鍵を握る者
「お招きありがとうございます」
ルーク達が戦っていた闇の騎士リーダーが槍を肩に当てて、不敵な挨拶をしてくる。
他の闇の騎士2人が集まってきて、リーダーの後ろに控える。
「招いた覚えはありませんが、歓迎させていただきましょう。ここはわたくしのテリトリーですから」
ネティアの言葉に従うように、ルーク達は剣を構えて3人の闇の騎士達を囲む。
多勢に無勢、しかも地の利はこちらにある。
この敵3人がどんな強者でも勝てる見込みはない。
だが、闇の騎士のリーダーはおかしそうに笑い始める。
「本当にここはあなたのテリトリーですか?」
闇の騎士リーダーは槍で上空を指す。
「ネティア姫、あなたの結界が閉じると同時に私の結界も閉じさせてもらった。つまり、私の結界の中にあなたの結界は存在している。ということは、ここは私のテリトリーでもある…」
闇の騎士リーダーは上げた槍を構える。
「この結界さえ、壊してしまえば、我々の勝利です」
あまりに不敵で大胆な敵リーダーに、味方の騎士達の間から唾をのむ音が聞こえた。
「…わたくし達に勝てるとお思いですか?」
気圧されてはいけないと、ネティアは口を開いた。
「もちろんです。たった3人と侮ってもらっては困る。これでも国のためにどんな死線も潜り抜けてきた歴戦の勇者ですから。安穏な土地で悠々と暮らしているランドの騎士共と一緒にされては我々のプライドが傷つく。それに…」
闇の騎士はネティアに直接槍を向けた。
周囲から驚きの声が上がる。
これは王家への完全な反逆行為だ。
「あなたこそ、我々に勝てると思っているのですか?」
「…どういう意味です?」
ネティアにも動揺が走る。
初めて敵意を向けられ、同じ質問を返され戸惑ってしまったのだ。
「あなたはお父上、お母上、そして、多く臣下達に守られて生きてこられた深層の姫だ。どんなに巨大な魔力をお持ちでも実戦などやったこともないはず。そんなひよこに我々歴戦の騎士が負けるはずがない」
ネティアは言葉を失くす。
確かに、実戦など経験したことがなく、正直自らの巨大すぎる魔力の加減に苦慮していた。
「歴戦の騎士ならここにいる!」
「そうだ、我々レイスの騎士を忘れてもらっては困る!」
「闇の民だけが最前線で戦っていると思うな!」
残ったレイスの騎士、グリス達3人が声を上げた。
正規軍は闇の民ばかりで構成されてはいない。
レイスの騎士も多数所属している。
「ネティア様、ご安心ください。あなたには我々がついている。それにランドの騎士達が弱いはずがありません。同じ虹の国の騎士ですから…」
気圧されそうになっているネティアとフォークにグリスが力強い言葉を掛けてくれた。
「そうです、あなたには我々虹の騎士がついています」
フォークが言葉を継いだ。
ネティアは頷くと、侮辱してきた敵リーダーを睨み、
「わたくしには虹の騎士達がいます、負けるはずがありません!」
力強く返した。
すると、虹の騎士達の士気が上がった。
「おっと、レイスの騎士がいるのを忘れていた。だが、たったの3人…」
「お前達の能力は認める。だが、我々とランドの騎士をなめるな!」
グリスは敵リーダーの言葉を強制的に打ち切り、フォークを見る。
「指揮を我々3人に委ねていただきたい!」
グリスが申し出る。
正規軍の騎士は1人1人が隊長になれるだけの統率力が備わっていた。
「いいでしょう、使ってください。歴戦の騎士であるあなた方の指揮なら部下達も喜んで従うでしょう」
「ありがたい。必ずや、ランド卿がお着きになるまで持ちこたえてみせます!」
フォークの許可を取ったグリスは即席で3つの小隊を作り、闇の騎士達を凹型の陣で取り囲む。
「ルーク、お前は万が一に備えてネティア様とフローレス様を守れ」
「わかった、頑張れよ、隊長!」
「グリス殿、後はよろしくお願いします」
「お任せください!」
グリスに指揮権が渡った。
「覚悟しろ、闇の騎士共。我々、虹の騎士団の実力を見せてやろう!」
「たった3人に大仰なことだ…」
闇の騎士達は3方向いて、背中を合わせる。
「左右より槍で攻めよ!闇の騎士に間合いを取らせるな!」
グリスの作戦は応戦中の闇の騎士の側面を突くことだった。
しかし、事は思い通りには運ばない。
「飛んだ!」
闇の騎士3人は高く飛びあがった。
槍の攻撃は届かない。
「わたくしに任せてください!」
ネティアは杖を振り上げた。
『雷!』
結界上部より雷が発生し、闇の騎士達を襲う。
だが、闇の騎士の1人が剣を掲げ、雷を吸収した。
『地よ、裂けよ!』
闇の騎士リーダーの魔法が発動し、大地に亀裂が生じた。
そして、その裂け目に密集していた騎士達が落ちていく。
二重結界のせいか、距離は短く、1,2メートルぐらいの深さの裂け目で済んだ。
中央の部隊が一部が落ちてしまった。
大地を修復しようとネティアが魔力を放つ。
この機を闇の騎士リーダーは見逃さなった。
『雷神よ、降臨せよ!』
外側の敵結界より強大な雷撃が降って、ネティアの結界に降り注ぐ。
「くわぁぁぁ」
ネティアは膝をつき、大地の修復は中断した。
結界の維持に努める。
今の攻撃でネティアの結界は大ダメージを受けたが、穴は開かなかった。
「さすが、未来の女王…だが、後、2,3回で行けそうだな…幸い、鴨はたくさんいる…」
降り立った闇の騎士リーダーが虹の騎士団を見回して呟く。
「ネティア、大丈夫?」
フローレスの肩を借りてネティアは立ち上がった。
「あなたは優しい方だ。これだけの数を守るのは骨が折れるでしょう。あなたが自分の力に溺れ、自分の力量を見誤った結果ですよ」
闇の騎士リーダーは勝利を確信しているようだ。
「ネティア様、我々には構わず、結界だけに集中してください!援軍はすぐ近くまで来ています!」
そう言って、グリスは即陣形を立て直した。
先ほどと同じ陣形だ。
時間稼ぎにはこの陣形が最善と判断したらしい。
どれほどの時間がたったのかわからないが、空が明るくなり始めていた。
「もう日が昇る時間か…あまり遊んでいるわけにはいかないな…」
「遊ばれては困るな、我らの名誉にかけて、お前達を捉える!」
「さすが正規軍の騎士、大そうなことを言ってくれる…」
「魔法騎士、先陣を切れ!」
グリスの命で雷を付帯させた剣を抜いた騎士9名が3方から闇の騎士達を攻める。
「魔法剣か…痺れさせて我々の動きを止めるつもりか…くくっ…面白い…いいことを思いついた…」
部下の闇の騎士2人が雷剣を受けるが、リーダーの騎士はその剣を甘んじて受けた。
「何!?」
斬りかかった3人の騎士の顔が驚愕に歪む。
剣が闇の騎士リーダーの手前で止まった。
そして、剣に帯びさせていた雷が吸収された。
「さて、玉を取りに行くか…」
闇の騎士リーダーは溜め込んだ雷の力を一気に爆発させた。
囲っていた敵が吹き飛ばされ、飛ばされなかった虹の騎士の目が眩む。
「食らえ、『竜巻』!」
自らに竜巻を纏わせ、一直線にネティアを目がけて飛び出した。
「ネティア様を守れ!!」
グリスが絶叫して自らも剣を持って騎士達と共に盾になるも弾き飛ばされた。
竜巻を纏って闇の騎士リーダーが突っ込んでくる。
ネティアの顔が恐怖で歪む。
「ネティア!」
フローレスが前に立つが何の役にも立たない。
ネティアはフローレスを庇う様に抱き寄せる。
「誰か、助けて!」
腕の中でフローレスが叫んだ。
ネティアの脳裏に前世の恋人の顔が過ぎる。
『水竜!』
目前に迫った竜巻の前に水の竜が現われ、激突した。
風と水が消えると、切り結ぶ2つの影が露わになった。
1人は言わずと知れた闇の騎士リーダー、もう一人は…
「…傭兵、貴様一体何者だ!?」
「家にいずらくなった放浪中の水の国のボンボンだよ!」
何とも言えない返事を返してルークは驚愕している闇の騎士リーダーを跳ね返した。
「危なかったな、大丈夫か、2人とも?」
振り返って微笑みかけてくるルークと前世の恋人の顔が重なった。
ルークの胸にネティアは飛び込みたい衝動にかられた。
「ルーク!」
一足先にフローレスが飛び込んで行ってしまった。
それを見てネティアは正気に戻った。
そんなことをしてはランドの騎士達に申し訳ない。
だが、思った通りに行動できる双子の妹を羨ましく思い、少しだが、嫉妬してしまった。
「さあ、後がないぜ、闇の騎士共!時間ギリギリまで遊んでやってもいいぜ。それとも降伏するか?」
「ふん、劣勢の貴様らに降伏する理由はない。要は勝てばいいのだからな…」
「大した自信だな、この状況で勝算があるのか?」
闇の騎士リーダーと話しているルークの周りに虹の騎士団が集まってくる。
ほとんどがボロボロだが、目は爛々と輝いている。
「なければ、こんな大それたことはしていない…」
他の2人の闇の騎士がリーダーの元に戻ってきた。
だいぶやられたのだろう、2人はボロボロだった。
しかし、闇の騎士リーダーは多少黒衣が擦り切れてはいるが、大きな傷はない。
「そうかよ。だが、俺が出てきたからにはお前に魔法は使わせないぞ。魔法が使えなければ、ネティア姫を揺さぶることはできないだろうからな」
「見くびられては困るな、私とて騎士だ。魔法がなくとも十分お前達を追い詰めることはできる」
「なら、やってもらおうか!」
ルークが踏み出し、闇の騎士リーダーと激突した。
それを合図に、他の騎士達も残り2名の闇の騎士に襲い掛かった。
2名の闇の騎士は互いに近づきすぎず、離れすぎずを繰り返して間合いを確保しながら虹の騎士団と苦しい戦闘を繰り広げる。
闇の騎士リーダーは一切の手助けはしない。
できないと言った方がいいだろう。
傭兵ルークと闇の騎士リーダーの実力は拮抗していた。
ルークは目にも止まらぬ槍の連続突きをすべて交わしきり、疲れたところを狙って間合いを詰めて斬り込む。
ネティア達はその戦いぶりに目を奪われていた。
「あの攻撃をかわし切るとは…素晴らしい集中力だ」
フォークが感嘆した。
「素敵…」
フローレスは陶酔している。
ネティアも同じ気持ちだが、声には出せない。
ルークの攻撃で闇の騎士リーダーに切り傷が増えてくる。
ルークの奮闘に他の虹の騎士達も触発され、2名の闇の騎士を追い詰めていく。
2名の闇の騎士は魔法騎士ではあるが、リーダーほどの魔力と体力を持ち合わせていなかった。
とうとう疲れ切り、虹の騎士団に槍で包囲されてしまった。
それに気づいた闇の騎士リーダーは攻撃を止めて、振り返る。
「観念して、その仮面を取れ!」
グリスが闇の騎士2名に命令する。
疲れ切り、息絶え絶えの闇の騎士達はリーダーに視線を送る。
「勝負あったみたいだな…大人しく投降すれば、今は殺されない。裁判で話ぐらいはさせてもらえると思うぜ…」
ルークが降伏を勧めているが、闇の騎士リーダーは仲間達の方を見たまま、無言だった。
しばらく仲間達と目で会話した闇の騎士リーダーは槍の構えを解いて、頷いた。
すると、囚われていた闇の騎士達は剣を捨てた。
満身創痍の体を起こして、2人は反対方向にそれぞれ歩いていく…
「全員、今すぐあの2人から離れろ!」
グリスは絶叫した。
投降してくるかと思われた2人の闇の騎士は突然走り出した。
そして、左右の虹の騎士団の中央付近に飛び込んだ。
閃光が炸裂し、爆風がその後を追った。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
しかし、煙が消えた後のその場所を見てネティアはショックを受けた。
2つの大きな穴…闇の騎士2人の姿はどこにもなかった。
「…自爆しただと…?」
フォークの声がかすれている。
ネティアはショックのあまり座り込んでしまった。
自分が最善の方法だと思って下した決断で死者が出るなど思ってもみなかったのだ。
多少の反発は覚悟していたが、目の前で自決されたショックは計り知れない。
「ネティア姫!お気を確かに!」
フォークの声で顔を上げる。
誰かの影に入っていた。
その影はフォークだった。
よく見るとフォークは剣を抜いていた。
「…あと少しだったのに…さすがはランドの指揮官…」
すぐ近くで冷徹な声が聞こえた。
フォークが切り結んでいるのは闇の騎士リーダーだった。
闇の騎士リーダーはフォークから離れると、槍を振り上げた。
雷撃が外の結界から降り注ぎ、ネティアの結界を壊そうとする。
条件反射でネティアはそれに対抗し、結界は何とか守り切った。
だが、心に受けたダメージは甚大だった。
「我らの覚悟をお見せしたのに、しぶといですね…」
「このお!」
ルークが闇の騎士リーダーに斬りかかったが、難なく交わされる。
「ネティア姫、大丈夫か?」
ルークがフォークと共にネティアを守るように前に立つ。
「迂闊だった、まさか、自決するとは…」
「あいつもヤバいかもしれないぜ…」
目の前から聞こえてくるフォークとルークの話にネティアの心臓が早鐘を打ち始めた。
「その通り…私も仲間達を守るため、自決する覚悟はできている!」
囲まれているにもかかわらず、闇の騎士リーダーは槍を構えた。
「生け捕りにするのは難しいな…」
「…やむを得ん、奴が自爆する前に息の根を止めろ!」
殺意に満ちた目が1人の闇の騎士に注がれる。
「行け!」
虹の騎士団が敵1人に襲い掛かる。
闇の騎士は槍を高速で旋回させて、虹の騎士達を吹き飛ばした。
その風圧に加え、密かに、風の刃を混ぜて、活路を見出そうとする。
その道をルークが塞ぐ。
「ネティア姫の元には行かせないぜ!」
「ふふふ、ネティア姫はばかりが標的とは限らんぞ…」
「…何…?」
目の前で繰り広げられる戦闘にネティアの心は限界に来ていた。
「やめて…」
思わず、呟いてしまった。
「ネティア…」
傍にいたフローレスがその呟きを聞いてしまった。
「私があいつを止めてくる!」
「え!フローレス!」
ネティアは仰天して止めようとしたが、それより早くフローレスは剣を構えて走り出していた。
ルークと切り結んでいる闇の騎士の背中を目がけて、真っ直ぐに斬り込んでいく。
気付いた闇の騎士がルークを蹴り飛ばし、フローレスの剣を受ける。
「よくもネティアを傷つけてくれたわね!私を巻き込んで自爆できるものならやって見なさいよ!」
フローレスのとんでもない挑発に周囲が固まる。
闇の騎士はジャミルが王になるが嫌なのであって、王家に反逆したいわけではない。
その点を突いた大胆な作戦だ。
切り結んだ闇の騎士でさえ声を失っている。
「…フローレス姫、あなたは自分の価値をわかっていない…」
溜息交じりの言葉が闇の騎士から漏れた。
「私の価値?」
フローレスの目が点になっている。
闇の騎士は素早く体を横に捻り、手刀でフローレスの剣を叩き落した。
丸腰になったフローレスを軽々と肩に担ぐ。
「降ろせ!パンツ見える!」
ジタバタとフローレスが暴れるが、闇の騎士の魔法で眠らされる。
「フローレス!!」
捕まったフローレスを見てネティアは目の前が真っ暗になった。
「妹姫が大事ならば、大人しく降伏してもらいましょうか?」
初めてネティアの脳裏に降伏の2文字が過ぎった。
結界を解けば、全滅は免れない。
だが、フローレスの命には代えられない。
「ネティア姫、奴の口車に乗ってはいけません。援軍はすぐそこまで来ています」
ネティアの揺らいだ心をフォークが引き戻す。
「奴がフローレス姫を手にかけることはないでしょう。ですから、今はご辛抱ください!後で、必ずや我々が、フローレス姫を救出いたしますから!」
フォークの進言にネティアは頷いた。
だが、
「降伏はされないようですね…ならば、自力で結界を壊すまで!」
闇の騎士は3度目の雷撃をネティアの結界に落とした。
「くぅ…!!」
初めて結界にひびが入った。
頭でわかっていても、動揺は隠せない。
「あと1回落とせば出られそうだな…」
「させるか!」
ルーク達と虹の騎士団が阻止に走る。
突如、地面が隆起して剣山のような岩が出現し、行く手を阻む。
結界の攻防でネティアが負けたのだ。
「そこで大人しく見ていろ。捕虜になっても悪いようにせん」
闇の騎士が結界を壊すのを、成す術もなく見守るしかなかった。
『雷神!』
最後の雷撃が放たれた。
雷の柱が降臨するが、形がおかしい。
一角取れたような形になっていた。
ネティアの結界の一部が強度を増した。
*
「これは…」
ナイト(ルーク)の隣に影が降り立つ。
「何とか間に合ったっす…」
「ライガ!その傷!」
ナイトは肩を貸してやる。
「貴様、生きていたのか…!?」
闇の騎士に狼狽が見える。
ライガは1人、結界の楔の破壊をするために動いていた。
「ネティア様、申し訳っす。1ヶ所しか破壊できなかっ
たす…」
「ライガ…よくやってくれました…」
ナイトの肩から振り返って報告する。
ネティアは涙目で労った。
「早くこちらへ来てください!治療します!」
「それには及ばないっす、まだやることがあるっすから!」
ライガはナイトの肩から離れて、小刀を構えた。
ネティア達を逃すために足止めをするつもりのようだ。
「無理するな、そんな体じゃ無理だ!俺も戦う!」
ナイトは慌てて、ライガの傍に行く。
「いいえ、行ってくださいっす、『ナイト様』。今がネティア様を連れて逃げられる絶好のチャンスっすよ」
「………お前、こんな時に冗談言ってる場合じゃないだろう?」
「…ダメっすか、なら、これを…」
ライガは腰から1冊の本を取り出して、ナイトに渡してきた。
「それはもしもの時のためにフロントから預かったものっす。なんかの役に立つと思うっす」
「兄ちゃんから…わかった、もらっとく」
ナイトはその本を太腿のポケットに直した。
「後は頼むっす!こいつは俺が忍びの意地に賭けて食い止めるっすから!」
ライガはナイトをネティアがいる方へ押しやると闇の騎士に飛びかかった。
「行くっす!新たな結界の楔が打ち込まれる前に脱出するっす!」
「させるか!」
闇の騎士は結界が欠けている領域に即席の楔を打って、ネティアを何とかとらえようとする。
しかし、即席の楔では巨大な魔力を有するネティアの結界を押し留めることはできなかった。
「わたくしの結界を通って速く脱出してください!」
ネティアの結界内にいた虹の騎士団が傷ついた仲間をできるだけ担いで脱出を始める。
だが、闇の騎士の結界と重なる部分では妨害を受けて、それができない。
「後で必ず、助けてやるからな!」
涙を呑んで、仲間に誓って敵結界から脱出する。
「逃すか!!!」
ライガを蹴散らした闇の騎士が咆哮を上げて、結界の再構築を始める。
闇の騎士の他の仲間が楔を打ち込んだのだ。
フローレスを奪われ、弱ったネティアの心が結界に現れる。
地が裂け、雷撃が逃げる騎士達を襲った。
その地獄のような風景をネティアは呆然と見つめていた。
ナイトはネティアに駆け寄って手を取った。
「ネティア姫、辛いだろうが、もう行こう!」
出口まで辿り着けなかった虹の騎士団達を目に焼き付けてネティアは結界を切り離した。
切り離された結界は闇の騎士の結界に飲み込まれて消滅した。