失した。

忘れていたが、ナイトはネティアと契りを交わしていた。

虹の姫に愛された者は無敵の加護を得る。

ネティアの力のお蔭ですべての魔法攻撃は無効になるのだった。


「…惜しかったな…」


肝を冷やしたナイトは出てきたジャミルに引きつった笑顔を見せる。

ネティアの力がなければ大怪我は免れなかった。


「ぬかったな、ネティアの力か…」


ジャミルは残念そうに呟く。


「だが、勝機は見えた。この程度で虹の王を名乗られては歴代の王の顔に泥を塗ることになる。どんな手段を使ってもお前を生かしてここからは出さん」


ジャミルは赤く燃え立つ剣をナイトに向けてきた。

ジャミルの剣もまた魔剣だった。

しかも、ナイトの水の剣と相反する炎の剣だ。

ネティアとフローレスがナイトの背に寄り添ってきた。

傍観していたランドの騎士達が包囲してきたのだ。


「どうやらもう1対1は無理みたいだな…」

「…どんな手段を使ってもと言っただろう?」

「私達がいるのに、手荒なことをするっていうの?」


フローレスが会話に乱入してきた。

やっと猿轡が取れたようだ。


「約束を破ったのはそちらの方だ。少々手荒になっても俺はネティア、お前を手に入れ、次期王の座について見せる」

「それが横暴だって言うのよ!私達王族が上のはずでしょう!ネティアの決定に従いなさい!」


フローレスはジャミルに命令した。

だが、ジャミルは冷笑を返してきた。


「ネティアならいざ知らず、何の力も持たないお前が王族だと?」

「!?」


ジャミルの凄みにフローレスは気圧される。


「何の力も持たぬ者が人の上に立てると思っているのか?力なき者に人は従わない。お前の言葉など何の力もない」

「ジャミル、そのフローレスへの無礼は許しません!フローレスはわたくしの双子の妹なのですよ!」


約束を破った後ろめたさもあり、黙っていたネティアが前に出て激しく抗議した。


「無礼はお互い様だ。だが、本音で語り合うのはいいことだな」


ネティアの抗議を一蹴し、ジャミルは再びナイトに剣を向けた。


「ネティア、俺はこの男を王とは認めない。お前の目の前で殺し、お前を服従させる」


本心を明かし、むき出しの殺意を放つジャミル。

ネティアとフローレスが息を飲む。

その中でナイトは静かにジャミルを見ていた。


「どうした?剣を構えろ。それとも命が惜しくなったか?」

「まさか…なあ…」


ナイトは静かに笑うと問いかける。





「お前の言う力ってなんだ?」





問われたジャミルは目を瞬かせた。


「力だと?」

「そうだ。お前はフローレスの言葉に力がないと言ったな?だが、俺はそうは思わなかった。フローレスの言葉は力で溢れている」

「何だと?」

「少なくとも俺には届いた」

「ルーク…」


ナイトが微笑みかけると、フローレスは驚いたように顔を上げた。


「魔法が使えない王族はお前以外にもたくさんいる。魔法の才がなくても落ち込むな。血統はちゃんとお前に受け継がれている。それに魔力や血統だけが力じゃない」

「ほう、何があるというのだ?金か、権力か?」


ジャミルが興味を示した。


「それらも力に例えられるな。人を服従させられる。でも力の大本じゃない。人は服従させるものじゃない。支え合うものだ。それが本当の力だと俺は思う」


ジャミルは噴き出した。


「戯言も大概にしろ」

「生まれながらの権力者のお前にはわからないだろうな。だから、俺が教えてやる…」


ナイトはようやく剣を構える。


「俺はお前に勝って、俺を王と認めさせる」

「多勢に無勢だというのに面白いことを言うな。また1対1の決闘に俺が応じると思っているのか?」

「思ってないさ。勝つって言ってもお前を倒すことじゃない」

「なら、どうやって勝つ?」

「ここから逃げ切る」

「逃げるが勝ちと言うやつか…」

「命がなきゃ勝ち負けもないからな」

「ふん、やって見ろ」


ジャミルの言葉が合図となった。

ランドの騎士達が襲い掛かってきた。

ネティアが杖をかざす。


『つむじ風!』


襲ってきたランドの騎士達を弱めの風魔法で吹き飛ばした。

しかし、また、すぐに次が襲ってくる。

密集しているため、あまり大きな魔法が使えないのだ。

ナイトとフローレスが応戦する。


「ルーク、フローレス!時間を稼いでください!」


ネティアは脱出するための移動魔法を唱え始める。


「ネティアに魔法を使わせるな!」


ジャミルが手を上げると、無数の炎の矢が大空洞の天井へと放たれる。

そして、その火矢は放物線を描いてネティアの上に降り注ぐ。

ナイトは剣を振る。


『水壁!』


魔剣の魔法で水の壁を作って火矢からネティアを守る。

だが、その間、身動きが取れない。

フローレスが1人で襲ってくるランドの騎士と戦う。

しかし、手が足りない。


「私の剣も魔剣だったら良かったのに!」


フローレスはボヤキながらも善戦している。

ネティアの周囲から銀色の光が集まってきて魔法陣を形成する。

あと少しで魔法が発動する。

すると、ジャミルは作戦を変更した。


「下がれ、俺がフローレスを魔法で焼き殺す!」


その命令が響いた直後、完成間近の魔法陣にゆがみが生じる。

絶え間なく降り注ぐ炎の矢を受け止めている水壁にも穴が生じた。


「私なら大丈夫よ!」


ネティアとナイトの動揺を察知したフローレスが虚勢を張るが、


「ほう、大丈夫か、なら、俺の怒りの炎を受けてもらおう!」


ジャミルは炎の魔剣をフローレスに向けて放つ。


『業火の火柱』


魔力を持たないフローレスが、ただの剣で防げる攻撃ではない。


『土壁!』


ネティアは完成間近の移動魔法を放棄して、フローレスを守った。

その隙をついて、ジャミルが自ら踏み込んできた。

ネティアを狙っている。


「ネティア!上を頼む!」


頭上の水壁を消して、ナイトはジャミルの前に立ちはだかった。

2つの剣が火花を散らして交わる。


「これで終わりだな、ネティアは火矢を防ぐだけで脱出の魔法は使えなくなったぞ」


ジャミルは勝利を確信して笑みを零す。


「命乞いをするなら今だぞ。大人しく負けを認めてネティア達を引き渡せ」

「…惚れた女を売り渡すなんて、そんな格好の悪いことできるかよ」


万策は尽きたが、ナイトは往生際が悪かった。


「そんなものは一時的な感情にすぎない」

「それが一時的じゃないんだ、俺の場合。なんせ前世からだからな」

「何!?前世からだと…」


驚くジャミルを剣で押し返して、離れる。


「たとえ死んだとしても、俺はお前にネティア達を渡さない」

「この状況で秘策でもあるのか?」

「あるさ。俺には仲間がいる」

「仲間?」


ジャミルが側近の顔を見る。

側近は顔を横に振った。

まだナイトの自慢の水の騎士達は近くに来ていないようだ。


「嘘をついても無駄だぞ」

「嘘じゃない。あいつらは絶対に来る。そして、闇の騎士も俺の味方だ」

「逃げ出した闇の騎士が戻ってくるとでもいうのか?」

「来る!」


根拠はないが、ナイトは断言した。

と言うより、「来い!』と言うのが本音だ。

ジャミルの側近がジャミルの耳に何やら囁く。

ジャミルの口角が上がる。


「…ネティア、いいことを教えてやろう。正規軍はこの谷の濃霧のせいで道に迷ったそうだ」


火矢を必死に抑えているネティアの顔が微かに歪む。


「助けは来ない」


ジャミルはネティアに言い聞かせるように語り掛ける。


「ジャミルの言葉に耳を傾けるな!助けは絶対に来る!」


ナイトが即座に否定すると、ネティアは小さく頷いた。


「正規軍は来るだろう。だが、それはお前が死んだ後だ!」

「俺は死なない!必ず生き延びる!」


ナイトとジャミルは再び激しき剣戟を交わす。

その間にランドの騎士達は手が塞がっているネティアへと向かう。

そのランドの騎士達を土壁から出てきたフローレスが蹴散らす。


「ネティアには指一本触れさせないんだから!」

「フローレス…」


守ってくれる双子の妹をネティアは心配そうに見つめる。


「これじゃ、埒が開かないわ。あいつらを何とかしなきゃ…」


接近してきたランドの騎士を追い払い、火矢を放ち続けている後方の敵部隊を見てフローレスが呟く。


「ネティア、自分の身は守れる?」

「どうするの?」

「私があいつらの中に飛んで行って火矢を止ませて見せるわ」

「駄目よ!そんなの危ないわ!」

「じゃ、どうするの?このままじゃ、ルークだって危ないわ」


ネティアは思案し後、頷いた。


「わかったわ…」


ネティアはフローレスを水泡で包み、頭上に浮いている水の壁に上げた。

そして、水鉄砲のようにフローレスを飛んでくる火矢と一緒に打ち返した。



ドビシャン!!!!



火矢部隊は逃げる間もなく壊滅した。

頭上の心配はなくなったが、フローレスがいなくなってしまった。

当然、ランドの騎士がネティアに襲い掛かってくる。


『竜巻!』


ネティアは自分を竜巻で覆って身を守った。

しかし、どんな魔法にも時間制限はある。

竜巻の風が消える少し前に、ランドの騎士達が襲ってきた。

ネティアが次の魔法を繰り出す前だった。


ザック!


突如、ネティアとランドの騎士達を隔てるように4つの剣が飛んできた。

その剣の柄にはドラゴンの紋章が描かれていた。

正規軍の剣だった。


「お待たせしました、ネティア様!」


大空洞に聞き覚えのある男の声が響いたかと思うと、ネティアの前に4つの影が降り立った。


「グリス!」


ランド行き双子姫護衛隊長の任にあったグリスが部下と共に万全の状態で現れた。


「何、正規軍の騎士だと?」


グリスを見たジャミルの動きが鈍くなった。

ナイトはその隙に退避して、グリスの下へ向かう。


「隊長、怪我、治ったのか!」

「ネティア様とフローレス様の危機にオチオチ寝てられるか!」

「あ、本当にグリスだ!」

「フローレス様、それはどういう意味でしょうか?」


戻ってきたフローレスが物珍しそうにグリスを見る。


「だって、あなた、いつもサボってばかりいるじゃない」

「私だってやるときはやるんですよ!見ててください!」


ネティアが伏し目がちにグリスを見る。


「グリス…ご免なさい…わたくしが悪いのです…」

「ネティア様、その話はこの場所を出てからゆっくりと…」


グリスは胸を叩いて前に出る。


「ランド卿、あなたの双子姫への狼藉、しかとこのグリスが見届けました。何か申し開きがありますか?」

「ある。ネティア姫はこの男にそそのかされて俺との約束を破った。その原因を作ったこの男に制裁を課す権利が俺にはある」


ジャミルは剣先でナイトを指して弁解した。


「では、一連の狼藉はルークへの制裁だったと?」

「ネティア姫達がその男を守ろうとして、そのように見えたのだろう。ネティア姫達はそちらに引き渡す。だが、その男の身柄は俺が貰う」


ネティアとフローレスが両脇からナイトの腕を掴んで、グリスにダメダメと首を振る。


「話はわかりました。ですが、ルークの身柄をあなたに引き渡すことはできません。なぜなら、彼はもう正規軍の一員なのですから」

「正規軍の一員だと、誰が認めた?」

「国王陛下に決まっていでしょう?」

「それで俺が引くと思っているのか?」

「思っていません。ですが、引いてもらわなければ、全面戦争になります」


グリスはナイトを引き渡すことを拒否した。

ジャミルの顔が見る見る鬼の形相に変わる。


「その男を引き渡せ!こちらは全面戦争も辞さない!」

「そうですか、では、受けて立つしかありませんね…」


あっさり答えたグリスは指を鳴らした。

大空洞の天井に映像が映し出された。

その映像は闇の騎士に囚われたランドの騎士達だった。


「正規軍本隊が待機している場所の近くで保護しました。もし、開戦された場合、この者達は捕虜として取り扱わせていただきます」

「この…卑怯者が…」


ジャミルは苦虫を噛み潰したような顔で、こちらを睨んだ。

そして、その顔のまま踵を返した。


「引くぞ!」


ジャミルは振り返ることなくランド軍を率いて去っていった。

ランドの騎士の姿が見えなくなると、大きな溜息がナイト、ネティア、フローレスから漏れた。


「ふう…助かったよ、隊長…一時はどうなるかと思ったぜ…」


一気に気の抜けたナイトは笑いながら、グリスの肩を叩こうとして、空振りした。


カチャ!


空振りした腕に手錠がはめられていた。


「ルーク、ネティア様誘拐の罪で貴様を逮捕する」

「え、誘拐…」


罪状を言われて、ナイトは現実に戻る。

予測はしていたことだが、いろいろ予定外のことがあり忘れていた。


「グリス、ルークは…」


フローレスがナイトの無罪を主張しようとしたが、グリスはそれを手で制した。


「フローレス様、その話はまだ聞けません。すべては国王陛下がお決めになることですから…」

「父上が…」


ネティアはそう呟くとフラッと倒れた。









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