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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
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『やべ〜つい勢いでネティア連れて逃げてきてしまった…』


ナイト(ルーク)は内心溜息を吐く。

蛙の子は蛙ということだろうか?

後ろをついて静々と歩いてくるヴェールの女性は、虹の国の世継ぎ姫ネティアだ。

顔をヴェールで覆ているのは、結婚するまで身近な人間にしか顔を見せてはいけないという虹の姫だけの独特の風習からだった。

もし一般人が見てしまった場合は、姫の側使いにならなけれなばならない。

今のナイト(ルーク)がそれだ。

そして、姫の顔を見てしまったらある特別な権利が与えられる。

それは虹の国の王になる権利だ。

幼いころにネティアの顔を見ているナイト(王子の方)は該当する。

その一度の顔合わせだけで、水の国の王子という身分を隠して婚約中のネティアに会いに来たのだ。

虹の国、水の国の両王家の目的はズバリ、ネティアとジャミルの婚約の破談。

ジャミルの対抗馬として選ばれたのがナイトと言うわけだ。

その対抗馬にさせるために、父王は芝居まで打ってナイトに謀反の罪を着せ、虹の国国境近くにある別荘に隔離した。

ご丁寧に虹の国に行きやすいようにしてくれたのだ。

あわよくば、虹の王になれという王命つきで。

始めは、虹の王になる気など毛頭なかった。

ナイトが今まで努力をしてきたのはすべて、父王が座る水の国の玉座を手にするためだった。

そうでなければ、今までの努力の意味がなかったのだ。

しかし、今は少しずつ変わり始めていた。

それは、ネティアが夢に見ていた乙女ではないかと思い始めたからだ。

もし、ネティアが夢の乙女だとしたら、あの夢は嘘ではなく本当のことだったという証明になる。

それが証明されたならば、やり残したことが山ほどある。

それを片付ける方が水の国の玉座より、ナイトにしてみれば比重は大きい。

理由はそれだけではない。

ジャミルが気に食わないのだ。

特に、フローレスの扱いが我慢ならなかった。

フローレスはネティア同様、虹の国の王女であり、双子の妹だ。

世継ぎではないにしても、攫われたとなれば必死に探すのが常識のはずだ。

それを、ほっといても大丈夫、見たいに言うのが許せなかった。

たぶん、ジャミルの言う通り、ほっといても大丈夫だろうと、ナイトも思った。

闇の騎士団もネティアとジャミルの婚約を破談させたいだけであって、虹の王家を敵に回すつもりはないはずだ。

だが、それでもだ。

口だけでも、誠意は見せるべきだったと思う。

公の場で発言するのだから。

公衆の面前でフローレスが軽んじられたことにネティアが激怒したのも頷ける。

ライガやフローレスがジャミルを嫌う理由もわかった。

ジャミルは王の器ではない。

ジャミルは自分で闇の騎士の言葉を証明してしまったのだ。

ネティアが夢の乙女かどうかはまだわからない。

だが、ジャミルに渡すのはどうも我慢がならない。

ナイトはネティアを口説くことに決めた。

先でどうなるかはわからないが、ひとまず、ジャミルと結婚させないようにすることはできるはずだ。

ふとナイトは思う。


『あれ、俺、女を口説いたことってあったけ?』


ナイトは今まで記憶を整理する。

すると、一度もないことに気づく。

学生時代から女達の方が寄ってきた。

始めから地位も冨あり、更に、常に学問は首位の成績、剣技を始めとする武術でもほぼ常にトップだったナイトはモテモテだったのは言うまでもない。


『どうやって口説けばいいんだ?』


思わぬ落とし穴にはまってしまった優等生ナイト。

学生時代、父の愛を失い、異母弟が生まれたナイトは自分の地位を守るために必死だった。

昼は人脈づくりで王侯貴族と交流を深め、夜は寝る間も惜しんで、勉強していた。

女など目もくれなかった。

しかし、今後悔の念が過ぎる。


『え〜遊ばないの?花の学生生活だよ?勿体ないな〜モテるのに』


いつも女学生を侍らせていた友人、風の国の王子のアルアの言葉が今は胸にしみる。


『勉強なんてそこそこでいいんだよ。大概のこと家臣達がやってくれるんだし。僕達王族の一番の使命はずばり子孫を残すこと。そのためには必要なのは人を見る目を養うことと、口をうまく使うことに限るね』


人を見る目は養ったと思う。

だが、ナイトは口をうまく使うのは苦手だった。

要はお世辞と言うやつだ。

正義感の強いナイトは相手が、教師だろうが、上級生だろうが、その保護者だろうが、誰であろうと正しいことしか言わなかった。

今思えば、身震いする。

水の国第一王子と言う身分がナイトを守っていたと痛感する。

そんなナイトだったから、近寄ってくる女生徒に対しても上から目線だったように思う。

お世辞は言うが、甘い言葉など囁いたこともない。

気高く、強く、清く、正しいイメージがナイトに定着し始めた頃、一般の女生徒達はあまり近寄ってこなくなった。

だが、ファンはいてくれたようで、何か行事があるたびに大量のプレゼントは貰った。

どうにかしてナイトの気を引きたかったのだろうと今にして思う。

今、ナイトはその女生徒達の立場になっていることに気づいた。


どうやってネティアの気を引こうか?


ナイトの最強の武器、家柄、身分、冨、人脈は密命によって封じられている。

それ以外の武器と言えば、容姿、剣技、話術、という基本スキルのみ。

つまり、ナイト自身の魅力だけで挑まなければならないのだ。

容姿はそれなりだと思っているが、ネティアにも好みがあるだろう。

剣技は打倒父王のために磨き上げて自信がある。

闇の騎士を叩き伏せていいところを見せることができるだろう。

だが、それは戦闘時のみのスキル。

一番重要なのは親密度を上げるための日常会話、話術だ。


『やべ〜何か緊張してきた。何て話しかければいいだろうか?』


ナイトの頭はパニックになっていた。

これがあの気高い水の国の第一王子だとは誰もも思わないだろう。


「きゃあ!」


短い悲鳴を聞いてナイトは我に返った。

後ろを振り向くとネティアが転んでいた。

すぐさま駆け寄る。


「大丈夫か?」

「平気です。木の根に足を取られてしまったので…」


ネティアはローブの裾を上げて足を出した。

脱げた靴を見ると、ヒールの高いパンプスだった。

当然、山道を歩く靴ではない。

忘れていたが、ネティアは王女だ。

山道を歩く靴など履いているはずがない。


「ごめんな、気付かなくて…」


ナイトはすぐさまネティアの足の手当てを始めた。

バックパックから応急セット取り出しながら雑念に囚われていたことを反省する。

こんな歩きづらい靴で長い間歩かせてしまった。

上手く喋ることを考えるより、今するべきことを考えるべきだったと。


「いいえ、わたくしの方こそ、あなたを巻き込んでしまったて、ごめんなさい」


ネティアの謝罪にナイトは意外そうに顔を上げる。


「まさか、1人で行くつもりだったのか?」

「…立場上、皆が許してくれるとは思っていませんでしたから…」


ナイトは目を丸くした。


「そりゃ、誰も許さないな。俺だって絶対に許さない」

「でも、あの術者に対抗できる術者はわたくしぐらいしかいません」

「だから、連れてきたんだよ。あの場で、ランド領主に逆らえるのは傭兵の俺ぐらいだったからな」


ナイトはネティアの足に包帯をきつく巻き付ける。


「俺でもあの術者を相手にするのは正直難しい。でも、ネティア姫がいてくれれば絶対に勝てる」


自信を持って言うナイトにネティアは怪訝そうな顔をする。


「わたくしと2人だけであの術者率いる闇の騎士団に勝てると思っているのですか?」

「ああ、もちろん。でも、2人だけじゃない。あいつらは大きな爆弾を抱えている」

「大きな爆弾………ランドの騎士達ですね!」

「その通り。闇の騎士団はランドの騎士達を殺さずに眠らせているはずだ。取引材料にするためにな。死んでたら取引できないからな」


ネティアの顔が明るくなる。


「囚われているランドの騎士達は俺達がランド領主に逆らったことを知らない。だから、必ず助成してくるれるはずだ。ネティア姫ならランドの騎士達を眠りから解き放つことできるだろう?」

「ええ、虹の王家の血に賭けて」


そう強気に言ったネティアだが、顔を曇らせた。

闇の騎士団をやつけた後のことを心配しているようだ。


「大丈夫、後のことは何とかなるさ。エルクのおっさんが力を貸してくれるよ」


仲良くなったランドの騎士隊長エルクは闇の騎士団に囚われていた。


「だと、いいのですが…」


少し浮かない顔をしたが、ネティアも信じることにしたようだ。


「これじゃ、まともに山道はあるけないな。まず、街で買い物をしよう」


ナイトが提案するとネティアが眉を潜めた。

街に行くとすぐランドの騎士達に見つかってしまうと思ったのだろう。


「大丈夫、バレないって」


ナイトはそう言いながらネティアの顔のヴェールを取った。

『きゃあ』、と短い悲鳴を上がった。


「何をするのです!?」


ネティアはヴェールがなくてあたふたしている。

それが面白くってナイトは思わず笑ってしまった。


「返してください!」

「駄目だ。これがあると逆にばれる」


そう教えると、ネティアは目をパチクリさせた。


「考えてもみろよ。ネティア姫は人前で顔を見られてはいけないんだろう?」

「…はい」

「なら、ヴェールを取ったら誰がネティア姫だとわかる?」

「…あ…」

「ネティア姫の顔はほとんど誰も知らないだろう?。知られていない顔を晒しても何ら問題がない。むしろ、ヴェールが格好の目印になってしまう。一般人はヴェール何て被らないからな」

「…なるほど…」


ネティアは納得したようでヴェールを諦めた。


「さてと、近くの街はどこだろう?」

「グミの街が一番近いかと」


グミと聞いて、ナイトはしめたと思った。

グミはナイトが虹の国で一番始めに通った街で、若干だが土地勘がある。

それに何より、水の国に一番近い。

虹の国で起きた事件を聞きつけて、シリウス達がこちらへ向かっているころだろう。


「ルーク、どうかしましたか?」

「いや。俺、その街通ってきたから少しなら店の場所とかすぐわかるからさ、ラッキーだなって…」

「そうですか、それは良かったです」


ナイトが少し黙ったので、不安そうにしていたネティアだったが、すぐに安堵の表情になった。


「街道がわかるか?」

「ええ、もう少し進めば出れるはずです」

「そうか…」


ナイトは自分の荷物から防寒用のマントを取り出して、ネティアに被せた。


「その服じゃ目立つからそれを被ってろ」


ネティアは頷いてマントに包まった。

男物なのでネティアはすっぽりマントの中に納まった。

大きすぎたのか、少し、地面にマントの裾がついている。

靴を履こうとするネティアから靴を奪って、ナイトはバックパックを前に回して背を屈めた。


「俺の背に負ぶされ」

「…え!?」


ネティアは慌てふためく。


「その靴履いたってまたすぐに靴擦れになる。それにどっちみち、その手当てした足じゃ靴は入らない」

「そうですね…それでは、お言葉に甘えて…」


ネティアは遠慮がちにナイトの背に負ぶさった。

人見知りのネティアらしい。

子供の頃、フローレスが促さなければ馬になったナイトに飛び乗ることはなかっただろう。

流石に、今も2人を乗せることはできないな、とふと思った。

フローレスも、今ならそんな無茶は言わないだろうと思うが。

いい匂いが流れてきた。

年月を感じて、ナイトは思わず微笑した。


「よっこいしょ!」


ナイトは立ち上がって、ちょっとよろめく。

意外に重い、こっちにも年月を感じる。


「今、重いって、思いませんでした?」

「そ、そんなことないぞ!さあ、出発だ!」


ネティアの指摘にナイトは少々慌てながら、歩き出す。

少し、歩いたら体が慣れて少し駆け足になれた。


「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

「大丈夫だ。もうすぐ街道なんだろう?」

「はい…」


ネティアは少し寂し気に答えた。

獣道の先の木々が途切れている場所が見えた。

街道は獣道の下にあった。

丁度街道が見渡せる。

街道は人の群れがなく、閑散としていた。

そこへ丁度1台の馬車がコトコトとやってきた。

グミの街へ行く商人の馬車に相違ないだろう。


「ネティア姫、あの馬車に乗せてもらうことにするから、急病人のふりをしてくれ」

「わかりました」


ナイトはネティアを背負って獣道を下った。

街道に降りると、馬車に向かって大きく手を振る。

すると、馬車がすぐ近くで止まった。


「どうしたんだい、旅の人?」

「急病人なんだ。馬車に乗せてもらえないか?」

「そりゃ、大変だ…どんな具合だ?」


すぐ乗せてもらえる思ったが、御者は怪訝な顔をした。

そういえば、疫病の『風邪フウジャ』が流行っていることを思い出した。

ナイトは急遽作戦を変更した。


「実は『身重』なんだ。無理な旅をさせてしまったせいでお腹の子に障ったのかもしれない…」


身重と言った瞬間、ネティアが顔を上げた。

首に回された腕に力が入るのが分かった。

何言いたいのをギュッと我慢したようだ。


「そりゃ、大変だ!!早く乗んな!!」


御者はコロリと騙された。


「ありがとう、恩に着る」


ナイトは笑みを返して、馬車の後ろに回り込む。

馬車の中には初老の男女と老婆、10歳くらいの男の子の4人が乗っていた。


「お邪魔します」

「大変でしたね、さあ、上ってください」


ナイトがネティアを背負ったまま挨拶すると、初老の女がこちらにやってきて手を貸してくれた。


「ありがとうございます…」


ネティアは初老の女の手を取って馬車に上がった。

その後にナイトが続く。


「大丈夫ですか?」


ネティアを座らせた初老の女が心配そうに声を掛けていた。


「はい…今は落ち着いているみたいです…」


ネティアはお腹を押さえてぎこちなく演技している。


「そう、でも、油断は禁物よ」

「ありがとうございます、後は俺が面倒見ますんで…」


初老の女がネティアの顔色を見ようとしたのでナイトがさりげなく割って入った。

少し心配そうな顔をしたが、初老の女は初老の男と子供の方に戻って行った。

どうやらこの3人は家族のようだ。


「お2人さん、お産は初めてかい?」


老婆が話しかけてきた。

水晶玉を大切に手に持っている。

どうやら占い師のようだ。


「はい、初めてなもんんで、いろいろと心配で心配で…」

「そうかい…でも、大丈夫だよ。元気で丈夫な女の子が生まれるよ」


「「は…?」」


ナイトとネティアの声が重なる。

嘘なのだが…


「ははは、婆さん、いきなり占ったら驚くだろう?」


初老の男が笑いながら言う。

見ると、老婆の水晶玉が紫色に輝いている。


「良かったわね、女の子ですって、このお婆さんの占い当たるのよ」

「……そうですか…」


教えてくれた初老の女に、ナイトはぎごちない笑みを返す。


「ねぇ、お婆ちゃん、どっちに似てるの?」


男の子がさらに突っ込んだ質問を老婆にぶつける。


「そうだね、こりゃ、父親にだね…青い髪の色をしているからね…」


老婆がニコニコと笑顔を向けてきたので、ナイトは頭をかく。


「はははは、お、俺に似てるのか、いや、嬉しいな!!!」


大袈裟に喜んでみせる。

下から冷たい視線が刺さるのを痛いほど感じながら。


「大事ないですよ。きっと、なれない旅で疲れが出ただけでしょう」

「そうかもしれませんね。医者に見せてから、妻の容体が安定するまでグミに滞在します」

「それがいいでしょうね、坊や、こっちにいらっしゃい。お姉さんを休ませてあげないと」

「はーい」


こちらに配慮して母親が男の子を呼び戻した。

男の子は父親と母親の間に座り、グミの街についてからのことを聞き始めた。

老婆は奥に座し、その親子とナイトとネティアの偽夫婦をニコニコと見ていた。

その老婆と目が合ったナイトはぎこちない笑みを浮かべて返した。

馬車の中でこれと言った会話はなく、静かに時が流れた。


「どうも助かりました」

「お大事にな。風邪フウジャも流行ってるから注意するんだぞ」

「はい、お気遣いありがとうございます」


ナイト達は商店街の入り口で降ろしてもらった。

日は赤く染まっていた。

ナイトは馬車が見えなくなるまで手を振って見送った。


「勝手に妊娠させないでください!」


背後から不機嫌な声が流れてきた。

ナイトが背負っていたネティアを下ろすと、腰に手を当てて抗議の目を向けてきた。


「悪い…風邪フウジャじゃ、まずいと思って…咄嗟に浮かんだのがこれだったんだ…」

「何で身重なんですか!?わたくし、まだ嫁入り前ですよ!」

「嫁入り途中みたいなもんだろうが」


ネティアはジャミルとの婚姻を発表するためはるばる王都からランド領へ行く途中だった。


「そうですけど…あなたの子供なんて…」

「え、嫌なのか?」


咄嗟に返したナイトの言葉にネティアは言葉が詰まった。


「…そ、それは…」


明後日の方向を向くネティアにナイトは爆笑した。


「何なんですか、一体!?」

「いや、冗談だって、もしかして、本気で考えた?」

「そんなわけありません!」


ムキになって怒るネティアがまた可愛くてナイトはケタケタとまた笑う。


「もう失礼な人!」


ネティアは怒ってどこかへ行こうとする。

その後をナイトは慌てて追いかける。

急病人と偽って馬車に乗せてもらったのだ。

どこで誰が見ているかわからない。


「悪かった。許してくれよ」


ナイトが横に来るとネティアは嫌な顔をしたが、拒みはしなかった。

右も左もわからないネティアにはナイトが必要だ。


「まずは、服を買って着替えよう」


ナイトは目についた服屋にネティアを伴って入った。

ショーウィンドーには高価なドレスが客寄せに飾ってあったが、中は中流階級の服が主だった。

術者や旅人の服もけっこう置いてあり、品ぞろえは豊富だった。

ネティアは術者用の服を物色していた。

ヴェール付きの水色の服を見つけて、状態を確認している。

どうやら気にったようだ。


「試着してみたらどうだ?」


ナイトに言われてネティアはいそいそと試着室へ入っていく。

待っている間に歩きやすそうな靴を見る。

しばらくすると試着室が開いた。

ナイトが見に行くと、ネティアはくるりと一回転してみせる。

黒髪はヴェールに隠され、インナーは緑のチュニック

、水色のボトム、水色の長い羽織ものが旅の術者らしい。


「似合ってるぞ」


ナイトが褒めると、ネティアははにかんだ。


「後は靴だな…」


ナイトは選んでおいた女性ものの白いショートブーツをネティアに渡した。

履いてみると見事にピッタリだった。

ネティアが履いていた靴のサイズを見て選んだのだ。


「これでいいか?」

「はい!」

「値札を取ってくれ。このまま着ていくから」

「かしこまりました」


控えていた店員にナイトは勘定を払った。

値札を取ってもらったネティアは、おニューの服でまたくるりと回った。

安価な服だったが、相当気に入ったようだ。

店を出てからも、ネティアはルンルンだった。

さっきまで怒っていたのが嘘のように上機嫌になっている。


『女性の機嫌が悪い時にはプレゼントが一番!』


と、女好きの友人が言っていたことを思い出して、ナイトはしみじみ実感した。


『さて、これからどうするか…』


ランドの騎士達の目を欺きながら、闇の騎士団のアジトを探し出さなければならない。

そのためには変装が必要不可欠だ。

ネティアの変装はいいとして、自分の変装だ。

すでに変装しているのに、さらに変装しなければならなくなってしまったナイトはうんざりする。


『旅の傭兵やめて、商人になるかな…でも、売りもんがないな…買い付けににしても、そこまで金持ってねぇし…』


考えながら店の屋台を見ていると、手作りアクセサリーを見つけた。

もう日も暮れ、店じまいをしていたが、ナイトはその店に駆けこんて、あるものを買った。


「何を買ってきたのですか、ルーク?」


ニヤニヤしても戻ってくるナイトをネティアが不思議そうに迎える。


「いいこと思いついたんだ」

「いいこと?」


ナイトは握り閉めていた掌を開いた。

そこには装飾のない金の輪が2つ。


「これは…?」

「見てわからないか、指輪さ」

「これ2つともわたくしに?」


プレゼントだと思ったのかネティアは指輪を見て首を傾げる。


「いや、1つは俺がつける」

「それって…」


ネティアが驚いて顔を上げる。


「ネティア姫、結婚してくれ」


その言葉にネティアが呆然となる。


「けけけけけ、結婚!?」


思考停止の後、爆発する。


「そう!さっき、身重って嘘ついただろう?だから、もう夫婦って設定で動いた方がいいと思うんだ」

「…それも、そうですね…」


ネティアはもじもじしている。


「で、俺の職業なんだけどさ、旅の傭兵辞めて、姫の『ヒモ』になることにしたから」

「『ヒモ』…?」

「働かずに妻に養ってもらっている男をそういうんだ」


ネティアが硬直するもナイトは気付かない。


「姫は術者だから大金を稼げるし、ちょうどいいかなって。俺も傭兵だとバレるからさ。色々考えたんだけどダメ男が一番いいかなって」


ナイトはあっけらかんと答えた。

ネティアの肩が若干震えている。


「あれ、どうかしたか?」

「いえ、どうもしません…ちょっと、腹が立っただけです!」

「え、何、怒ってるんだ!?俺の職業か?」


ネティアは背を向けるとスタスタと歩き出す。

ナイトは慌てて後を追う。

どうして、職業にヒモを選んだのか必死に説明した。

傭兵だと目立ってバレる、商人だと売り物と金がない、技術がないので職人も無理。

すると、『せめて大道芸人なれ』、とネティアから言い渡された。





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