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虹の花婿  作者: ドライフラワー
第1章 前世からの約束
22/134

密命

虹の王都に激震が走った。

ランド軍が謎の賊に大敗。

フローレス姫が攫われた。

妹姫救出のため、ネティア姫が雇った傭兵の男と共に失踪した。

その報せを受けた女王ティティスはすぐさま、立ち上がった。

愛娘ネティアを連れ戻すチャンス。

今こそ、最強の騎士を目覚めさせる時。

双子姫を守るために鍛え上げたのだ、今、役に立たせなければいつ役に立つのか?

ティティスはその騎士が眠る、病室に向かう。

化け物並みの力を持つ夫レイガルの攻撃を受けて、2日ほど昏睡状態が続いているが、そろそろ目覚めてもいいころ合いだ。

フロントは槍術に長け、あらゆる術を使いこなせる上、頭も切れる騎士だった。

彼を向かわせれば、大概何でも片付く。

ランド軍を大敗させた賊だか何だか知らないが、フロントにかかれば赤子も同然。

ちょっと大袈裟だが、それくらい太鼓判を押すほど、正規軍きっての自慢の騎士だ。


『フロント、起きなさい!ネティアとフローレスがあなたの助けを待ってるわ!』


ティティスはフロントの意識が戻っていることを祈りながら、病室の扉を開けた。

先客がいた。

ベッドの横に2つの影。

それを見たティティスの息が止まる。


「いつまで寝ている、フロント!ネティア達が賊に襲われたぞ…!」

「す…すいません…レイガル様…」


フロントの意識は回復していた。

しかし、レイガルに襟首を持たれて持ち上げられている。


「すいませんではない!お前がこっそりでもついて行っていればこんなことにはならなかったんだぞ。それなのに、お前が意地を張ったばかりに…」


レイガルはフロントを激しく揺さぶっている。

フロントはレイガルの手を解こうと手をやるが、途中力尽きて手がダランと垂れる。


「何やってるの、レイガル!!!!」

「うわあ、ティティス!?」


ドピシャン!!


天井を突き破って、雷がレイガルに落ちた。

フロントがベッドに放り出される。

ティティスは最愛の夫を踏みつけてフロントの元に駆け寄る。


「フロント、しっかりするのよ!」

「ティティス様…すいません…」


フロントはガクッなり、再び意識を失った。


「レイガル〜…」


壮絶な笑みを浮かべて、ティティスは夫を見下ろす。

レイガルの顔が青ざめる。


「せっかくフロントが目覚めたのに、何てことしてくれたの!?王宮の修理は終わったの!?」

「修理はまだ途中だ。フロントが目覚めたと聞いて、つい来てしまった。すまん…」

「すまんじゃ、すまないの!この化け物!」


ティティスはベッドから枕を取ると、枕でレイガルを殴り出す。


「フロントがいれば、ネティア達を連れ戻せたのに!そうでなくても疫病の治療に使えたのに!このバカ!アホ!」

「すまん!!!」


ティティスは、世間から化け物と恐れられるレイガルを、枕でボコボコにする。

レイガルは妻のヒステリーが収まるまでひたすら耐える。


「だから、あたなは役立たずなのよ!」

「…ティティス…」


ティティスの放った一言がレイガルの心を深く傷つける。

魔物の群れを一騎当千する男だが、日常生活においては力がありまってしまうのだった。







ティティス女王がレイガル王をヒステリックに叱りつける様はすぐさま王宮中に広まった。

女王夫妻の喧嘩に宮中の人間が呆れる中、シビアに動く一団があった。


「フロントは黒か…」


王宮に出入りするランドの者達だ。

ジャミルの命を密かに受けた彼らは王都の内情を探っていた。

双子姫を護送していたランド軍を襲った闇の騎士団のことも当然知っている。

その頭目の容疑者としてフロントがあげられていた。

闇の騎士団の頭目が持つ得物や多彩な能力が見事に合致していたからだった。

しかし、フロントは王都で再びレイガル王の攻撃を受け意識不明に。


「ジャミル様に報告するぞ」


女王夫妻の喧嘩に目も触れず、ランドの間者達は引き上げて行った。




***




水の国国境、第一王子隔離別荘。

リュックは白い羽根の付いた青いベレー帽をクルクルと面白くなさそうに回していた。

その帽子はアルトが変装のためにと用意したもので、全員に配られたものだった。

ナイト王子に気づいてもらえるよう、目印でもあるらしい。


「似合っているぞ、シリウス!」


ライアスは無抵抗なシリウスにベレー帽を被せていた。

ナイト王子が虹の姫を攫うというライアスのバカげた予言が的中してしまい、シリウスは呆然自失状態になっていた。

その報せにはリュックとルビでさえドン引きした。

しかし、アルトだけは冷静だった。

すぐさま、ナイト王子の捜索の準備を始めたのだ。


「私の感が当たったのだから、私が隊長だ!」

「はいはい…」


ルビが準備をしながら適当に答える。

呆然自失のシリウスの代わりとしてルビがライアスにこき使われていた。

ルビは道中必要な食料、道具、衣服、馬の準備等を支持されていた。

リュックは身分証明書などの公的な手続き、地図の準備及びルート決めと金銭の準備、そしてこの別荘の戸締りを任された。

アルトはというと、水の王都への報告のため別室に行ったままだ。


『なんか、絶対隠してるよな…』


リュックはシリウスを見てそう感じた。

ナイトが問題を起こしたら真っ先に動くシリウスが、今回は落ち込んでいるのだ。

代わりに動いたのはアルト。

シリウスが不調の時に補佐するような立場にあるが、アルトが動く時は必ず裏がある。

アルトはリュックと同格の貴族の家柄だ。

年齢もリュックより3つ上で、変わり者だが切れ者だ。

水の王の命を受けてナイト王子の従者になった。

同年と言う理由で従者になったリュックとはわけが違う。

同格の家柄、寡黙で何を考えているかわからない年上のアルトにリュックは苦手意識と同時に、憧れも抱いていた。

リュックは家名に恥じぬよう生きてきた。

だが、アルトは家柄など全く気にしていなかった。

あるがまま、己の信念を持っている。


『やっぱ、アルトに直接聞くしかないな…』


リュックは溜息を吐く。

自我を失い、ライアスにおもちゃにされているシリウスには話は聞けそうにない。

リュックが決心を固めた時、扉が勢いよく開いた。


「待たせたな、諸君!!」


青いベレー帽を被り、商人風の出で立ちでアルトは現れた。

いつものアルトよりテンションが妙に高い。

脇に何かを抱えている。


「おう、アルト、王都への報告は済んだのか?」

「とっくに終わった」


問いかけたライアスはアルトの返事に困惑する。


「とっくに終わったのならすぐに戻って来いよ。事態は急を要するんだぞ」

「すまん、商品の準備に手間取ってな…」

「商品?」

「そうだ。商人に変装するのならば売る物が必要だろう?」

「まあ、そうだな。で、その商品と言うのは何にしたんだ?」


ライアスの問いにアルトが口角を上げた。

まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに…


「『すぐに調達』できて、品数が少なくても怪しまれないもの。しかも高価な一品と言ったらこれしかないだろう!」


アルトは脇に抱えていた青い布に包まれた商品をテーブルの上に置く。

そして、

『ジャジャン!』

と自信満々に効果音をつけて、包みを解放した!

1枚の油絵が現れる。


「ぐはあ!!」


その絵を見たライアスは突然吐血して倒れた。

ライアスに瀕死の精神攻撃を食らわせたその絵の正体は、つい先日脱走しようとしたナイト王子を捕まえようとして返り討ちにあった時の絵だった。


「リュック、どうだろうか?この額縁。この絵に合っているだろうか?」


アルトがリュックに問いかけてきた。

同格の貴族の家柄から、芸術に造詣があると思ったのかもしれない。

リュックの芸術への思いは嗜み程度で、あまり興味はない。

興味はないが、お世辞だけは熱心に覚えた。


「木彫りの蔦の額縁か…ライアスの筋肉美が良く映えて見えるよ」

「そうか、徹夜で彫り上げたかいがあった!」

「え、徹夜…?」


リュックの声は引きつっていた。

しかし、アルトはガッツポーズを決める。

よほど嬉しかったらしい。


「実は私は画家を目指していたんだが、父上から『そんな下手糞な絵で食っていけるほど世間は甘くない!』と反対されてな。それでしぶしぶ騎士になったのだ。だが、同格の貴族のお前に褒めてもらって私は自信がついた、ありがとう」

「いや、僕は思ったことしか言ってないよ…」


アルトの芸術への情熱と身の上話を聞いて、リュックは居心地が悪くなる。


「それにしてもよく描けてるよな、この絵。高く売れると思うぜ」


ルビがナイスなタイミングで話に入ってきた。

リュックはすかさず、合いの手を入れる。


「本当、本物がかすんで見える」

「ちょっと、美化しすぎじゃないか?」


リュックとルビは絵が完成した時、本物と絵の人物を見比べた。

絵の人物は神々しい貴人の光を放っていた。

しかし、本物は涙目でぐずっていて、とてもこの絵のモデルとは思えなかった。

なので、2人は本物は見ずにこの絵ばかりを見ていた。


「そんなに褒められると嬉しいな」


アルトは珍しく照れている。


「1枚だけではなんだから、実はシリウスの絵も持ってきた…」


絵は2枚あった。

アルトの絵をずらすと、シリウスの絵が出てきた。

シリウスの絵も見事だった。

シリウスは絵を描くのは全くの初心者だったが、絵の具の塗り方がプロ並みだった。


『船のペンキは塗は得意だった』


と海賊時代の名残を滲ませた。


「シリウス、売り物にしても構わんだろう?」


呆然自失のシリウスだったが、アルトの問いには反応した。


「好きにすればいい。ライアスの裸なんぞに未練はない」


シリウスはアルトとは違い全く自分の作品に興味はなかった。

アルトの顔が曇る。


「ぞんざいだな…仮にもお前の作品だぞ。作品は自分の子供も同然だ。名前ぐらいつけてやれ」

「題名か…」


シリウスはしばらく考えてから口を開く。






        『死ね、ライアス』








シリウスのあまりにもストレートなライアスへの殺意に場の空気が凍る。


「どうだ?」


シリウスが普通にリュックに視線を送ってきた。


「どうって…」


リュックは返答に困りアルトに視線を送る。


「お前の気持ちはわかるが、そんな題名ではこの絵は売れんぞ……」

「そういう思いで描いたからな、それしか浮かばん…」


シリウスの美しい絵には恐ろしい怨念が込められていた。


「アルト、そういうお前はどんな題名をつけるつもりだ」

「私か…」


シリウスから聞かれたアルトは自信満々に口角を上げる。








           『処刑』








リュックとルビは顔を引きつらせる。


「どっちも変わんね…」


呟くルビに、リュックも同感だった。

アルトの絵の題名を聞いたシリウスは目をパチクリさせた。


「何だ、同じじゃないか…」

「奇遇にもな。だが、ストレートは良くない。なぜなら、絵画は芸術作品だからな、敵意はオブラートに包んだ方がいい」

「なるほど」

「どこがオブラートに包んでるんだ!!!!?」


死んでいたライアスが飛び起きた。


「さっきから黙って聞いていれば、目の前で人のことをコケにするとはいい度胸だな!!」


当然、ライアスは怒っていた。

今にも腰の剣に手を掛けんとする勢いだ。


「いたのか、ライアス。気付かなかった…」

「嘘つけ!!」


しれっと答えたシリウスにライアスは怒鳴った。

そんな怒れるライアスの前にアルトは立ちはだかり、


「わかった、題名が気に入らなかったのだな?」


真顔で言ってのけた。

その度胸にリュックとルビはおろか、ライアスが圧倒されてしまった。


「まあ…そうだな…」

「今つけ直す。好きなものを選ぶがいい!」


と言って、案を出す。


『返り討ち』『天に召されるライアス』『裏切り者』『罠にはまった騎士』「助けを待つ騎士』『天罰』『反逆者』


「『反逆者』、『裏切り者』ってなんだ!?しかも、お前ら助けてくれなかったではないか!?」


ライアスがクレームを上げる。


「王子を裏切ったし、王子に逆らっただろう?」


アルトが2つの題名に対し、即座に切り返してきた。


「そ、それは、そうだが…すべては王子の為にしたことだ。王子を見守るのが我々従者の役目だろう?」


ライアスは弁解した。

題名に込められた仲間の疑念に気づいたのだ。


「『天に召されるライアス』いいな…」


シリウスが感嘆する。

ライアスの弁解は完全に無視された。


「気に入ってくれたか。じゃ、私は『返り討ち』にしよう」

「ちょっと待て!!『死ね、ライアス』と『天に召されるライアス』どっちもほぼ同じ意味だろう!?それに、私が題名を選べるのではなかったのか!?」


ライアスが必死に抗議するが、シリウスとアルトは満足そうに頷き合っていた。

2枚の絵の題名は完全に決定した。


「さて、絵の題名も決まったことだし、王子を探しに行くか、シリウス」

「ああ、準備は万端だ」


シリウスは立ち上がってアルトともに玄関へ向かう。


「お前ら人の話を聞け!!!!!」


その後はライアスが叫びながら追いかける。


「…ルビ、準備できてるの?」

「…いや、まだ、水の準備ができてない…」

「僕は戸締り…手伝って…」

「わかった…」


リュックとルビは年上組の茶番に呆れながらも準備を急いだ。

2人が外に出ると、馬に荷物がもう乗せられて、年上組3人はもう騎乗していた。

水筒を渡し、リュックとルビが騎乗するとアルトが号令をかけた。


「では、虹の国に向けて出発するぞ!」


ライアスが隊長だったが、シリウスと題名の件でもめていたため、アルトが代行したのだった。


「死ねとは何だ?仮にも私達は仲間だろう?シリウスは私はな、お前のことを友だっと思っているんだぞ。それなのに、この仕打ちはひどくないか?」

「うるさい、わかった!『昇天』で手を打とう!」


シリウスが折れて、『天に召されるライアス』から『昇天』に絵の題名が変更された。

心に引っかかるものがあったが、ライアスは一応納得した。

絵の題名争いが終わると、急に静かになった。

シリウスはナイト王子のことを考えてまたブルーに戻っていた。

ライアスはライアスで同僚達から『裏切り者』と呼ばれたことに少なからずショックを受けているようだった。

水の王家のため忠実に任務をこなしているだけに苦悩は深い。

その忠実であるが故に、裏で起きている事実を理解していない。

しかし、そういう純粋な人間だからこそライアスはナイト王子に必要とされていたのだが、本人は気付かなかったようだ。

シリウスとライアスの馬が次第に遅れる。



「ほら、2人とも遅れているぞ」


ルビが心配して声を掛ける。


「「あ、すまん…」」


2人同時に返事をして火花が散った。

シリウスが一歩先に出る。


「遅れているぞ、ライアス」

「遅れているのはお前!」

「何を!ほら、私の方が早い!」


抜かれては追い抜かすを繰り返しながら、シリウスとライアスはどんどんスピードを上げていく。


「こら、待て2人とも!速すぎだ!!」


ルビが叫んで追いかけるも、ライバル心に火のついた2人には聞こえなかった。


「この先分かれ道だよ!」

「それは大変だ」


リュックとアルトも馬を急かせて追いかけたが、追いつけなかった。

2人は右側の道を選んで突き進んでいった。


「どうする?」

「あっちは行き止まりだよ」

「戻ってくるのを待つしかあるまい」


3人は溜息を吐いて、馬から降りる。


「たく、シリウスはライアスを意識し過ぎなんだよ」

「そうだな、王子の一番のお気に入りなのに…」


木の幹に手綱を結びながら愚痴ちるリュックにルビが頷く。


「だが、ライアスはどこにいても王子の危機には駆けつける。だから、目障りなのだろうな」

「まあ、そうだね…」


アルトの言葉をリュック達は認めざる得ない。

ライアスはどこにいてもナイト王子の危機には誰よりも早く駆けつける。

従者を外された時でさえも。


「ライアスはライアスなりに王子を大切に思っているんだろう」


そう呟いてアルトは木の幹に腰かけて水を飲む。

リュックはルビと視線を合わせて頷いた。

今が絶好のチャンスだ。

2人はアルトの前に立つ。


「ねぇ、アルト。僕達に何か隠してない?」

「…何をだ?」


リュックの問いにアルトはとぼける。


「とぼけるなよ。ライアスが来たり、王子がいなくなったり、シリウスが落ち込んだりするときは、大抵、国王陛下が絡んでるだろう?」


ルビの指摘にアルトは目を見開く。


「……ルビ、お前、意外に鋭いな」

「…俺、あんたと一緒に王子の元に来たんだけど…」


ルビとアルトはナイトがシープール領主を任命された時に一緒に来た同期だった。

ルビは2刀流の腕を買われ、アルトは智謀をそれぞれ買われたのだ。

ルビはあまり頭が切れる方ではないが、同期のアルトの動きはよく見ていた。


「そうか、お前達に気付かれてしまったか…」

「いや、いくらなんでも気付くよ。だって、おかしすぎるじゃない?」


リュックは自分達の商人の服装を見せて、ツッコミを入れる。


「虹の国に王子がいる目的は何だ?」


ルビが核心を突く質問をすると、アルトは微笑を洩らした。


「見合いだ」

「見合い?」


一連の情報から推理するに答えは一つしかない。

だが、確かめられずにはいられなかった。


「…相手は?」

「ネティア姫だ」


アルトはあっさり答えた。

リュックとルビは驚愕して顔を見合わせた。


「ネティア姫はランド領主と婚約したはずだろう?」

「そうだ。だが、両親である王と女王の許可はとっていない」

「じゃ、縁談は虹の国側から持ち込まれたものか…」


ルビの言葉にアルトは頷く。


「その通りだ。ネティア姫とランド領主の婚約はまだ公には発表さていない。つまり、現時点ではただの口約束だ。婚約が公に発表される前に王子とネティア姫を密か引き合わせるのが、今回我々に下された密命だ。だが、姫が強行突破をしてランドに出発されてしまった。その報せを受けて、王子が急遽虹の国に単身直行され、現在に至るというわけだ」


アルトは悩まし気に溜息を吐いた。


「この事態は予想外だ。賊が現れて、王子がネティア姫を連れて失踪されるとは、私でさえ想像していなかった…」

「王子のことだし、賊にさらわれたフローレス姫を一緒に助けに行ったんだろう?」


正義感が強いナイト王子のことだからと思うルビ。


「でも、問題だよ。他国の王位継承者を、しかも、婚約が決まっている姫を連れて逃げたんだよ。戦争ものだよ」


リュックが心配すると、アルト口を開いた。


「そうとも言えん。ネティア姫が王子を選び、王子が虹の王になれば話は別だ。実のところ、国王陛下は王子が虹の王になられることを望んでいらっしゃる。そのために廃嫡されたと言ってもいい」

「そのためって…」


リュックが驚く。


「話は前々からあったそうだ。王子は虹の国に住んでいたからな。その時からレイガル王は王子にご執心だったそうだ。先の国王が早逝されなければ、王子は間違いなく虹の王になっていただろう」


人伝えに聞いた話をアルトは話した。


「陛下は…始めから王子を手放すつもりだったの?」


リュックは悲し気に聞く。

王が息子であるナイト王子を追い出そうとしているようにしか見えなかったのだ。


「そんなはずあるまい。世界中から縁談を持ってこさせたのは、王子を引き留めたかったからだろう。それに王子が虹の国に行ったのは見合いとは別の理由だ」

「別の理由?」

「そう、王子には血のつながらない闇の民の兄上がいたそうだ。その兄上のために虹の国に行かれたと聞いていた。だが、存外、ネティア姫を気に入られたのかもしれんな」


リュックは複雑気持ちになった。

ナイト王子が自分の意志で行ったのなら仕方ない。


「しかし、このゴタゴタでは、見合いの話はネティア姫には伝わっていないだろう」

「え、ネティア姫、見合いのこと知らないの!?」


驚くリュック達にアルトは頷く。


「そうだ。だが、何も知らないネティア姫が王子と共に行動をされているとなると、姫の方も王子に好意を持っておられる可能性が高いな。ライアスが言う通り運命の人だったのかもしれないな」


アルトは水を飲んで遠い目をする。

リュックは拳を握り締めて、最後の質問をする。


「王子が虹の国行くことになったら、僕達どうなるの?」

「誰かが王子についてくことなるだろう」


アルトはリュックとルビをじっくり見る。

緊張で喉が渇く。


「心配するな、王子について行くのはたぶん私だ」


アルトが微笑を零した。


「何で?」

「リュック、お前は水の国でも名門の家柄だ。だから、辺境の国である虹の国には行くことはお父上が許されないだろう」


アルトの指摘通り、リュックも自分はナイト王子にはついていけないと思っていたが、悔しい。


「ルビは強いが、下級貴族の出だ。水の国とのパイプ役には役不足だ」


階級を持ち出されたらルビは弱い。

ルビも悔しそうに唇を引き結ぶ。


「シリウスは?」

「シリウスは王子の右腕だ。シープールを守るよう王子が命じるだろう」


一番の腹心であるシリウスもナイト王子の供ができない。

シリウスが落ち込む姿が目に見えるようだ。


「言うまでもないが、ライアスは国王の直属の騎士だ。消去法で行くと、私が適任と言うわけだ」


アルトの条件は完璧だ。

貴族の中でも名門の出であり、騎士としても名高く、知略にも長け、水の国では豊富に人脈がある。

リュックと同じく名門の家柄だが、変わり者のせいで親族との距離は遠い。


「リュック、お前はたぶんシリウスの補佐を頼まれるだろう。シリウスだけではシープールは仕切れんだろうからな。ルビはライアスのように王都に戻って指揮官になるかもれんな」


アルトは未来のことを予測して、淡々と話す。


「何か、寂しいよ。皆バラバラになっちゃうなんて…」

「リュック…」


ルビも同じ気持ちなのか、同じ目をしていた。


「そうだな…王子がどのような決断をされるかで、国の運命だけでなく、我々の運命も大きく変わるだろう」


アルトも少しは寂しいのか、しみじみと呟いた。

馬の蹄の音が聞こえてくる。

それと同時に言い争う声も響いてきた。


「お前のせいで道を間違った!」

「いや、貴様のせいだ!」


ライアスとシリウスがが戻ってきたのだ。


「2人とも散歩は楽しかった?」


気持ちを切り替えて、リュックはいつものように嫌味を言った。


「「楽しいわけあるか!!」」


仲が悪い割には、良く息が合う2人に思わず吹き出す。


「お前達が戻ってくるまで、私は2人に虐められたぞ」


珍しく、アルトも冗談を言った。


「アルトをやったのか?でかしたぞ、2人とも!」


真に受けてライアスがリュックとルビを褒める。

だが、シリウスは裏を読み解いて、リュック達から目を反らした。


「早くいこうぜ、シリウス。王子に会いたくないのか?」

「お会いしたいに決まってるだろうが!!」


からかってきたルビに怒鳴って、シリウスは先行する。


「あ、こら、待てよ。また迷子になるぞ」

「なるか、バカ者!」

「はははは、今度は迷わん!」


ライアスは地図を片手にきらっと歯を輝かせた。


「私に続け!!」


ライアスが先頭を駆ける。


「ライアス、貴様地図が読めるのか!?」

「読めるに決まっているだろうが!」

「怪しい、私によこせ!」

「どこが怪しい?」

「また感だろう!?」

「感だけで王都からシープールまで来れるか!」

「2人とも落ち着け!」


ルビが言い争いをしながら馬を駆る2人を鎮めようとする。


「ルビ、2人の面倒よろしく」

「我々はゆっくりいく」

「なんだよ、それ!?」


リュックとアルトはルビに手を振る。

そして、マイペースに馬の歩を進めた。

いつもと変わらない、水の国5騎士達。

しかし、この任務を最後に、水の5騎士はナイトの従者から外されることになる。

ただ1人を除いて…
















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